Decca Decolaがお嫁入り

やっとこさ入手したDecca Decolaの整備記録

Western Electric WE756A について

2023-12-07 12:41:07 | Western Electric

 WE755A,WE756A,WE728Bは第二次世界大戦前後に発売されたWestern Electric社(以下WE社)の最後期のスピーカー群。時代は既に励磁型からパーマネント型に移行していてまたWE社は1930年台半ばには劇場用音響システムから撤退しておりこれらのスピーカーは放送局、列車、病院や公共施設の設置を主な目的にしていた。3機種は兄弟機で口径が8inch,10inch,12inch、耐入力が8W,20W,30W、周波数帯域は70〜13,000Hz,65〜10,000Hz,60〜10,000Hzと非常にわかりやすいラインアップだった。

   

 ただし生産数はかなり差があったらしくWE755Aは夥しい数が生産されたと思われよく目にするがWE756Aは見ることは少ない。WE728Bは2wayシステムのウーファーとして採用されたこともある。上記は1948年7月、8月のGraybaRカタログだが必要とするパワーに応じて選択すべしみたいな内容かと思う。近似の型番でWE754A/Bという12inchのユニットがある。WE728Bと同口径だがAは耐入力15W、Bはフェノール樹脂コーンで50Wとなっている。Aは戦後WEが映画産業に再進出した際に(知らなかった)使われたウーファーユニットでBは軍用らしい。こちらも写真ではたまに見る事がある。WE755A,756A,728Bはその後ALTECに引き継がれてALTEC755シリーズは改良されながら生産が続けられたがALTEC756A,728Bは後継機は無かったように思います(これは間違っているとの指摘がありました)。

 WE756Aは口径が10inch(約25cm)のユニットだがボイスコイルの直径が4inch(約10cm)と728B,754A/Bらと同じで口径に対して非常に大きい(口径8inchのWE755Aのボイスコイルは2inch)。WE756Aのエンクロージャーの容量は2 1/2 cubic feet 必要で指定箱の寸法も記載がある。上記のパンフレットでは壁面設置時の推奨図も載っている。やはりパーマネントマグネットの薄いボディを生かして設置の自由度が高い。もっともALTEC 755Cからはフェライトマグネットになってさらにぺっちゃんこで「パンケーキ」という愛称がぴったりする。「ダイレクトラジエータ」という表現があるがこれはユニットの前面にホーンなどがなく直接空間に音を放出するユニットという意味らしい。またこの中には出てこないがエンクロージャーの板厚は18mm以上で密閉箱に限るなど指定箱の縦横比は厳密でなくてよいといいながら結構細かい。

 幸運にもWE756Aを1本だけ入手できたのでとりあえず裸の状態で聴いてみると、、

、、やはり只者では無い気がする。。当たり前に低域は出ないし高域も足りない。でも床に水平に置いてカーペンターズを聴くとカレンが立ち上がって歌っている。。

 収めるエンクロージャーをどうするか。指定箱の寸法があるので作っても良いが縦575mm 幅435mm  上奥行223mm 下奥行300mm(mmに換算)とかなり大きく邪魔になりそう(!)。そこでALTECの斜めバッフル銀箱(ALTEC 618)に何とか取り付けることにします。ALTEC 618は同寸のBとCがありCが口径8inch Bが12inch用で10inch用はない(と思うが)。10inch用のバッフルを作って618Bに取り付けます。あらためて銀箱の寸法測ってみたらWE指定箱と(多分)同寸だった。

 早速ホームセンターで300X450X12mmの合板買ってきて穴あけ

   

スピーカーの固定は爪付きナットを使ったがこの位置では618Bのバッフルと干渉しない。ただし2枚のバッフルの間には金属製のネットが挟まれるので密着はできない。それでもなるべくしっかり固定した。

 

 今回使用したALTEC 618Bは海外から入手した時はバラバラでは無かったがかなり傷んでいたものを修復したもの。国内でもよくレプリカを見るが適度な大きさで使い勝手がいいんだと思う。板厚はバッフルが18mm、その他が10mmととても薄くて軽く移動が楽。補強も最低限にしか入っていない。

      

サランネットは細かい金属メッシュに毛羽だった綿が吹き付けられている(?)ものでこの箱をコピーする上で一番の悩みどころだと思う。組み立てには小釘も使われている。持ち手(多分そうだと思うが)の穴が空いていてアコースティックサスペンションを期待する密閉箱では無い。612,614銀箱は604スピーカーを収めたスタジオモニターだったと思うが618はどういった用途に使われたのだろうか。

 吸音材も入れていないがこれで聴いてみると

 

 低域の量感が勝るので畳から少し持ち上げたりして様子を見るがやはり吸音材は入れた方が良いと思う。攻守交代してWE755Aと聴き比べてみる。

 ◯球王国の最新号を見ていたらALTEC の古い8inchスピーカーの聴き比べの記事が目に入った。ユニットをALTEC 618Cレプリカ箱に取り付けて試聴しその場で関東の某有名WE専門店のD氏がチューニングをするというものでチューニングの内容も紹介されていた。内部に入れる吸音材の種類や固定する位置で調節するというもので長年にわたる匠のチューニング術が披露されていた。吸音材を全ての面に貼り付けるわけではなく全く使用しないという選択もあるとのことで参考にさせていただきます。

 WE756A+ALTEC 618Bの周波数特性

 700Hzあたりが大幅に凹んでいて何故だろう?ピストンモーションから分割振動への移行がうまくいっていないのだろうか。高域は25cmフルレンジユニットにしては思ったよりも出ていた。やっぱり定格通り65〜10,000Hzといったところか。


Western Electric ミラフォニックサウンドシステム M-5 について

2022-02-15 09:56:32 | Western Electric

 1930年代当初のWestern Electric社のシネマサウンドシステムはWE555による黎明期のフルレンジ再生を経て1933年にはダイナミックスピーカーのウーハー+WE555とカールホーン(木製から金属製に)+ホーンツィーターという3wayのワイドレンジサウンドシステムという構成になっていた。このシステムは非常に多く生産されたが音源によっては3wayの各々の出音が一致せず二重に聞こえるという欠陥があったとされる。がなぜかWEは新たなシステム開発に消極的で当時最大の映画会社MGMはこれらの欠点を改善したシャーラーホーンシステムを自社開発しその後WEもようやくシステムの刷新を迫られる事になる。1937年までに開発された新システムは巨大なバッフル+大口径ウーハーと強力なコンプレッションドライバー+巨大なストレートホーンで(すべて大きいという形容詞が付いてるが)WE86出力をチャンネルデバイダーで分割しWE87ブースターアンプ数台で駆動するマルチチャンネルシステムだった。新型の2wayスピーカーシステム部はバイタフォンと名付けられた。これらは総称してミラフォニックサウンドシステムと呼ばれこれはWesten Electricのシアターサウンドシステムの2つ目の峰とされる。

 新たに開発されたユニットはJensen社からOEM供給されたWE4181など口径46cmのウーハーユニット、すでにフレッチャーシステムとして開発が終わっていたWE594Aで(フレッチャーシステムは優秀なシステムだったらしいが実際には稼働せず現物も残っていない)、1927年に開発されたWE555は1937年のミラフォニックサウンドシステムに移行するまでの約10年間主力で使われたがその後も新システムのラインナップの一部に採用された。

 ミラフォニックサウンドシステムはワイドレンジサウンドシステムと同様に劇場の規模によって6段階のランク分けがされた。その中でも興味深いのは小規模シアター用のM-4とM-5でこれらにはすでに旧型になっていたWE555がM-4は2基、M-5は1基使われていてWE555用の25A(WE555が1基、25Bは2基)ストレートホーンが開発された。またWE594A用に開発された数台のホーンの中の一台24Bにも19Cアタッチメントを用いてWE555を1基取り付けることができた。WE555はカールホーンからストレートホーンになった事とネットワークの小改造で高域特性が改善されアルテック振動板に置換する事で耐入力が向上した。

 ミラフォニックサウンドシステムを発表して間も無くWestern Electric社はシアターサウンドシステムから撤退しその後のメンテナンスは後続他社に引き継がれその後のシアターシステムの開発はAltec Lansing社が行うようになる。

 ミラフォニックサウンドシステムでWE555を使用した組み合わせは前述のようにM-4型(2基)とM-5型(1基)だが比較的小型のシステムのM-4型でも800〜1500席の劇場用PAで低域用のTA7396ストレートホーンにTA4181-Aウーファーが2基搭載された。

 M-5型はWE555 1基を25A(+20A)もしくは24A(+19C)マルチセルラホーンと組み合わせて低域はTA4194-A 1基でTA7395ストレートホーンが使われた(TA7395は周囲が非対称の平面バッフルでやはり巨大な壁)。ネットワークはTA-7375Aにコンデンサーをシリーズに追加してWE555の高域特性を伸ばしたものが用いられた。フィールド電源はWE555の7VとTA4194-Aの10Vの2系統、使用されたアンプはWE91が1台(!)で客席数500人程度の小規模の劇場で使用された。

 

 TA4194A(TA4181Aのフィールド電圧違い)ウーハーの口径と比較するとバッフルの縦横は2m以上ありその上にWE555を取り付けた25Aホーンが吊るされている。2基のユニットの振動板の前後的位置関係を揃えるという指示があった。バッフルTA7395はシンプルな形状なのでコピーされたされた方も居られると思いますが大きな壁を家庭で使い続けるのはなかなか大変かもしれない。バイタフォンとして最小構成でもこの大きさなので再現するのは小ホール程度の面積が必要か。

 口径が46cmのTA4181A(TA4194)の製造元のJENSEN社には同じ口径の励磁型L18があるがM20を拡大したような形状であくまでも民生用という位置付けかと思う。TA4181Aの低電圧大電流の励磁電源は外部から供給されていてTA4151とは全く形状が異なっている。L18はかつて入手したことがあるが見合った箱、バッフルを製作できないうちに手放した。

 大口径ウーハーにはロマンを感じるが実際に取り組むのはなかなか大変そうで将来の課題としてここではTA7331+Capehartに再度登場してもらいWE555+WE25A(+20A)と組み合わせたバイタフォン2wayを再現してみたい。ネットワークはおなじくフォトフォンMIを流用する予定。

 

 WE25A+20A

     

 WE25Aは旧型になったWE555を再活用するために新たに開発された専用ホーンで20Aスロートで接続される。15セルあるがスクリーンに密着させる目的で前面が平面(フラットフェイス)になっている関係でホーン長が異なっている。カットオフは114Hz。

 スロートの接続ネジが無かったので適当なボルトナットで繋ぎ、WE22Aと入れ替えた。WE555は今までと同じALTEC振動板、WE597Aは取り外して2wayに、WE22、WE86、MIネットワークはそのままで、振動板の位置は前後的に合わせなくてはならないのだがとりあえず載せて試聴。

 

 輪郭がはっきりしたゴツゴツした音だが高域不足は感じない。WE22Aは漂うような出音だったが後ろから押し出したような音でこちらの方がシアター的のような気はする。しばらく聴いてみます。  

 周波数特性を測定すると8kHzから急激に下がるが低いレベルで13kHzくらいまでは出力している。しばらくして修理から帰ってきた斜め引出し振動板WE555に交換すると一聴して高域が伸びているように感じる。特性を測るとやはり8kHz付近で一旦凹むがそれから高域はALTEC振動板よりも高く聴感を裏付ける。ALTEC振動板は押し出しの強い音だと思うが斜め引出し振動板は漂うような高域が少し戻ってきた感じで家庭で聞くにはこちらの方が好ましいかもしれない。

 

 

 

お読みいただきありがとうございました。

 

 押し出しの強い音にも少し慣れてきた。セリフを明瞭に届けるにはこれくらいの勢いが必要だったのかもしれない。不快に感じるぎりぎりでWE555のアッテネート量を調節しているのだが絞ると今度は高域が欲しくなる。


WE 1936 Series No,6 と WE1086A と WE22

2021-10-20 12:42:09 | Western Electric

 1936年のWE 1936 Series No,6のアンプはWE91が用いられた。劇場用アンプはかつてWE41,42,43と大がかりな機材が必要だった時代から同程度の出力が直熱3極管1本という究極の省出力管アンプになったわけで技術開発のスピードには眼を見張る。自作のレプリカWE91は非常に気に入っていて未だにWE 1936 Series No,6レプリカ改造3wayとの組み合わせで楽しんでいる。以前の投稿でWE1086Aの整備について書いたがその後はあまり出番がなかった。今回久しぶりの整備を兼ねて接続してみた。

 

 通電してしばらくがさがさ言っていたがやがて落ち着いた。まずWE91に比べてハムが少ない(やはりWE91は対策が必要かもしれない)、内部の接続を最低ゲインにしている関係で入力トランスの2次から入力しているWE91よりもゲインが低い、高域がよく聞こえてちょっとツィーターのレベル調節をした方が良いかもしれない、などと感じたがしばらくこのままで聴いてみます。

 ずっとプリアンプなしでパッシブアッテネータのみ接続していたがアッテネート量が少なくなったのでプリアンプを挿入することにした。Western electric WE22は4chのコンパクトな可搬マイクミキサーで「Langevin」と書いてある2個のアタッシュケースに入っていた。EMT981出力をWE22で受けてモノラルミックスしWE1086Aに接続したがゲインが高すぎてほとんどボリュームを上げることができない。誤って最初は大きな音で家族に迷惑をかけたが自分としても「突然吠えたシアターサウンドシステム」状態で驚いたと同時にちょっと感心した。。仕方ないのでWE1086Aの前にRCA MI-9701-B faderを入れた。

 

 WE22の電源は自作のまま。ソースをiPhoneにしてショパンコンクールのファイナルを聴いてみる。2位の反田さん、4位の小林さんおめでとうございます。1位のカナダのブルースさんもさすがでした。youtubeで配信された事や有名youtuberのかてぃんさんが出場されていたことなどで一気に身近に感じられた。今まで演奏家は「コンクール上位入賞」が演奏活動を続けられる唯一最大の条件だったと思うがnet配信のおかげで演奏者と聴衆の接点が広がったように思う。のだめの演奏がnet配信され一夜にして世界的に有名になったのも同じショパンの協奏曲#1だった事を思い出す。

 

 その後CDプレーヤー出力にアッテネータを入れてWE22でモノミックス後に再度別のモノラルアッテネータ経由でWE1086に接続、CD再生してみた。

  

 先日カーペンターズのベストアルバムを購入した。カーペンターズは主に1970年代に活躍したアメリカの兄妹デュオで数々のヒットがあり現在でも人気が高い。しかし当時は他のアーティストと比べて一段低く見られていたように思う。当時の高校生にとっては「カーペンターズを聴いている」というのはちょっと恥ずかしいような感覚で周りも「ああ、あの歌謡曲ね」みたいな反応だった。1983年にカレン・カーペンターが拒食症による心臓発作で早逝しそれから40年近く経つのだが日本では1995年のテレビドラマの主題歌によるリバイバルヒットがありCDの売り上げもコンスタントに続いているらしい。このアルバムは2009年発売で曲目は日本でのnet投票で選ばれた40曲2枚組でSHM-CDとある。悪名高いCCCDみたいなものかと思ったがそうではなく普通のCD規格で透明度の高い材質を使った高音質版ということらしい。家にはもう1セットカーペンターズの別のベストアルバムがあって早速聴き比べてみると結構差が感じられた。通常のCDとSHM-CDの違いなのか別の要因なのかは分からないが明らかにSHM-CD版の方が生々しい。カレンの歌唱はもちろんのこと兄リチャードの緻密な編曲やコーラスワークも古さを感じさせない。萩原健太氏が40曲全てに暖かく丁寧な解説を書いている。


ALTECとWE 755シリーズ について(2)

2021-07-03 21:26:55 | Western Electric

 前回ALTECとWestern Electric 755 シリーズ(1)を投稿してから5年近く経過した。755シリーズの始祖はWE 755Aで最末裔のALTEC 755EまでKS,ALTEC A,B,C,Eと存在している(なぜかDは欠番)。WE〜ALTEC 755BまでがアルニコでC,Eがフェライト、またB,C,Eはフリーエッジ、その他はフィックスドエッジでセンターキャップが一体のコーン紙の形状や質感も微妙に異なっている。また同名称の製品でも生産時期で細部が異なっている場合がある。

 シリーズを通じて評価は高く製造が終了してかなりの年数が経過しているが人気は衰えていないように思える。ユニット単体以外でもALTEC、AR製品でスピーカーボックスに組み込んで販売していたモデルがあった。前回はKSとALTEC 755Cが未聴だったが幸運にも今回はじめて自宅で試聴することができた。

 

1  KS 14703

  インピーダンス4Ω 70〜13kHz 最大入力8W

   

 WE製品だが製造はALTEC社で社外品という型式のKSが付いている。製造は1950年頃かららしくWE755Aより数年後で丁度LPレコードが発表された時期になる。インピーダンスはWE 755Aと同じ4Ωで両者の音色の違いについては様々な記述があるが周波数特性を広げてソースに対応させたというのが一般的な解説のよう。WE 755Aはもともと列車に設置されたスピーカーらしいが1948年10月当時のCMペーパーを見ると「ラジオ局、有線放送、一般家庭のラジオやレコード再生で他社製品よりすぐれている」とあり口径の異なるシリーズ3機種(755A:8 3/8"、756A:10 1/4"、728A:12 11/32")のうちのいちばん小さいものだった。KS 14703はWE製品だが1954年にはALTEC 755Aが発表されWEからALTECへの移行が完了しているのでKS 14703は最後のWEのスピーカーだったか?(自信無し)。ところでALTEC755Aのカタログにはインピーダンス8Ωとあるが実測DCRからこれは4Ωのまちがいもしくは途中で仕様変更があったと思われる。

 入手以來ALTEC 618Cという前面バッフルが傾斜している銀箱に入れている。

  

 この箱の板厚はバッフルが15mm、その他は9mmという極薄で軽い。また密閉箱ではなく後面には持ち運ぶために指を入れる(多分そうだと思うが)穴が空いている。大した補強もなく当然箱鳴りがする。しかしユニット口径が20cmということもあってそれほどパワーは入らず(WE 755A、KS 14703の最大入力は8W)箱鳴りするほど大音量の再生をしなければが問題が出にくい。それよりも小口径を補う低域の増強に重きを置いているのだと思っている。同じ形状の618Bという口径が30cm用の箱があるのだがさすがにちょっと役不足かもしれないと感じて内部に桟をいれて使っていたことがある。

 WE 755Aが入っているレプリカランドセル箱と比較しながら聴いてみた。アンプはWE 91Bレプリカ、ソースはCDでEMT 918のステレオ再生

   

 久しぶりのステレオ再生は残響がスピーカーの外から聞こえたりして慣れるまでちょっと違和感があった。箱が異なるユニットの比較は正直なところかなり様相が異なっていてあたりまえに難しい。全体のバランスは銀箱の方が好ましいがこれは今まで大型のシステムを長く聴いていたことが大きいと思う。ランドセルは前に飛び出すような音だがちょっとうるさい感じもある。しばらく聴いてみましょう。

 

  

Bon Appetitti!  竹内まりや (2001年)

 竹内まりや9年ぶり9枚目のオリジナルアルバム。ほとんどがタイアップ曲で聞き慣れたものだがこのCDを最後に聴いたのは多分15年以上前。近年SNS時代になって同氏の楽曲は世界的に評価され注目を集めるようになった。曲や編曲演奏が良いのはもちろんだがAメロ、Bメロがあって展開部があって、、というオーソドックスな構成はかつての歌謡曲みたいでおじさん世代にも安心感があり若者が注目している、、と聞けば昔からのファンはちょっといい気分になる。インフルエンサーの感覚にマッチすれば有名無名、新旧関係なく拾われ拡散する時代になった。サブスクが一般的になって今までなら思いもしなかったジャンルの楽曲に触れる機会も多くなった。

 

 途中WE 755Aランドセルを懐かしの「逆オルソン方式」にしてみた。

 故江川三郎氏の提唱していたスピーカーの設置方法で「左右を近づけて外側に向ける」というもの。数十年前に自作のボックス+ダイヤトーン六半で聞いていた時にこの方式にしていてそれ以來かもしれない。ちょっと不自然な感じがしたがビジュアルも手伝って慣れてないだけかもしれない。音場は確かに変化したがユニットの素性の判定にはならないと早々に元に戻したがセパレーションが悪かったアナログソースにマッチしていたのかも、、などと考えた。

 しばらく聴いてWE 755Aの素晴らしさが目立ってしまった。手塚治虫や鳥山明のような線の美しい漫画やモノクロブロマイドの美人を見た時のような感覚。情報量が多いのに音に品があって可愛らしくまとまる。レプリカランドセルは小型の改造密閉箱で重低音は最初から諦めている(?)のだが618C銀箱に入れる時には細かなチューニングを行わないと不満が残ると思われた。膨らませた低音はいらない。

 KS 14703+618C銀箱は拙宅の標準機だったがもう少し手を入れる必要性を感じた。やっぱりユニットの比較は同一条件もしくは最適チューニング後でないと難しい。

 「季刊ステレオサウンド別冊 魅力のフルレンジスピーカーその選び方使い方」(1979年3月31日刊)

 

 42年前の刊行、内外37機種のフルレンジユニット(すべて当時の現行機)を特注した2.1m x 2.1mの平面バッフル2枚に取り付け、岡俊雄、瀬川冬樹、菅野沖彦ら三氏が試聴し(すべて実測データ付き)意見をかわすという内容。また若者50人が詰め掛けた瀬川氏司会の公開試聴会の様子も掲載されていた。2,500円のダイヤトーンP-610Bから100,000円のTANNOY PHD385Aまで同一条件で鳴らしていて当時持っていたP-610B(これしか買えなかった)の健闘ぶりに嬉しくなった。ALTEC 755Eは21,000円、JBL LE8Tは30,000円でこのあたりの入手を夢見ていたが手が届かず中古LE8Tの詐欺にあったことは以前書いた。JBLの人気が高かったのは高性能はもちろんだがその美しさが大きな要素で実際に聴き比べできる環境もなく雑誌の論評を読んで妄想を膨らませていた。当時この記事の影響で平面バッフルを作った人は多かったのではないかと思わせるほど熱気のある内容だった。ユニットの能力がほぼ100%発揮されたというこのバッフルの行く末は不明だが今となっては古(いにしえ)のユニットの試聴もしてみたいものだと思います。

 

2  ALTEC 755C

 鮮やかなグリーンハンマートーンの塗装はこの時期のALTEC製品に共通していて「アルテックグリーン」などと呼ばれる。フェライト磁石になった関係で高さが低く(平たく)なって「パンケーキ」という愛称はこの製品からだと確信する。スピーカー端子はBまではハンダ付け、Eはワンタッチターミナルだったが(ネジ止めも一部あったらしい)その中間なのかネジ止め。ボイスコイルへの連絡線はBと同様に細くこれはフリーエッジになった関係かもしれない。Bと異なるのはエッジ部全周に渡ってビスコロイドが厚く塗布されている事でこれはサウンドに大きな影響を与えそう。しかしビスコロイドを塗布していないものも見たことはあるのでいろいろな仕様を受けていたのかもしれない。フリーエッジ(コーン紙にエッジが接着されている)は薄い布製だが755C前期は755Bと同じ茶色で後期になると755Eのような黒となるらしい(未確認)。

インピーダンス8Ω 40〜15kHz 95.5dB/w/1.2m 最大入力15W f52Hz(シリーズ中最低)

  

 618C銀箱に1個だけ組込んで左はKS14604、右はALTEC 755Cにして比較試聴した。能率がかなり異なるのはインピーダンスが4Ωと8Ωで異なっているから。KS 14703と比べて平面的で抑揚が少ない、全体に薄いベールがかかっているような曇天、高域の伸びが足りない、低域の弾み方や質感など、聴き比べるとかなり異なっている。個体差もあるだろうしチューニングもしていないのでこれが製品の特徴と言いきれないが今のところ世間の評判の序列を乱すことはなかった。

 618C銀箱の左右ともALTEC 755Cにして試聴するとやはり左右ユニットの個体差が少しある様子だが年代物の製品なのでこれは致し方ない。アンプや接続を変えてなるべく目立たないようにして試聴を繰り返す。

  オーボエとヴァイオリンのための協奏曲 第三楽章 J.S.BACH

 

 iPhone 7手持ちで撮影。この曲は以前所属していた室内オーケストラの最初の定期演奏会の曲で本当に懐かしい。緊張でガチガチになっていた思い出が。

 オリジナルの楽譜は消失したらしいが自身の編曲した2台のチェンバロ版から復元された。

 

 同じ演奏をWE 755A+ランドセル型密閉箱で再生

 

 ALTEC 755CとWE 755Aを聞き比べてみるとALTEC 755Cは箱のチューニングが不足しているためかオーボエが不自然だったりオーケストラが沈んだりしているがよく雰囲気は出ているように思う。WE 755Aはエア録音ではちょっとうるさいと聞こえるかもしれないが音が外に溢れ出すように鳴っている。パワーが入るとこの傾向はより顕著になって聴き手を圧倒して身構えてしまうくらい。ALTEC 755Cの健闘ぶりが目立ちます。


WE 1936 Series No,6 について (9)WE91Aについて

2021-06-07 13:07:40 | Western Electric

 高能率のスピーカーではアンプの残留ノイズがよく聞こえて時に気になることがある。「ハムは音楽が鳴っている時は気にならない」とはよく言われるが演奏が終了して静寂が訪れる段になって「ブーン」はいただけない。当時のアンプは低電圧の整流が大変でヒーターまで手が回らなかったわけだが(ホントか?)WE音響設備の映画館でもこの「ブーン」は聞こえていたと思うが問題にならなかったのだろうか?ハムは無い方がいいに決まっているがOMさんは「ちょっとくらいハムがあってもやはり交流点火でなければダメ」という意見が多い気がする。

 ヒーター電圧が高くなるほど交流点火によるハムは発生しやすい(理由は知らない)。2A3など2.5V管などは直流点火しなくてもあまりハムに悩まされることはないが直熱真空管でヒーター電圧が高いものは経験上直流点火でないと実用にならない。300Bは5V点火で新しい設計のアンプはほぼ直流点火のように思うが以前製作した「管球王国 Vol.3(1996年)」KS先生設計の300Bシングルアンプは交流点火だった。かなり個性的なアンプで私のような凡人には理解できない回路だったがデザインの美しさに惹かれて気になっていた。丁度WE300Bが復刻された時期で完実電気が扱っていた(1997年2月頃)世の中が300Bで盛り上がっていて思い切って購入した本家の300Bをどう生かすかで選択したキットだった。幸い先生は隣街にお住まいで実際に作業を指導していただきながら組み立てて無事に音が出た。

  

 表面にはネジはほとんど見えず、底板は正面から見たときに段差が見えないように本体に沈ませているシャーシ、特注メーターの文字盤のミラーはデザインのため、ハムバランサーのキャップは無垢からの削り出しと回路構成のみならず拘りのアンプで先生渾身の作品。私も心して製作にあたったが集中して早く作りすぎて「もっと時間をかけて丁寧に作りなさい!」と指導を受けた事が懐かしい。

 当時のプリアンプはmarantz 7K、スピーカーはオートグラフのレプリカだったと思うが肝心の音は不思議なことにあまり記憶がない。しばらく聞いていたがそのうち交代して以来一度も火を入れる事は無くなっていた。残留ノイズについてもどうだったのか気になるし四半世紀ぶりに稼働してみることにした。

 結線して通電すると思いっきり大きな「ブーン音」がでて慌ててスイッチを切った。どうも最大出力で発振していたらしくもう一台も同じ症状だった。やはり長いこと冬眠していたキカイはすんなりとはいかないのか。。それにしても何が原因だろう?こんな時は終段の電流計があるのでWE300Bの様子がわかって気が楽だ。カップリングコンデンサーの漏洩はない様子。

 いろいろと原因を思案したがふと思い立って目についたダイヤトーンのモニタースピーカーに繋ぎ替えると

 特に問題なく音が出た。このアンプは前段の12AU7はカスコード増幅という(滝みたいな回路図だからか?)SRPP(Shunt Regulated Push Pull)に似た回路を採用している。オーディオアンプの採用例は少ないらしく原理はよく理解できないのでそのまま完コピしているのだが高域の増幅特性が良好なためか出力トランスと300Bのプレートの結線にシールド線を用いたり(この線も自作する必要がある)出力トランスの2次側に補正回路が入っていたりと製作するにはなかなか手間がかかる。NFBは300Bから2段目の5693のカソードに6dB、出力トランスの2次側から初段の12AU7のカソードに9dBで合計15dBでWE91Bと比べれば少ないが一般的な直熱3極管アンプとしては多い。スピーカー出力は8Ωと4Ωで(これもトランスの16Ω出力は8Ω、8Ω出力が4Ωとなっている)どうも4Ω端子に接続して発振させたらしい。あらためて8Ω端子に繋ぎ直すと発振は治っていた。こういった経験は初めてでかなりクリチカルなアンプのようだ。

 残留ハムを測定すると2.8mVで記事では1mVだったとの事なのでここは私の製作技術が悪いのだと思う。ハムバランサーは結構効いているし負帰還をかけてしっかり作れば1mVということで交流点火でもハムは通常使用には問題ないということになる。対するWE91Aレプリカは5.8mV。信号入力は現在は入力トランスの2次側に入れている。かなりのハイゲインアンプなのでこうしないととても使いづらい。この状態でも2台のアンプの感度差はかなりあってそれも影響しているかもしれない。

 しばらく聞き比べたがやはりWE91Aレプリカで試聴を続ける事にした。管球王国300Bシングルアンプは非常に上質な音がすると思うが出番は他にあると思う。

 WE91Aレプリカで久しぶりにCDを聞き続けていた。昨深夜に少し小さめな音で聴いていたら突然音が途切れた。少しうとうとしていたのだがあれっと目が覚めたらなんとアンプから白煙が立っている!結構な量で異臭もたちこめていた。2階で寝ていたカミさんもわかったほどの匂いで発火寸前だったようだ。発煙は電源トランスからで調べると高圧巻き線がレアショートしていた。そしてもう一つ重大な事もわかった。このアンプにはヒューズがない!もともとヒューズのないアンプだったので忘れていた。。古いアンプを稼働させている時は安全のために側を離れてはならないとKS先生は言われていた。古いアンプのみならず未熟な自作アンプにも当てはまるとは!肝に命じます。

 電源トランス359Aはレプリカシャーシを供給していた台湾のメーカーから現在でもレプリカトランスが入手できる。二個一組の出費は痛いが火事にならなかった事、現在でも同品が入手できる事に感謝して注文した。もちろんヒューズホルダーも手配した。

 

 注文してから到着予定日より随分早く1週間で届いた。ただし2個一組のはずだが荷物には1個しか入ってない!慌てて問い合わせると2個口とのことでもう1個は翌日到着した。

早速チェックすると、、何と!

向かって右が今回届いたものだが端子の位置が変更になって左右の位置が入れ替わっている。まいったな。。下の写真は配線を外す前のもの

            

 ボルトオンで載せ替えと思っていたのだが、、ただしWEの配線を真似てかなり余裕を持たせていたのでレーシングを一部やり変えてなんとか修正、結線し復帰した。

 改めてメンテナンスを考慮した配線の重要さを認識した。トランスのネジ端子は交換が楽でありがたい。

 ワイヤーハーネスは筐体に次いでオリジナルとしての大事な要素だと思っている。レプリカでの再現は困難で神はワイヤーハーネスに宿る。(異論は受けま、、)