中村とうよう氏亡きあとワールド・ミュージック界を牽引するエル・スール店主、原田尊志氏に、シャンソンのコンピレーションを作ってみないかとのお話をいただいたのが、この1月。いまさらシャンソンかよ、といささか気後れ気味だったのだが、エル・スール常連の "校長先生" ことA氏の、オマエの選曲でディープなシャンソンを聴かせろ、との一言にドンと背中を押されてボチボチ選曲を始め、このたび掲載のアルバムに結実しました。
原田さんに提示された条件はただ一つ、「ありきたりの曲は入れるなよ」。
なので、埋もれた名歌、知られざる名人を発掘すべく手持ちのレコードを片っ端から聴きまくったら、いや自分でも驚いてしまった。シャンソンて、音楽的には貧弱な曲ばかりかと思ったら、けっこうチャーミングなメロディがあるんだよね。
で、選曲した25曲中、9曲までは日本初紹介。残りの16曲も、かつてレコードが発売されたことはあったけれどもほとんど話題にならなかった曲ばかり、という編成になった。有名曲、有名歌手を意識的に避けたからでもあるが、どちらかというと、メロディのいい曲を選んでいったら結果的にこうなった、という方が正しい。
成り行き任せみたいな書き方をしているが、実のところ、現世の置き土産もしくは冥土の手土産のつもりで選曲にはかなり入れ込みました。
ちなみに、フランス人が選曲したら、こんな結果には絶対にならない。彼らが選曲の基準にするのはまず歌詞で、音楽は二の次だからだ。なので、こんなシャンソンのコンピレは今まで1枚もありません。
このアルバムは、音楽を愛し、音楽の喜びをよく知っている人たちにこそ聴いていただきたいと思う。シャンソンなんて辛気くさいばっかりで、音楽にはあんまり明るくない人が文化的アクセサリーとしてたまに聴くアイテムだろ、とか考えてないですか? きっと認識を改めてもらえると思いますよ。
特筆大書しておきたいのは、森田潤氏によるマスタリングの目が覚めるような音。まるで生身のグレコやブラッサンスが目の前に立ち現れて歌っているような、彼らの吐息や体温まで錯覚するほど生々しい音質にオレは言葉を失ってしまった。CDでこんなに温かく豊かな声の響きは、滅多に聴いた記憶がない。
12月8日発売予定だが、その前に発売記念パーティが渋谷Li-Poで開かれます。12月1日午後6時オープン。エル・スール主催のパーティは常に立錐の余地もない満員になるので、予約しといた方がいいと思いますよ。
『シャンソン拾遺集』Chansons de la France profonde
01 パナム/ジュリエット・グレコ
02 哀れなリュトブフ/ジェルメーヌ・モンテロ
03 サン・ジャック街/ジェルメーヌ・モンテロ
04 お前は誰にも似ていない/フランシス・ルマルク
05 ママン・パパ/パタシュー&ジョルジュ・ブラッサンス
06 踊り場タンポレル/パタシュー
07 ぐれた男/ジョルジュ・ブラッサンス
08 赤いポスター/モニック・モレリ
09 人生は過ぎ行く/ピア・コロンボ
10 広場で/バルバラ
11 チュイルリー/コレット・マニー
12 マリア/ジャン・フェラ
13 ムッシュー・ウィリアム/カトリーヌ・ソヴァージュ
14 オルガ/ジュリエット・グレコ
15 死刑囚/エレーヌ・マルタン
16 君がいなければ/ジャン・フェラ
17 ゾン・ゾン・ゾン/ミシェール・アルノー
18 針仕事に精をお出し/リーヌ・ルノー
19 誇り高き人々/リュシエンヌ・ドリール
20 悲しい別れ/マルジャンヌ
21 君を待つ/シャルル・アズナヴール
22 秋の歌/ジャクリーヌ・フランソワ
23 ブルーゼット/ジャクリーヌ・フランソワ
24 詩人の家/ギレーヌ・ギー
25 浜辺のピアノ/シャルル・トレネ