Decca Decolaがお嫁入り

やっとこさ入手したDecca Decolaの整備記録

WE 1936 Series No,6 について (3)22Aホーン

2021-03-29 13:06:19 | Western Electric

(3)22Aホーン

 Western Electric 22Aホーンは17Aホーン(15A)にかわって1935年後期から供給された。開口部面積は17Aホーンの1/4、カットオフは250Hz、奥行きは1/2のサイズとなった。これは地方の小規模の映画館に対応した省スペースバージョンで背景にはWE86Aなど高出力のアンプが開発され大きな音が出せるようになった事があげられる。ホーンは22Aの他16Aも使用されこれらはワイドレンジサウンドシステム(後期)と呼ばれる。

 適応再生周波数 300Hz〜3000Hz

 カヴァレッジアングル 水平20度 垂直40度

 外形寸法 全幅 28inch(71.1cm) 全高 35inch(88.9cm) 奥行 27inch(68.6cm)

 重量 40ポンド(18.12kg)

 

22Aホーンに接続されるスロートは3種類で12-A:1本の555 13-A:2本の555 15-A:3本の555 となる。この図では12-Aと13-Aだけで15-Aは描かれていないので3本スロートは後発かもしれない。後期の新システムでは22A1台に複数の555が使われるのが普通で22Aホーンは劇場の規模に合わせて6台、4台、2台となっていた。例えば客席数3000席以上の場合は22A 6台 555 12台 TA4151 6台 と巨大なシステムで大きなお金が動く興行を感じさせる。組織図を見るとTA7297ネットワーク 1基 とアンプは書かれていないがWE86A 1台だった(!)か(?) だとしたらあの小さなアンプで巨大な建築物のようなスピーカー群を支配していた事になる。

 

    

 この22Aホーンはボルトなどから米国製のレプリカと思われ最近拙宅に来た。長い間22Aホーンのレプリカを探していたのだがなかなかお目にかかる機会がなく10年以上が経過した。12-Aスロートが入手できそうな時は木製レプリカを作成できないか思案したこともあったがスロートそのものが高価すぎてそれも断念した。今回希望通り1本のみが入手できたわけだが色々と気になるところがあった。

 まず本体のスロートとの接合部がこんなに傾いている。音道のねじれも若干あるが主にはプレートが曲がっている様子。この状態でスロートを取り付けると当たり前だがカールが横にずれる。

 

 ホーン開口部横の板金のラインが出ていない。しかし本物がどうだったかはよく覚えていない。

 

 12-Aスロートのレプリカだがボテっとした感じで美しくないとおもっていたが写真で見る12-Aもこんな感じなのでこれでいいのかもしれない。そのほかホーン内部に貼ってある布は用意しなくてはならないがどう言った布かは不明。。デッドニングの白いセメントで覆われていますがやっぱりここは黒く塗装したい。

 不自然な補強金具は外して開口部の板金から。アストロプロダクツから板金セット買って来た。これはハンマー3本、ドリー数個という豪華なもので正直素人には板金ハンマー3本も要らない。

 しばらく叩いて早々に妥協した。そして最大の課題スロート取り付けが曲がっているところの補修。G17なら接合板を外して再溶接するのだろうが設備も腕もない。ホーンに中心線を描いてなるべくそこに近づけるように穴の位置を修正した。

 

 接合板のずれは削って合わせた。完全には戻ってないがここも妥協した。

 デッドニングはどの程度すればいいのだろう?本物とならべて叩き比べるのが一番だと思うが近隣で22Aを所有されている人は知らない。ただ大音量で拡声していた現場ではビリつかないのはもちろんだがホーンの共振を利用した音創りは無かったのではないかと思っている。当時の英知を集めたプロダクツが不確定要素に頼る理論で展開されていたとは思われない(お前はわかってない!という声が聞こえる)。体を震わすような大音量だったかはわからないが曖昧な音ではセリフを明瞭に大勢の観客に届けることはできない。イメージとしては「バリッとした乾いた音」

 制振材を探すとベストセラーはこれらしい。

ダイポルギー DP201 水性制振材で1kg で送料入れて6000円ほど。水性なので水で薄めて塗ることができる。最後の形態を整えて足付けして筆塗りしてみた。

    

 外側はクリーム色の硬い制振材で覆われているので少し水で薄めて着色を兼ねて塗ってみた。最初は濃いオリーブドラブ色で後で黒で塗り直しが必要かと思ったが乾燥すると黒色になった。

 

 内側は足付けして原液を塗った。刷毛目の方向をどうしようかと思ったが木製ならこうなるだろうという方向にした。布の材質がわからないがとりあえず近くの手芸店でフェルトを買って来て両面テープで貼り付けた。壁を叩くと以前と比べて結構制振されてコツコツという音が音量、音程共に低くなった。

 早速音出ししてみよう! ドライバーはこのホーンに付属していた出所不明のもの、音源はiMacのヘッドホン出力

 

 ドライバーの能率が低いのか思ったより大きな音が出ない。一聴低域はやはり不足で評判通りフルレンジ再生は難しそう。高音域はドライバーの性格かこれも不足しているしわずかに付帯音があるが気にならないソフトもあるので音源に問題があるのかもしれない。予想通り指向性は狭くこの置き方で左右方向は垂直方向と比べてより狭く聴取位置を変えることでトーンコントロールになる(冗談です、念のため)。

 ドライバーを使った大型のカーブド(カール)ホーンの音を聴いたのは初めてだがやはりコーンスピーカーとはかなり違いを感じる。開口部の多くの空気を振動させているという感覚はビジュアルも手伝って独特のもの。音源までの距離を感じるのは単に音道が長いということではなさそうでモノラルだが立体感がある。当たり前のような感想だがはじめて蓄音機の音を聴いた時の衝撃を思いだします。

 

 数時間色々なジャンルを聴いてから555と交換して聴き比べてみました。

 

 

 


WE 1936 Series No,6 について(2)TA4151 

2021-03-28 14:07:37 | Western Electric

 Western Electricの劇場用コーン型スピーカーユニットは当初は12inchと13inchの2種類で各々励磁のための整流回路を内蔵、内臓しないものがあった。いずれも特許権の関係でJensen社からのOEM供給だった。

 民生用の12inch(口径約30cm)の励磁型スピーカーは多かったようだが業務用のWE「ワイドレンジサウンドシステム」では主には13inchの複数使用が多く12inchのTA4165,TA4166は現在でもあまり見る機会はない。

 励磁回路を持つWestern Electric TA4165(12inch)  後部の袴に電源トランス、整流管、コンデンサーが搭載されてAC115Vをつなぐ。 

https://www.pinterest.es/pin/361132463850121467/

ボイスコイルDC抵抗:5.7Ω 

ボイスコイルインピーダンス:8Ω

許容入力:10W

フィールドコイルDC抵抗:2700Ω

フィールド電力18W

整流管:274A

ボイスコイル径:1.7nch

(整流回路をもたないのはTA4166)

 

(2)Western Electric TA4151

 TA4151は1933年のワイドレンジサウンドシステムに採用された。

ヴォイスコイル・インピーダンス(最小) 10.5Ω(300Hz)

ヴォイスコイルRCR     6Ω

ヴォイスコイル最大入力(連続) 15W

フィールドコイル端子電圧  105〜125VAC/50〜60Hz

パワーサプライ   0.5A/60W

重量  19.48kg

 13inch(13.5inch)は何と言ってもTA4151が有名でこれは大量に作られたためと思われる。TA4151は励磁のための整流回路を搭載しているがバッフルに複数装着する場合はトラブル回避の目的で整流回路を持たない(外部からDCが供給される)TA4153と混ぜていたらしい。Jensen自社の13inch励磁スピーカーはM,V,Lの3種類がありMは通常使用、Vは主に音声用、Lはウーファー用とされる。このアルファベットの後の数字が10の場合は整流回路搭載、20は非搭載。Western Electric TA4151とJensen M-10はよく似ている。

 TA4151とTA4153(整流回路なし)の寸法図とTA4151の励磁回路

TA4153(整流回路を持たない)

フィールドコイル端子電圧  105〜125VDC

パワーサプライ  0.25A/35W(?)

フィールドコイルDCR  460Ω

重量  13.59kg

 

WE 1936 Series No,6のTA7331に装着されたウーファーはTA4171だが見たことはない。

TA4171(ほぼ同規格でハム・バッキングコイルを持たない)

フィールドコイル端子電圧  10VDC

パワーサプライ  2A/22W

フィールドコイルDCR  4.45Ω

TA4151,TA4153,TA4171は同じ13.5inchでフィールドコイルのDCRは異なるがほぼ同じ規格と考えられる。フィールド電力がどの程度かだが、大型ウーファーのTA4181が30Wなので22Wくらいが妥当なところではないだろうか。

 

 

 

     

 一般に見られるのはTA4151AでTA4151の改良版とされるがこれはTA4151のラベルになっている。両者の違いはコーン紙ということだが確かにTA4151Aはほとんどがコルゲーションがあるタイプだがこれには無い。ただし長い間にコーン紙を交換する場合もあったと思うので初めからこのコーン紙だったかは分からない。ただスクリーンを白く再塗装した時の飛沫がついているのを見ると結構古くからのものかもしれないと思っている。フレームは本体にボルト留めされていてコーン紙の交換はフレームごとされるので比較的容易だった。どういった状況で使われて居たか不明だが非常に重量のある金属製のL字型のバッフルに固定されていた。JensenのM-10ととてもよく似ているので混同しやすいがわかりやすい識別点としては

 

TA4151の整流管のソケットには「274-A」とある(JensenM-10はたしか「83V」だったと思う)。保護カバーの形状も異なる。

 

 袴の内部にはコンデンサーなどが収まる。オリジナルは角形の8μFX2 450V コンデンサーがパラ接続され16μFの平滑回路となっている。この円筒型の電解コンデンサーは同じ16μF。実はこのユニットを購入した時は500μFの電解コンデンサーが入っていた。貴重なWE274Aがあっという間にご臨終になる暴挙で発見した時は驚きと同時に怒りがこみ上げてきた。作られてから90年近くも生き延びてきた遺産には相当の敬意を払ってほしいと思う(自戒も込めて)。

 

 製造元のJensen社では同様の製品や他社へのOEM供給を行なっていた。

Jensen Auditorium Speaker

    

フィールドDCR:6.35kΩ

フィールド電力22Wで計算してみると

フィールド電圧 373V

フィールド電流 60mA  

 ラベルには「Jensen Auditrium Speaker L-10」とあるがL-10の袴を20と交換したと思われる。「L-」はウーファー用でこのコーン紙はフラットでTA4151と同様にコルゲーションはない。本体の形状も一緒のように見える。

 整流回路を持たないユニットのための直流電源だがJensen製と思われるフィールド電源

     

 ラベルが剥がれて資料も見当たらないので品番などは不明。整流管はWE274Aとほぼ同規格の83Vが指定されている。シャーシ上のトランスはB電源用でシャーシ内にはヒータートランスとチョークコイルがありこのあたりはTA4151やM-10よりも上等。この個体はコンデンサーが交換され多分元々はチョークインプットではないかと思うが通常のπ型平滑回路となっている(自分が行なったと思うがすっかり忘れている)。

 この外部電源について情報をお持ちの方がおられましたらぜひご一報ください。

 整流管83Vがなかったのでかわりに5Z3をさして(ヒーター電流がオーバーするので短時間で)Jensen Auditrium M-20を繋いで電源電圧を変化させながら出力電圧を測定してみる。

 

 前述のようにフィールド電力22Wは出力電圧373Vで達成される。この電源にあるスイッチは低電圧、高電圧の切り替えでその差は30V程度となっている。入力電圧117V、高電圧ポジションで得る事ができた。入力100V時は357Vでこれでも問題はなさそう。電源の平滑回路をコンデンサー入力にしたのは出力電圧の調整だった様子(全く忘れている)。iPhoneのイヤホン出力を入力してしばらく聴いてみた。電流は計算では60mA以下なので電源トランスの大きさから余裕の数値と思われ複数のスピーカーでも大丈夫そう。

 

Capehart Speaker

   

フィールドDCR:309Ω

フィールド電力22Wで計算してみると

フィールド電圧 82V

フィールド電流 265mA 

 これは同じく13inchだがラベルは「Capehart」になっている。Capehartは高級電蓄メーカーで各社から供給されたプレーヤー、アンプ、チューナー、スピーカーを豪華なキャビネットに組み込んでモノラル電蓄として販売していた。当時の米国の栄華が偲ばれるような華々しい製品群でWestern Electric製のスピーカーが搭載されていたものもある。この個体は端子、取手が省略されていてコーン紙が一般的なコルゲーション入りになっている他は違いはなさそうでM-20の形状と思われる。

 有名なJensen 12AはOEM供給先の仕様でフィールド電圧は様々なものが存在したことからこのCapehart Speakerも注文に応じた仕様と思われる。82V 265mAはどうやって得たのだろうか?セレンか?

  

 これはWEのKS電源で「煙が出て壊れた」というジャンクを譲ってもらったもの。Constant Voltage Rectifireとあるので定電圧電源らしく回路図は内部に貼ってあったが原理は全く理解できなかった。元々はダイオード整流でコンデンサーのトラブルで破損していた。緑色はセレンで当時ダイオードの代わりに4個使ってブリッジを組んで修理した。入力は105〜125V 60Hz 出力は120V 0.8A 回路図のR-3で出力電圧が可変できる。以前WE49に使えないかと接続したがどうやってもハムが取れず諦めた経緯がある。この電源が使えないだろうか?

 出力の波形をみると激しく乱れていて当初はセレンを始めパーツの不良を疑ったが電圧の可変はできるし電力は取り出せている様子。セレンブリッジだけ切り離してトランス出力を整流してみたが特に問題なさそう。出力波形はこの方が整っていてこの定電圧電源の用途は音響用ではないのかもしれない。100VAC入力で出力電圧を最小に設定するとDC100V程度になるのでもう少し平滑して綺麗な82V出力が取り出せないか実験してみることにします。

 定電圧電源の後に平滑回路を追加してみます。まずバラックで実験

 これで大丈夫そうなのでシャーシに組んでみる。

 

 このシャーシケースはVideoshere のパタパタ時計修理のために入手したオーディオタイマーの残った金属ケースをカットして塗装したもの。チョークコイル、コンデンサーは手持ちの大容量のものでDCRも丁度良く電圧降下する。鉄製ケースの加工が大変でほぼ1日かかってしまった。。

 フィールド電源は拘りだすとエンドレスに陥る危険がある。信号によってヴォイスコイルは磁界中で運動するが同時に磁界に影響を与え周囲のフィールドコイルには起電力が生じる。これは出音にとって有害であるため如何に打ち消すかが良い音で聴取するための大きな要素とされる。方法としてはフィールド回路にチョークコイルを数多く配し生じた音声信号が回路内を駆け回りながら消滅する(させる)というもの。コイル類は重く大きいので必然的にリスニングルームは実験室と化しなかなか脱出できなくなる。アマチュアの特権でもあるがそんな時は簡素なTA4151を思い出して正気に戻るようにしている(冗談です)。できれば大容量のコンデンサーは使わずにフィールドコイルに近い所はチョークコイルを入れたいと思う。

 

 TA4151,Jensen Auditrium L-10,Capehartの比較試聴をしてみた。音源はIPhone、アンプはBell研 2B

 

 どれも問題なく音が出てビリつきなども感じられない。WEの安定電源はジーという機械的なノイズが気になる。能率は同じ、HAMはどれも問題なさそう。3本は磁気回路はほぼ同一と思われたが出音はコーン紙の違いからと思われる差が出た。TA4151とL-10はほぼ同じコルゲーションの無いプレーンなコーン紙でやはり良く似た音。Capehartの数本のコルゲーションのあるコーン紙はTA4151Aなどでよくみるタイプ。コーン紙は厚く他よりも重量があるのではないかと思うしコーン紙表面の張りが弱くこれではバリッとした音は出にくいのでは。コルゲーションで分割振動して高域が伸びているかと思えばそうでもなく割と音が固まって分解能が低く聞こえるのは高域が不足しているためのような気がする。

 Capehartのコーン紙はフレームに金具でネジ止めされ、取り付け穴も開けられていないなどかつて交換されたものと考えられる。TA4151とL-10はハトメで止められているので元々のコーン紙のようだ。ガスケットを作る場合はこのネジ頭を避けなければない。

22Aホーンで使ったフェルトがあったのでそれで製作した。格好はあまり宜しくない。

 

 TA7331に組み込むのはクロスオーバーが300Hzということを考えてCapehartにしようと思います。音出しして問題あればまた考えます。TA7331に取り付ける際に8個の特製金具で固定する指示があるがバッフルにはフレームの彫り込みと取り付け穴がすでに開けられているのでそれを利用する事にします。固定金具は細かな寸法はもとより塗料の指定まである。鉄の材料を叩いて製作

   

勘違いして6個しか作らなかった。。あした2個追加せねば、、。材料費が安くて助かる。22Aの修正で買った鈑金ハンマーが役に立った。

  

 翌日追加の金具2個を製作して早速音出ししてみる。ネットワークなしのフルレンジ再生、音源はIPhone、モノミックスはトランス、アンプは2B

  

 モノミックストランスはWE246Cで普段はステレオカートリッジ出力に使っている。

 一聴ボックスに取り付けたらやっぱりHAMが気になる。このCapehartスピーカーはハムバッキング回路があり信号は経由している。原因は励磁電源でこれは何とかしなくてはならぬレベル。入力をあげても歪み、ビリつきは感じられない。家の方がビリビリいうまで音量を上げたが大丈夫そう。元々はどんな使われ方だったかは不明だが高域不足からフルレンジ再生ではなさそうでフィールドツィーターと組み合わせたと思われる。しばらく聴いてみたが堅牢なエンクロージャーと物量を投入したユニットらしい厚い音で特に問題はなさそう。

 

 電源は再検討してみます。

 


WE 1936 Series No,6 について (1)TA7331

2021-03-19 23:56:21 | Western Electric

 1936年1月から稼働したとされる「1936 Series No,6」は10年以上前の雑誌の記事でその存在を知った。Western Electric社が供給していた劇場用サウンドシステムのうち1933年から始まった「ワイドレンジサウンドシステム」の最後期のシステムでその後WEは「ミラフォニックサウンドシステム」へと移行していく(劇場によってはWE555を中心にしたシステムは長く使われた場合もあった)。

 

 (引用:http://www.kaponk.com/2020/12/05/original-western-electric-22a-speaker-system/)

 このスピーカーシステムを再現するための構成部品を1個づつ検討していこうと思います。

(1)TA7331 バッフル

 スピーカーでバッフルというのはユニットを取り付ける板のことでこの時代は桟の入った巨大な平面板というのが普通。現代のようなスピーカーユニットが箱に入った場合と比べてコーン紙への負荷が少ないので動きに制約が出にくく素直な音が取り出せるとされる。スピーカーの前後は位相の異なる同じ音波が出るため両者が打ち消しあわないようにするのがバッフルの役目で無限大バッフルが理想的。実際は桟の入れ方などのノウハウがあるが基本的には板に穴を開ければことが足りるので現代でも実践している方はいる。

 TA7331は平面バッフルを前方と後方へ折り曲げて箱状にしたものと考えられる。コンパクトにすることが目的だったわけだが現代のスピーカーにはない前方の箱がユニークで他に例を見ない。ユニットは真ん中あたりに取り付けられ後ろの箱(背の低い方)の天板を外してユニットの着脱を行う。前面の箱はホーンロードのようにも共鳴管のようにも作用する。指向性を狭くし前面に張り付けられた布で高音域がカットされる。

 

 ボックス後方の45度で取り付けられた5枚の布は後方音を斜め上方に誘導しスクリーン裏の壁に反射させてさらにサウンドテックスドレープと呼ばれる布で導かれ前方に放出され前方音とミックスされる。ネットワークのクロスオーバーは300Hz。

 写真とこの配置図ではサウンドテックスの位置が異なる。配置図では22Aとスクリーンはホーンの開口部の延長のように斜めに結ばれていて後方部分も斜め。一方写真では前方の布は無くボックス後部から垂直に立ち上がって途中から22A下部に向かってゆるく伸びている。配置図に「写真を見ろ」と書かれているのにこの違いで現場は混乱したか?また22Aホーンとの位置関係は3inch(75mm)前方にと書かれている割には後方の壁との位置関係の記載は無く先ほどの推論は怪しい限りだが映画館によって構造が異なるため現場での混乱をさけるためにあえて自由度をもたせた(それだけ後方音の影響は少なかった)ためかもしれない。スペアナがあったかは不明だが実際に音出ししながら位置決めされたと思う。

 TA7331の材質はホワイト・パイン(米松)かFir(もみの木)、またダーク・ウォールナットのオイル仕上という情報もあるが設計図にはそうは書かれていない。使用ユニットは13inchのTA4171,TA4153,TA4151などで8個の金具で取り付けられた。詳細な設計図が残っていて使われる材や釘の細かな指定まで親切に書かれていることからこの箱は現地の大工にオーダーされた可能性もありこの図面があれば十分に製作可能だと思う。しかし単純な形のようだが補強材の入れ方などは結構複雑、小型バッフルといっても十分に大きくて重い。

 この個体を入手したのは10年ほど前で1980年代に日本で製作されたものらしい。

 

 キズだらけの表面には分厚いウレタン塗装がされていた。まず気になるこの塗料を剥離して

  

    

コンプレッサーが貧弱なのでエアーサンダーは殆ど役に立たない。6時間ほどかけてようやく表面の塗料の剥離が終わった。内部はウレタン塗装ではなさそうでこのままとします。あらためて各部のサイズを測定して上記の設計図と比較すると誤差はほぼ5mm以内に収まっていた。桟の寸法は選別した50mmx50mmのホワイトパインかもみの木という指示だが残念ながらそこまで太くはなくまた1ヶ所桟が入っていないところがありこれは見落としかもしれない。板は18mm厚 5plyの米松合板でこれはほぼ指定通りだった。またボックス前面には「マニラのmedium hevy black china silk」を取り外しできるようにして張れとの指示がありこのボックスも木ねじ跡があるのでそのようにしていたらしい。「medium hevy black china silk」がどのようなものかはよくわからないが結構厚手のものであれば高音が吸収されるフィルターになっていたと思う。ボックス後部の5枚のドレープは取り付けられた形跡は無かった。

 近くの手芸店でサランネットの布を探しに行って普段スピーカーには使われないデニム地を選んだ。木枠作って張って前面に鬼目ナットを埋め込んでネジで固定した。

   

 同様に裏側には15cmの角棒5本を仮組みしてみる。ここにサウンドテックスドレープを張るのだがこの布は「ステップルで固定せよ」となっている。全体の仕上げの指示は「"Derayco" flat black paint」とあり"Derayco"は何の事か不明だがさすがに真っ黒には塗りたくないのでオークのオイル仕上げにした。

  

 定番のワトコオイルを探して数ヶ所のホームセンターを回ったがあまり品揃えがよろしくない。結局違うメーカーのを使用した。こんなに楽な仕上げ方法はないと思うのだが巷の評価は違うのかもしれない。 庭で作業して数時間乾燥させ磨き込んだが部屋に入れるとやはり臭いがきつい。水性オイル(?)もあるがここはしばらく家族には我慢してもらいましょう。

 後部のサウンドテックスドレープの縁は縫っておこうとミシンを引っ張り出して来たが絶不調で単純な直線縫いにもかかわらずかなり難航した。ミシン糸を買ってくるもダメで故障なのか調整不良なのかわからない。かなり古い機種なのでコンピュータは内蔵されていない。市販品を調べてみたが安いものは数千円からあってこれでは街のミシン屋さんはなかなか大変そうだ。実家の母親にも相談したが使っているのは家庭用では一番高価なものだったらしくちょっとびっくりした。実家の職業柄布地はたくさんあってそれらをリフォームする事が日常生活の大きな要素になっている。今後のことを考えても我が家ではミシンの出番はさほどありそうもない。母親からのアドバイスで今のミシンをなんとか調整して事が足りた。異音が出てるのでミシンオイルの注油が必要。

 

 ようやく完成しました。

   

 

 

 


Western Electric と 劇場スピーカー

2021-03-18 10:16:13 | Western Electric

 この1年はコロナ禍で映画館に行くことがめっきり減ってしまった。先日久しぶりに観たのは話題の「鬼滅の刄」。封切りから日にちが経っていて1日の上映回数は減ったが空前のヒット作品とのことでまだ公開が続いている。平日なのに結構な入りで(自分もそうだが)年配の方が多い。映像の緻密さ美しさが言われるが音響も凄い迫力でまさに音の洪水。家庭では高画質大画面のテレビが普及しているがホームシアターを目指したとしてもここまでの音響再生を実現するには並大抵ではないし建物の検討から必要になりそう。正直圧倒された。

 Western Electric社は今から95年ほど前のトーキー映画の黎明期に音響機材、ノウハウを供給していたアメリカの企業でその後早い時期に映画界から撤退した。当時映画は非常に大きな娯楽産業で無声映画からトーキーへの移行期には多くの資金と優秀な人材が集まり研究開発された理論、技術、機器はその後の音響産業の礎となった。トーキー映画のために有名なWE555が開発され当初はフルレンジユニットとして大型のカールホーンとともに用いられた。再生周波数は6kHz位までだったが台詞やオーケストラなどの再生には支障はなかったとされる。当時の銀幕は音を通しにくかったので音響装置をスクリーン裏に設置することができず用いられた12A 13Aなどの巨大なホーンはスクリーン前部のオーケストラピットに置かれたり、天井から吊るされたりしていた。劇場、映画館の規模は様々でオーダーに応じてシステムを設計し納入され機材やメンテナンスはすべて高額なレンタル契約がされていた。

(引用:https://community.klipsch.com/index.php?/topic/174189-if-you-could-have-just-one-speaker-for-the-rest-of-your-life/page/4/)

 12Aと13Aホーンは単板で製作されていた関係で非常に重くまた12Aと13Aは常に一対で運用されていた。製作も手間がかかり(クレデンザで実績のあったVICTOR社に外注していた)高価だったため軽量、安価な17Aホーンの開発がされた。17Aはシングルスロート以外でも複数のWE555を用いることができるマルチスロートが用意されていて17Aホーン1台に対しWE555が4基まで対応した。一般的に用いられる名称の15Aは17AホーンとWE555が1基の組合せの呼称。 設置場所の問題はスクリーンの布に7mm間隔に1mmの穴を空けるという手法ですぐに(1927年頃)改善されスピーカーはスクリーンの裏に設置されるようになった。

 1932年頃になると映画フィルムのサウンドトラック記録再生方式が改良され、それまでのレコード円盤同期システムからライトバルブ(light valve)方式となり周波数帯域も100〜6000Hz程度から50〜10000Hzへと改善された。WE597などのツィーターはこれに応えるために開発されたが実際はヒスが目立ちあまり歓迎されなかった。低域も今までのホーンに加えて新規のダイナミックスピーカーを挿入して帯域の拡大をはかるようになった。当時ダイナミックスピーカーの特許権の関係でWEでの自社生産は難しくジェンセン社からOEM供給された。ユニットは12inchと13inchの2種類で各々に励磁のための整流回路を持つもの、持たないものがあり全部で4種類で賄われた。映画館の規模に応じてユニット1本から6本までのシステムがあり取り付けられたバッフルも4種類用意された。17Aホーンと組み合わされたシステムは1〜10システム、16Aホーン(金属製の薄い形態)と組み合わされたシステムは1〜6システムまであった。これらは「ワイドレンジサウンドシステム(前期)」と呼ばれた。

 1935年後期になると17Aホーンは引退し22Aホーン(金属製)になった。「ワイドレンジサウンドシステム(後期)」はいずれも複数の22Aホーンもしくは16Aホーンとダイナミックスピーカーとホーンツィーターの組み合わせで規模に応じて新システム1〜5まであった(新システム5は最小で各々1本ずつの構成)。 ちなみに実際に劇場に設置された写真は殆ど残っていないとのことで不思議な気がする。

 1937年にはミラフォニックサウンドシステムが開発され新たな時代の幕開けとなる。これはカールホーンとバッフルに取り付けられたダイナミックスピーカーの根本的な問題が解決せずライバル企業に対抗するために開発されたシステムで、WE594とストレートホーン+巨大なバッフルとダイナミックスピーカーを組み合わせた。Western  Electricのシアターシステムの2つあるとされる峰のもう一方だがこれは別項に譲ります。

 

 雑誌の記事で気になっていたのは「1936 Series No,6」というシステムで上記のシステム一覧には見当たらない。(No,6は新システムの連番ではないかと思っていますがお詳しい方がおられましたらご教授をお願いします)構成は500A(WE91A(300A)アンプ+モニタースピーカー)と駆動されるスピーカーはTA7331バッフル+TA4171ウーファー、22Aホーン+WE555、TA7332ネットワークという構成で1936年1月より供給が開始された。

 

 かなり変わった(変な)格好のスピーカーシステムで特にTA7331バッフルは大きさの異なる箱を2つ繋いだような見たことのないような形、22Aホーンは横に倒れてバッフルから離れた上方に吊るされていて両者間には布がぶらさがっている。対象は最小規模の映画館と思うがTA7331バッフルの現存数の少なさや資料に登場しない事などから異端だったのではないだろうか。

 劇場のサウンドシステムを部屋に持ち込む発想は冷静に考えればちょっとおかしな嗜好だと思うが日本のオーディオ愛好家では普通に多いパターンだった。中でもALTECのVoice of the Theatreは最も一般的だったがもっと遡ってWestern Electric製品を置きたいと考える時大きなバッフルやカールホーンを置く場所があるのは一部の恵まれた人だった。上記の「新システム5」は小規模劇場用だがそれでも12inchのダイナミックスピーカー1基が取り付けられたバッフルの大きさは60inch x 96inchもあってそれに比べると「1936 Series No,6」は小型でうまく鳴らすことができれば手軽に(?)ウェスタンサウンドが味わえるかもしれない、、と思った人は結構いたと思う。しかし成功したという話はほとんど聞いたことがなくTA7331バッフルも22Aホーンも難しいというのが一般的な見解のようだ。

 


BARIGO 温湿気圧計 について

2021-03-08 20:47:49 | ガジェット

 BARIGO社はドイツの気象計器メーカーで創業は1926年というから100年近く前という老舗。

 現在も多くの種類の温度計、湿度計、気圧計などを製造していてこれらを複合させたファッショナブルな計器はオフィスの調度としての人気も高い。世の中の景気が良かった頃には企業名入りの記念品として配られたこともあった。特に透明なドームケースにゴールド(もしくはシルバー)の3階建ての計器が収まる華やかなデザインで人気が高かったのがこの製品でデスクトップやブックシェルフの装飾としてドラマの洒落たオフィスの風景にはよく登場していた。

 今回タイミングよくジャンクを入手したので早速手入れしてみることにします。

 早速分解してみた。

  

 さすがに見せる事を前提としたメカニズムは美しく金属表面も劣化しにくい加工がされていると思う。3階建の気圧計、温度計、湿度計はそれぞれ独立していて分解するには底のフェルトを剥がして現れるナット3個を外して行う。台は木製、金属面に指紋やアクリルカバーを傷つけないようにとても気を使います。調整は裏の穴から気圧計と湿度計については行えるらしいがスマホのアプリで気圧を調べて更正した。温度計の更正方法はないみたいだが表示がちょっと高いのではないかと感じる。

 中央が湿度、もう一方が気圧計調整ネジの穴。

 

 

 この製品は大きさが2種類、メカニズムの色が金銀2種類あるがこれは大きい方で高さが17cmもあり存在感がある。以前から気になっていた製品だった。しばらく他の計器と比較しながら必要に応じて更正することにします。

 

 

 

 

 

 

お読みいただきありがとうございました。