蒲田耕二の発言

コメントは実名で願います。

『ナイジェリアン・ギター・ルーツ』

2024-06-27 | 文化

アフリカ音楽の泰斗、深沢美樹氏によるパームワイン・ミュージック3部作、完結。第1集の『パームワイン・ミュージック・オヴ・ガーナ』が出たのが2017年、足掛け8年かかっている。各巻2枚組で、いずれも50曲以上収録。音源を集めるだけでも大変だ。ほかに類を見ない労作である。

押さえておきたいのは、これらが民謡・民族音楽の類ではなく、アフリカのポピュラー音楽であることだ。つまりこれは大昔の文化の遺品・出土品ではなく(第2次大戦前の録音も入ってはいるけど)、我々の時代とも断絶していない生きた音楽なのだ。

そらまあ民謡も、生まれた当時は人々の息吹を載せたポピュラー音楽だったんだろうけどね。

ま、門外漢のオレがあんまり知ったかぶりをやるとボロを出すからこの辺でやめとくが、ともかく世界を見渡してもこんなに突っ込んだ、筋の通ったアフリカ音楽のコンピレーションてないと思う。聴いて楽しむとともに資料として記録として、稀な永久保存盤の一つであろう。

いつもながら森田潤さんのマスタリングが素晴らしく、古い音源が生き生きと精彩に富んだ音でよみがえっている。戦前の録音も、聴く上で何の不都合もない。

去る6月23日、このアルバムの発売記念に渋谷のLi-Poでレコード・コンサートが開かれた。いつものように満席の店内は、なごやかな笑いに満ちて和気あいあいムード。ワールド・ミュージックの集いって、なぜか見知らぬ者同士の垣根が低くなるんだよね。ロックやポップスでは、ギスギスしてるけどね。

しかし残念ながら、Li-Poは今月限りで閉店。ナイジェリアン・ギターが最後のイベントになってしまった。Madam Lipoの伊藤さん、お疲れ様でした。そして我々ワールド・ミュージック・ファンに憩いの場を提供してくださって、本当にありがとうございました。
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美空ひばり・東京ドーム1988

2024-06-12 | 音楽

いまごろ何言ってんだ? ごもっともです。

でもねオレ、特にひばりのファンというワケではないんだよね。うまいとは思うが、彼女がド演歌を歌うときに使う、あの下卑た鼻声にはどうしてもなじめない。

なので東京ドームのコケラ落としにして、ひばり唯一のコンサート・ライブたるこのビデオ、初回発表当時は観る気もしなかった。だが先だって、NHKがデジタル修復版とやらをオンエアしたので、とっておいても損はないかと録画した次第です。おかげで初めて、通しで観た。

もとがアナログ収録のせいか、なんかボヤ~とした画質。55インチの画面だと、目鼻立ちもはっきりしない。アスペクト比4:3だしね。(一般にデジタル録音はひどい音質だが、録画は断然デジタルの方がいい)

そんなワケで、視覚的にはあんまり修復のありがたみが感じられないのだが、感心したのは音質だ。ひばりの声にもバックバンドのサウンドにも古い録音特有の歪み感や鈍さがなく、実に伸びやかな雰囲気で温かく豊かに鳴りひびく。

当時、ひばりはすでに大腿骨骨頭壊死と間質性肺炎を発症していて、万全の体調ではなかったと聞いている。確かに前半では、ファルセットの高音がうまく出せなくてちょっと伸びを欠く時もあるのだが、その声さえもが耳障りではなくナチュラルな発声に聞こえる。

これは、NHKの技術陣が腕を振るった成果なのか。それもあるだろう。しかし根本的には、ひばりのうまさだと思う。すぐれた歌手は、すぐれたセンスで汚い声を美しく聴かせることができる。

それより何より、体調不良をおして前後2時間の長丁場を無難に乗り切った精神力に圧倒される。最後の1曲まで危なっかしい隙を一瞬も見せず、途中ビートに合わせて激しく体を揺すったりもする。フィナーレでは、笑顔を振りまきながら長い長い花道をゆっくりと歩いていく。立っているだけでも痛いはずなのに。スモークで客席の視線から遮断された瞬間、スタッフの腕の中に倒れ込んだとどこかで読んだ。

プロ歌手のプロフェッショナリズムを嫌と教えてくれるライブ。やっぱり録画しておいて、よかった。

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