Decca Decolaがお嫁入り

やっとこさ入手したDecca Decolaの整備記録

三田無線 DELICA CS-7 について

2023-08-20 23:53:21 | アマチュア無線

 昭和の時代にアマチュア無線に興味を持った方々にはDELICA(三田無線研究所)はとても馴染みのある名前かと思う。特にグリッドディップメーターをはじめとする周辺機器が有名だったと思うが質実剛健、堅牢なケースに収まっていてどんなに古い製品でももし故障した際には会社が続くかぎり面倒を見る云々といった宣伝がなされているくらい信頼のブランドだった。技術雑誌のおなじみの広告は1950年台には掲載が始まっていたのではないかと思う。アマチュアでも手が届く高品質の製品群は憧れではあったがやはり高価で実際にはほとんど見たことはなかった。

 三田無線研究所は1924年に社名の由来となった東京都港区の三田台地に茨木悟氏によって創立された。茨木悟氏(1900年〜1994年)は戦前米国シカゴ大学に留学し帰国後は同社から海外の博覧会にHiFi機器を出品し金賞を受賞するなどエリート中のエリート。三田無線研究所は官庁への電子機器の納入が主な事業だったが第二次世界大戦後の1950年代にアマチュア無線関連の製品を一挙に発表した。ご本人のインタビューでDELICAはDelicate,Delicasyの頭を採ったと仰っていた。逝去された1994年以降も同社は継続されていたが2010年代に終業した。

 

 1946年発表のレイモンド・ローウィがデザインした米国のベストセラー受信機Harllicrafters S-38は三田無線、TRIO 、菊水電波などに影響を与え日本でも多くのクローンが生まれた。ただし各社外観は似ていたが中身は随分と異なっていた。TRIO 9R-4シリーズの性能は本家のHalicraftersをはるかに凌駕していて米国でも名称を変えて発売されていた。

Harllicrafters S-38

        

(引用:http://yuuyuusyumi.blogspot.com/2016/07/s-38.html)

 

TRIO 9R-42J

 

 

菊水電波 SKY BABY S-38

(引用:http://radiokobo.sakura.ne.jp/G/ham/S-38.html)

菊水電波 SKY BABY S-38は激レアで写真でもほとんど見たことがない。

                                                       

 三田無線の一連のシリーズは非常に小型で開発者のこだわりが感じられる高品質、高性能な製品だった。回路構成は5(6)球スーパーラジオなのだが高品位のパーツを用いることで球数が少ないメリットを活かしノイズを抑えて高性能を発揮した。製品はCS-4、CS-6(GT管)、CS-7(MT管)と進化し1962年には最終形態のDX-CS-7(シリコンダイオード整流、同調部、IF部がリファインされた)となる。キットと完成品は2倍以上の価格差でまたキットだけが価格表示された広告もあることからキット販売が主力ではなかったかと思う。また同社ではCS-7をDX-CS-7にバージョンアップするための部品供給や改造も請け負っていた。

 

       CQ誌1963/10   (引用:http://ja7bal.la.coocan.jp/DXCS7.htm)

  雑誌の広告は白黒だったので分からなかったのだがケースの色はグレーとメタリック黄緑の2種類(未確認)で後年鮮やかなメタリック黄緑のカラー写真を見たときはその美しさに引き込まれた。当時としては斬新な色彩感覚だったと思うが広告にはケース色についての記載はない。

DELICA CS-7の回路図

 回路は5球スーパーラジオにBFO(Beat Frequency Oscillator),ANL(Automatic Noise Limitter)の1球が加わったシンプルなものだが採用されている部品特に自社製造のコイル類が素晴らしいと言われる。特にこの製品の代名詞となっている巨大なIFTは空前絶後らしい。専業メーカーの面目躍如で拘りと誇りが感じられ現在の人気も外観の素晴らしさとともにここに集中していると思う。この個体のIFTは薄い紙のベールに包まれて神々しくて分解する気が失せる。ほかのトリマも赤いラッカーでロックされていて素人には触らせないという意志を感じる(本当は調整方法がよく分かってないだけ)。

 CS-7とDX-CS-7の外観上の違いはBAND SELECTORとVOLUME間にANT-COMという豆コンが加わりそれに伴ってVOLUMEツマミの位置はBAND SPRED側に移動されていてこのあたりは少し混雑している。またCS-7-DXにはANLスイッチの位置にヘッドホンジャックが加わった。1963年の両者のキット価格は160円しか違わないのだがCS-7はメーター無し、DX-CS-7は球無しとよく分からない商品構成で比較しずらい。

 今回縁あってDELICA CS-7をメンテナンスする機会があった。子供の頃からの憧れのリグではあったが実際に目にするのは初めてだった。

 色はオーソドックスなグレーの縮緬塗装

 早速分解して点検すると過去に落下させたらしくケースが凹んでシャーシの角が変形している。スポット溶接を剥がして摘んだり叩いたりして修正を試みる。

  

スポットウェルダーはないのでタップネジで固定した。凹んでいるケースの角も裏から叩いて

      

パテ盛ってタッチアップしてまあまあ目立たなくなった。

内部の配線は非常に美しい。

 

パーツは当時のままと思われるので配線はプロの仕事かアマチュアだったらよほどの達人か。ところがスライダックで徐々に電圧を上げていくがB電圧が出ない。原因はスタンバイスイッチの不良で一応分解してみる。スタンバイスイッチは送信中に受信機が動作しないようにするものでこの機種は電源トランスの-B巻線の接地をON,OFFしている。

 

カシメをドリルでさらって分解して内部を洗浄、接点を磨いて接点グリスを入れてビスとナットで組み立てた。これで動作するようになったが電力がかかるスイッチの分解は勧められない。今回はスイッチのノブを統一したかったので行ったがもしされる場合はくれぐれも慎重にお願いします。

ツマミを動かしていたらメインバリコン、スプレッドバリコン両方の糸が切れてしまい手持ちと交換した。

 

ネジは旧JISのマイナスネジなので入手に苦労するのだが出物があったときになるべくストックするようにしている。ヒューズホルダーは2連で向かって左は100V、右は90Vの電源電圧対応でヒューズの位置によって電源トランスの1次側への入力が変更される。当時は電力事情が悪くAC100Vに達しない地域もあったらしい。通常は100Vの方にヒューズを入れる。

 

プラスチックのカバーは欠損していた。ヒューズホルダーの右にあるネジ端子は音声出力だがB電圧がモロに出ている。この端子に出力トランス付きのスピーカーが接続される。またチョークコイルの端子がシャーシに非常に近い。気休めかと思うがビニールテープを貼り付けた。

 欠損している裏板は鉄板で再製したかったが加工が大変なので諦めて1.5mm厚のアルミ板にした。オリジナルは裏板の4ヶ所が突出して脚になっているのだが加工する技術がないのでまた妥協、ゴム足にした。

 

仮組みして塗装します。放熱穴はオリジナルも無かったが真空管は1本を除いて背面近くに配置されているので熱は外部に放出されやすく大丈夫かと思う。。シャーシをケースに固定するネジは真ん中の2本だけで少し心許ない気がする(DX-CS-7は4本になっている)。ACコードはオリジナルでACプラグは古典的でちょっと怪しい状態だがまあ大丈夫そうなのでこのままいきます。シャーシのゴムブッシュはボロボロで交換。

 外装の目処が立ったのでようやく動作させてみる。このセットには出力トランスとスピーカーは内蔵されていない。出力トランス付きスピーカーを調達してコードを取り替えて

 

このスピーカーはTRIO 9R-42用に作ったのだがDELICA CS-7に対してはちょっと大きい、、かと思ったがゴム足つけたらバランスが取れた。DELICA DX-CS-7の純正スピーカーはかなり大きかった。

 スライダックで電圧を上げていくと動作はしている。ボリュームにはガリがあるが中波を聞いてみると夜間にも関わらず混信は少なく音声が浮かび上がって聞こえてくる。ほかのバンドも感度ありで一応動いている様子。B電源圧を測定すると168Vだがトランスの巻線は220Vなので半波整流にしてもちょっと低い。ヒーター電圧を測定すると5.0V、6.3V巻線共約1V程度低い。そこでヒューズボックスのヒューズの位置を変えて90V巻線に100Vを加えるとほぼ定格電圧になりB巻線電圧も216Vでヒーター電圧を優先してこの接続で調整するようにした。B電圧は+180Vまで上昇したがやはり低い様子。

 適当なアンテナ線を繋いでしばらく放送を受信していたが色々と問題点が現れた。ボリュームのガリがあって音声出力が安定しない、Sメーターがほぼ動かない、BFOは発振していない(最初は動作していた)、ANLは動作しているかわからない、など。回路図と照らし合わせてまず検波と低周波増幅のカップリングコンデンサー0.01μFだが漏洩が激しく6AR5がプラスバイアスになっていた。また12AU7のプレートから接地されている0.01μFも多分漏洩している。この時代のオイルペーパーコンデンサーはほぼ寿命が尽きているらしくまずこの2個を手持ちと交換、他のオイルコンは注文し到着を待って交換した。

最初のコンデンサー2個の交換でB電圧は+217Vまで上昇した。トランスの過電流でヒーター電圧が下がったかと思ったが改善後も変化はなかった。またBFOが発振しないバンド帯もあったので調べてみると注入する回路が無い。回路図ではCS-7は2μFでBFO出力が検波入力に入っているがDX-CS-7では点線になっている。あらためて配線したがコンデンサーではなくエナメル線をエンパイヤチューブに入れてねじって結合させる昭和の方法で(写真)全てのバンドで機能するようになった。

 

 専用のスピーカーを用意することにした。ラジオ用の出力トランスを購入してころがっていたミニコンポ用のスピーカーボックスに組み込んだ。

 

本体に合わせてゴム足で持ち上げた。底面が揃うと統一感が高まる。トランスの1次側は10kΩに設定した。この楕円スピーカーは耐入力100W(!)で能率は低く低域が強調される音作りでもし音声周波数帯が聞きづらかったら低域をカットするなど補正が必要かと思っていたが出力トランスを収めるためにバスレフポートを少し削ったのが良かったのか良好になった。能率が低いのでボリュームは結構回してしばらく中波の放送を深夜聴いてみたがなかなか快適、高選択度ゆえ音質は犠牲になっているといわれるが放送波を聴く分には不満はない。若い頃は毎日聴いてた民放AM放送を久しぶりに楽しんだが今から思えば深夜放送聴きながらまともに勉強できるはずがない。AM局は点検保守が大変で民放はFMバンドへ異動する放送局が多いらしく残念だがこれも時代の流れかと思う。NHKはこれからもAM放送は続けるらしいのでがんばってもらいたい。音声情報はとても便利でメディアは変わってもこれからも続くのは間違いない。

 

 ところで肝心のアマチュア無線バンド帯は全く入感がない。もっとちゃんとしたアンテナでないとダメみたいです。

 Harllicrafters S-38(初代)を上に乗せて大きさの比較をしてみました。

  

 縦横奥行きほぼ同寸法、重量はトランスレスのHarllicrafters S-38がずいぶん軽い。パネルの配置は細かな違いはあるが微々たるもの。表面仕上げは大きな違いがありDELICA CS-7の方が圧倒的に高級感がある。外板の厚みも異なるのだと思います。

 ついでにTRIO 9R-4(初代)と比べてみると

 TRIO 9R-4はMT管の9R-4Jになった時に寸法が少し小さくなり色や表面処理も変更になった。初代は大きく重量感がありDELICA、Harllicraftersと比較するとダイヤルスケールや突出が大きく立体感がある。Harllicraftersより大きくなった筐体にあわせることでパネルのバランスが崩れないように配慮した結果かと思う。DELICAもTRIOもSメーターが重要なアクセントだがパネルに対してメーターの位置や大きさは重要でどちらもデザインセンスの良さを感じる。レイモンド・ローウィのデザインは普遍性を感じさせるがこのパクリは今だったら完全にアウトです。

 並べてみてDELICA CS-7の魅力を再認識した。Harllicrafters S-38の美しさ、かわいらしさは誰もが認めるところだが性能には不満を感じる人が多かったのだろうと思う。茨木悟氏が「自分ならもっと高性能にする事ができる!」と意気込んで設計している姿が見えるような気がした。CS-4、CS-6は内部は高性能だが外観はほとんど一緒だったがCS-7になってSメーターが搭載されたことで魅力が決定的になったと思う。刻印されたレタリングやパネルの各パーツの位置関係は完璧で全く隙がない。Sメーターの0ポジションの調節つまみはパネルではなく内部のシャーシ上にあってちょっと不便なのだが表パネルにはデザイン的に設置する場所は残っておらずかといってシャーシ裏面設置であれば表から手を伸ばして手探りでつまみを探したであろう自分のようなものぐさ太郎が誤って高電圧に触れる恐れがあるという理由で避けたのではないだろうか。より高性能になったDX-CS-7では新たなつまみが一つ増えることでこの絶妙なバランスが少し崩れてしまったと思っている。

 

 

 

 お読みいただきありがとうございました。