Decca Decolaがお嫁入り

やっとこさ入手したDecca Decolaの整備記録

REVOX A77 について

2023-02-28 23:07:35 | オープンデッキ

 Revox A77は4トラ19cm/s 9.5cm/S の名称らしい。(前回メンテナンスした2トラ38cm/s 19cm/s 機はHS-77もしくはA77HSみたいです)  

  

    引用:オーディオの足跡 より

 Revox A77は発売されてからほぼ半世紀が経過している製品だが酷使されてぼろぼろといったのが少ないのは(と思うけど)高価だったので大切に使われたのと業務機と違いさほど使用頻度が高くなかったからかもしれない。当時テープ代も高かったので借りたLPレコードを録音してライブラリにしていた人は少なかったと思う。マニアの憧れは「10号2トラ38」(10号リール、片道のステレオ2トラック、テープ速度が38cm/s)だったがテープの消費が多すぎて生録(マイクを立ててライブ録音)以外にはあまり出番はなかったというのが実際ではなかっただろうか。ソースとしてのミュージックテープも市販されていたが多くは「4トラ19cm/sもしくは9.5cm/s」だった。当時音源はLP、テープのどっちが上等かなどという比較もあったがやがてカセットデッキがオーディオ機器に加わると扱いやすさから次第に興味の対象がそちらに移っていく。ミュージックテープ以外でもLPやカセットどうしのダビング、FM放送のエアチェックとして定着していきカセットデッキ、テープは驚くような発展、進化をした。日本はこの分野では世界を牽引したがさらにSONYのWalkmanの登場は音楽の新たな楽しみ方として全く革命的な出来事だった。音楽ジャンルの多様性も相まって家族みんなで聴く音楽から個々の世界へとなりその流れは媒体を変えながら現代まで続いている。余裕のある人は自分のオーディオルームを持ちそうでない人は耳に入れたイヤホンで自分だけの世界を造る。今日フロアスピーカーによるオーディオが廃れたのは圧倒的にそうでない人が増えたためだろうと思っている。当時オープンデッキとカセットデッキの両方を持っている人はまずオープンデッキでFMのエアチェックを高音質で行ってそこから気に入った曲をカセットにダビングするような使い方をしていた。ダブルラジカセも大流行したが若者には好きな音楽が聴ければカセットのダビングで多少音質が劣化しても平気だったしラジカセやWalkmanで聴く分にはさほど問題なかった。やがてオープンテープはシステムの性能を追求し続けた一部の孤高のマニアだけのものになりそして静かに引退していく。現在は先人が残してくれた遺産のおかげで楽しむ事ができています。

 アナログレコードの復権で新譜の録音から製品まですべてアナログで行うという試みがされている(AAA)。レコードプレスはブームの再来でフル稼働状態らしいしアメリカではすでにアナログレコードがCDの売り上げを上回っている。マルチトラックのオープンデッキやワンポイントステレオマイクでの1/4inchテープを使った記録方法は録音現場での選択肢の一つとして残されているところもある、という話を聞いた。

 前回は2トラ38cm/s,19cm/sのRevox A77HS MKⅢ のメンテナンスを行った。手元にもう一台A77がありこちらは4トラ19cm/s,9.5cm/s 。2台の外観はほとんど(全く)同じでキャプスタンの軸の太さとピンチローラーのアームに2と4のシールが貼られていて識別できる。軸の太さが異なるということはモーターの回転数は同じで回路的にはバイアス、EQ数値が異なっていると思う。こちらも未メンテで外観は大きな傷はないが全体にホコリが溜まっていて長い間稼働していなかったらしい。通電すると幸運にも一応動作するようだがこのままでは危険なので1台目の余勢を買ってメンテナンスしていきます。

  

 まず外観から。アクリルカバーを中性洗剤とスポンジでよく洗うと喫煙環境ではなかった様子だがかなり汚れている。次にウッドケースを外して電源キーのロックをドリルで揉んで外しておく。このキーを本体にはめ込まないと電源が入らず修理する時に本来どうしたかは不明だがカシメてあってこうしないと外れない、、苦労してはずして本体を見るとなんとキーによる電源遮断機能はきれいに無くなっていて(!)この作業は無駄になった。。あまりにも不便という声が殺到したか?ウッドケースはよく掃除してから傷や塗装の剥げがあればオイルステインでタッチアップしようと思っていたが良好でその必要もなさそう。

 本体の埃を時間をかけて掃除してまず粉々になっていたカウンターベルトを拾って交換します。

 そしてモーター基板2枚のRDEとRifaのコンデンサーを無条件で交換しますが前方からの2本のネジをはずすとリレー基板が少し後方に引き出す事ができる。この状態でキャプスタンモーターのRDE,Rifaコンデンサーも基板を取り外さずになんとか交換可能です。

  

 続いてマザーボードのRDEコンデンサーの交換とロータリースイッチ周りの掃除と接点グリスの塗布。RED製コンデンサーはボード上の2個以外でもカードの1個がショート状態で21Vの定電圧出力されているアンプ部とキャプスタンモーターの電圧が半分まで低下していて相変わらず危険な状態だった。スイッチを入れてしばらくすると徐々に絶縁抵抗値が下がるようで電圧が半分ほどになってもモーターは回っているが21Vから19Vに降圧されているplayback基板のヘッドアンプ部の電圧はかなり低下していた。

 寿命の尽きたコンデンサーを次々に交換していてここで問題が発生しました、というか発生させてしまった。アンプなどの電子回路は7枚のカードでこのマザーボードにコネクター接続されているが

  

 ボードにはボリュームと同軸にロータリースイッチがとりつけられている。スイッチの接点はプリント基板上の箔でロータリーのクリックのメカニズムは各々モジュールに収まっている。このモジュールは非常にデリケートでマザーボードにしっかり固定されていない状態で不用意に動かすと内部の機構がバラバラになる。もしそうなってしまったら一旦取り外して再度組み立ててから戻さないといけないがボードを大きく引き出さないと困難で接点のメンテナンス以外はボードとモジュールは切り離さないのが原則。マザーボードは前面からモジュールを留めている2本のネジ4か所で本体に取り付けられている。もしモジュールを取り出す場合にはその部位だけ共じめされているボリューム固定のネジをはずして必要に応じて取り外しの邪魔になっているコード類のハンダ付けを解いてボードを引き出す。無理してコードを引っ張ると接続部の箔が剥離してしまうので十分慎重に。(以上備忘録)

 ロータリーモジュールは180度回転しても固定されてしまい上下が分からなくなって混乱した。クリック数や回路によってモジュールの内部や接点数も異なる。最初に外す時に隙間からマーキングすべきでマニュアルにも一応図解されているが上下の区別はよく解らず組み立て後に再生時に出力しないことに悩まされた。結局原因はロータリースイッチではなくピンチローラーレバーでコントロールされる「S5」という小さなスイッチが組み立てミスから機能していなかったため。S5は再生と頭出し以外にはLINEアンプの入力をショートするスイッチでこれが判明するまで結構時間がかかってしまった。作業中にロータリースイッチのクリックが外れてしまいその度に天を仰いでしまうこと数回。そのたびに根気良く続けて結構な時間がかかってしまったがなんとか最初の状態に復帰した。

 

 以上で不良部品の交換が終わりようやく本体の調整ができるようになった。

 現在の問題は19cm/sの時は良いのだが9.5cm/s時に録音レベルが揃わないのとヒスノイズが大きいこと。電源スイッチを兼ねたダイヤルを左右に回して両者を切り替えるのだがその際にマザーボードの多連スライドスイッチを動かしている。調整の問題なのかトラブルなのかそれとも元々こんなものなのか。回路図を見ると多連スライドスイッチで録音時のバイアスを切り替えている。9.5cm/sに限ってのトラブル、AUX入力時のヘッドホンモニターは問題ないので入力アンプとLINE出力アンプには問題はなくやはりバイアス部が怪しい。録音ヘッドにかかるバイアス周波数と電圧は一覧表でマニュアルに記載されている。

 テープが高速で移動する時異音がする。原因はガイドローラーでHS-77もそうだったがやはりベアリングを交換することにします。外径19.0mm 内径6.0mm 幅6.0mm は汎用品でもいくつか手に入る。

 

amazonで入手したのは世界のNTN製 626ZZ で177円/個 送料込み。取り付けは元々ついていたシムを入れる。向かって右が西ドイツ製のオリジナルで指で回すとやはりカサカサ言う。早速交換すると異音は消えた。

 

 

 


REVOX A77HS について

2023-02-19 18:07:26 | オープンデッキ

 STUDERとREVOXについては以前REVOX E36REVOX A700の整備の時にすこし触れたが民生機ブランドのREVOXで一番名声が高かったオープンデッキは1967年から1977年までの11年という長期にわたって製造されたREVOX A77ではないかと思う。その間モデルチェンジが3回されてmark 1〜mark 4となるがデザインが異なっているために外観から識別することは容易。それ以前の36シリーズは真空管を用いていたがA77からはソリッドステートを採用し、モーターもサーボ付きのACタイプになり電源周波数に依存しなくなった。 1977年以降は新機種にバトンを渡すがこの時代がオープンデッキが一番輝いていた頃という事もありA77がREVOXの名声を不動なものにした。スイスメイドという魔法の言葉(ドイツで製造したのもあるが)と国産機にはないヨーロッパ的(?)なスマートなデザインは世界中の羨望を集めていた。特に日本での人気は高く高級オーディオの象徴的な製品だったが田舎の電気屋のオーディオコーナーにはもちろん置いてなくて雑誌でしか見る事ができない天上の存在だった。アナログレコードやカセットテープの復権が言われて久しいがオープンテープはどうなのだろう?私のように少年時代の憧憬が心の深いところにインプリントされている世代にとっては強い磁力を感じるのだが。

 

REVOX A77 mark3 2TR 38cm/sで外観は非常に良好 

   

 シリアルナンバーからドイツで製造されたらしい。早速通電するとキャプスタンが回らない。 早送り、巻き戻しはOK、カウンターは動かない。テープ検出ランプは消えている。メーターは動かず再生しているかは不明、といったところでいろいろと問題を抱えているらしい。破裂する危険があるRifaコンデンサーが使われているかもしれないので早々にスイッチを切る。全く未整備らしいので掃除を兼ねて中身を見てみましょう。

   

やっぱりカウンターのベルトは切れている。切れっ端を集めて長さを測定して近い長さのベルトと交換して動くようになった。ただカウンターはあとでもう少しメンテナンスしたい。

アンプ基板はカード状でコネクターに差し込まれている。これは底板で基板の抜け防止ロック機能も兼ねている。汚れはモーターのオイルミストが落ちて溜まったのか油性マジックリンで綺麗になった。

 

テープガイドの左側はベアリングで右側は回転しないガイドとなっている。分解途中にベアリングのシムが行方不明になって見つかるまで30分は捜した。

裏側だが

 

ここの空間はボードは無くソケットだけ。スピーカー駆動用のアンプ基板が2枚収まるのだがスピーカーを2個組み込んだ木製キャビネットと共にオプションらしい。

 

このひび割れているのがRifaのメタライズドコンデンサーで経年変化でほぼ100%この状態で電源ONでよくショートして弾け飛んでいた。同時に直列につながっている抵抗も焼けて発火することもあり非常に危険。モーター回路に入っているのでキャプスタンモーターが回らないのもこれが原因であってほしい。

 

 

割れているRefaの漏洩を調べると100V負荷で420kΩ、ショートほどではない。

 

手持ちの450V耐圧(Refaは150V)に交換したがやはりキャプスタンは回転しない。

 これはmark3までのキャプスタンの回転制御基板の回路図だがこの後のmark4は一部IC化された。トランスから直にブリッジダイオードに入ってからモーターに繋がっている。そして回転するモーターから検出したパルス数に応じてブリッジダイオードに繋がる制御Trで回転数をコントロールしているらしい。制御TrのECに割れたRifaコンデンサーが入っているのでひょっとするとTrが逝ったか?と思ったらトランスからの130Vは正常だが+22V(21V)が来ていないようだ。

 電源基板の回路図

 電源回路では24V巻線を安定化して21Vにしている。整流前のヒューズは630mAでこの電源でキャプスタン制御、入出力アンプ類など賄っているらしい。オプションのパワーアンプ巻線、2Aヒューズがある22V巻線はプランジャー、キャプスタンモーターは前述の通り130V、巻き戻し、早送りモーターは3段階で大小のリールに応じて手動で切り替えるようになっている。Rifaのコンデンサーはこの回路に直列の抵抗と共に入っていてスパークキラーのようだが経年劣化でショートする事でコンデンサーは弾け飛び抵抗は燃える。この安定化出力の21Vが0.数Vとなっているのは電源の出力Trが逝ったか?だがちょっとチェックすると問題なさそう、、さて??

 この電源ボードを外すのは結構厄介で4本のネジを緩めるのに苦労する。邪魔になっているプランジャーを外してこんなドライバーもつかって

 

接続を外して電圧チェックすると不思議なことにちゃんと電圧は出ている。ところが電源供給路をつなぐとほぼ0Vになる。これは一体、、?しばらく悩んだが原因はキャプスタンモーター制御回路のc212 220μF(回路図では250μF)のケミコンだった。

 

3Ω程度のショート状態で他が道連れにならなくて良かったがなぜ630mAのヒューズが切れないのだろう。(EMT950の破損した電源トランスを思い出す)外部から電圧を加えるとモーターは回転して制御Trが無事でよかった。コンデンサーは格好の良いphilipsに交換した。

 

それにしてもこのタイプの古いケミコンは要注意でペーパーコンデンサーだけでなく電解コンデンサーも危険なことになっていた。コンデンサーはすべてチェックしないとダメらしい。

 回転するようになったが今度は安定化電源の電圧調整ができない。半固定抵抗を回しても反応なくいきなり高電圧になりとんでもない高速になったりする。裏を見ると

 

なんと摺動子が折れていた(右は以前の写真でちゃんとついている)。劣化で調節中に折れてしまったらしい。仕方ないので適当なものを注文して待つことにします。

その間に不良コンデンサーの交換を進めます。底部にあるカードのコネクターボード

ここにも2個同じケミコンが使われていてDCRから多分ショート状態になっている。このボードは同軸のボリュームとロータリースイッチが組み込まれていてボードそのものがロータリースイッチの一部になっているというぶっ飛んだ設計。

  

 プリント基板の箔をロータリースイッチの接点にするという発想は民生機ならではで業務機ではあり得ない。それだけ大量生産された機器だと思うがちょっと残念な気もする。ボードに繋がる配線を取り外してもひっくり返すのは難しい。仕方ないので(多くの配線を外すのがめんどうなので)最低限の接続線を外してコンデンサーを交換した。コンデンサーは性能最優先で今回はアキシャルタイプのニチコンで。ついでにロータリースイッチの接点を掃除してコンタクトグリスを塗っておく。

 安定化電源の出力はキャプスタンモーターコントロール基板と下に並んでいるアンプや発振基板の2系統に供給されるのだが修復前のDCRを測定するとモーター基板がほぼ0.0Ω、アンプ基板をすべて抜いた状態でが数Ωという非常に低い値だった。共通して使われている220μF25Vの問題で交換後は各々1kΩと140Ωとなっていた。もう1ヶ所発振基板にも使われているのでこちらも交換する予定。

 

 チェッカーにかけるとこんな状態。コンデンサーには西ドイツ製 RDEとある。このメーカー製品はRifaと同様に問答無用で交換が必要。UHER CR210にも使われていて通電すると同じ原因で抵抗から発煙したことを思い出した。EMT928もコンデンサーが原因で発煙したことがあるが容量は異なるが同じメーカーだったしEMT950の故障もそうだったかもしれない。機器の信頼性を損なうだけでなく小さな部品が原因で発煙(発火もありうる)などの危険を招いたのであれば将来の危険性を予知できなかった製造者の責任は問われるかもしれない。経年劣化はあたりまえで品質管理責任からは外れているという意見もあると思うが廃棄されない限り製品は存在するし使われている場合もある。

 たまたまwebで同時期に同じA77をメンテナンスされている方がいて基板の取り外しの写真があった。私は基板だけ外そうと四苦八苦していたが電源トランスごと引き出せばずっと作業がしやすくなりそう。

 

それでも未練たらしく必要なところだけ外して中途半端な状態で半固定ボリュームを交換した。いまさらベークライト製を探して取り替えなくても良いと思う。これで安定した。

 

問題のケミコンを交換したが別のケミコンでもアンプ基板で吹き出しているのがあってこれはショートなどはなさそうだが手配することにした。

 

これで走行系は一応作動するようになった。アンプ基板を差し込んで再生するとどうも片chが出力していないしVUメーターは両ch振れない。他にもまだ問題がありそうだ。

playback基板とコネクター結線図を頼りにヘッドからの信号を追っていくと

 

原因はplaybackボリュームで片chの導通がない。

   

一応分解してみると摺動子が破損していて残念ながら修復は難しい。特殊なボリュームだが海外から入手できそうなので早速注文した。到着までしばらく待つことにします。

 到着を待つ間にできる事をしておきましょうということでplayback amp の吹いていたケミコンを届いた代替え品と交換。チューブラータイプが入手できなかったのでアキシャルタイプに収縮チューブを被せて横倒しにして。

 EQはフロントパネルで切り替えれるものがあるようだがこれはNAB専用になっていた。IECカーブが必要な時はボードの交換を行う。

 中古ボリュームが届きました。イタリアからの荷物は2週間と早かったし到着予定日の範囲内にちゃんと収まっていた。

 

4本のうちの2連は音量調整とバランス調整用でA型とB型。バランス調整はMN型ではなくてよかった。早速取り付けてみよう。

 

ところが出力しない。以前出力していた右chも聞こえなくなってしまった。またヘッドから信号を追っていくと

 

なんとplayback基板の半固定抵抗の摺動子が両chとも折れていた、、。このベークライト半固定抵抗もわかりやすく寿命が尽きていて多分他のA77も似た状況なのだろう。回路図ではメインボリュームへのトリムらしいので代替品を注文してとりあえず最大出力に仮配線すると(またすったもんだしたが)両ch出力された。

 しばらく2TR19cm/sで聴いているとベアリングのガイドローラーからしゃりしゃり異音が出ている。

 ベアリングには「GERMANY  SKF.  394928A」と刻印してあり検索するとREVOXの純正品がヒットして入手できる。ノギスで寸法を測定して調べると汎用品でも同寸のものがあった。純正品は非磁性体かと思ったがそうでもない様子なので交換する時は価格が数十分の一の汎用品でいいのではないかと思う。でも無水エタノールに漬け込んで洗ってとりあえず再使用する事にした。これくらいのテンションではそうそう摩滅することはないと思うが散った磁性体が内部に入り込んで劣化したことも考えられる。再発するようなら交換する事にします。

 走行し両chとも音が出るようになったが全体のシルキーさというかエレガントさが不足していてなにか乗り潰した元高級車みたいなフィーリング。なにがそう思わせるのかを考えながら部品待ちの間に全体のブラッシュアップを進めるようにします。

 playback基板の半固定抵抗を交換しました。

 

 これで再生、録音も問題なく稼働するようになりました。

 信号の接点は録音、再生とも2ヶ所ずつでいずれもプリント基板の箔を利用したロータリースイッチ、アンプもヘッドアンプとドライブアンプの2ヶ所だけのシンプルな経路。ICは使われておらずでメンテナンスしやすい構成と思われる。ボディはコンパクトだが内部は無理に詰め込んだ窮屈な感じは無く外観に劣らず美しい。小型で美しく高性能(だと信じてるが)で大人気だったのも頷ける。

 

 ベークライトの半固定抵抗はまだ沢山使われているので今後不具合が発生するかもしれない。また信号路にはタンタルコンデンサーが複数あるのでここも交換した方が良いかもしれないが現在はタンタルコンデンサーは使われることは少ないようで交換するのであれば他のコンデンサーになりそう。いずれも今回はスルーしようと思います。基板の取り外しは容易なので部品交換は楽しくできそう。

 木製キャビネットは少し傷や劣化があったのでツキ板を軽くサンディングしてオイルステインで保護しアクリルカバーはよく掃除してコンパウンドで磨いた。

 

    

 木製のキャビネットに電源回路のキーがあってキャビネットをはずすと安全対策のためか電源が入らないようになっている。今回はこのキーを取り外して(簡単にははずれない)本体に差し込んで作業したが素人のアクセスを拒んでいるようにも感じる。また本体上部にあるリモコン端子に空プラグを差し込まないとキャプスタンが回らないなどは修理の最初でつまづいた。幸いに詳しいサービスマニュアルの入手は容易で愛好家も世界中にいるらしくwebの記事や動画も多くメンテナンスや修理の参考になる。今回の個体は外観は非常に良好で製品のタグまでついていたので大切にされていた(もしくはあまり稼働していなかった)と感じます。しかし製造されて半世紀も経過すれば内部の劣化は避けられずゴムベルト、半固定抵抗、メタライズドペーパーコンデンサー、電解コンデンサー、ボリュームの一部を交換した。もうしばらくは楽しませてくれると思います。

 

 

 

 

 お読みいただきありがとうございました。

 

 追記1

 録音時の入力切り替えロータリースイッチのクリックが芳しくない。1個だけだが他と比べるとカチッとならない。アンプカードのマザーボードを再度めくって軸を取り外して仕組みを見てみると

 

 回転するたびに1個のスプリングでボールを山谷に押しつけてクリックさせる構造。スプリングの調整を何回も行ってみるがなかなか良くならずこれは山谷が摩滅しているのかもしれない。若干改善を認めたところでグリスを塗布してここまでとした。このスプリングとボールは最低もう1ヶ所できれば2ヶ所は欲しいところだと思うのだが。

 

 後日談1

 A77のメンテで上記のクリックメカニズムを含んだトラブルの解決にかなりの時間を費やしてしまった。おかげで随分と扱いに習熟したということもあって再度クリックが不調のところをやり直した。

 

 これでようやく完調になりました。やはり経験は大切で諦めなければ何とかなる(と信じたい)。ついでにスプリングの調節を行ってクリックのフィーリングを良くしたりエディティングレバーがカチッと収まるように調整をしたり布絆創膏を入手して(まだ売っていた)コード類をまとめたり、オリジナルに寄せて結紮したりなど状態の向上を目指した。可動部分のスムースさ、操作時のフィーリングは外観の美しさと共に製品の品位を引っ張り上げる。余裕があれば内部の美しさにも拘りたいと思う。


Nagra について

2021-02-13 10:24:15 | オープンデッキ

 Nagraはスイスのローザンヌにある業界デジタルTV、パブリックアクセス、サイバーセキュリティの企業「NagraKudelski Group」の1951年に創設されたブランド。Nagraテープレコーダーは同社の最初の成功した製品でポーランドの研究者Stefan Kudelski氏(2013年没)によって開発された。現在はクデルスキーグループを離れロマネルシュルローザンヌに本拠を置く独立所有の会社Audio Technology Switzerland S.A.によって開発、製造、販売されている。「Nagra」は開発者の母国であるポーランド語で「記録する」という意味(Wikipediaから引用)。

 Nagraテープレコーダーは映画撮影現場で使用されていた映像と同期する機能を備えた可搬型が有名。過酷な環境でもトラブルなく稼働する必要があり小型で堅牢、高性能な製品として第一線を退いた現在でも魅力を放っていて愛好家は多い。

 私も若い頃からスイスメイドの精密で美しい造形に憧れた一人だが現役で稼働していた当時はコンシューマ市場で見ることはなくステレオサウンド誌で紹介された美しい写真を眺め、価格の"0"の数を数えてリアルに天文学的な数字に慄いた。日本の代理店があり入手は可能といってもまったく実感はわかなかった。今となっては「どうあがいても手が届かないもの」の存在は人格形成において必要ではないかとさえ感じる。しばらくして雑誌の売買欄で売りに出されたNagra Ⅳがありハガキで問い合わせたら結構な量のマニュアルのコピーが送られてきて「まずこれで勉強しなさい!だれに譲るかは後日通知する」旨のメモといかにNagraが貴重で素晴らしい物かが滔滔と書かれてあった。所有する側にもそれなりのレベルが求められるみたいな上から目線でさすがにこれにはちょっと引いた。

 

 最初の製品は1951年のNagara Ⅰ

Nagra Ⅰ (Audio Technology Switzerland S.A. HPより)

 世界初のポータブルテープレコーダーでそれまでは洗濯機のようなサイズで多くの電力と手間のかかるメンテナンスが必要とされた。1951年はSONYのデンスケ1号機がNHKに納品された年だがそれよりも遥かに小型。

 1953年Nagra Ⅱはモジュロメーターが搭載されその後ⅡCⅠではプリント基板化されるなど細かな改良がされた。ⅡCⅠでは7本の真空管を用いていて電池は135Vの積層電池とヒーター用電池を必要とする。モーターはゼンマイ駆動。

Nagra ⅡCⅠ (Audio Technology Switzerland S.A. HPより) その後のNagra Ⅲの原型と一目でわかる。

 

 Nagra Ⅲ(1957年)

Nagra Ⅲ (Audio Technology Switzerland S.A. HPより)

 ローマオリンピック(1960年)の放送で活躍し以来各国のブロードキャスターに導入されるようになった。カメラと同期するための水晶発振子を利用したNP(ネオパイロット)を搭載したⅢNPは1962年。

・電源:                          ATN電源か単一電池12個
・テープスピード:        38.1cm(15inch)/s(NAB)、19.05cm(7 1/2inch)/s (CCIR/NAB切替)、9.525cm(3 3/4inch)/s
・ワウ・フラッター:     0.04%(15ips)、0.06%(7.5ips)
・クロストーク:           70dB以上(1kHz)
・ノーマル録音レベル: 0dB=510nWB/m
・周波数特性:               30~18kHz(±1dB)15ips 40~15kHz(±1dB)7.5ips
・SN比:                        72dB以上
・外形寸法:                   W360×D240×H110mm
・重量:                          6.3kg

 内臓電池は単一12本で18V。外部電源はコネクターはDIN 6pinで他の機種と共通だがATN2は出力電圧の関係で使用できない。適正電圧は12V〜24Vで無負荷のATN2電源は35Vまで上昇するためでNagra Ⅲ専用電源 ATNが用意されている。

 

             ATN(Nagra Ⅲ用外部電源)                          ATN2 for NAGRAⅣ&4.2only でわざわざNAGRAⅢにバッテンがついている。

 ATN2には「注意:NAGRAⅢに接続するな」と朱書きのシールまで貼られていて誤接続によるトラブルが多発したことが伺える。

 

        

 電池を内蔵すると結構な重量となる。黒のパネルにシルバーのリングが4輪でこれはもう蒸気機関車にしか見えない。Nagra ⅢNPが拙宅に来たのは四半世紀以上前でステレオのNagra Ⅳと比べて人気がなかったのか結構流通していたように思う。改めて観察すると古典と未来が混ざったような独特の雰囲気でネジ一つにもクラフトマンシップが行き届いている気がする。民生機と全く異った構造で巨額の費用が掛けられた宇宙船の内部はこんな雰囲気ではないだろうか、、などと思ってしまう。 

   

 数本のネジを緩めるだけでパカッ!と口をあけて内部を見ることができる。保守点検にはとても都合がよい。

 ワンモーターのメカニズムとユニット化された電子回路は美しくNagra Ⅲは64年前のNagra最初のソリッドステート製品のはずだが、、この完成度には驚嘆する。(この個体は1965年製造)。

 Nagra Ⅲの周辺機器

 DH

  

  

(引用 https://www.radiomuseum.org/r/kudelski_nagra_aktivlautsprecher_active_speaker_box_hp.html)

 「DH」という名前のパワードスピーカーで製造は1964年、外部電源は接続できず単一電池12本必要で現場での使用に特化している。パネルはNagra Ⅲと合わせているが予算の関係なのか角メーター。欧州製品らしい楕円形スピーカーを積んでいる。

 

MIXER MBⅡ

 

 

(引用:https://www.radiomuseum.org/r/kudelski_nagra_mixer_bm_ii_bm_2.html)

 MBⅡは200Ωのマイク入力が3系統、LINE入力が1系統のNagra Ⅲ専用アクティブミキサーで本体から10.5Vの電源が供給される。各々にローカットフィルターがありコントロールは入力だけで出力はなく本体で行う。出力はDIN6pinで信号、電源が含まれる。オリジナルのツマミは他と同様に金属のバーなのだが使い勝手が良くなかったのか日本製のものに置き換えられている。他の製品と同様にパネルには誇らしげに「SWISS MADE」とある。

 

 Nagra Ⅲ 1963年4月の米国のパンフレット

(引用:https://museumofmagneticsoundrecording.org/RecordersNagra.html)

 いかに優れた性能かが述べられているが注目すべきは価格で Nagra ⅢB   $ 1045       Nagra ⅢNP   $1095 。 米国の現在の物価は1963年当時の約9倍と言われるので100万円程度でちょっと低いような、、。1963年当時の大卒初任給19700円で現在は約10倍。当時は1$=360円なので$1000=36万円(そういえば1000ドルカー パブリカなんてCMがあった)その10倍とすると360万円でこちらの方が感覚的に近い気がする。

 

 Nagra Ⅳ-S(1971年)

 Nagra初のステレオテープレコーダーでNagra製品では一番知られている。

 Nagra Ⅳ-S (Audio Technology Switzerland S.A. HPより)

電源:交流電源(ATN-2)によるか、単一電池12個による駆動(充電地も可)
テープスピード:         38.1cm(15inch)/s(NAB及びNAGRAMASTER)、19.05cm(7 1/2inch)/s、9.525cm(3 3/4inch)/s
ワウ・フラッター:        0.028%(15ips)、0.030%(7.5ips)、0.043%(3.75ips) NAB規格
クロストーク:            70dB(1kHz)
ノーマル録音レベル:  0dB=510nWB/m
周波数特性:               30~20kHz(±1dB)15ips
                                    30~15kHz(±1dB)7.5ips
                                    30~10kHz(±2dB)3.75ips
SN比:                         STD...70.5dB (NAB 15ips)
                                    NAGRAMASTER...74.5dB(NAB 15ips)
外形寸法:                   W333×D242×H113mm
重量:                          6.4kg

 Nagra Ⅳ-Sには3種類ありⅣ-SDは通常の2chステレオ機 Ⅳ-SLはパイロットヘッドを加えたタイプ Ⅳ-SJは騒音、振動測定などのデータレコーダーで非オーディオ用。本体には7号リールまでかかるがアクリルカバーが閉じるのは5号まで。ただし7号に対応したアクリルカバーも用意されていて(冒頭の写真)、QGBアダプター(後述)を用いれば10号リールまで可能。それ以外でも夥しい数の周辺機器が用意されている。

 

   

 

    

 左右の入力ボリュームはスイッチで連動、非連動の切り替えができる。

 

この切り替えが不調で調整した。ツマミをギアに押し付けるクラッチ機構になっている。イモネジは1/16inch。

 日本国内の代理店は「報映産業」で取扱は多分Nagra 4.2 Nagra Ⅳ-Sからではないかと思う。1983年1月1日の価格表を見るとNagra 4.2 は1,270,000円 Nagra Ⅳ-SDは1,330,000円 Nagra Ⅳ-SJは1,790,000円 オーディオ愛好家が注目したのはやはりステレオの仕様のNagra Ⅳ-SDで、モジュロメーターの立体的な造形はNagraの象徴としてその後のアンプにまで取り入れられた。

 

 Nagara ⅠS(1974年)

 

 Nagra ⅠSは初の3モーターを搭載した小型フルトラック機でマニュアルによると用途に合わせて以下の4種類がある。

 電源は単一電池8本12Vで本体と切り離すことができるボックスに収まる。3モーター機ということで今までと内部の構造も大きく異なっている。

 

 メカニズム部分が少なくなり電子回路に置き換わった。Nagraに限らずテープレコーダーほとんどがこの流れだったわけだがキャブから電子制御の燃料噴射になったみたいだと感じる。上を向いているマイクとヘッドホン端子が本体の両サイドから飛び出しているという特異な形状でフルトラックのモノだがマイクは2本接続できて本体でミキシング可能。フロントパネルに端子を設けなかったのはオーダーに応じてのコネクターの変更を配慮したと思われる。この機種はマイクはキャノンのメス2本、ヘッドホンは6.3mmになっている。突起が左右にあるということで通常のキャリングケースの形状では出し入れに問題が生じるので

 

 この専用レザーケースは左右の大きなポケットの内側に穴が開いていて左右から被せるように突起部分が収まる。「DR」のシールは「DENMARK RADIO」のマークでパネルにも美しく刻印されていてこれはNagraにオーダーしたのかもしれない。当時Nagra ⅠSが日本に正式に輸入されていたかは不明で報映の価格表にも見当たらない。モノトラック録音機はNagra 4.2やNagra Eで足りるとされたのだろうか。

 

 Nagra E(1976年)

 最後のNagraアナログポータブルテープレコーダー。

 

1312  

 

 

 

Specifications 
THD at  400 Hz             < 0.9 % at 0 dB, < 2 % at +3 dB 
Frequency response     50- 15000 Hz at +/- 2 dB 
Signal to noise ratio     62 dB ASA A weighted 
Erase depth                  12000 Hz recorded signal > 79 dB 
Wow and flutter            +/- 0.1 % (DIN 45507) 
Reference oscillator      1 kHz signal, 0 VU level – 8 dB 
Built in reference oscillator 
                                       For tape calibration –12 dB @ 1 kHz, 6.3 kHz and 10 kHz 
Operating range           - 20 to 70 °C 
Autonomy                     In continous operation 20 hours 
 
Inputs / output 
Mic input                      3 pin XLR’s  
Mic powering              “T”power, Dynamic 
Sensitivity                    From 0.2 mV to 4 mV / 0 dB 
Line input 
   On microphone          2.5 mV / 0 dB 
   Line                            Assymetrical with output load > 300  , 0.94 V for 320 nWb/m 
 
Physical 
Dimensions                 315 x 226 x 104 mm
Weight                         5.5 kg(12 cells and tape  included) 
 
 1モーターでメカニズム部分はⅣ-Sとほとんど一緒だがモーターの直径が少し小さい。筐体の高さも若干低くツマミ類は先祖返りした。トレードマークのカラフルな赤に染められているがパネルの厚みは2mmで以前の機種と変わりない。にもかかわらず華奢で軽く感じられるのは(実際1kg程度は軽いのだが)リッドを受ける部分のゴムパッキンが省略されていること、アイキャッチャーのNagraメーターが(非常に見やすいのだが)角メーターになったこと、外装に使われているネジが安っぽいことなどかと思う。(特にこのネジは非常に気になるところで隙あらば交換してしまいたい!と思う。多分しないけど。)
 電子回路はワンボードになったがNagra ⅠSで採用されたロジック回路は1モーターということで使われていない。オペアンプなども無くすべてディスクリートで構成されているのも古典的だが不慮のトラブルに対応するためかもしれない。

 前年の1975年にはSONY TC5550-2が発売されている。nagra Eの1978年の価格は680,000円でNagra 4.2やNagra Ⅳ-Sの約半額という廉価版だがそれでもSONY TC-5550-2の4倍の価格。モノラル機であるし一般人にはなかなか手を出しづらかったと思う。しかしRevoxではなくStuderを、ThorensではなくEMTを、など日本には業務機を崇める気風がありオーディオブーム最盛期には入手された方も居たかもしれない。

 

     QGB

 Nagra E   Nagra 4.2  Nagra Ⅳ-S に装着できる10.5inchアダプターで内部にモーターと制御するための電子回路がある。電源は本体とDIN 6pinコードを繋いで本体のバッテリーからもしくはQGBに接続する外部電源のATN2(3)で両者に供給される。StellavoxのABR85はSP7専用で電源も必要としないがQGBはテレコ本体とは完全に独立しているため他のテープレコーダーとも物理的に合体できれば稼働させることができる。

   

 久々に稼働させようとしたがリールクランパーがうまく動かずリールを固定できない。

 なかなか原理を理解できず思いの外修理に時間がかかってしまった。

 巻き戻し、早送りはこのダイヤルを引っ張り上げて送りたい方向に捻ると高速で移動する。真ん中だとどちらにも行かず止まっている。

 

 テープのテンションは2個のローラーで検知され軸の回転がコントロールされる。回路図を見ると50個以上のトランジスターで構成されサーボが掛けられていると思うが非常に複雑でほとんど理解できない。故障しないのを祈るのみ。

 

 Nagra Ⅳ-S本体の足にクランプでしっかり固定され位置決めされる。本体の前面にパネルがあるので水平使用に限られるがしっかり一体となるのは安定動作するための重要な要素と思う。高さの低いNagra Eと組み合わせるにはちょっと工夫がいるし本体足の形態がⅣと異なる。他のテープレコーダーの場合はテープが走行する高さを揃えて走行経路に障害物がないようにすれば大丈夫そうで実際にSONY TC5550-2やStellavox SP7と組み合わせている写真を見ることがある。 Stellavox のABR85は使いづらく実用性は低かったがQGBはとてもよくできたアダプターで動きは快適、設計者は天才ではないかとさえ思う。

 

 Nagra SN(1971年)

 半世紀前に開発されたNagra SNは当時世界最小のオープンテープレコーダーでテープ幅は1/8inch(3.81mm)でカセットテープと同じ。単3電池2本で稼働しフルトラック、ハーフトラック、そして2chステレオタイプがある。

  Nagra SNN    フルトラック録音     9.5cm/s  4.75cm/s

       Nagra SNS    ハーフトラック録音    4.75cm/s  2.38cm/s

       Nagra SNST(1977年)ステレオ録音

 外形寸法:約147 x 101 x 26mm
 重量:510g

  

  

 

 

 

 

 スパイ映画によく登場すると言われるが私は見たことがない。アポロ宇宙船で月まで行ったとかスピーカーを搭載していないのでオープンテープ版のウォークマンとも言われる。レタリングは精緻で今ならレーザー刻印ができそうだが当時はどうやったのだろう?と思う。操作は横に飛び出しているレバーで行い早送り機能はなくて巻き戻しはハンドルを起こして手動で行う。ヘッドホンは3.5mmのプラグでその他多くのオプション機器とは横についているコネクターで接続する。

 今ではよく目にするが当時はスパイが隠し持ってるのだから一般人は見ることができない、、などと思っていた(ホントです)。雑誌の写真に反応して「実際に流通してるとは思わなかった!」などというコメントが次の号に載ったりするほど幻の製品だった。swiss madeの時計のような位置付けで大切にされ酷使されたのは少ないように思います。

 

 適当なケースがないかと探して見つかったのはマレーシア航空の洗面セット。ポルシェデザインらしく大きさもちょうど良い。ビジネスクラスなんて乗ったことがないので知らなかった。その他ハードディスクドライブのケースが良さそう。

 


Stellavox SP7 について

2018-05-20 22:18:36 | オープンデッキ


 Stellavox社は1955年にMr Georges Quelletによってスイスで設立されたオープンテープレコーダーメーカー。主なプロダクツは1954年に Model 54 1960年に5 Sm 1969年にSP7 1975年にSP8 1989年にSP9。日本国内で特に有名なのはSP7とSP8でNAGRA Ⅳと共にプロフェッショナル用ポータブルオープンデッキとしてマニアの羨望の的となっていた。
Stellavox社の歴史について詳しいことは不明だが1964年にはライバル会社のKudelski(NAGRA)社に売却されたがその後数年でまた独立したり色々あった様子。現在でもブランド名は残っていてオーディオ製品を供給しているようです。ポータブルオープンデッキを語る時にはNAGRAとともに必ず引き合いに出されるがどちらかといえばNAGRAの方が有名なのは実際の映画の撮影現場の映像でよく見かけたからかもしれないし多分生産量も大きく違うのではないかと思う。Stellavoxで思い出すのはソリッドステートアンプ研究家の金田明彦氏が発表していた一連のDCアンプシリーズでStellavox(年代的に多分SP7だと思うが)のメカニズムを用いて再録アンプを「無線と実験」誌に発表されていたこと。1980年前後かと思うが氏の強烈な筆力に圧倒されながら一生懸命(多分1/100も理解できなかったと思うが)読んでいた。今になって振り返るとあの頃のオーディオを取り巻く熱気が懐かしい。話が逸れたが誰かが言ったセリフで「NAGRAは持ち運べる据え置き型デッキ、Stellavoxは据え置き型にも匹敵する性能のポータブルデッキ」というのがあって(写真だけでは伝わりにくいが)実際に現物に接すると妙に納得した。Stellavoxは軽量でフィルムカメラに通ずるような雰囲気を持っていた。
 

 半世紀も前の1969年発表のStellavox SP 7だが1976年の「STEREO SOUND誌」の記事では価格は1,100,000円を超えていて改めてEMT950もそうだったが大きなお金が動く特別な世界のキカイなんだと感じる。

 

 

 

 

 久しぶりに取り出してみたら、、、ピンチローラーとキャプスタンが接触している〜! おかげでピンチローラーのゴムが変形してしている、、

 、、、やってまった(岐阜で暮らした経験あり)。しっかりと圧痕ができてしまって大切なピンチローラーが大ピンチだ!(などとシャレを言ってる余裕はない)また暗い気持ちで取り外してみると
 
 アルミ削り出しの中央にベアリングがはめ込まれている。削り出しリングは結構ラフな感じ。ゴム部の形状はちょっと変わっていて中央のテープと接する部分が一段盛り上がっている特殊な形状。さてどうするか。。

 誰もが考える(と思われる)ヤスリで整形してみる。
 
 どうやってセンター出すかが一番のポイントかと思うがボルトにテープ巻いたりして色々気が済むまでやったらドリルで咥えて回転させながらヤスリを当てる。棒状の金工ヤスリで段差をやっつけてその後は平面板に貼ったサンドペーパーで仕上げた。これで組んでみると
 
 普通に再生する。正弦波を録音再生してみようと思うが問題なく再生しているよう。これならなんとかなりそうでホッとした。このピンチローラーはとても優秀で指先で回転させると軽量にもかかわらず30秒近く回転が続く。左右のガイドローラーには50Hzと60Hzのストロボが載っている。

 回転数も問題なさそう(ローラーの径が変わっても影響しない)。これでしばらく聴いてみる。ヘッドブロックはSTEREO 7.5ips(19cm/sec)NABでScotch 203用と書いてある。 

 忘れていたがモジュロメーターの片chのムーブメントが無い。
 
 なぜこうなったか忘れてしまったが故障して外してそのままだったのかもしれない。一応替えのメーターは入手してあったので早速交換した。ムーブメントは特別なものでは無い様子。
 
 規格は一緒のようだが意匠は少し異なり交換した方は金属フレームだったので(プラスチック製と選べる状況だったが)こちらを装着した。金属フレーム用の皿ネジも付属していたが、ピッチはISOでヘッドはインチという変わったもの。

 内部の状況
 
 各セクションは色分けされたモジュールで8種類11個。ケースに色紙が貼ってあって同色のモジュールを装着するようになっている。モーターは非常に大きなもの1個でベルトの代わりに長いスプリングで動力が伝達されている。ゴムベルトより寿命は長そうだがスリップが起こりやすくこの個体は少し切り詰めて使っている。またガイドローラーのテンションのかけ方はとても凝っていて長いスプリング(というよりヨレたワイヤー)を張っていて各リール軸のブレーキと連動している。テンションも厳密に調整できるらしい。

 「据え置きデッキに匹敵する性能の」を達成するには5inchリールしかかからない本体は役不足ということで10inchリールまでセットできるツールが用意されていた。Stellavox ABR85

 原理は至って原始的でボードにリールを固定する軸を設置してリール軸と駆動する本体の軸に専用プーリーをねじ込んでゴムベルトで繋ぐというもの。ABR85には電源は必要ないし本体との接続はゴムベルトのテンションを見ながら2ヶ所クランプで固定する。
 
 ビジュアル的には最上級にカッコよろしいしほとんど問題なく動作する。しかし実際に現場で使われる事は少なかったのではないかと思っている。というのは巻き戻しの時はかなりのトルクが必要で10inchリールを回し切るには非力で途中で止まってしまうことが多い。時間が勝負の現場では致命的だったと思う。原因は本体内部のスプリングベルトのスリップ。

 しばらく動かしていたら問題が現れた。ピンチローラーのアームの位置が定まらない。またSTOPからPLAYにしてもたまにアームが動かないことがある。デッキ上のアームを固定している部分の緩みではないので(ロックされていて位置は変わらない構造))トラブルは内部の伝達機構のよう。モーターをどけないと見えないところなのでモーターを降ろして確認することにした。
 モーターはデッキ上にある3本のネジで固定されている。

 モーターにはアーム駆動用のギアとアームが組み込まれているがモーターを下ろすとバラバラになって慌てる。。
 
 モーターの側面には首振りギアがありモーターの回転方向でギアも首振りする。このギアから外部のギアに伝達されアームが動く。
 組む時はモーターのハウジングにこれらを装着した状態で本体に戻すのが良さそうな気がする。

 戻す時は周囲のモジュールユニットを外して視野をよくしてテンションワイヤーに当たらないように注意する。

 肝心なポジションが定まらない原因は

 ピンボケ御免。アームと軸の接続部が緩んでいる!ここはしっかり固定されている必要ありだがちょっと手を入れた気配があるのでひょっとすると修理歴があるのかもしれない。
 またPLAY時にアームが動かないのはギアが噛み合わないのが原因のよう。どちらも要修理で高額製品だけに気が重い。。さてどうしよう。。

 まずこのアームだがもともとどうやって固定していたかよくわからない。再生状態で最適と思われる位置に調整して分解、そっと取り出してみる。

 接合部にハンダ固定も考えたが見えている側が回転軸のベース部分と接触するので厚みが取れない。軸部とプレート部の接触面積は結構ありそうなのと完全に密着していない(紙1枚の隙間あり)ので非分解で接着することにした。これで不具合が出るようなら溝を削り込んでロックのためのキーを埋め込むことにします。

 モーターに組み込まれている首振りギアは樹脂製で次の真鍮製のギアを保護しているように見える。そうするとこのギアは消耗品かもしれない。
 

 
 結構汚れています。ギアの谷部分も歯ブラシと楊枝使って掃除する。給油は粘らないオイルということで(釣りの)リール用を使う。これで新たな不具合は解消したが巻き戻し時のスリップはプーリーを掃除しても変わらず。ただ10inchリールを使う時は直に左右を繋げばとりあえず用は達することはできる。

 モーターの駆動プーリーにはスリップ防止のゴムが仕込んであるがこの劣化もあるのかもしれない。

 スプリングベルトをゴムベルトと交換してみた。
 
 適当なものがなかったのでUHER CR210から外した廃品。しかしスリップは少なくなりちょっと快適な動作にはなった。期待してABR85に載せてみる。

 やっぱりスリップしてそのままでは巻き戻しきれない。しかし巻き上げベルトを外すとしっかり最後まで巻戻せた。

 Stellavox SP7と組み合わせるミキサーのStellavox AMI

 入力は5chで記号の意味はパネルに描いてある。トーンコントロールを⚪︎に合わせるとRIAA特性になるらしい。SP7と同寸法でモジュロメーターは共通のよう。ACアダプターも共通だが別に用意する必要がある。電池駆動できるのも一緒。
 

 


 残念ながら未だ活躍する機会がありません。


 久しぶりに稼働させてみたらやっぱり不具合があった。ベルトやギアなどの消耗品はどうやって入手したら良いのだろう?今となっては大切に使うしかないが世界展開した製品であるだろうから何とかなっているのかもしれない。Stellavoxの印象はNAGRAと比較するとどこか華奢な感じがあって現場でヘビーデューティーに使い倒した感じが薄い。ネジ類を面一に処理してテープの走行を妨げないようにしたり「ソリッドでプレーン」を強調したデザインはパネルのヘアーラインや細かなパーツのエッジの処理などが美しく熟練工が匠の技でブロックから削り出したことが伺えたり、、と細部まで非常に拘って造り込んでいる。業務機にありがちな無骨さはほとんど感じられずまさにスイスメイドのイメージ通りの製品だと思う。一方でメカニズムは非常に簡素で早送りは再生スピードが最速になる機構のみだし大切なpause機構もピンチローラーアームにほとんどオマケ程度に組み込まれているだけである。可搬性を追求していかに軽量化することに注力した結果と思うがそのためか動作はクリチカルなところがあってオールラウンドにバリバリ仕事をこなすにはちょっと問題アリだったかもしれない。エレクトリック回路はマークレビンソンのようなモジュール化され不具合があれば短時間で対処できたと思われる。
 現代にあってStellavoxは「オーディオ界のバルナックライカのような趣味性の高いギア」という位置付けかと思います。健気に10inchリールを回して音楽を奏でる姿を愛でるような。






 お読みいただきありがとうございました。



 追記 1
 ラインから録音したら片chが途切れ途切れになる。録音ヘッドへのテープの接触具合を変えると状態が変化する。しばらくアタフタしたが原因はヘッドブロックにあるテープガイドの1本が緩んでいた、、というもの。締め付けで解決した。

 追記 2
 金田明彦氏のDCアンプシリーズでStellavox SP7を使った録音アンプの記事は1978年〜1979年にかけて3回に渡って掲載されていました。無線と実験 1979年4月号の製作編

 金田明彦氏は現在も「MJ」誌などで健筆をふるっておられるそうです。




 



 


SONY TC-5550-2 について

2018-02-07 14:26:08 | オープンデッキ

 SONYの民生用オープンデンスケTC-5550-2は1975年の発売。当時の価格は178.000円という高級品。




   型式 ポータブルステレオオープンリールテープコーダー
   テープ形式 2トラック2チャンネル
   テープスピード 19cm/s、9.5cm/s
   3ヘッド
   モーター D.D.サーボモーター×1
   SN比 64dB(デュアドテープ)
   周波数特性 30Hz〜27kHz ±3dB(デュアドテープ、19cm/s)
   ワウ・フラッター 0.05%wrms(19cm/s)
   歪率 0.8%(デュアドテープ)
   モニター出力 500mW(EIAJ)
   電源 AC100V(付属ACパック)  乾電池:12V(単1×8)  カーバッテリー(別売DCC-130使用)  充電式電池(別売BP-55使用)
   電池寿命 約5時間30分(エバレディアルカリ AM-1)  約2時間(ソニースーパーSUM-1S)
   消費電力 9W(AC時)
   外形寸法 幅330×高さ136×奥行296mm  重量 6.8kg(乾電池含む)
    別売 キャリングケース LC-30(\6,000)




 (この回路図はTC-5550-2ではなく類似している輸出用のTC-510MKⅡという機種のもの)


 TC-5550-2といえば長岡鉄男先生ご推薦の「サウンド・ドキュメント 日本の自衛隊」
 なんだそれ?という方もおられると思うが当時の試聴によく使われてたLPレコードで調べてみたら録音は1976年、使用機材は
   TC5550-2(SONY)
   ECM23(SONY)
   D900E(AKG)
   MX650(SONY)
 なるほど。。日本の機材を(AKGも混じってるけど)使ったみたいでカタログに載っている普通の機材でもここまでできる、、と往時のマニアたちは勇気づけられた(と思う)。
 当時可搬型のオープンテープデッキはSTELLAVOXとNAGRAとUHERしかなかった。高価でも頑張れば手の届く価格だった国産のオープンデッキは歓迎されたはず(何れにしても自分には全く縁の無い世界ではあったが)。

 拙宅のSONY TC-5550-2は10年以上前の入手時に一度整備をしています。久しぶりに通電すると

 いろいろと問題が噴出。再生はできているが巻き戻し、早送りができないしカウンターが動かない。

 早速パネルを開けてみる
  
 ワンモーターのフライホイールから巻き戻し軸にはプーリー2個、巻き上げ軸にはゴムベルトで伝達してブレーキと組み合わせて動かしている。モーター直結キャプスタンとヘッドブロックは一体なのでこのブロックをどかさないと伝達機構に到達できない。その度にモーターを引き出さなくてはならず組み直した後に問題が出るとまた分解、組み直し、、と無益なループが続く。続きました。
 整備の詳細は割愛しますが細かい部品を絶対に紛失しないようにしなくてはならず。一例として

 リール軸の止めネジを外すと現れる極小のベアリング。規格品なのかは分からないがうっかり逆さにすると外れて慌てます。。
 

 

 カウンターが動かないのは2個あるベルトのうちの1ヶ所のが伸びていて。熱溶着ベルトが大活躍です。
 

 3時間ほど楽しめました(ウソです。結構苦しみました)。掃除して固着したグリスを除いて給油して先述のように分解と組み立ての繰り返し。5回は繰り返したと思います。

 実はこのTC-5550-2には重大な欠陥があります、というか経年変化でほぼ100%壊れる所です。操作ダイヤルを回して再生しますが、録音時は再生と逆方向に回します。この時にダイヤルを押し込まないとロックがかかり動かすことができません。このロック機構が樹脂でできているために劣化、破損してしまい録音状態を維持できなくなります。多分トラブルが多発したはずなので対応部品が供給されていたかもしれませんが今となっては自分でなんとかするしかありません。簡単な形状なので自作することも可能かと思います。

 操作レバー軸の端に付いている真鍮製のパーツがそれで、元々はプラスチック製。自分で交換したはずだがはて?このパーツはどこから入手したのだったか、、。自分で作った記憶はないので誰かから分けてもらったのかもしれない。

 しばらくラインから録音して聴いてみるがまだ問題が残る。たまに巻き戻し時にモーターが回転しないのとモニタースピーカースイッチがOFFにならず鳴りっぱなし、、かと思ったら録音時はOFFできるのでこれは仕様かと思う。また録音2連ボリュームの片方にガリがある。これはなんとかしないとマズい。。

 まず入力ボリュームのガリから
 
 とても小さなボリュームです。キーパーツのはずだからもう少し奢っても良かったのでは、、。また外すのは結構手間です。爪を起こして分解掃除してガリは解決しました。摺動子は結構しっかりしていて見た目よりも高級品かもしれない。この手のパーツが再生不能だとちょっと悩ましい状況になるので良かったです。

 続いて巻き戻しモードでモーターが回らないことがあることについてはマイクロスイッチの不具合かと思われます。

 モーターを再生時にドライブするTrを乗せた基板。モーターの赤リードには常時+が接続されています。巻き戻し、早送り時には白リードがアースに接続されてフル回転します。やっぱりマイクロスイッチ部分が原因の様子
 
 マイクロスイッチの上に見える白パーツが左右に動いてON,OFFしますがここの遊びが大きいようなので右下に見えるネジロックしてあるネジを緩めてスイッチ台ごと移動させて調整します。ネジロックは緩めた様子は無い。
 これで問題は解消したようでスイッチを探さなくて済んで良かったです。


 しばらくラインからの録音再生をして様子を伺ってみたが、安定して動作しています。
 使ってみての感想は、外装がプラスチックなのとトップデッキが薄板の金属製なこと、デザインなどからだと思うが全体から醸し出すオーラというか高級感はあまり感じない。軽量にまとめるには仕方なかったと思うがこの辺りはNAGRAやSTELLAVOXとは大きく異なる点で(値段が違いすぎるだろうが!とツッコミが、、)。3ヘッドなのでライン入力と録音された音の比較が瞬時にできるが高域が落ちてるなぁ?、、と思って見たらバイアスとイコライザー切り替えが違っていてLOWとNORMALに合わせたら19cm/secでは(当たり前に)違いは分からなくなった。しかし2トラ19cmの性能をきちんと出すにはそれなりの微調整と回路の点検整備が必要だと思う。しかしアナログオープンデッキに求めるのはもはやそうでは無いように思う。テープが回転しているのを見ながら音楽を聴いているとレコード再生もそうだが健気に働いているようでちょっと豊かな気分になる。生録をした経験がほとんどないのでアナログ生録マニアの方々はまた違った想いがあるかもしれない。


 お読みいただきありがとうございました。