Fairchild 245はFairchild 240の5年後の1959年に米国の同社から発表された。1958年にstereo レコードが登場し各社モノラルからステレオへの対応が急がれていたがMarntz社は有名なステレオプリアンプのmodel 7cを新発売する一方で既に発売されていたmodel1をもう一台追加しmodel6を組み合わせたステレオプリアンプにしたラインアップがあった。Fairchild 248は同様に一体となる金属製のケースに2台のFairchild 245とパッシブなコントロール部を組み込んだもの。245→258への改造サービスがあったかは不明。Marantz製品と比べてFairchild 245 258ともに目にすることは少ない。
Fairchild 245
Fairchild 245 は240と異なり端子板は用いずに直接配線している。あまり生産効率は良いとは言えず最初から大量生産は考えていなかったのかもしれない。
その1(sn 20*)
随分前に最初に入手した245だがボリュームツマミがオリジナルではないのが残念。コの字のカバーは単純な形だが厚い材の表面は細かく溝がある。塗装も凝っていて断面なども色分けされてカバーだけで4色が使われている。シャーシは薄型ということもあって箱状だが形状が複雑なため壁面は底板にねじ止めされている。背面観で露出している真空管シールドケースやトランス、プラグの保護カバー、整流管押さえの金具までも高さを揃えるためにシャーシの形を決めている。フロントパネルは床やカバーから離して設置してある。そしてシャーシの塗装は内面も含めて朱色にされている。
入手した時に整備したがそれからかなりの年数が経過している。バンブルビーも一部そのままになっていたが当時は問題なく使えていた。ブロックコンデンサーを1個廃して青いチューブラーがぶら下がっている。当時はこうするしか思い浮かばなかったらしい。早速通電するとコンデンサーの漏洩はなく奇跡的にそのまま使えるようだがこのツマミは何とかしたい。パーツとして入手することは不可能なのでレプリカを製作することにした。
レプリカを制作するのはほかのFairchild245から外してきたこのツマミ
電源スイッチ付きのボリュームつまみでOFFと1から9までの数字が入っている。よくみると浅く彫刻してあるがここは目を瞑ります。隣は今回初めて購入したシリコン印象材で同量混合する。かなり粘度が低く完全硬化するまで24時間かかるという。どういうものか不明なのでとりあえず混ぜて対象物を沈めてみた。
残念なことに失敗しました。1)印象材の底まで沈んだので底部分の厚みが取れず元型を取り出す時に大事なところが切れた。印象材の厚みが必要。2)外枠から取り出したが印象材が硬化後も柔らかいのでレジン投入後に変形しやすく外型に入れたまま次の作業を行なった方が良い。3)レジンの粘度によっては型の内側の再現のためには硬い型でプレスする必要があるので印象材では賄えない。硬い材料で逆型を作って押し込む必要があり。この辺りは歯科技工の義歯製作に似ています。
仕方ないのでもう一度印象を採ります。印象材の中央付近に対象物を固定する必要があるのでこのような形になりました。
これでまた24時間待つ。流し込むレジンがなくなったのでエポキシ樹脂を使うことにした。こちらも硬化まで1〜2日かかるらしい。手芸の世界でもすでに光重合レジンが主流のようだ。24時間後に取り出したエポキシ樹脂(透明な方)はまだハサミで切れるくらい柔らかいが肝心なところに気泡があった。だが気泡を埋めてこれを採用することにした。即時重合レジンも注文したのだがなかなか届かない。軸への固定方法をどうするか。SERIAで光重合レジンと光照射機を買ってきて試したがあまり相性が良くない様子。
軸より少し大きな筒を弾性エポキシ接着剤で固定してその後即時重合レジンで軸と合わせた。ボリューム軸が割れているのを利用して固定したが軸の加工を厭わなければ割れている片方を少しカットした方がより確実かと思う。
その2(sn 36*)
この個体も音量ボリュームツマミが欠損していて入手当時今回とは異なる方法で複製した。また電源トランスが不良で(欠損だったかもしれない)トライアッドのトランスがほとんど同寸法だったので若干回路を変更して搭載した。カップリングコンデンサーもバンブルビーから一部交換しているし平滑ブロックケミコンも2本とも交換している。またヒーター用のセレンが劣化していたのでセレンの間にブリッジダイオードをパラ接続して押し込んでいるのは見た目にこだわったから(全く覚えていないが)。
サイズが偶然に合って電源トランスの置換がうまくいったのは本当にラッキーだった。真空管プリアンプ専用の電源トランスの種類は少ない。Fairchildのメインアンプとプリアンプのトランスは大きさの異なる同型でこだわりを感じる。今回久しぶりに通電したがコンデンサーの漏洩もなく正常動作した。
その3(sn ***)
トーンコントロールツマミがチキンヘッドになっているがもちろんオリジナルではない。内部はあまり手付かずのようだがバンブルビーが割れているところもあるのでこのままでは稼働しないと思われる。まず欠損のツマミを何とかしましょう。その1と同じように印象採ってエポキシレジンを流し込む。
その4(sn 34*)
この個体も内部はほとんど手が入っていない。外装はパイロットランプのジュエルが欠品だったので同色のプラスチックを加工し装着した(実は接着してはいけない。このジュエルの裏にネジ頭があって着脱が必要)。ヒーター電圧は低かったが半固定抵抗の調節代がかなりあるのでセレンはくたびれているがもうしばらくは使えそう。バンブルビーのカップリングコンデンサーはやはり不良な箇所があって注文した。
その1、その3のツマミの複製がなかなかうまくいかない。印象材もレジンも初めて使う製品ということもあるが硬化に時間がかかるためなかなか作業が先に進まず。。不満はあるがとにかく完成まで作業して余力があれば再製しよう。
音量調整とトーンコントロールツマミの3個を複製したが不満多い。この際だからもう少しスキルを向上したいものだ。
エポキシ樹脂は硬化するのにとても時間がかかるので新たに即時重合レジンを入手しシリコン印象はそのままで作ってみた。しかし先端の大事なところに流れずプラリペアで補修して何とか形にする。
エポキシ樹脂はミッチャクロンを吹いたのだが今ひとつ塗料の乗りが悪かった。今回はパテ埋めしてミッチャクロン後にプライマー処理をきちんと行う事にしよう。インレタは非常に高価なのだがしょうがないのでまた注文した。貼り方も工夫する。
ところがインレタを固定するのにクリアーを乗せたら地が溶けてレタリングが沈んでしまいあえなく失敗した。クリアに含まれていた溶剤が地の黒ラッカーを溶かしたため。カバーのクリア塗料は当たり前に水性だろうが!、、またやり直し。そういえば昔はインレタ固定するための専用スプレーまで売っていた。
インレタの数字は大小一組ずつしかない。再度入手したインレタの数字の小さい方が失敗したので大きな方を貼った。オリジナルは両者の中間くらい。インレタは鉄道車両の模型用にいくつか出ているがオーディオ用は本当に少ない。数字だけなのでオーディオでなくても良いのだがもう少し潤沢に入手できないものか。水張りのためのプリンター専用紙もあるようだがインクジェットプリンターでは透明な背景に白の印字はできない。白インクを搭載したプリンターが以前あったように思うが現在はどうなっているのだろうか。
水性のマットクリアを吹いて2週間以上格闘したツマミの複製(向かって左)はようやく終了した。内部の不良コンデンサーはすべてオレンジドロップと交換した。
今回修復した4台とFairchild 240
横幅は240が奥行きは245の方が長い。245は何の変哲もない回路だと思うが面白いのは240は半導体(セレン)、後発の245は真空管整流だということ。240はあらゆる面で時代の最先端を狙った設計だったか。Marantz 1とMarantz7c の違いと共通するものを感じて興味深い。
Fairchild 248
Fairchild 248は前述の通り245を2台重ねてその横にパッシブなコントロール部を追加し一体化したもの。
その1
コントロール部は電源のON,OFF(しかし各アンプの電源プラグを挿しただけ)、モノラルとステレオの切り替えと各々のラウドネススイッチ、音量コントロールボリュームとなっている。
内蔵の2台のアンプはシリアルナンバーも別々にあって当然電源トランスを含めた電源部も各々にある。最初から248を見据えて245を設計したのかは不明だが信号の引き出しコネクターはあるのでそうだったのかもしれない。248は2台の245をL型のサブシャーシで支える構造でこのサブシャーシで2台のアンプの繋ぎ目が前面から見えないようになっている。
そんな全く非合理的なステレオプリアンプは最初からオーディオ機器としての実用性などは考えられてなかったのかもしれない。だがその存在感、品格の高さに圧倒される。Fairchild 245単体も独特な気配を感じるが248は別格なオーラを放つ。
この個体はほとんど(全く)手が入っていない。ヒーター電圧は問題ないがバンブルビーのカップリングコンデンサーが漏れているところがあって交換した。そして上段の245を外して下段をみると、、
、、電源トランスからピッチが溢れ出て電解コンデンサーのあんかけ状態になっていた。。トランスの2次側B巻線の短絡らしい。そういえば背面から見たトランスの色がかなり異なっていて随分発熱したのだと思う。この個体は入手してから稼働させたことはない。245でトランスを入れ替えたのが1台あったが多分こういうことだったのだろう。これは困った事になった。以前から巻き替えをお願いしているC電器さんに写真と回路図を添えてお伺いを立ててみる。返事待ちの間に整備した245と交換して248の蓋を閉じた。
トランスを送ってすぐに状況報告のメールが届いた。内部のコイルは炭化状態で詳しい巻き数が測定できない状態で2次側の電圧を教えてほしいという内容だった。他の245の真空管を抜いて電圧を測定してレポートしたが納期は2週間ほどらしい。
その間に平滑回路のコンデンサーが機能しているか確認する事にします。
まず整流直後の高圧がかかる電解コンデンサーの容量を回路を切り離して測定するとほとんど抜けていてDCRも下がって完全に不良。ここに過電流が流れてトランスが故障したのだろうか。そうであれば整流管も道連れになっているかもしれない。このブロックコンデンサーは紙筒に覆われているのでヒートガンで固定しているピッチを溶かして取り外して
金属缶をダイヤモンドディスクで切断して必要があればヒートガンで加熱して内部を取り出し切り口を整形する。内蔵コンデンサーのリード線は端子への内部でのハンダ付けは難しい(アルミなので)ので小さな穴を開けて表に出してハンダつけ。接着剤でコンデンサーの固定と筒を組み立てて完了。ブロックコンデンサーが入手しずらく価格も高騰しているので最近では当たり前にこの方法だが特に不具合は出ていない。
しばらくして修理完了で帰ってきました。
コイルが炭化するほど傷んでいたので出力線も交換です。ピッチを溶かして中身を取り出して清掃して巻き数を数えて(今回は一部炭になってたのでムリ)コアを整えて巻き直してまた組み立てる、、。ホントに大変な作業です。
早速取り付けて配線した。
意外だったのはトランスのB電圧が少し低かったこと。これは私の測定方法に不備があったのかもしれない。しかし動作には問題はない。
その2
こちらも内部を見たのは入手以来初めてだがかなり手が入っていた。平滑の電解コンデンサーはチューブラーが大量にパラに入っているということはオリジナルは全滅らしい、カップリングだけでなくトーンコントロールのバンブルビーも交換されているところが多い。B電圧が未交換機よりも10%ほど高いので他の平滑コンデンサーは劣化しているかもしれない。機能的には問題なさそうなのでこのままとするか見た目を重視してもう少し整理するか。パイロットランプが1個切れていたがこのソケット形態の6V球の製品はまだ流通していて入手可能。パイロットランプの下半分を黒塗料で塗りつぶしてあり光が上方にだけ当たるようになっている。
この製品の最終チェックは十数年前というシールが貼ってあった。シールドされたコンデンサーのボディはしっかりアースされている。作業された方への敬意を表してこのままにしておくことにします(ちょっとエラソーだな)。
修理(巻き替え)したトランスと複製したツマミをまとめて取り付けて修復が完了したFairchild 245
お読みいただきありがとうございました。
雑記1
鳥山明氏が逝去されました。享年68歳とのことでかの手塚治虫氏は60歳で亡くなりやはり漫画家は体への負担が大きいのではないかと思います。数十年前の学生時代に私は中京地区に住んでいました。東海ラジオのローカル深夜放送で笑福亭鶴瓶氏の番組があった。リスナーのお便りコーナーで鶴瓶氏「この人漫画家みたいやから電話したろ」繋がった相手は新人の鳥山氏でこれから雑誌で連載が始まるのだという。多分Drスランプ アラレちゃんのことだと思うが懐かしい思い出です。鳥山氏の画力の素晴らしさは万人が語るところですでに芸術の域に達していると思っています。ご冥福をお祈りいたします。