Decca Decolaがお嫁入り

やっとこさ入手したDecca Decolaの整備記録

Marantz Model 6 について

2016-07-25 11:46:47 | Marantz

 Marantz Model 6はステレオアダプターということで詳しい情報はあまり目にすることはありません。歴代Marantz製品の解説記事でも省略されることが多い。



 1958年ステレオ化されたLPレコードにいち早く対応するために「Model 7c」より早い時期に発表されたとされています。2台の「Model 1」とともに専用キャビネットに収めて使用している写真が一般的な姿だがツマミがいっぱいでゴージャスでやっぱりカッコよろしい。冒頭の写真はパネルの表示の向きが90度回転している。キャビネットに収めるときは縦設置に限られるが実際に市販されていたのは独立して稼働する場合に対応した横タイプ(冒頭の写真)もあった。
 シリアルナンバーなど詳細については不明だが横タイプでも後ろの入出力端子の表示は縦方向なので縦タイプが本流だったと思われます。「Model 6」は中古市場でも非常にレアでめったに目にすることはありません。たまに見るのはこの横タイプが多いような気がします。単品を収める小さなウッドキャビネットも見たことが(写真で)あります。以前「コピー版 Model 6」をオークションで見たことがありますがかなりの力作で落札されたかは定かではありません。

 海外オークションで奇跡的(といっていいのでは)に「Model 6」の純正パーツが出品されていました。
 
 このパーツを利用して横型と組み合わせて「縦型 Model 6」を作ることにしました。

 


 その後入手した資料によると「Model 6」は「Model 6H」と「Model 6V」で横型、縦型の2種類あって寸法と価格は同じで各々$45.00とのことです。
 キャビネットの無い「Model 1」は$153.00 なのでこれらを買い足してステレオ対応にするにはプリアンプだけで$200近く必要になります。もちろんメインアンプとスピーカー、ステレオ対応のピックアップなど周辺機器も要るし。その後発表された「Model 7c」はキャビネットなしで$249.00 どっちにしようか迷った人は恵まれた人でしょう。Model 7cは日本円で当時16万円から17万円というからサラリーマンの平均年収より明らかに高かった。
 現物から回路図を起こすことは能力と根気が無いので諦めました。

 簡単に信号の流れを見ると

 「Model 1」の recording output からEQ出力(当然レコード再生ポジション) ー (Master function)ー(Tape recorder入出力)ー(normal-reverse切り替え)ー(Master volume)ー 出力端子(to preamp tape inputs)
 Tuners(モノラル2台、もしくはステレオ1台)               ー
 Tape player                               ー
 TV                                   ー
 Extra                                  ー

 という構成。ステレオとモノラルの切り替えなどなかなか複雑です。配線は裸単線を多用した直線的手法でACスイッチは2つのコンセントをMAX 1750Wまでオンオフする。phono以外の入力は「Model 6」に直接入ります。またメインアンプへの出力は「Model 1」から。
 特徴的なのはMaster volumeは抵抗で構成された20ステップのロータリースイッチで出力直結なのでアンプまでの接続線によって音質に影響を与える。「スペシャルケーブルを使え」としっかり書かれています。残念ながらどの程度スペシャルなのかは現物を見たことはありません。
 

内部の写真です。



 ACコードはかなり傷んでいて交換が必要。同型のものは入手が難しい。

 「Model 1」2台と「model 6」1台を収めるキャビネットを作ります。 

 webを見ていると「Model 1」と「Model 6」のパネル色が微妙に異なっているのが多い。改めて自分のをみたら「Model 1」同士も全く同一ではありません!

 また「Model 6」に固定の金具がついてる写真がありました。金具には6ヶ所の穴が開いていて「Model 1」本体の折り曲げて作ったシャーシを箱状に留めているネジと共締めしている可能性が高い。とすれば3台は強固な共通アースとなっていて必要とあらばこの金具のコピーも考えるが、、もしハムが発生したら別アースで対処することにします。
 キャビネットの形状もちょっとずつ違いがあるので純正以外でも特注もしくは自作した人がいたようです。個人的な好みとしては「額縁(木枠)はなるべく薄くしたい」のでゴージャス感を演出するテーパー処理は「Model 7」のように側方のみとします。「大きさは「Model 7」と同じ」などというデマもあったらしくまた以前にオークションでこのキャビネットという説明のものを落札した事がありましたが、送られてきたのは小さくてアンプは入らず。出品者は複数出してたのですが採寸ミスだったらしい。もちろん返金してもらったが立派なケースだったのでがっかりしました。

 簡単な図面をフリーハンドで描いてホームセンターへ。この時点ではMDFの板厚がわかっていないので空白の項目もある。これがマチガイの素になりました。

 12mm厚のMDFをカットしてもらったが誤差やこちらの勘違いもあって手作業の修正が入ります。
 ともかくボディができまして仮留めしてみる。


 けっこう時間がかかってしまいました。やはりパーツの精度が命。MDFは反りがないので寸法が合っていればクランプで固定して作業が早く進んだはずだったのですが。これから突き板を貼っていきます。

 まず#100位のサンドペーパーで段差をやっつける。猛暑の外玄関で15分で汗まみれとなる。(昨年の今頃はアジアンべスパと格闘してた)


 突板張りのオールキャスト 肝心の突板はネット注文で入手できます。今回はいつかの余りもので足りそう。

 専用の接着剤もあるのですが行方不明(もう使えなくなってるかも)。木工用ボンドは普通のもの(速乾でない)、ローラーと新品の(ここが大切)カッターの刃
 霧吹きで湿らせてからボンドを板と突板両方に塗ってローラーで均一に広げる。量はとても大切。少ないと剥がれるし多いと凸凹になる。
 

 
 そのまましばらく放置。数分すると(今は盛夏ですので)透明になって指にはりつかなくなる

  
 大きめに切った(縮むので)突板を割と高温のアイロンで貼っていきます。気泡が残らないように内側から外側に

 完全乾燥を待たなくてもいいと思いますが(少し自信がない)カッターで切っていきます。カッターの刃はどんどん交換する。切るスピードはゆっくり。0.3mm厚の突板を立体的に観察する。断面をシャープに垂直に。

 ようやく1面完成。やっぱりたいへんだ。時間がかかります。
 突板張り完了しました。まだサンドペーパーはかけてない状態。

 
 ノロマな亀なもんで5時間もかかりました。プロならあっという間にもっと美しく、でしょうね。今日は午後から仕事が無くってよかったです。
 あとは接着剤が完全硬化したらペーパーがけしてオイル仕上げにする予定。

 接着剤が大体硬化したようなので待ちきれずにアンプ類を組み込んでみる



 取り付けネジも色々迷ったが金ぴかパネルにあわせて真鍮製。これで音出し。。もちろん見た目以外何も変わらず。

 今まで見たことがないセットですが大きい(!)です。ピカピカだし存在感があります。やはり1950年代のアメリカ製品ということか。

 暑い日が続きます。ヒマをみて#320サンドペーパーかけてワトコオイル(ダークオーク)を刷毛塗り

 「たっぷり塗れ」と書いてありますが、オイル塗ってはじめて弾かれる所がわかる。ここははみ出した接着剤が付いたところ。濡れ雑巾で拭くわけだが拭き取りが甘く毎度最終段階で影響が出てしまう。15分位放置したら拭き取ってまた塗る。この時ウエットサンディングを行う。ゴム手袋は必需品です。

 3回塗って1日乾かしてできました。

 小さいゴム足つけてます。ときどき乾拭きして染み出したオイルを拭き取れとあります。『type 4』電源もヒーター用にセレンに変更して修理完了です(「type 4」の項参照)。

 知人でこのフルセットを持たれているのだが音質に影響が出るという理由でキャビネットから外して「Model 6」も使っていないという方がいます。音質から考えればたしかに余計な接点や接続ケーブルを通すわけなので気持ちはわかります。今回初めてこのセットを使ってみて操作性の良さに感心しました。今までは寄せ集めてとりあえずステレオ対応に仕立てた、、というイメージだったのですが実際は高級感に溢れた使いやすいオーディオ機器でした。これなら当時高い出費をした人も満足したのではないでしょうか。
 また「Audio consolette」と共に一段増幅を奢った「可変ラウドネス回路」ですがとても効果的に働きます。ラウドネス回路はその後廃れてしまいましたがひょっとするとこのアンプの一番の特徴かもしれない。ゴージャスな音に満足度も上がります。

 

 


 お読みいただきありがとうございました。


Marantz Model 1 について

2016-07-23 18:11:04 | Marantz

 1953年にMarantz社を設立して本格的に生産を開始した最初のアンプが「Marantz Model 1」で「Audio Consolette」から回路も変更されました。しかし変更後の回路図には相変わらず「Marantz Audio Consolette control preamplifier-equalizer」と書かれていて「Model 1」という文字は見当たらず。いつからそう呼ばれたかは不明ですが肝心の本体にはしっかり書かれてます。

 シリアルNoは9000番台ということでかなり後期の個体と思われます。シリアルNo7663にはこの文字はなく、シリアルNo8129にはありますので、1956年発表の「marantz Model 2」に合わせて「Model 1」と命名した可能性もあるかと思います。そして電源コネクターの上部には「Connect only to Marantz Type 4 Power Supply」とあり電源にも名前が付けられています。「Type 4」電源は「Marantz Model 3」が1957年に発表された時に名付けられたといわれますのでこの「Model 1」はそれ以降に販売されていたことになります。1958年に「Model 7」が発表されますがその後「Model 1」がいつまで販売されていたかは不明です。またこの文言からも販売の形態も電源別だった可能性もあります。「Type 4」電源はいかにも安っぽい(!)雰囲気ですので簡単な回路でもあり高いお金を出さずに自作する人も多かったのでは。「Model 1」は何台製造されたかも不明ですが変更後の回路図にシリアルNo3000以降とかかれていますので6000台以上なのは確実と思われます。モノラルアンプですので13000台売れた「Model 7」と比較することは難しい。新製品の「Model 7」はとても高価だったので「Model 1」2台と「Model 6」でステレオ対応とした人も多かった。。とは必ず解説に出てくる文章ではあるが「Model 1」も「Model 6」も十分高価だったわけで。どこからもう一台を調達してきたのか、、これら3台を収める専用のキャビネットと「Model 6」がどれくらい売れたのか、興味深いところです。中古市場に「Model 6」を見ることは稀ですので私の感覚としてはこの構成にしてステレオ化したケースは少なかったのではないかと思っています。

 「Audio Consolette」と「Model 1」の違いについては「Model 6」を接続できるか否かつまりtapeモニターがあるか無いかの差と言われています。外観上の差は操作ツマミの形状の変化、前述のtapeモニタースイッチの新設、電源パイロットランプの位置の変更など。
 新設されたtapeモニタースイッチ

 それに伴い入力セレクターも変更 接点数も少ない。
 
 EQカーブ切り替えスイッチの変更 RIAAの文字が。treble側が異なっている。
 



 その他はあまり違いは無いのではと思われていました(少なくとも私はそう思ってました)。 今回両者の回路図を比較すると素人目にもその違いの多さに驚かされます。



 気づいた主なところは、、 
 各部の電圧が異なります。ほぼ15Vほど低くなった(ヒーター以外)。 EQ素子の定数は異なるが増幅回路は同一。次段V2は12AU7から12AX7へ変更となりカソード抵抗などの変更。2連ボリュームはV2a,b各々の入力に入るのは変わらないが、V2aのボリュームには直接信号が入り出力後に0.022μFがあってからグリッド抵抗。ボリュームに電圧が加わらない改良。故上杉先生がよく仰ってたガリオーム予防に有効か。そして最大の変更点であるトーンコントロール部と可変ラウドネスコントロール部の入れ替え。外部電源にあったコンデンサーの廃止、Cutoff filterの変更など。12AU7から12AX7へ変更して増幅率が上がりパスコンも廃止している。V2aの分割されたカソード抵抗の部分に0.0039μFというパスコンが入っているが高域の出力インピーダンスの低下と特性の上昇を行っている(と故上杉先生の解説)。デカップリングはより厳重となりこれでもか!とコンデンサーを入れている。SPレコードからLPレコードへの移り変わりの時期でより特性の向上を狙った。ほとんど別のアンプのようだ、、はちょっとオーバー。

 内部の構造は全くと言って良いほど変化はない。基盤にピンを立てて直線的な配線を行い3ヶ所のゴムによるインシュレーターでフローティングしている構造は1958年発表の「Model 7」でも踏襲されている。電源からの給電線の太さや色、たわみ具合までも同じでやはりソウル・B・マランツという人のこだわりというか一種の狂気を感じる。

 シリアルNo9000番台と8000番台の「Marantz Model 1」です。この頃になると裏に「Model 1」としっかり書いてあります。

 
 
 
 
 900番位の差はありますが両者はよく似ており、最後期の円熟期の製品だったことが伺えます。もちろんメンテの手が同時に入ったせいもあると思いますが、外装や固有のパーツはほとんど共通です。オリジナルのコンデンサー類は「バンブルビー」の他、時期によっては「グッドオール」が使われていた。メンテによって今は「vitamin Q」が多用されています。
 実は今まで不具合があり稼働していませんでした。不具合の内容は片chのみですがbassを回しきると出力しなくなる、Cutoff filterを回すと音質が不自然に(もこもこに)なる、出力が若干低い、など。V2周囲のトラブルとは思われましたが原因がわからずカップリングコンデンサー、はたまたメンテ時の誤配線まで疑ったが原因の特定ができず、4時間も悩んで右往左往した。原因は1ヶ所のアースが浮いていた(断線していた)というもの。まあ、、よかったです。。

 Marantzなど旧製品の修理を行うときに必ず話題になるのが交換部品についてです。愛好家の心情としてはオリジナルに戻したい、近づけたいというのは理解できます。わたしも全く同感だからです。より良い音で聴きたい、、と積極的に部品交換や回路変更をした時代もあったかと思いますが現在はそういった要求は少なくなったと。時間の経過に伴う劣化により交換を必要とする筆頭はやはりコンデンサー類。見た目の存在感が大きく実際音質への影響もあるために生きているオリジナルパーツを探しまわっている人は多く、びっくりするような価格で取引されている。いくらNOS(新品未使用)でもやはり劣化はあり奇跡的に初期の性能を保っているものは貴重品というわけです。またMarantzのプリアンプの特徴である電源部のセレン整流器も同様で、すでに製造されていないものを探しまわる。コンデンサーとちがって救いはまだ細々と新品が入手できること。ただし価格はこれまたびっくりするような。
 わたしの感覚としてはパーツによって音質の違いは否定はしないが決定的な差にはならない、、ということです。それよりもリークの有無、供給電圧の適正の方がよほど影響が大きい。当たり前の世界。部品をかえたらガラッと変わったとしたらどこか故障していたから、、と思うことにしています。同様にスピーカーコードなども。安定動作しているアンプであれば天地がひっくり返るような音質の差は出ない。音に対する曖昧な評価も加わって魑魅魍魎が跋扈する世界。
 アンプの音の差は正常動作していることに加えて構造的な堅牢さの違いが大きいのではないかと思っています。筐体の構造、部品配置、配線の技量、接点など信号ライン曖昧さの排除、構成パーツの品格など。これらがしっかりしていれば多少パーツ交換したとしても骨格まで変わることはありません(あえて断言)

 日本に「マランツ」が入ってきたのは「Model 7」が最初といわれています。米国での発表が1958年12月ですので1959年以降となりその後の「Model 8B」と共に一躍その名を知らしめた。「Audio Consolette」から「Model6」まではその後に知られるようになりリアルタイムではありません。1950年代の日本といえば戦後の混乱期からようやく立ち直り高度経済成長が訪れつつあったころ。一般庶民にとっては未だ「家電」への需要が多かった時代です。「Marantzのアンプ」などというのは遠い異国の夢の世界だった。以来60年近く経過した現在、当時の様子を想像しながらメインテナンスできることに感謝しています。なんといっても素人にはキカイの内部は絶対に触らせてもらえなかったにちがいないからです。いい時代になりました。


Marantz Audio Consolette について

2016-07-19 23:39:14 | Marantz

 ソウル・B・マランツはレコードコレクターだったらしく上質なレコード再生に意欲を燃やしていた。市販の機器に満足できなかった彼は数年の歳月をかけて自分用のオーディオ機器を製作した。(ここまでは日本でも居たかつての自作少年と同じ動機。自作がメーカー製品を上回る性能が出せると信じていた幸せな時代)タダの自作少年と異なるのは出来上がったのがホントに高性能で魅力的だったということ。どうやって受注したかは不明だがあっという間に数百台単位のバックオーダーを抱える事になる。。高性能以外にも製品としてのデザインが魅力的だったのではないかと強く思います。「Apple Ⅱ」の功績として「美しいケースに収めて商品価値を高めた」のと同様に、どんなに高性能でもバラックセットを欲しがる人は少ない。スティーブ・ジョブズもソウル・B・マランツもインダストリアルデザイナーとしての資質が高かった。


 価格はキャビネット付きで$155。キャビネットだったらもっと安い。

 1951年当時はLPレコードが発売されて3年ほど経過した時代でまだまだSPレコードも多かった。もちろんモノーラルでEQカーブも各社間で統一されていなかった。マジメなマニア達は正しく再生するためにはEQカーブを合わせなくてはならない!と信じていたので多くのEQカーブに対応したこのアンプは歓迎された。

 現在でもMarantzの真空管アンプは高いという印象ですが当時のこの価格は(多分)一般庶民には縁のない世界だったと思われます。HiFi再生への熱気の始祖かと。
 「Audio Consolette」と「model 1」の違いはツマミなど外観もあるが一番はテープモニター回路が組み込まれたこと。これにより後日「model 6」と2台の「model 1」を組み合わせてステレオ再生ができる事となる。ただしそれを見越して「model 1」を設計したかどうかは不明。また「Audio Consolette」の特徴的な樹脂ツマミですが古い「McIntosh」のプリアンプのとよく似ています。(「model 7c」に至っては中央のノブは「McIntosh」と共通部品だったりする。)また外部電源についての型番はカタログ記載されていないのを見ると「電源 TYPE 4」の命名は後日だったようです。また単品供給されたかは不明です。


 「Marantz Audio Consolette」です。拙宅の不動のメインの(?)プリアンプとして長らく稼働してましたが、ここ最近は冬眠してました。。久しぶりに起こしてみます。



 ウッドケースは10年ほど前に自作したもの。ホームセンターでカットしてもらったMDFに突き板貼ってオイル仕上げした。初心者用の接着剤付き突き板です。
 「TYPE 4」と後で命名された電源



 簡素なバンド型電源トランスの出力はヒーターとB電源を各々セレン整流器に。一方には電解コンデンサーが入ってますが取付金具がリベット留めなのでオリジナルらしいが回路図には無い。

 そこでもう少し探してみると、、

 こちらはコンデンサーがあります。また回路もずいぶん異なっている。可変ラウドネスがEQの次にありトーンコントロールと入れ替わっている。こちらがホントの「Audio Consolette」のよう。だいたい真空管の種類すら異なる。

 本体を接続してAC117Vを入れて出力電圧を測ってみるとヒーター電圧は21.0Vと24.9V(回路図では26.5V) B電源は283Vと281V(回路図では320V)でやっぱりセレンがちょっと元気が無い。けどこの程度ならスルーします。

 久しぶりに本体を開けてみます。





 入出力端子はアース母線が張られシャーシに落とされている。この辺りは「model 7」よりも厳重。事実こんな風に改造されたのも見る事がある。





 左右chの様子はよく似ています。シリアルNoがないのでいつの時期の製品かはわからない。カップリングコンデンサーはバンブルビーを含めて骨董品が多くリークを測ってみると、、無し。これはちょっと驚きです。
 前回メインテナンスしたのは多分10年近く前ですのであらたな部品交換は覚悟していたのでとにかくよかった。
 当時交換したバンブルビーはリークの無いものはアキシャルタイプしか入手できなかったのでリード線を裏側に回して装着しています。思い出しても涙ぐましい努力。。というのもこのアンプに一生添い遂げよう(!)と決心して作業した。今あらためて見回してみてもその時の熱気を感じる。

 上下のパネルを留めているネジです。「Model 7」などではタッピングビスですがこれはUNCのマイナスヘッドが使われています。

 オリジナルのネジはアンプの顔の重要パーツだと思ってますが少々ゴマかしてオリジナル以外も混じってます。

 しかし度重なる着脱でネジ穴がおバカになってしまったときの対策

 これは自分がしたのか、、わすれました。でもいい方法かもしれない。ウッドのケースは前述のように自作品

 「model 7」のウッドケースのようにゴージャスにしたくなかったためこうなりました。「Audio Consolette」用の2階建のウッドケースは存在しませんので。単品の横板のみのウッドはMcIntoshの初期のプリアンプでもみられます。1950年前後当時の流行だったのでしょう。

 搭載の真空管はECC33とECC32です。いずれもtelefunken ♢マーク付きで気合十分。。

 真空管のシールドケースはEBYが4本、CINCHが2本でここは気合が足りなかった。。

 あらためてフロントパネルを見てみる

 最大の特徴である豊富なEQカーブ切り替え。一般の人も気にして切り替えてたのだろうか?

 トーンコントロールの中点は真ん中ではないのです。。

 手持ちの資料では最初期の「Audio Consolette」はbassの中点印は真上にあったらしいのでこの個体は最初期のものではないということになります。1951年〜1953年まで製造されていて何台作られたかは不明ですが、上載の2つの回路図の上の方には「SERIAL No 3000 and up」との記述があり回路は「Marantz #1」になってるようなので「Audio Consolette」の製造台数は2999台なのかもしれない、、と妄想。(でも多分そんなに多くはないと思ってます。短期間でもありますし)
 入力切り替えと凝ったラウドネスコントロールとカットオフフィルター。入力のTAPEは「Model 7」のようなヘッド入力ではなくLINE入力対応。
 


 早速聞いてみます。JBL SE400Sを繋いで同じくJBLメヌエット、CD音源です。しばらくソリッドステートのアンプばかり聞いていたのでやっぱり新鮮。
 電源は結構発熱します。しばらくぶりなのでやはりメインボリュームはガリオーム状態。ぐりぐりするうちに消えてくれました。

 溜めも誇張もなく滑らかにさりげなく軽々と音が出ます。たかだかLINEアンプの違いなのにこの違い。やっぱりオーディオは面白いです。


Marantzのアンプ

2016-07-19 23:33:07 | Marantz
  Marantzブランドは今でも続いてますがここでの「Marantzのアンプ」とは私の独断で「Marantz Audio Consolette」から「Marantz model 10」(アンプぢゃないけど)までとします。というのはMarantz社の創立者ソウル・B・マランツが関わったのがここまでだったからです。完璧な製品を求めるあまり経営は火の車となりその後は他社に吸収されてしまい、ソウル・B・マランツは社を離れることになります。Webで見るMarantzの歴史については皆ほぼ同様の記述ですが簡単に述べてみますと
  1951年頃自分のために製作したプリアンプ「Audio Consolette」が評判を呼び、友人からの受注が400台(!)にも達したため1953年にMarantz社を設立して対応した。当時のEQカーブはレコード会社によってバラバラであったため対応できる高性能プリアンプが求められていた。やがてEQカーブはRIAAに統一され、「Audio Consolette」も「Marantz mode 1」へと進化していく。そしてMarantz社にシドニー・スミスというエンジニアが入社し以降Marantzのメインアンプを一手に開発することになる。(ソウル・B・マランツはメインアンプの設計はしなかった。また「Model 10」はセクエラが開発、設計した。)
  これらのアンプで一番有名なのはやはり「Marantz model 7」でしょう。1958年に発表されLPレコードのステレオ化にいち早く対応したプリアンプで一般に「model 7」といわれるのは「model 7c」(ということだがいつから7から7cに変わったかはわかりません)「model 7c」は1965年までの長きにわたり13000台も製作されたので使用されたパーツなどにも変遷があります。webでもかなり詳しい解説がされていて興味深く読ませる。それに加えて神格化された表現や骨董的価値も相まって一種独特な世界を作っている(という印象)。そして昨今の高騰具合には驚かされます。(この価格でホントに流通しているのだろうか?とおもわせる凄いのもある)
 私自身もMarantzのアンプには長い間関わってきてます。今回しばらく遠ざかってしまった事情もありメインテナンスを兼ねてちょっとお勉強してみようと思います。

JBL SA660の整備

2016-07-09 03:50:10 | JBL
 第1期JBLのアンプの最後を飾るJBL SA660はJBL SA600の40W+40Wを60W+60Wにして1969年に発表された。JBL SA600との違いはパワーアップ以外でもフロントパネルがシルバーからマットブラックへ、ロゴの変更に伴いパイロットランプの位置の移動。レバーの形状の変更、トーンコントロールが同軸の左右別々に。回路的にはパワーアップに伴うメインアンプ部の電圧の変更、プリアンプ部にトランジスターのリップルフィルターが新設など。


 色は異なるがフロントパネルのヘアライン加工はJBL SA600と同じ。ちょっと見では気付かないが電源スイッチ部分は縦、コントロール部は横方向。 アーノルド・ウォルフへのインタビューでヘアラインの方向を変えたのは「向かって左側に電源があることをパネルデザインとして表現したかった」ようなことを言っていたような覚えがあります。(詳細は忘却)このアンプの回路上の最大の特徴は「Tサーキット」。JBL SA660は「T」のラインで電源スイッチ、ヘッドホンジャック、エンブレムを分けている。不思議なことにJBL SA600にはこのラインのうち横方向がない。ディズニーワールドの隠れミッキーロゴではないがアンプのいたるところに「T」が隠れててるように思えてならない。






 この個体はメンテの手が入っています。ぐるっと見渡すと、、

 まず目につくのがスイッチON時のポップアップノイズを避けるためのリレー増設。スマートに加工されてます。プロの技か?


 メインボリュームが変更され延長軸使用。ボリューム軸が短いためだが50kΩ2連でラウドネス端子も出ている貴重品。純正ではないと思うがよく見つけたものだと思う。残念ながらツマミのイモネジの6角穴は死んでいますし延長軸周りの加工に少々難あり(工作された方エラそうにすみません)。

 メインアンプ基板の電解コンデンサーはかなり交換されていますがプリアンプ基板はほとんど手付かずのよう


 全体的にさほど荒れた様子はないのでメインボリューム周辺の交換は残念な所です。
 この個体は数年間常用した後ここ2年位寝ていたものです。久しぶりに火を入れてみる。。普通に鳴ります。ノイズも感じられない。
 しばらくJBL SA600を聴いていたので同じ環境で比較をすると、やはり低域の安定感、量感はあるように感じる。高域の分解能がちょっと異なるようにも思うが個体差かもしれない。全域が低域の量感アップで統一されたような、、印象。

 当時の比較試聴記事をみてもこの2機種の音の違いはあり、概ねJBL SA600の方が評判は宜しいようで。メインアンプ部の電圧以外はほぼ同じ(全く同じ?)回路と構造だと思ってましたが細かく比較すると(素子なども)異なっているのかもしれません。

 メインテナンスはまずボリューム周りから。延長軸は荒くカットされているので面取り。幸いにツマミは外せたが6角部が舐められてるイモネジはマイナスドライバーで回せるように溝を切っておきます。

 今回のように舐めたヘキサゴンネジはトルクスレンチを叩き込んで回す方法があるようですが深いネジ穴に入っている場合はむつかしいかもしれない。

 改めて分解してみます。
 側板を留めてるネジをはずして後ろ方向へスライドさせて
メインアンプは4本のネジで留まってます。JBL SA600の初期は4本とも内部からのアクセスだったが、後期から2本は外部(裏側)を緩めます。
もう2本は内部に
フロントパネルは取り外す必要がないときは横の4本のネジをはずして
プリ基板を留めてるネジを数本はずす。電源からのアースが外れるので要注意。このまま通電するとプリアンプとメインアンプ初段の接地が無くなり支障がでます。
この状態でプリ基板は引っ繰り返せますがすべて露出するためには中央の入出力板をはずします。
こうなります。
メインアンプ基板を外すときはヒートシンクからトランジスターをはずしてビスを抜いて、、今回は割愛。

 全体を掃除して終わりにします。もうしばらくこのまま使えそうです。

 
 以前からJBLのアンプには魅かれるものがありました。念願叶って入手できたときは音が出るだけで満足していた。ソリッドステートアンプは恐れ多くてとても自分で整備、修理はムリだと思ってましたが、今回必要に迫られてなんとか一通り完了することができました。いい経験だったと思います。真空管アンプはちょっとくらいのマチガイがあっても決定的に壊れることは少ないがトランジスターは正直に壊れる。そして壊れたら絶版トランジスターの入手は困難、、、と言われています。今回はインターネットを活用して新旧トランジスターを入手することができました。周辺パーツも拘らなければほとんどタダに近い価格。半導体工作が趣味な方にはまさに天国な状況かと。真空管を取り巻く環境とあまりにも違うことに驚かされました。
 
 JBLアンプをお持ちでトラブルなどの修理でお困りの方、情報交換いたしませんか?



 お読みいただきありがとうございました。



 後日談1
  入力のRCAジャックの接触不良の対策についての質問がありました。また私自身でも使用中にこの症状が確認された。少しコードをゆすったりしても雑音や途切れが生じるというもの。(久しぶりに)早速分解してみる

 ジャックは共通のアースを兼ねるアルミニウム金具にかしめられて取り付けられている。芯線はその下のプリント基板の回路に直接半田付けされる。コードの負荷がかかるので結構トラブルが出やすい構造のようだが導通を確認するとアース、信号共に接触不良は生じていない。ではなぜ問題が出るのかだが、私の場合は単にジャック表層の劣化によるものと思われた。
 
 テスター棒を押し当てても導通しないほど進んでいる。サビというよりこな吹き状態で酸化皮膜を削ぎ落としてみましょう。
 
 カッターの刃やサンドペーパー、コンパウンドを付けたプラグでグリグリ、、などいろいろ格闘すること2時間でこうなった。幸いなことにこれでトラブルは消失してくれた。また静寂感が増した気がする。しかしメッキが用をなさない状態なので錆対策が必要で接点オイルでも買ってこようかと思う。
 また今回は大丈夫だったがもしかしめ部分が原因の接触不良の場合はどうするか。一大決心してジャックを取り替えなくてはいけないかもしれない。またはプラグが当たらないところにジャックに直接アース線を接続できないだろうか、、とも思っています。


 後日談2
  トレブルを一杯に上げてメインボリュームを回すと発振することに気づいた。発振といっても可聴域外でこの現象はSA600などでも発生したことがある。発振対策をオシロスコープで観察しながら行う。効果的だったのはプリの出力にシリーズに抵抗器を入れることで左右chとも10k程度で安定した。