Decca Decolaがお嫁入り

やっとこさ入手したDecca Decolaの整備記録

Western Electric 陣笠 について

2016-08-31 23:59:28 | Western Electric

 Western Electricのマグネチックスピーカーは数種類ありますが一番有名なタイプでその形状から(もちろん日本だけだが)通称「陣笠」と呼ばれています。
 大きさは3種類でN.H.Ricker、R.L.Wegelの特許をもとに1924年に開発された。

 特許図ではコーンを保護する金網が描かれていて興味深い。なぜ省略されたのだろう?もし金網が付いていたらオリジナルコーンの生存率は飛躍的に上がっただろうに。。

 「540-AW」 は直径18inch(45.7cm)でモニター、PA用。「548-AW」「548-CW」「548-DW」は各々「フロアースタンド型」「フック付き吊り下げ型」「壁面固定型」で直径36inch(91.44cm)の超大型でPA用だった。
 マグネチックスピーカーということでいずれも4kΩ〜10kΩのハイインピーダンス。
 1926年には「540-AW」に代わり直径24inch(60.96cm)の「560-AW」が発売された。
 「540-AW」は3機種の中で一番量産されていて現在でもよく目にします。しかし1925年にはより性能の勝るライス・ケロッグ型のダイナミックスピーカーが発表されModel 104としてRCAから発売されたためその優位性は短期間で終わりました。


 今日は8月31日 夏休み最後の日の午後4:30分 県北の静かな公園です。子供たちの姿は見られない。空は青いが吹く風はすでに秋の気配。幾つになってももの寂しさ、もの悲しさを感じてしまう。明日からほんとの「秋」になります。  っと書いてから周りの人達に聞いてみると9月から秋だと思っているのは私を含めて少数派だった。やっぱり学校嫌いが未だに尾を引いているらしい。

 WE540AW


 
 20年ほど前にお店で購入。メンテナンスしていません。分解してみる。
 
 まず中央の手ネジを緩めます。


 内側のネジを外すと メカニズムが見える
 

 外側のネジを外すと
 
 コーンが外れます。中央一点がドライブされるのでここの剛性は決定的に重要。この個体は良好です。しかし

 表裏の接合部が大きく離れているが軽傷。修理すれば良いので問題無し。

 メカニズム部








 コードにも製品番号が付いています。やっぱり高級品。



 「のり」を塗ってクリップ(只の洗濯バサミ)で留める。決してのり以外は使わない。次の補修ができなくなるから。
 コーン周囲には地味なモノクロ模様があります。控えめで好ましい。元々のコーンの色はもっと白かったと思う。


 補修完了しました。のりの乾くのを一晩待って音出し。

 この「陣笠」はNHKの取材を受けたことがあり、後述の自作25BとともにNHK BSと地上波に出たことがあります。番組の制作意図は「真空管の音は気持ちを穏やかにする」といったもの。当時1000万円するといわれたハイビジョンカメラを担がせてもらいました。見られたかたも居られるかもしれません。


 WE560AW  その1

 10年ほど前に個人売買で入手したもの。売り手が機嫌を損ねたのか分かりませんがなかなか送ってくれなかったのでこちらから出向いて回収した。コーンの痛みも激しく入手金額が高額だったこともあって当時一生懸命に補修した。
 当時のメーリングリストに投稿した記録が残っているので再度載せておきます。


 


土曜の夜からWE560AWの修復をはじめました。
 作業に先立ってメカニズムを540AWと比べましたが、全く同一ですね。(大きさ3種類の陣笠はすべて同じなのでしょうか。)
このスピーカーのコーン紙の程度は個体によってそれこそ様々で、ガムテープや瞬間接着剤での修理(破壊)も多いと聞きます。
 修理の560AWの様子は、大きな音が出ない、ビリツキ感がある、、などで540AWと比べても一聴劣っています。
 コーン紙は以前にリペアしてありましたが、一番の問題点はアーマチュアを固定する部分の剛性の不足で、ここが傷んでいると全体をドライブすることは困難になります。幸いに再修理可能な前修理のようです。

 以前のリペアーに用いてあった紙、のりをお湯で溶かしながら除去してみるとコーン頂点部分はかなりのダメージを受けていたのがわかります。
 (手を着けたことを一瞬後悔しました。ホントに治るのだろうか?)
 コーン紙と接合する部分の金属パーツが疲労でヒビが入っていました。
 金属パーツのリペアーを行い、あらためて和紙とのりで固定するわけですが、軽量、剛性、コーン紙の形状、表面の幾何学模様を極力損なわぬように行います。それでも最終的に模様のとぎれた所は、水彩絵の具を調色して小筆で慎重に描き足しました。
 美術品の修復そのものの作業でしたがその他10カ所程度のリペアーを完了することができました。
 所要時間は20時間程度でしたが、そのほとんどは「のり」の乾燥待ち時間です。
1600年代のバイオリンが現在でも使用できるのはバイオリンの組み立てが膠でされているために分解可能であるためです。次の修理が可能であるように修理することは貴重な文化遺産を守るうえでも必須だと思います。
 それにしても鉄が主体の車の再生と比べて、植物材料の堅牢なことには驚かされます。
 再組み立てを行って音出しです。(アンプを組み立てた時のようにドキドキしました)アンプはこれまた再生したWE25Bで電源トランスだけは旧タンゴ特注です。
 シューベルト 死と乙女 Vienna Konzerthaus Quartet (Westminster)  ・・・!! おー! おもわずカミさんを呼んでしまいました。
 まず音圧が十分とれます。540AWは精緻な音がしますが、あたりまえですが低域がちゃんと出ています。特徴ある音が部屋一杯に広がります。(大興奮!)
 一言、やって良かった・・・。

 このリペアーが比較的うまくいったので調子に乗ってしまって、、現在拙宅には5台の陣笠が居座っています。久しぶりにコーンを外して点検してみる。







 周囲の模様はWE540AWとは異なって朱色が入り華やかです。

 中心部はかなり手が入っている。当時の必死さが伝わって来る。

 裏の文字はくすんでいてほとんど判読できない。



 メカニズムは「WE540AW」と同じ様子。今回駆動子のハンダによる固定が緩んでいたため磨いて再度ハンダ付けして固定した。


 音色は重厚で深い。反面高域はちょっと寂しい。でも聴いてるとしだいに気にならなくなる。


 WE560AW  その2






 国内オークションで入手したものだが輸送が比較的良好だったのでコーンのダメージは少ない(これでも)。修復が少ない分コーンの重量増が少なかったため「WE560AW その1」より高域がよく出る。







 駆動子は途中の中継子で振幅が2/3に減衰されその代わりに駆動力が3/2倍になっている。この駆動子は永久磁石の磁力とともにとても重要で調整によって音質がかなり変化する。「WE560AWその1」は少し曲がりがあり気になってきた。


 WE560AW  その3

 海外オークションで入手。完全ジャンクで激安。相手はそのままダンボールに詰めて送ってきたのでコーンは酷く破損していた。気合いを入れて修復したが途中で駆動軸にコーンを留めるネジを紛失してしまった。コロコロところがってそれっきり。異次元空間に落ちたのだと思う。

 当時の修復の様子。









 今回適当なインチネジをさがしてなんとかネジ山を合わせて長年の懸案が解消した。

 ワニの背中ではありません。しかし一聴音が小さい。なぜだろう?

 ウチのWE560AWはすべて音質が異なります。メカニズムは同一なのでコーンの状態の差ということになる。しかしコーン紙以外でも音質を変える要素として考えてみると
 ・ 磁力の低下  U字磁石が減磁していないか気になるが、金属片をくっつけて比べた感じでは(かなりテキトー)ほぼ一緒だった。
 ・ アーマチュアから駆動子、中継子、駆動子の調整。 コーンの固定によって前後的なテンションをかけるとかなり歪んだりすることからアーマチュアの最適位置についての検討が必要。(目視でわかるのだろうか?)またコーンの中央がストレスなく駆動子に接続することも必要(な気がする)。
 ・ 駆動子の剛性。 ドライブにあたって十分なものが必要  
 ・ 音質評価の判断は限界までパワーを入れて判断することも必要。 現在CDプレーヤーから直接WE25Bに信号を入れているので多分限界駆動にはなっていない。プリアンプで昇圧して再度比較してみよう。

 早速やってみましょう。Western ElectricとMarntzの夢の共演か。CDプレーヤ出力を「Model 7C」で昇圧してWE25Bに繋いでみる。
 これは「その3」です。能率が低くて小さな音だったのですがパワーを入れても(といっても0.38W)破綻が目立たず大きな音が出る。また低域の伸びもあってコントラバスが唸る。

 逆に一番優秀だった「その2」は破綻が早く要調整。さてどこを調整するか?ボリュームをあげるとチリチリ、バリバリ言います。

 再度「その2」を分解してみる。マグネチックスピーカーのメカニズム部分の分解は初めて
 

 

 
 コイルとヨーク、ヨークと磁石はリジットに固定されていて調整代(しろ)は無し。すべてキツキツに締めてあるようす。各部を掃除して再度組み立ててもアーマチュアの位置は安定している。(コイルの中央でアーマチュアはどのように設置されているのかは不明)したがってこの部分のメンテナンスは必要はなさそう。永久磁石も強い磁界の中にあるわけでは無いので減磁は起こりにくい。メンテナンスは駆動子の固定に緩みが無いかの1点と考えます。アーマチュア、駆動子、中継子、駆動子各部の半田固定をやりかえて再組み立てしてみる。駆動子に前後的なテンションをかけた時に不具合が生じたのは単に接続部の緩みが招いたものと思われました。

 うまくいきました。大きな音が出ます。低域も伸びたようでバランス良好、聴き易い。WE540AWと比べても音質面ではWE560AWの方が明らかに勝っている。WE560AWはRCAの新製品に対してWestern Electricにとっては起死回生の一発だったのかもしれない。しかしWE540AWほどは製造されずバランスドアーマチュアマグネチックスピーカーは終焉に向かっていくが「陣笠」は結構長い間使われていたという記述もあります。
 ところで「バランスドアーマチュア」を検索するといっぱいヒットしておどろきます。どうも現代に新製品として復活している様子


 WE548CW

 「WE548CW」は「WE540AW」と同じ年(1924年)に発表された3種類の陣笠の一つで「フック付き吊り下げ型」、直径36inch(91.44cm)の超大型でPA用。
 WE548AW   WE548CW    WE548DW


 WE548CW

  



 

 

 



 オープンラックに穴を開けて逆さまにして蝶ネジ2本で固定しています。
 ここまで大きいと陣笠というより大きな銅鑼といった感じ。デザインもジャポネスクからはずれて中華銅鑼。巨大だがメカニズムは「WE540AW」「WE560AW」と同じ。紙の厚みも(多分)変わらない。PA用ということで業務的な酷使がされたと思うがWestern Electricはこの機構に絶対の自信を持っていた(と思う)。現存数はわかりませんが自重で前方にお辞儀してしまいそうになるほど華奢なので残っている数は多分少ないと思われます。しかし以前に国内の方で「私も所有しています」という連絡をもらったことがあります。 
 この個体は海外オークションで見つけたが旧オーナーはpic up onlyの希望だった。なんとか拝み倒して(?)木箱を作って送ってもらいました。ダメならこちらで箱作って送ろうかと思ってましたが。木箱ができて本体を固定した写真が送られてきまして「これでよろしいか?」と。先方も貴重品だとわかっていたので最良な状態で届きました。いまでも親切に感謝しています。直射日光で紙の繊維が脆くならないように、また湿気で剛性が落ちないように、使わないときは水平に保管する、、など気を使います。ここ数年は寝ていました。

 「WE548CW」の音は拙宅に来ていただいた方には聞いてもらった事がありますが、当たり前のようですが低音がしっかり出ます(そりゃまぁそうだろう!と、、)しかしもやもやする低音ではなくとても良質なものでまた全域のバランスが良く聞き易い、迫力がある、大きな音が出る。この大きさではなかなか一般家庭にには持ち込めなかったと思いますが圧倒的な差があります。
 しばらく聞いていたら歪みっぽくなってきました。メカニズムを取り外してみます。裏ブタをはずすと駆動部分を停めている3本のネジが見えますのでここのみ外します。コーンの補修は無いので外さない。







 緩んでいる駆動子を再度ハンダで固定する。面倒がらずにしっかり磨いてハンダ付けするのが近道。かなりの力がかかります。

 再度取り付けるわけですがコーンの自重で前下がりになっているのでそれにあわせてロッドを調整します。駆動メカニズムを留めている3本のネジだけでは調整がきかないときは中継子を留めている1本のネジを短いマイナスドライバーでゆるめて一旦フリーにしてその後固定する。ロッドに側方のテンションをかけないためにしています。でもこれが正しいかはわかりません。

 ダイナミックスピーカーは口径が大きくなるほど低域の伸びに比べて高域が寂しくなってくるものでバランスのとれた所謂フルレンジスピーカーは20cm前後に限られています。マグネチックスピーカーの「WE540AW」「WE560AW」「WE548CW」を聴き比べると高域の状態はそのままに低域が伸びてくれる、バランスが崩れないのが不思議です。4倍ものコーンの面積の違いにもかかわらず駆動ユニットが共通というのも全く驚異的です。これだけ聞いていると陣笠の感想でよく言われるセリフ「もう他にはなにもいらないんじゃないか、、」という気になってくる。コーンに触れるとかなり振動しているのが分かる。「EMTの鉄板エコー」ではないが、「紙エコー」状態になっているのかも知れない、、などと妄想。
 自分の葬式ではこのスピーカーでBGMを流してほしいものです。(ムリだろうなぁ)



 お読みいただきありがとうございました。



 後日談1
 ラインアンプが「Model 7C」ではやっぱりどうかと思うので以前作ったラインアンプに取り替えた。もともとWE231用だったのをWE101Fに改造してライントランスの1次からコンデンサーで信号を取り出したもの。

 UXソケットなのでWE101F(ウソ。NUです)の足にスリーブを被せている。ヒーターは3素子のリップルフィルター付き。

 一応音量調整も付いてます。どの程度昇圧しているかはよくわかっていない。

 これで聴いてみると、、いい感じです。

 後日談2
 行方不明になっていた「ネジ」が2年近く経って発見されました。

 適合してほっとしました。素直に嬉しいです。
 


 




 

 
 


Western Electric WE25B について

2016-08-25 21:20:14 | Western Electric

 WE25Bは米国Western Electric社が1924年に開発し(2年前の1922年にはWE7Aが、2年後の1926年にはWE555が開発された)、同年のWE540AW,WE548AWなどの通称「陣笠」とともに主にモニター用として使われた電源内蔵の単段増幅アンプ。




 電源は105V〜120V 50〜60Hz 出力は0.38Wの超低出力。米国では1920年にラジオ放送がはじまり初期はレシーバー(ヘッドホン)、やがてラッパ型のスピーカーだった。しかしこのラッパ型スピーカーはナローレンジで音楽再生には役不足だったが1924年登場のWE540AWは広帯域でその後普及した電気録音時のモニタースピーカーとなっていく。WE25Bはその専用アンプ。
 実体図付きの回路図を見ると電源は白熱球電灯のソケットから採るようになっていて説明にもそう書かれている。壁面コンセントがまだ普及していなかった時代。(ところで電球外したら真っ暗な部屋だろうに、、どうやってたのだろう? 松下幸之助翁開発の二股ソケットの出番か??)

 WE25はWE25A,WE25B,WE25Cの3種類あり構成は同一だが入出力の規格が異なる。入力トランスに直接信号が入るが入力インピーダンスがWE-227A(20KΩ)、WE-227B(900Ω)、WE-227C(35Ω)2次側はいずれも133kΩで昇圧比はWE-227Aで 1:2.6 。出力トランスはWE25AとWE25BはWE-120Bで4kΩ:4KΩでバランスト・アーマチュア・レシーバー用。WE25CはWE-120Hで4KΩ:8.75〜35Ωでダイナミック・レシーバー用で補聴器として(!)使われた。

 搭載された真空管は2本で整流用と増幅用、いずれもWE205D。このころはWEはまだ整流管が無く、万能管のWE205Dのグリッドとプレートを接続した2極管接続にして流用していた。当然直熱半波整流だが回路図を眺めてみても凡人にはなかなか理解が難しい。プラス側にはチョークコイルWE133A(DCRは739Ω)が入るがマイナス側にも1KΩの板抵抗が入り増幅管フィラメントの中点とともにアースに落ちている。1KΩで発生した26Vによって固定バイアスとしているらしい。これに通称「ウエスタン繋ぎ」も加わってますますこんがらがる。平滑用コンデンサはチョークコイルの前後に1μFが2本づつ合計4μFという極小。半波整流でもありかなりのハムだったと思います。でもスピーカーが60Hzまでは再生できないナローレンジだったので実用になった。

 収められた筐体は何と日本の灯篭(!)型という衝撃的なモノ。「陣笠」のベース部分も同様だし、その後のトーキー用アンプも真っ黒に塗られていて「ジャパンブラック」と言われていたことなどから太平洋戦争以前の米国は日本に対する一種の憧れがあったのかも知れない。これらが当時の家庭に設置されている写真は見たことがありません。「陣笠」はデパートや駅のPAとして使われた事もあり写真は見た記憶があります。一説によると東京駅にもあったとか。

 使用球のWE205DはWE300BとともにWestern Electricを代表する真空管として知られています。1924年開発。


 

 

 

 



 Western Electricは第一次世界大戦(!)ころの1916年から1917年に米国軍用真空管番号「VT」のはじめての球としてVT1(受信用)、VT2(送信用)を開発した。VT2は結合型酸化フィラメントを採用していて電子放出能力が高かったが電圧を調節してなるべく低温で動作させた方が長寿命だったので劣化に伴って電圧を上げていくという使い方がされた。直系のWE205Dも初期はそのような使い方がされた(岡田 章氏)


 その後フィラメントの材質と形状、ゲッターなどの改良が絶え間なく行われた。初期球の場合はフィラメント電圧を4V程度に抑えてスタートし、劣化に伴い徐々に電圧を上げていくがフィラメント電流が1.6Aを超えないようようにまた実効プレート電圧は250Vを超えないようにすべき、とある。VT2のフィラメント電圧についてはいろいろな説がありましたがこの文章に集約されているように思います。

 VT2




 メタルベース、ノーゲッター  丁寧に作られています。


 WE250Dと兄弟球でWE205Eというのがあります。



 殆どWE205Dと一緒のようですがソケットとの接点が特別なのでしょうか、ローノイズ仕様で低周波用途専用。

 またWE205FはST型で幅広いフィラメントを採用しまた途中で酸化膜の改良があった。
 

  おむすびマイカを長方形マイカで押さえています。



 WE205Dは各国でライセンス生産されていて英国のSTC、日本でもNECが生産していました。足の形状が異なるなど全く同一ではなかったようです。

 STC-4205D


 こちらはSTC-4205Dかと思っていましたがオーストラリアのパテントNoが書かれてありますのでオーストラリアSTC製と思われます。
 
 同じSTCなので2つはよく似ています。Western Electricとはグリッドとそれを支えるステーの形状が異なります。またSTCはゲッターないのでこのWE製と比べて古いものらしい。

 向かって左はVT2、右はSTC-4205Dで両者の電極構造もよく似ています。








 WE205Dシングルを搭載したアンプは結構多いです。「8A/B/C」「11A」「タイプA」「タイプD」「17B」「18B」「25B/C」「32A」「33A」「34A」「40A」「45A」「51A」「52A」「79A」

 WE25Bの使用トランスですが
 入力トランス 227A(20KΩ:133KΩ) 0.35mmEIコア70枚重ね、1次4.800T(20kΩ)、2次12.000T(133KΩ) 1次インダクタンスは20H、サンドイッチ巻き

 出力トランス 130B(4KΩ:4KΩ) 1次2.500T 純鉄コア エアーギャップなしでDC30mA重畳可能

 電源トランス 90B REP(リピーティングコイル) TLコア5枚重ねで交互に組み合わせたもの 内部は4セクションに分離した巻線 AC(600Tでノイズカット巻き)、出力管ヒーター(5.0V/1.6A)、整流管ヒーター(5.0V/1.6A)、B巻線(390V/30mA)の横並びタイプ (いずれも林 明彦氏)

 
 WE25B  真空管はWE205Fが刺さっています。

 

 

 

 

 


 この個体は電解コンデンサーと入力トランスに謎の抵抗が入っている。



 


Marantz Model 7C について

2016-08-13 09:24:59 | Marantz

 Marantz社でというか世界で一番有名で人気のあるアンプ。発表は1958年12月なので実際の発売は1959年から。1958年にステレオLPレコードが登場しそれに対応した最初期にして究極の真空管式プリアンプと言われ続けて60年近い。

 このパンフレットは「Model 7C」ではなく「Model 7」になっています。両者の違いは定かではありませんが外観上の違いとしてはツマミの大きさが異なっていてそれに伴ってパネルも。また電源スイッチは「Model 7K」みたいな幅の狭いもの。価格は$249でキャビネットは別売り。

 最大の特徴は(私は)オーディオ製品としての完成度の高さだと思います。電源内蔵で適度な大きさ、高級感のあるデザイン、誰もが認める名機としての地位、音が良いと言われていること、、など所有することの満足感を満たしている。大量に生産され(13000台と言われている)廃棄されたものは無いと思われるので世界中に残っている。大変高価な製品だったので扱いも丁寧で改造されているものも少ない。欠品すると稼動できないような特殊部品も少なく生き残るのに良い条件が揃っている。
 その中でも人気の一番の要素としてやはり「デザイン」が大きいと思っています。「Model 7C」のデザインが嫌いという人にお目にかかったことがありません。好かれる工業デザインの要素が詰まっているのではないかと素人ながら思います。流通価格も高値安定でオーディオ骨董としての地位は揺るぎない。

 13000台も存在するとして60年近くも経過すれば1台毎に状況は異なるのは当然です。その状況により同じ「Model 7C」でも価値に差が出るのは理解出来る。一般の骨董と比べて骨董工業製品は比較がし易いのです。
 比較要素を考察してみると

 1 シリアルNo  骨董品の常で古いものが珍重されます。最初期、初期、中期、、シリアルNo10000番から始まるとされる最初期の1000台までは特に。シリアルNoはプレートと本体シャーシ、そしてフロントパネル(未確認)にもスタンプされているので誰にでもわかる鑑別点。ではシリアルNoによる製品の違いはあるのか、、という疑問がありますが6年間にわたる生産期間なので極一部の使用部品は異なっています。一番分かり易いのはメインボリュームで途中で米国製品から日本製品へと変更されました。その他ではフロントパネルの色、厚み、シャーシの色なども。また一説によると大量生産のため途中から配線力量が低下しているという事も言われるようですが私にはわかりません。ただ全体に漂うオーラのようなものは初期製品から感じたことはあります。

 2 使用環境  酷使されたものは傷も多く見た目が悪い。やはりキレイなもの(ミントコンディション)が望まれる。(ということはずっと仕舞ってあったのが一番で使っちゃダメか?)喫煙環境で酷使されていたものなんて触りたくも無い、、のが一般的心情。 

 3 修理状況  度重なる修理でネジが痛んでいたり各パネルに傷があったり。内部を見たときに穏やかな状況かどうか、、。半田コテが入っている場合は何らかの事情があったわけで。コード類がコテによる焼けがあったりしては敬遠される。メンテナンスの力量、センスが問われる。個人的な好みは「何事もなかったような」

 4 交換部品  工業製品ですので部品の経年劣化は避けられない。代表格は真空管、セレン整流器、コンデンサー。オリジナルの真空管は「telefunken ECC83」だと思いますが大量生産品でも次第に数が減って現在入手できるオリジナルのダイヤマーク(♢)が底にあるものは高値で取引されています。1980年代では日本でも普通に1200円程度で入手できましたので10倍〜20倍といったところ。しかしこれは需要と供給のバランスで仕方ないかもしれない。「telefunken ECC83」が高音質かどうかはわかりませんが低雑音だったことは確かなようで「Model 7」のカタログスペックを満たすには必要だったようです。セレン整流器はヒーターの直流点灯用ブリッジタイプのと高圧B電源用の半波整流のもの2種類でほとんど劣化しています。劣化すると内部抵抗が高くなり必要な電力が取り出せなくなり電圧が降下する。特にヒーター電圧が低下するとかなり支障が出る。メンテナンスされているものは大抵はダイオードがセレンにパラ接続されていることが多い。(ダイオードの入れ方もセンスが問われる?)しかしダイオードから発せられるノイズを嫌ってセレンを入手、取り替える場合も多く専用セレンの需要もあるため流通しています(入手したことはありません)2個で30000円〜40000円とこれも驚かされる。(でも必要と感じる人がいるのですから)コンデンサーについてですがセレンは細々でも現行品が入手できるがコンデンサーについてはオリジナルと同じものは生産されていないため新品は入手できません。もともとオリジナルはsprague社のバンブル・ビーという黒のボディーにカラーで縦線で容量表示したものでした。このコンデンサーも大量に生産されたので現在でも当時のものが流通しています。黒色ボディは樹脂の色ですが、未使用品でも経年劣化があり樹脂にヒビが入って使用不能になっているものがほとんどです。コンデンサーの役割として直流を遮断する場合が多いわけで劣化が進むと遮断しなくてはいけない側に電圧がかかってしまい動作に不具合を生じてしまう。コンデンサーの種類もいろいろあるので容量と耐圧が合っていれば代用品でも構わないわけですがオリジナルを重視する方々にはそれは許されない。したがって怪しげな骨董コンデンサーが1個数万円で取引されている、、。(すべて使用不能というわけではないので適切な試験(規定の電圧をかけてリークを測定する)をパスすれば問題無い)市場が大きければ再生産もありうるわけですがやっぱり儲からないのでしょうね。当時なぜソウル・B・マランツはバンブル・ビーを採用したのか、、はいろいろと述べられていますが企業としてはコスト、パフォーマンス、安定供給など考慮してとのことだと思います。「コンデンサーの種類による音質の意図的な構成」は無かったのではないでしょうか?一説によるともっと高価で高信頼のものを使いたかったがコスト面で断念したと。
 ボリューム(音量とバランス)は途中でメーカー自体が変更されたわけですが、60年近く経って劣化に伴いバリバリ雑音が出てしまう所謂「ガリオーム」状態になっているのが多い。我々素人のできることは唯一気の済むまで(我慢できる範囲まで)「グリグリ回す」事くらい。接点復活剤も「一時しのぎ」ばかりか「害になってしまう」という記事をよく見ます。さて問題はどうやってもガリオームから脱出できない場合にどうするか、、ということ。一般製品の場合プロは躊躇なく代替え品に交換するだろうが愛好家にとっては「Model 7C」のボリューム変更は「許し難い行為」ということになっています。分解整備する猛者も当然存在する。もしももしも取り替えるのであれば新しくても古くても初期製品に用いられた「クラロスタット製品」に限ると。何処に代替え品があるのか、、と思ってしまいますが需要があるためか一応入手ルートはあるようです(他人の話)ただしボリューム1個で100.000円だったそうで(実話)何処の国で生産されたかもわからないモノがとにかくすごいことになっています。なぜこれほどまでにクラロスタットにこだわるのか。もともとボリュームは信号を減衰させるもので抵抗体と摺動子との接点があり音質を悪くする要素しかありません。なるべく音質を落とさないように、また長期信頼性は大切な要素です。ボリュームによって音質が向上する事は決してないがツマミを回した時の「ねっとりしたフィーリング」や「音量調整のしやすさ」などが関係しているのではないかと思っています、がそれだけでは説明にはならない。動的な状態を維持確保しながら骨董品的なオリジナルの尊重という観点からなのでしょう。(「お前は分かってない!」という声が聞こえる、、)

 5 音質    数台の「Model 7C」を並べて試聴できるような環境であれば「音質」も比較要素だと思います。一台毎に異なると言われていますし事実だとは思います。もともと「Model 7C」は安定動作させることが難しいアンプだということらしいのです。発端は「コピー、レプリカ、キットなど同一回路で製作したアンプ類が音質評価においてオリジナルには全くかなわない」という共通認識にあります。これについても異論を唱える人を見たことがないので(多分)事実だと思います。私も長い間『Model 7K』を使っていました。諸先輩方のアドバイスでダイオードからセレン整流に変えたりロータリースイッチの切り替えフィーリング(カチッという音など)を一生懸命調整して「結構イケてるのではないか」と思っていた。ある日オリジナルと比較試聴できる機会がありましてようやく「目が覚めた」これは幸せなのか不幸なのか、、比較しなければそれなりの満足感にひたって音楽を楽しめていたと思います。では同じ回路、部品構成でなぜ異なるのか、、。色々と考察されてきてオカルトまがいの説まで。測定技術進歩で解析できているのかもしれないが私は寡聞にして知りません。よく言われるのは不安定な回路構成による発振についてで、寸前の状態が一番望ましいというもの。なかなか凡人には理解できない世界です。私なりの結論は「オリジナルのModel 7Cで故障なく動いていればいいのではないか」というありきたりのものです。技術のある方は目標に向かってチューニングすればよい。ただし私の見てきた範囲ではチューニングは「部品交換によっていかにもとの状態に近づけるか」以外は知りません。spragueバンブルビーですが、音質に与える影響について賞賛する記述は多いようです。オリジナルパーツですので多少リークがあっても使いたいという心情も理解出来る。メインテナンスで交換するか否かの判断はとても難しい。リークが進めば次段のグリッドバイアスがプラスになってしまうので動作はめちゃくちゃになってしまいます。もちろん本来の音は望めない。でも世間では「それでも良い。オリジナルが大切」という人も居るのです。これもアリの世界。劣化したバンブルビーを健全な同品と交換、、が一番目にする高額メンテナンスパターンですがどこまでが健全かは(高圧での絶縁抵抗値)は闇の中。また交換したコンデンサーがいつまで働いてくれるかもだれも分からない。でもこれもアリ。もちろん良心的なメインテナンスを行う業者がほとんどかと思いますが。


 









 このマニュアル、回路図は「Model 7」とあります。回路はその後の「Model 7C」と同じです。したがって「Model 7」から「Model 7C」への変更は意匠の変更だったようです。「Model 7」は何台作られたかわかりませんが私はパンフレット以外写真ですら見たことがありません。激レアなのでしょう。ファンクション切替とバランスボリュームは操作する頻度としてはボリュームなどと比べて低いのでこのデザインもアリだと思うのですが、なぜ変更されたのでしょう?大きいツマミが2個、小さいツマミが6個でバランスが悪かったのか、ファンクションの記述がごちゃごちゃしていると判断したのか、、。ソウル・B・マランツさんに話しを聞きたいです。



 回路の特徴は散々言い尽くされてきたので今更、、ですが。最大の特徴の3段EQで6本の12AX7の3本を使っている。EQの終段はカソードフォロワーで1本を左右に振り分けている。これはプリ出力段のカソードフォロワーも同一。カップリングコンデンサーは0.47μFと0.22μFで各々2本必要。入力切り替えとボリュームの次は12AX7を左右1本ずつ使って2段増幅してまた0.22μFでトーンコントロール素子へ。この6本のコンデンサーが基板上に並ぶとかなりの存在感アリ。トーンコントロールは中点がスルーポジションという優れもの。


「Model 7C」メインテナンス その1
 修理依頼のあった「Model 7C」です。シリアルNoは10400番台なので最初期のもの














 
 トラブル内容は片ch出力しない。出力する側のトーンコントロールが効かない。出力ゲインボリュームの調整が効かない。入力切り替えの不具合などなど。
 カップリングコンデンサはほとんど交換されているがそれ以上に残念な事は半田コテによる線材の被覆の焼け、基板焼け、シールド線の長さが足りない、などアタマの痛いこと多しです。線材の継ぎ足しや焼けた被覆をヒシチューブで保護したり、半田付けの修正をしたり、ひたすら掃除をしたり、、。トーンコントロールが効かなかったのは基板への配線が1本無かった(!)というもの。電源基板からの接続線もそうだが細く黒い被覆のより線が美しいカーブを描いて等間隔につながっている。全く同じ線材がない場合にどうするか(こっそりすべて取り替えてしまうか、1本を気の済むまで探すか)など。
 最後までトラブルが解決しなかったのが片ch出力しないということ。終段のカソードフォロアーは両chとも正常。前段2段の増幅段もしっかり稼動している(最初は誤配線で働かず)。原因はトーンコントロールについている結合コンデンサーが接地していたという不良だった。とりあえず両ch稼動するようになったが品格を上げるにはさらなる手入れが必要。しかしこれは音質の向上とは全く関係がありません。ある大家によれば内部を修復しても一度失われてしまった音の修復は不可能との事。あえて「なぜか?」とは尋ねないほうが夢がある。バイオリンなど楽器の修理、メインテナンスに近いものがあるのかもしれない。工業製品だが「匠の修理、修復」の存在する余地がある。
 機能的な問題は解決したので一応お返しした。巷で貴重と言われている最初期型なのでもう少し手を入れたいところだ、、などとイヤらしいことを考えてしまった。



「Model 7C」メインテナンス その2
 こちらはシリアルNo14000番台。かなりオリジナルに近い。














 しばらく(数年間)使ってなかったとのことで点検。カップリングコンがspragueのビタミンQに変更されている。コンデンサー類は外さないとはっきりとはわからないが問題ないことを祈ります。ヒーターセレンは問題ないがB電源は規定の電圧よりかなり下がっている。セレンの交換が必要。全体的にとても綺麗で品格を感じ好感が持てる。このまま音出しできるがガリオームあり。しばらくすると落ちついてきました。

 回路図から消耗コンデンサーを拾うと(( )は回路図の電圧の記入値)
 0.01μF 4本(153V,166V)    0.1μF 2本(153V)    0.22μF 4本(52V,161V)  0.47μF 2本(52V)   0.33μF 2本(1.7V)  0.01μF(セラミック) 2本
 このうち0.47μFまでが高耐圧オイルペーパーコンデンサ



「Model 7C」メインテナンス その3
 シリアルNo13000台です。しばらく(数年)使ってなかったもの。点検してみます。






 
 ところでフロントパネルを留めているネジは一応プラスの木ネジなのですが表面が湾曲している独特なもので入手が難しい。オークションで見かけて入手したこともあるのですが、、

 このネジはホームセンターネジをヤスリで加工して使っています。また上下パネルを留めてるネジは一説によると「Model 7」では2種類あって

 いずれもプラスのタッピングなのですが先端がとんがってるのとそうでないのがあるそうです。ちなみに「Model 1」はインチネジ、「Model 7K」ではイソネジ(ミリネジ)が使われています。






 鬼門のセレンですがヒーター電源用は取り替えられています。

 ヒーター電圧は1.5本で本来は18.9V必要ですがこの個体は17.2V(117V入力で)です。このままスルーします。。

 B電源用はオリジナルのようです。

 本来280Vですが実測値は215Vでこれはダメですね。高圧用セレンはやはり劣化しやすいようです。ここを正常値にしないと以降の測定値は意味が無くなる、、。

 コンデンサーはspragueバンブルビーから同じsprague160Pに変更されているところが多い。




 接続状態でもれ電圧を測ってみるとやはりバンブルビー部分はアウトのようです。外して測定すればだだ漏れ状態かと。
 またEQ初段には♢マークのECC83が入っていたのですがどうも不良でこれもアウト。もったいない、、。
 全体にメンテの手がはいっていますが品格は今一歩というところです。
 さてどうするかな、、。補修メニューを考えてみる。
  ・電源トランスは塗装がバリバリ剥がれている。何とかしたい。
  ・漏れバンブルビーは交換。使えそうなコンデンサーを漁ってみる。
  ・焼けているコードの修復
  ・手抜きのハンダ付けの修復
  ・ヒーター用セレンの取り付けビスを短く

 手をつけやすい所から、、カッコ悪いヒーターセレン取り付け部。ネジを短くしてスペーサーをなくす。


 一応生きてると思われるsprague160Pだがすんごいハンダ付け


 真空管ソケットにハンダ球がぶら下がっている。。全部吸い取って付け直す。外したコンデンサーも検査して漏れ無しを確認した。

 
 また漏れありのバンブルビーもはずしてメグオームメーターで250Vかけてみると、、やっぱりアウトでした。手持ちをしらべるとsprague vitaQがあったので付け替え。


 いずれも0.01μFですが漏れ無しでしばらく安心。


 以前のメンテナンスで交換されたコンデンサーの取り付けが他のパーツのリードから枝分かれしたようになってるのを根元から生える(!)ように修正した。


 またハンダコテで焼けたコードやコンデンサーはひっくり返して(!)見えなくした。。。われながら酷いもんです。乾いたかさぶたのように剥がれている電源トランスの再塗装はまた今度に。
 というわけで修復完了しました。ソケットに残ったままのリード線の切れ端は丁寧に取り除く必要があるので手早く行います。これを残したままのメンテナンスはやはり美しくない。ところが真空管ソケットに長時間加熱すると金属がもろくなって折れる恐れがあります。そうするとリベットを外してソケット交換するハメになる。また焼けたコードを交換することは同じのを入手することも難しいしかなりの勇気がいります。修復の際のハンダ付けや他に被害を及ぼさない配慮などメンテナンスする側の力量が問われます。一度破壊してしまうと完全修復するのは不可能に近いのです。大切な愛機の修理、メインテナンスはやはり信頼の置ける方にお願いするのが望ましい。信頼の置ける方というのは技術的に長けているばかりでなくオーディオ骨董に通じている方という意味合いがあります。なんでもかんでも部品交換してしまう方も見受けられますが相手は半世紀も経過したロートル、骨董です。全体に調和したやり方があると思っています。オーナーとのインフォームドコンセントが大切かと。

 カップリングコンデンサーをバンブルビーからvitaQに変更したのですが(やっぱり)音質が変化しました。スッキリ出ていた音に「ため」もしくは「つかえ」が加わってしまった。要は聴感上悪くなりました。。左右ch1ヶ所づつなのですが影響は大きい。「リークしていた方が良かった」というまたまた混乱する話です。数十時間は経過しないと評価はできないと言われますのでもう少し経過をみてみます。
 
 「Model 7C」の内部構造はわかりやすく整理されているので私のような素人でも部品交換はできます。しかしEQカーブの修正などは測定器が無いと不可能ですし、ガリオームなのか異常発振なのかの判断も同様です。高額で取引されている関係で「俄か匠」が横行し易い状況もあるように思いますが何度も書きましたがメインテナンスを依頼するときはまず現状をよく説明してもらいどういったメニューでメンテナンスを行うかをはっきりさせるべきです。新たに購入する場合はシリアルNo以外でもフロントパネル、バンブルビー、クラロスタットボリュームに目が行きますが本来のものなのか寄せ集めのものなのか、、難しいとは思いますが価格に見合った内容なのかを判断したい。骨董には目利きが必要で、何十台も見てきた玄人にアドバイスをお願いするのが良いかと(そんな人が身近な知り合いだったらいいのですが)。

 お読みいただきありがとうございました。


Marantz Model 8 について

2016-08-11 13:30:40 | Marantz

 「Marantz Model8」はMarantz社初のステレオパワーアンプで1959年に発表されました。グリル無しで$237.00

 実は有名なのは「Model 8B」でこれは2年後の1961年発表された。「Model 9」の次のアンプでソウル・B・マランツの居たMarantz社最後のアンプとなった。

 「Marantz 8」の回路図


 



 資料、情報は少ない。外観上での「Model 8B」との違いは裏面に電源のアウトレットが出ているのが「Model 8」だと思っていたが「Model 8B」でもこの端子が付いているのがあるそうで。
 著名な真空管アンプの設計者諸氏のアンケート調査でも最も影響を受けたアンプとして「Model 8B」を揚げる方は多い。1980年代には日本マランツより「Model 8BK」そして近年でもレプリカモデルが発売されるなどいまだその人気は高い。その陰に隠れている「Model 8」です。

 特徴としてはパンフレットにあるように「Model 5」を2台収納してステレオにした!ことに尽きます。見事に全く同じ増幅回路。ただし電源回路はGZ34からシリーズにつないだダイオードによる倍電圧整流回路へ変更されていてそれに伴いオイルコンデンサーは廃止され大容量の電解コンデンサ入力の平滑回路となった。両者の音質の比較は興味があるところです。ダンピングファクターを下げる回路の指示、UL接続から3結への改造方法も「Model 5」と同様に回路図に記述されている。

 「Model 8B」との違いは所有していないので偉そうには書けないが回路図を比較するとアンプとしての構成は同じ。一番異なるのは出力トランスでNFB巻線が片chに2ヶ所ある!というもの(「Model 8」は1ヶ所)。2ヶ所の巻線をミックスするのにトリマーコンデンサまで使うという細かさ。またEL34のプレートから6CG7のグリッドにもNFBが掛かっているし、、もう素人の出る幕は全くありません。解説記事などを読んでみると「Model 8」の後に発表した「Model 9」の回路技術が応用されたMarantz社のtube ampの集大成とのこと。この辺りは「Model 9」共々お勉強してみたい!と思わせる。(凡人にはムリか、、)

 知人の「Model 7」を修理していたら不注意でノイズを発生させてしまい無事だった方のLE8Tを断線させてしまいました。早速ダンパー、エッジを剥がしてみるとボイスコイルボビンが焼け落ちていた。。前回のトラブルの時にすでに瀕死の重傷だったようで今回のでダメ押しだ。

 2個一組で余っていたボイスコイルと交換しました。1日乾燥させて両ch揃ったところで聞いてみますが、、やはりなにか欠落した感じは否めない。交換時のランサプラスやランサロイのダメージも考えられるがやはりスピーカーにとって深刻なトラブルだったにちがいない。心臓移植に近い状況かも。やはりエッジ交換とは訳が異なります。でもこの状態でもうしばらく働いてもらいます。エッジが破れたらエッジ交換して。いつも無茶な使い方をして「JBL メヌエット」には申し訳ないと思っています。

 しばらく聞いてたら落ち着いて(慣れた?)きました。若干の薄味は可変ラウドネスで補って。聴感とは曖昧なもの(私の場合)。

 シリアルNo2000番台の「Model 8」です

 なぜかEL34が1本無い。。どうしたことか。

 

 
 
 バイアス用C電源の整流回路のセレンはお約束のダイオードが入っていますがダイオードの接続の仕方がちょっと異なる。今までと違う方のメンテなのかもしれない。バイアス平滑用のコンデンサと内部の倍電圧平滑用のコンデンサーは液漏れなのかきちゃない。ところでなぜ倍電圧整流にしたのだろうか?半波整流がすっきっ!?(永野風)なのか。。

 今夜(8/12)は「ペルセウス座流星」のいっぱい見られる日らしい。45年位前の中学時代の夏休み、近くの山の上で友人たちとよく観測していた。「天体観測」という親を説得しやすい名前の夜遊びだった、、ような気がしてあの高揚感が懐かしい。ペルセウス座流星群観測で「火球」を見ました。一瞬空が明るくなって火の球のような流星が山の上を稜線と平行に流れていった。蛇行した軌跡が残っていて全身に戦慄が走った。あの光景は半世紀近くたっても結構鮮明に覚えています。

 「Model 8」のデザインは一連のアンプの中では一番平凡だと思います。ステレオアンプということでこれを模したアンプも沢山見ます。トランスカバーのおかげで貧弱で絵にならないトランスを隠してそれらしく立派に見せるといったアンプが多いような。。
 これは内部にあるチョークトランスを留めているネジ

 もはや皿ネジではなく外に飛び出しているし中はスピードナット。外観に対するこだわりはあまり感じられない。日本に紹介された時もMcIntoshのアンプと比較しても見劣りがしたのではないかと思ってしまいます。(ぢゃお前がデザインしてみろ!などとは言わないで、、)

 メーターは「Model 5」と共通。切り替えツマミはこの個体はちょっと変わっていて他では見られない。ひょっとすると取り替えられたのかもしれない。

 各出力管毎にプレート電流を直読しながらバイアス調整できる。4ヶ所の調整ボリュームは各々出力管に寄り添っていて分かりやすい。
 ACバランスは「Model 5」もそうだが調整ボリュームは内蔵されているが裏ブタを開けないと調整できない。ユーザーには触らせない。「Model 2」と「Model 9」は外から調整できるのでどういった判断があったのかは興味があるところ。しかしACバランスの調整はホントは難しい、、と思ってます。測定器(歪率計)が必要だしどういう調整を行うかでアンプの性格も異なる。

 「Model 5」と取り替えて試聴。1本足りなかったEL34はテキトウなでも細管を挿して各々のバイアス調整。ペア管でなくても大丈夫。コンデンサー類は外観に反して問題はなさそう。

 越路吹雪姉さんを聴いてみる。ちょっと高音が細身のような気がするがやはり「Model 5」と大きな違いは無い。GZ34も随分と高価になったみたいなのでダイオード整流でもいいのかも。近代アンプになるほど使用する真空管による音質の差が無くなるような気がしています。

 お読みいただきありがとうございました。

 


Marantz Model 5 について

2016-08-08 11:53:33 | Marantz

 かつてMarantz社で数々のtube ampを開発、設計したシドニー・スミスが一番気に入っていると言っていたアンプ。ゴールドグリル付きで $154.50


 発表は1858年でステレオLPレコードが登場し、各社それに対応する製品の発表が目白押しの年。Marantz社も「Model 5」以外でも「Model 6」、そしていよいよ「Model 7」の発表と活気に満ちていた。ゴールドグリルは$7.50で別売りになった。
 




 
 「Model 2」から2年後の発表で基本的な回路構成は一緒。一番異なるのは外観。コンパクトに凝縮されグリルをかぶせると縦長の「箱」になる。機能面で特徴的なのは出力管のバイアス電圧を別々に調整できること、出力トランスにNFB巻線が付いて、ウルトラリニア接続固定だが回路図ではスクリーングリッドと出力トランス間に△印がありここにプレートを接続すると3結になるという説明あり(という事はUL端子が両端になるということ)、ダンピングファクターも一見固定(20)だが下げるには回路図に示したところに抵抗器を入れよと回路図に書いてあるけど、、多分だれもやらないだろうな。。「Model 2」で多機能デビューしたメインアンプだったがあまり使われない機能は中途半端にしかし未練たっぷりに残されている。

 使用真空管で「Model 2」と異なるのは初段と整流管。整流管はダンパー管2本から新型高性能管GZ34に変更された。GZ34は1950年頃オランダのphilipsが開発し、米国EIAに1955年頃登録して5AR4となった、、という記述がありました。「Model 2」にはなぜ使われなかったかは不明ですが「最新技術が大好きだった、しかし若造だったシドニー・スミスとソウル・B・マランツの対立があってシドニー・スミスが折れた。その後「Model 5」でリベンジした。」とは下衆(ゲス)の妄想。ダンパー管の音の評価はどなたかされているのだろうか?

 シリアルNo1000番台のもの。シャーシ色が鶯色。「Model 7C」もこの色を見ることがある。その他は見たことがありません。トランスカバーと色違い、、なにか意味があったのか?「Model 7C」の鶯色シャーシはとても珍重されてる。


 「Model 2」と異なりシャーシは1つでカバーのかかったトランス部とアンプ部に分かれている。アンプ部は狭い面積に凝縮されているがひっくり返してメッシュの底板をはずすと


 密集度がかなり異なる。後ろはスカスカ。対して前方のつめこみはすごい。

 特徴的な端子板をシャーシの側板に固定して配線。多分にアマチュア的だと思うが異なるのは留めてるネジが皿ネジでシャーシから突出させていないこと。やはりデザインのこだわりは半端ではない。

 メーターは独特。針の形状がステキです。文字盤も必要最低限。0すらない。


 ほとんど手が入っていないと思われたが鬼門のセレンにダイオードがパラに。

 ダイオードは両chとも入っていました。シリアルNoが近いので構成はほとんど変わりません。カップリングコンデンサーは茶色のグッド・オール。バンブルビーも多用されています。配線、ハンダ付けの技術はとても高いレベル。リークも認めず。
 
 「Model 2」と入れ替えて聴き比べてみます。CDはEMT 981 プリは「Model 1」 EL34のバイアスを合わせるがケチな性格なのでいつも控えめデス。

 SNは良好。一聴、、違う。3結の「Model 2」に比べてこちらの方が現代的。くっきりはっきりすっきりした整理された音。決して無機的ではない。混じり気のない純粋な感じ。。強いて言えばjBL SE400Sに近いか。雑誌の試聴などでは酷評されてたのがウソのよう。やはり骨董オーディオの試聴評価は難しい。


 しばらく聴いていたらますます快調。切れ込みもいいが適度な粘りがある。芯があって真綿で包んだ心地よさ、、とベタ褒めになった。恐れ入りました。

 お読みいただきありがとうございました。