蒲田耕二の発言

コメントは実名で願います。

金芝河死去

2022-05-09 | 朝鮮半島
かつて反体制運動を象徴したものは、オレにとって何よりもまず金芝河だった。全共闘でもなければ連合赤軍でもなく、ましてや三島の自衛隊突入事件では全然なかった。朴正煕ファシスト政権の下で、投獄と死刑判決を何度も体験しながら節を曲げない金芝河の精神は、体制に対する抵抗そのものだった。

そのたくましい精神力とみずみずしい詩的感性が同じ人物の中に共存している事実が、目まいがするほどまぶしかった。

当時、金芝河支援で韓国に向かった新左翼系の学生たちがいた。鼻息粗く半島に渡った彼らは、しかし独裁政権による拷問の恫喝に震え上がり、転向声明を出してすごすご引き上げてきた。そのひ弱さに、金芝河があきれていた。

帰国後、金の批判をどう思うかと問われて、甘んじて受けます、などと彼らは述べた。新左翼の甘さ、おめでたさが露呈した瞬間だった。

金芝河は晩年、朴正煕の娘の朴槿恵を支持した。変節だと国内から批判もされたらしい。だが、日本と違って政界の主流を占める韓国左翼に、彼は北や中国に通じる全体主義体質をかぎ取っていたのではなかろうか。

本来なら信条的に金芝河と合致するはずの文在寅大統領は、就任演説の高邁な理想主義的精神はどこへやら、核開発を初めとする北の挑発を容認するばかりか、議会で絶対多数を占める与党を恃みに退任後の保身を図り、検察の捜査権を制限する法案を成立させているという。

ともあれ、個人の自由と尊厳の大切さを知る人物が、また一人地上から消えた。
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