蒲田耕二の発言

コメントは実名で願います。

足もとの記念碑

2021-09-17 | 文化
ハリウッドにウォーク・オブ・フェイムという有名な通路がある。ハリウッドで活躍したスターの名前を星形のプレートに刻んで歩道に埋めてある。その数2000あまり。中には三船敏郎やドナルド・トランプの名前もあるそうな。

もう一つ、ウォーク・オブ・フェイムから2キロ弱離れたグローマンズ・チャイニーズ・シアターの前庭には、スターの手型足型を取ったタイルが敷き詰められている。マリリン・モンローが異常にはしゃぎまくって手型を取った時の映像は、これまでに何度も放送されたので、覚えておられる方もおいででしょう。

ハリウッドの俳優にとって、ウォーク・オブ・フェイムやチャイニーズ・シアターに名前を残すことは、力士が横綱に昇格するぐらいの名誉なのだ。

どちらも全米屈指の観光名所だから、コロナ以前は観光客が大挙押し寄せた。そして遠慮なくスターの名前や手型を踏んづけた。誰も悪いと思わないし、誰も文句を言わなかった。

報道によると、15日、熊本市内の広場に埋め込まれた歴史サインのプレートを、市当局が一時撤去することにしたという。プレートには明治天皇行幸や加藤清正入国の文言があり、歴史が「踏みにじられる」ことに市民から反発が出たそうな。

映画俳優と歴史的人物は、違うと言えば違う。アメリカ人と日本人の考え方の違いもある。だから一概に反発や撤去が間違いとは言わない。でもさ、オレとしちゃ、足で親しんでいる人々の方が余裕だなあ、って感じ。一々カリカリするの、シンドくない?
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心の中のモンスター

2021-09-13 | 文化
奥山佳恵という女優さんは、写真で見ると円満な笑顔の美しい人である。だが失礼ながら、これまでは取り立ててドラマないし映画での印象はなかった。

それが、朝日のインタビュー記事でダウン症のお子さんの子育てについて語っているのを読んで、彼女の笑顔以上に心を捉えられてしまった。

出生前の胎児検査について彼女はこう語る。

「赤ちゃんの顔まで立体的に映し出す4Dの検査は、4千円かかると言われました。4千円あれば近所のスシローで家族3人でおなかいっぱい食べられます。4Dかスシローか……。家族で悩んだ結果、スシローを選びました」

もちろんこれは、レトリックである。4000円が彼女に負担できないわけがない。だが、出生前の検査という、ある意味、生命の尊厳に触れかねない不遜な振る舞いを彼女は避けた。そのことを大げさに深刻ぶることもなく、回転寿司の話にすり替えて鮮やかに切り抜けた。

この爽やかな語り口、軽妙なセンスにオレはつくづく感じ入ったね。誰でも出来るようでいて、誰にも出来ることじゃない。

彼女は当初、ダウン症の子を持ったことに、当然ながら強い不安を抱いていた。「えたいの知れないモンスターで家がぐちゃぐちゃになるのでは」と怖れた。だが、実際に子育てをして得た結論は、「本当のモンスターは、わからない・知らないことによる不安そのもの」だった。聡明な知性のうかがえる結論だろう。

子育てに限らず、モンスターはいつも心の中にいる。人間同士の敵意、国家間の敵意。その多くは双方の思い込みによるものだ。そういう見えないモンスターを殲滅する武器は唯一、奥山佳恵さんが持っているような知性だけであろう。
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