蒲田耕二の発言

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『ノートルダムの鐘』

2016-12-11 | ステージ
四季が手がけるディズニー・ミュージカルの最新作だが、前作『アラジン』とは対照的に、まあなんと暗いこと。作曲は同じアラン・メンケンなんだけど。

もっとも、これは意図したもので、ハッピーなアニメ版とは別の作品を創り出す狙いがあったらしい。そのせいか『アラジン』とは対照的に、10日の上演ではマチネーにもかかわらず幼い観客がほとんどいなかった。

アニメ版とは別の、とは原作により忠実に、という意味だ。フロロの偽善やフェビュスの自己チューが薄められて品行方正型キャラに仕立て直されていたり、カジモドが冒頭と大詰めで醜いメイクを消してイケメンぶりを見せたりする辺り、ディズニー的妥協は多少臭うものの、原作の救いのない悲劇性はきちんと保たれている。

聖に対する俗の象徴のエスメラルダのエロティシズムも冒頭のジプシーダンスで強調されるが、演じる岡村美南がフェロモンどぼどぼタイプではないので、格別効果的ではない。ただしこの女優さん、歌唱力は確かである。聖堂の荘厳さに打たれて歌うソロで、絶妙なピアニッシモを聴かせる。

エスメラルダと言えば、随分昔の映画だが、ジャック・プレヴェールが脚本を書いたフランス映画で演じたジーナ・ロッロブリージダが、とびきりチャーミングだったよなあ。ジプシー娘の野性的で神秘的な魅力横溢だった。

ボロは着てても心はニシキ、みたいな今度の舞台のエスメラルダよりも、無邪気で惚れっぽくて善良で、ちょっと拷問されるとたちまちウソの告白をしてしまうあの造型の方が、もっとリアルで共感を呼んだと思うのだが。

音楽は総じて重厚荘重。これも『アラジン』の軽妙さとは対照的だが、やはり原作の壮大なロマンティシズムに合わせたものだろう。宗教音楽風の合唱をくり返す聖歌隊が場面に応じて石像にもなり、カジモドとの対話を通じてプロットを進める演出が面白い。

なお、Cour des Miracles は劇中「奇蹟御殿」と呼ばれる。18世紀までパリに実在したコジキや難民たちのスラム街のことである。昼間、街頭で施しを請うイザリや盲目のコジキたちが夜このスラム街に帰ると、アラ不思議、杖や眼帯を捨ててスタスタ歩き出すので「奇蹟」の名がついた。

「奇蹟御殿」と「奇蹟小路」の二つの訳し方があるようだが(courにはどっちの意味もある)、実際の形態から見て「小路」の方が合理的ではなかろうか。ま、スラム街を御殿と呼ぶところに皮肉なニュアンスを感じないでもないけどね。

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