蒲田耕二の発言

コメントは実名で願います。

二つの『アンナ・ボレーナ』

2012-09-26 | 音楽
19世紀初め、ベルカント・オペラ全盛期の傑作である。ドニゼッティ作品中、ポピュラリティでは『ルチーア・ディ・ランメルモール』に劣るが、音楽はこっちの方が上だ。

1957年にマリア・カラスがスカラ座で歌って伝説的な成功を収めたことは、オペラ・ファンなら周知の事実。それ以来、なんでもカラスの後追いをしたがったトルコのソプラノ、レイラ・ゲンジェルがラジオで歌ったほかは、カラスと比較されるのを怖れて誰も歌おうとしなかった。当時、ベルカント・オペラはあまり人気がなかったって事情もあるけどね。

10年後の60年代末、ようやくカラスの呪縛も解けたか、ベルカントの人気上昇と相まってボチボチ上演と録音が増えだした。

その『アンナ・ボレーナ』の全曲が驚いたことに2種類、YouTubeにアップされている。どっちもライヴ録音で、CDでは手に入らない。

一つは1970年、ブエノスアイレス・コロン歌劇場での録音。ヒロインをエレナ・スリオティス、ライバルのジョヴァンナ・シムールをフィオレンツァ・コッソットが歌っている。2時間半の全曲が1ファイルである。
Anna Bolena 1970

スリオティスはカラスの再来と呼ばれた歌手だが、若いうちからヘヴィーな役を歌いすぎて喉を壊し、ソプラノとしては20代で歌手生命を失ってしまった(その後、メッゾに転向して復活)。71年に来日して、おそろしく粗っぽいノルマを歌っていった。

その1年前のここでは、まだそれほど喉は荒れていないが、歌がなんとも若くて舌足らず。ほとんど可愛らしいぐらいのボレーナである。大詰めの大アリアが貫禄不足で盛り上がらない。

なので聴き物は、ヒロインよりも助演格のコッソットだ。60~70年代の代表的なメッゾ・ソプラノだった彼女は、レコーディングでは主にヴェルディ以後を歌い、ベルカントは『ノルマ』のアダルジーザと『ラ・ファヴォリータ』以外ほとんど録音を遺さなかった(って、まだ生きてますが)。だからこれは、きわめて貴重な録音である。

実際、スムースなメロディ歌唱や軽やかなフィオリトゥーラ、シャープな劇的表現で、これは『ボレーナ』上演史上屈指のジョヴァンナだ。第2幕のアリアなど、57年の歴史的上演でカラスに引けをとらない名演を聴かせたジュリエッタ・シミオナートを凌ぐ場面すら、ある。

もっとも、声の美しさと歌唱技術の高さと表情の豊かさで、2011年ウィーン録音のエリーナ・ガランチャはコッソットをさらに上回ってるけどね。(このウィーン版は、いま飛ぶ鳥落とす勢いのアンナ・ネトレプコがタイトル・ロールだが、歌も容姿も気品が乏しくていただけません)

ブエノスアイレス版の音質は、声を聴く分にはまずまずだが、40年前の水準に照らしてもいい方ではない。オーケストラの低音がほとんど聞こえない。圧縮音声だから、ではなく、テレビ中継の録音なのではなかろうか。

テレビには大体において、ロクなスピーカーがついてない。低音も高音も出ない。だから放送する側も、アナウンスやドラマのセリフがくっきり聞こえるようにヴォーカル帯域だけ強調して低音をカットした音を送り出す。低音再生能力のないスピーカーに低音を送り込んでも、音が歪むだけだからだ。

ラジオも似たようなもんだが、歌は聞こえるがオーケストラの低音が貧弱、というのが放送録音共通の難点である。

さて、もう一つの『アンナ・ボレーナ』は1975年、ダラスでの録音。2ファイルに分割してアップされている。ダラスといやテキサスじゃんか。そんなとこでオペラやってんのか、なんて意外感を持たれるかも知れないが、ここは昔から石油成金が道楽でオペラをやっている町なのである。
Anna Bolena 1/2
Anna Bolena 2/2

なんせアメリカって国は、サツバツの西部開拓時代にもサンフランシスコで『ルチーア』を上演してたって国ですからね。それを聴いたハワイアンの作曲家が、六重唱のメロディをパクって「真珠貝の歌」にして……あ、脱線しました。

で、ダラス版『ボレーナ』で主役を張ってるのは、レナータ・スコットである。この人、背が低くずんぐりした体型で舞台映えしないために随分損をしていたが、歌の完成度はカラスに肉薄する。この当時、アラフォーの歌い盛り。伸びのいい声を駆使して、ベルカント・オペラの旋律美をたっぷり歌い上げる。カラス以後、最高のボレーナだ。あの超人的歌唱能力のディーヴァも避けた超低音や超高音のヴァリアンテに、スコットはこれでもかとチャレンジしている。

もっとも、おかげで歌が時に声のアクロバットと化して、音楽がどこかへ行ってしまう嫌いはあるけどね。

スコットの『アンナ・ボレーナ』は、同じ年の暮れにフィラデルフィアで歌った録音がCDになってるが、声にやや疲れが出て出来はダラス版より落ちる。ライバル役のメッゾも、ダラス版の方が上だ。

ただし、オーケストラと音質はフィラデルフィア版の方がよかった。ダラス版は、序曲も開幕の合唱も絶句するほどの下手クソさで出鼻をくじかれる。それにこれは、明らかに客席からの盗み録りだ。盗み録り犯のものとおぼしい咳払いが時々、びっくりするほど生々しく聞こえたりする。

アメリカでそんな無法な録音が……って、この国は、いまでこそ著作権保護の本家みたいな顔をしてるが、60~70年代には中国も顔負けの海賊盤の本場だったのである。当時のロック・ファンなら、いわゆるブートレグLPの入手に奔走した覚えがあるはず。

ところでこれら2種の全曲録音、いまではパソコンの貧弱なスピーカーかネットワーク・オーディオ機器を通じてしか聴くことができない。民自公の翼賛体制がダウンロード規定法を、国民がほとんど知らない間に成立させてしまったからだ。

この稀代の悪法、表向きは著作権保護の体裁を採っているが、真の狙いは別件逮捕の口実作りなんだとか。YouTubeやニコ動にアクセスして一度もDLしたことのない人なんて、まずいないもんね。違法DLのファイルをパソコンから削除しといても、警察に掛かったら簡単に復元できるんだと。こわ~。

なんか日本が着々と警察国家への道を歩んでいるのを、肌で感じるね。大阪じゃ、国歌を歌ってるかどうか口元を監視してるって話だし。
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死闘

2012-09-23 | スポーツ
ヒャー、ものすご。

オレ相撲ってあんまり関心なくて、これまでリアルタイムで観たことなかったんだけど、今日はムシの知らせ、つーか、なんか予感がしてテレビの前に座った。したら、あの激闘だもんね。仰天。

先入観なしに観だして、いつの間にか日馬富士を応援してました。あの小さな体で文字どおり死に物狂いの奮闘だもん。1分半、こっちの息まで詰まったよ。

野球の3時間分、サッカーの1時間半分、ボクシングの1時間分のスリルと緊張が、あの1分半に凝縮されてたね。あそこまで高度に一点集中するスポーツって、ほかにあるだろうか。

勝負のあと、ゼイゼイ息を切らせながら兄弟子と抱き合う日馬富士の笑顔が、また惚れぼれするぐらいよかった。いまや完全にファンです。

それにつけても、思い出すのがフランスのサルコジって野郎のことだ。大統領就任前だから随分昔のことだが、肥満体の男が裸で取っ組み合うのは美しくもないし知的なスポーツでもない、と日本の国技を侮辱しやがった。あいつだけは許せないね。
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一衣帯水

2012-09-18 | 尖閣問題
ヤダネー、こんな民度のチョー低い国と隣り合わせだなんて。経済的に依存せざるをえないなんて。白昼堂々、強盗の横行だもんな。親と隣国は選べないから困る。

でもさ、ウラジオストックとかで胡錦濤と立ち話したとき、ノブタはなんであんな風に上目遣いの卑屈な態度だったわけ? 胡錦濤の方はアゴを突き出して、エラく高姿勢なのに。

中国も、そんなにあんな小島が欲しいなら国際司法裁に提訴すりゃいいじゃん。日系スーパーの略奪ばかりやってないでさ。日本は領土編入の経緯にやましい点はないから、正々堂々、受けて立つと思うよ。そうだよな? な? な? ノブタくん。

東シナ海に領土問題は存在しないから応じない? それって、竹島に関する韓国の言い分と同じじゃん。国際的には通用しないよ。尖閣はすでに国際問題化してる。

考えてみれば、そのきっかけを作ったのは石原都知事の尖閣購入計画だった。あれで中国が、待ってました、とばかりに問題化へ動き出した。虎視眈々と機会を狙っていた中国にとっては、渡りに船だったわけだ。

その前に、中国漁船の体当たりがあったじゃないかって? あんな無法行為は、国際的な支持を得られない。無法を承知で中国は日本に挑発を仕掛けた。石原はその挑発に乗って、やすやすと中国の罠にはまり込んでいったんですな。

これだから国家主義者だから困るよ。後先考えずに感情で動いて国民を巻き添えにする。
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屁理屈

2012-09-10 | 政治
久しぶりで、ジャーナリストの気骨を示す番組を見た。昨夜のNスペ。

大震災の復興予算といえば、誰だって東北の被災地のために遣われてると思うじゃん。ところが、沖縄の土木事業から刑務所の整備、国立競技場の補強、果てはメニコンの工場建設(もちろん民間メーカーだよ)まで、全国各地の官民さまざまな事業に2兆あまり配分されるんだと。2兆だよ。

東北にも無論、回ってはいる。しかし、雇用を生み出す企業優先で、個人経営の商店や病院は後回しだそうだ。被災地の医師は患者を見捨てて引っ越すわけにも行かず、といって病院再建の補助は建物分の一部しか降りず、やむなく自腹で医療機器を購入した。結果、借金2億。2億だよ。

箱だけ建てて医療設備がなくて、どうやって治療しろと言うんだよ。

刑務所の整備やサッカー場の補強がなんで震災復興事業かというと、「ガレキ処理の人手育成」「減災」のためなんだと。いかにも役人が捏ねそうな屁理屈だよなあ。メニコンの補助に至っては、「コンタクトレンズを製造すれば仙台の販売店で店員を雇える」。国民をナメるのも、いい加減にしろ。

復興予算19兆。これだけ巨額のカネが動くのは千載一遇のチャンスとばかりに、官僚と政治家が分捕り合戦やってるのが目に見えるようだね。言うまでもなく、利権絡みで。

それでもって期末になれば、どうせ余った予算を使い切るために、あちこちで意味なく道路を掘り返したりするんだろ。被災地じゃ、「全国の皆さんから頂いたお金だから、ガレキ処理を1円でも安く上げるのが私たちの義務だと思っている」と語っているのに。

ついでに言うと、全国の皆さんの負担増は消費増税だけじゃない。来年から25年間にわたって所得税も上がるんだよ。

しかしNHKも、やれば出来るじゃん。普段からもっと気合い入れろよ。
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読めたっ!

2012-09-06 | スポーツ
今朝の読売の社説、「WBC出場 選手会の決定を歓迎したい」だと。そうか、そういうことか。やっぱりナベツネ爺さんの息が掛かっていたか。

何が「ファンも選手も喜ぶ結果となったのは、朗報と言える」だ。一番喜んでるのは、日本ラウンド主催のテメーらだろが。

スポンサー料の半分強は日本企業から。しかしNPBへの配分は13%だけ。この不公平は全然解消されてないんだよ。しかも、収益の66%をかっ攫う運営会社は、アメリカのただの民間企業だよ。野球の世界的普及に使う、とか見え透いた口実でさ。

プレス発表の最後で選手会長の新井が、不公平解消にNPBが何もしないから選手会がやらざるをえなかった、と声を振り絞ったのは、精一杯の抵抗だったんだろうね。かわいそうに。

そりゃNPBは何もやりません。ナベツネがこわいから。

野球てのは、岩のように固い小さなボールが銃弾のスピードで飛んでくる競技だよ。怪我をする確率がサッカーや相撲よりはるかに高い。それも靱帯損傷とかアキレス腱断裂とか、選手生命に関わる大怪我を。

だからメジャーの各チームは、主力選手をWBCに出さない。日本の選手だって、本音を言えば出場したくない。本分は、あくまでペナントなんだから。前回、中日の選手を出場させなかった落合は、さすがだった。フロントじゃなく選手の立場に立っていた。

ナベツネってのはかつて、選手会長だったヤクルト古田が面談を求めたら「たかが野球選手が、無礼なことを言うな」と言い放ったジジイだよ。選手を使い捨てのオモチャぐらいにしか思ってないんだろうね。

自分の会社とアメリカの1企業を儲けさせるために、平成の妖怪がまた多くの若い日本人を踏みつけた。WBC参加決定とは要するに、そういうことだ。
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