蒲田耕二の発言

コメントは実名で願います。

あき竹城

2022-12-23 | 映画
別にファンだったわけじゃないが、妙に心に残る女優さんだったよなあ。取り立てて強烈な個性があるわけでもなければ、飛び抜けた演技力の持ち主でもなかったのに。

映画の代表作といえば、やっぱり今村昌平『楢山節考』の嫁かな。女を知らない弟のために一晩、相手をしてやってくれないかと夫(緒形拳)に頼まれて、「わがったと言ってるでねえか!」とヒステリックに答える。嫌で嫌でたまらないが、さりとて人の頼みに逆らうことには罪悪感を否めない、古い東北の女の心情を完璧に表現していた。

あと、タイトルは覚えていないが何かのB級作品で、少年を性のおもちゃにする有閑マダムを演じているのを見たことがある。憎たらしいキャラもこの人が演じると、不思議に愛嬌が出て嫌味がなかった。

しかし、いちばん記憶に残っているのは、彼女が女優に転身したばかりの頃に出演したエアコンのコマーシャルだ。共演の黒人タレントが天にまします我らが神よ、みたいな一節をうなり、あきさんが「えっ、おめーの父ちゃん天国さいんのけ?」と応じる。次いで胸元で両腕を組み、半眼の流し目をしながら「冷気は下だあ」とストリッパーの決めポーズで締める。品はないけど、猛烈におかしかった。

このコマーシャル、主婦層から総すかんを食い、たちまち放映中止になった。反発を呼んだのは東北弁ではなく、ストリッパーのポーズのせいだったと思う。新聞に出た彼女の追悼記事も、女優の前はストリッパーだったことに一切触れていない。

しかし、あきさんは決して前身を隠していなかった。むしろ、プライドを持っていたのではないかと思う。彼女がテレビに出始めたころ、ヌード時代の衣装、つまり最小限の衣装で深夜番組に登場したことがある。全身メイクを施してもいたのだろうが、真っ白の輝くように美しい裸身だった。

朝日の記事のように「ダンサーから女優へ」などと書く偽善は、書いた記者の中に巣食う差別意識の表れにほかなるまい。
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Vladimir Vissotsky: Le Vol Arrêté

2022-12-11 | 音楽

ロシアの反骨詩人がパリで録音したレコード。1981年の発売だが、ヴィソツキー自身は80年に亡くなっているから70年代末ごろの録音だと思う。日本でもかつてオーマガトキ・レーベルから『大地の歌』のタイトルで発売された。

そのオーマガトキ盤をオレは持っていたのだが、CDバージョンを手に入れたからもういいやとLPは二束三文で叩き売ってしまった。CDはいまも手許にあるが、情けない音質で聴く気がしない。ヴィソツキーの声がまるで死んでしまっている。CDはレコードより音がいいと、当時くり広げられたレコード会社/オーディオ・メーカーの真っ赤な偽りのキャンペーンを真に受けたオレがバカだった。

で、LPを買い戻さなきゃとずっと思っていたのだが、これが思うように行かない。たまにオーマガトキ盤がヤフオクに出ると、終値はたいてい万単位。オリジナルのフランス盤も、eBayで万単位。ヘタすると、2〜3万になったりする。いくら欲しくてもマリア・カラスじゃないんだから、そんなに財布をはたく気がしない。

ところがDiscogsを丹念に調べたら、ありましたよ安いのが。NM盤を約5000円で売っていた。さっそくクリックして手に入れたのが、上の写真のシャン・デュ・モンド盤。マスターのオーナー・レーベルである。

仏盤には2種類あり、オレが手に入れたのはシルバー・レーベル盤。厳密にいうと、初版はもう一方のオレンジ・レーベル盤らしいが、そっちは希少らしくて価格がシルバーの2倍する。だいいちVGやせいぜいVG+ばかりで、コンディションのいいのがない。どっちも発売は1981年だから、音質に大差はあるまいと購入。

予想的中。すごいリアルな音質である。ヴィソツキーの荒々しいダミ声が、野獣のような迫力で襲いかかってくる。カッティング・レベルが高いのに、やかましい歪みがほとんどない。オリジナル・マスターの威力。日本盤より3曲、収録数が少なく、カッティングに余裕があるためかもしれない。

なお、レーベルにStereoの表記がないからモノラル専用カートリッジで聴いていたのだが、ジャケットをよく見るとステレオ/モノラル兼用の gravure universelle (ユニバーサル・カッティング) というフランス独特の仕様だった。音がよく聞こえたのは、モノラル・カートリッジのおかげでもある。

オレが使っているモノ・カートリッジはデノンとオーディオテクニカのエントリー・モデルだが、それでも声の再生に関してはオルトフォンの高価なステレオ・カートリッジよりもよく聞こえる。ステレオだと、ノイズも歪みも倍加する。

このレコードを売っていたフランスのレコード店の親父に、ヴィソツキーがいまも生きていたらプーチンの戦争をどんなふうに歌うだろうねと言ってやったら、グーラグに放り込まれるか暗殺されてるよ、と返してきた。だよね。
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虐待保育園

2022-12-06 | 社会
足をつかんで逆さ宙吊り、倉庫に閉じ込め、カッターナイフで脅迫、暴言。例の静岡の暴力保育士たちがやった虐待行為の数々、本当にひどい。逮捕は当然だ。

だが、彼ら3人を逮捕し、処罰すれば、保育園での虐待は一切なくなるのだろうか。一件落着でメデタシメデタシだろうか。

答えは明らかにノーだ。事実、富山の保育園でも同様の事件が起きている。問題は保育士個人の資質ではなく、あまりに過酷な彼らの労働条件だろう。

保育士が一人で担当する子供の数の上限を定めた国の配置基準は現在、0歳児3人、1~2歳児6人、3歳児20人、4~5歳児30人。この基準では子供たちの安全を担保できないと、保育の現場からは再三指摘されてきたという。

幼児は活発に動き回る生き物だ。予測不能なその行動に大人は振り回される。たった1人の自分の子供の世話さえ手に余って、育児ノイローゼに陥る母親もいる。そういう子供たちを20人も30人も1人で担当するのは、考えただけでも気が遠くなるほどの重労働に違いない。

虐待保育士の行為は決して弁護できないが、あまりの忙しさに理性と分別を失ってしまう者がいても不思議ではない。

厚労省も配置基準の改善が必要とは知っているらしい。知っていても、実行はしない。理由はいつものとおり「カネがない」だ。

ふざけんなよ。防衛費には今後5年間に43兆注ぎ込むんだろ。うなるほど、あるじゃないかよ。その1割なんてゼイタクは言わないよ。1%でいい。それを認可保育園の運営補助に回してくれよ。それでどれだけ子育て環境が改善されると思う。どれだけ出生率が上がると思う。

日本の将来を考えれば、少子化による国力の衰退の方が反撃能力保持とやらよりよっぽど深刻な問題だろ。
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