Decca Decolaがお嫁入り

やっとこさ入手したDecca Decolaの整備記録

Setchell Carlson P63(Ch.C-102) について

2021-08-31 14:12:41 | テレビ

 Setchell Carlson社は1928年から1960年代まで存在した米国のラジオ、電子機器、テレビのメーカー。1928年にミネソタ州セントポールでBart Setchell と Carl Donald Carlsonによってカーラジオメーカーとして設立された。戦中は軍需品を生産していたが戦後には同州ニューブライトンに移転し1960年代までテレビなどを生産しその後他企業の子会社となった。1960年代のピーク時には500人規模の雇用があった(wikipediaから抜粋)。

 同社のテレビ、特にポータブルタイプは特徴的なシンプルな外観で現在の視点から見ても魅力的。製品群の詳しいラインアップは不明だが真空管式からソリッドステートに移行する前に生産が終了したかもしれない。

 Setchell Carlson P63(Ch.C-102)1957年

 ブラウン管は17inchで当時としては大画面、その割にボディサイズはコンパクトにまとめられている。前後の枠は金属にゴールド塗装、中間の胴部分は金属に白樺風の化粧紙(布?)が貼ってある。バックパネルや取手の形状もデザインされている。

   

 ACコードがないのでとりあえずギボシで繋ぎ欠品のヒューズホルダーのキャップも同型が手元になかったので取付け穴を広げてホルダーごと交換してスライダックで徐々に電圧を上げながら通電してみる。スピーカーからハムが聞こえブラウン管には横一線が現れ音声回路と高圧回路は生きている様子。修理にかかる前にとりあえずできるだけ掃除を行なった。

   

 全体的にしっかりした作りでまた良質なパーツが使われていてさぞ高価な高級品だったと思われる。現在では有名になったバンブルビーもこの時代の電気製品には普通に使われているがやっぱり割れている。

 幸いに回路図や配置図などの資料を入手する事ができた。

 一般のテレビは高圧トランスから中低圧電力を引き出す設計だが専用の大きな電源トランスが搭載されていた。シャーシ配置はチューナー、IF部、フライバックトランスなど高圧回路と水平偏向、垂直偏向とブロック毎でコネクター部に十分なスペースを配しているため回路が追いやすくメンテナンス性が考慮されている。箱型でない変形ボディに収める変則的なシャーシ形状だがきちっとした無理のない部品配置がされていて技術力の高さが伺える。

 B電圧を測定すると若干低めだが電解コンデンサーも完全にはダメになってないらしい。しかし高周波発信機でアンテナおよびIF信号を入れてみるが反応がない。さてどうしましょう?

 まず垂直振幅が無いところから。オシロスコープで垂直偏向回路の波形をみるが

 偏向コイルにノコギリ波が流れてない事になるので各段の波形を遡ってみるがどこまでいっても現れない。12AU7Aのプレート電圧が随分と高く電流が流れていないようでよく見えないがどうもヒーターが点灯していない。真空管を外して足を磨いたり足の矯正器で真っ直ぐにするなどしていると暫くして電流が流れ出して不完全だがなんとか垂直の振幅が得られるようになった。アンテナからの入力にも反応が出てきてやっぱり掃除はメンテナンスの基本。

まだ掃除以外何もしていないが垂直偏向出力のグリッドにそれらしい波形が現れたが電圧は0Vの部位だがプラスの電位がある。0.1μFカップリングコンデンサーを手配した。

 米国のTV周波数は日本と共通のchもあるがビデオ出力で用いられる1ch,2chの周波数はカバーしておらず米国専用品か可変式のカバーできるRFコンバーターが必要になる。手持ちを接続してVHSビデオを再生すると

不完全だが画と音声が出力した。下方の振幅が足りない、上下2画面(下が小さい)、ちらつきも多い。書籍「テレビの調整と故障修理」によると「完全な飛越走査が行われていない」のが原因でこのTVで採用されている「マルチ・バイブレータ発振」では「グリッド抵抗をチェックせよ」とある。また垂直偏向出力管のグリッドに電源トランスの6.3V AC(60Hz)を加えて画面が広がるかチェックせよという記述があったので低周波発信機から接続してみると

 

下方向に広がって出力段は正常に反応する。その後指月のコンデンサーが届いたので割れているバンブルビーと共に交換した(右写真)。垂直方向の振幅は取れるようになって終段6CM6の電圧も正常となった。しかし上下2分割などは変わらない。

 回路図のVIF出力を切り離してコンポジット信号を直接接続したが2分割の状態は変わらなかった。ところが試験動作中に突然画面が「プシュ」という音と主に消えてしまった。高圧出力が途絶えたようで最悪フライバックトランスの断線かと思われた。ブラウン管を取り外して回路図に沿って抵抗値を測定したが断線はしていない様子。改めて文献を読み返して原因を探る。

 以下備忘録

 高圧整流の出力やプレートにアースからドライバーを近づけても放電はなく水平出力管のトッププレートからも弱い放電があるはずなのだがここも確認できない。水平出力管の入力には100V近い波形が確認できるしバイアスも-30Vで問題ない。真空管試験機で水平出力管、高圧整流管、ダンパー管を測定するがいずれも問題なさそう。回路を追ってみると回路図と異なるところがある。特にスクリーングリッドの電圧が低く+Bからの回路が無い。高圧整流管のヒーターは高圧回路にワンターンしたワイヤーから1V程度のヒーター電圧を得るようになっているが電圧が低くプレート電流が流れていない。カソードをアースから切り離して電流を測定すると20mA程度で定格80mAと比べるとかなり低い。スクリーングリッド抵抗を調節して定格の120Vにすると電流は2倍程度になったがまだ足りない。念のために高圧整流管と水平出力管を新たに入手して交換したが状況は変わらず。

 ダンパー管の働きはなかなか理解が難しいが真空管には問題は無いのではないかと思われた。原因がわからないまま途方にくれたがふとブラウン管の偏向コイルが接続されていないことに気づいて問題はあっけなく解決した。なぜ不調になったのかは不明だが接触不良でも起こしたのだと思われた。

 コンポジット信号でも画面の2分割は変わらないので問題の所在を最初から探すことになる。ところが回路図と実際の回路を比べると随分と異なっていることが分かった。またVIFは1段少なくAGCの1/2 6AW8AはVIF2段目からでカソード抵抗が低いためプレート電圧は殆どかかっておらずこれでいいのだろうか?画面の2分割だが垂直発振回路の周波数を見ると入力側は60Hz近辺だが出力は半分の30Hzになっていてこのあたりが原因の様子。

 

12AU7Aのグリッド抵抗は1MΩとvertical hold 2.5MΩのシリーズ接続なのだがこの部分の固定抵抗値を1MΩから250KΩ程度に変えてみると60Hzの発振となってようやく1画面になった。

 

 しかし鮮明でなく横線が入る。ようやく映像増幅にかかる。まずプレート出力のコンデンサーを交換するがあまり変化は認めない。

 

次に出力管の6AW8Aを注文して到着を待つことにします。

 ブラウン管の裏に塗ってある黒色の塗料が剥がれ落ちている。

 

この塗料は伝導性で静電気を抑制したりする働きがあるのかも知れないので再塗装することにした。調べてみるとギターの内部にシールドとして塗布する塗料があり早速入手して塗ってみた。ガラスにうまく塗れるかと心配したが問題なかった。またブラウン管周囲の偏向コイルはプラスチックのハウジングがボロボロで固定できない状態。

 ブラウン管への固定方法は後で考えるとしてブラウン管の細い部分にゴム輪を巻きつけてとりあえずはめ込んでいる。

 6AW8Aが届いた。東芝製で2本とも新品。

 

早速交換するも大きな変化はない。真空管はいずれも試験機でチェックして問題なかったのだが信用していなかった。バチが当たって今までの入手交換はほぼ無意味だった様子。現在の問題点はピントがボケている。画面に荒い白線が現れている。ここで再びVIF回路を切り離して直接映像出力(6AW8A)とSYNC SEPに入れてみる。コネクターの接触不良や回路図と異なる数値の抵抗を調節しながらなんとか映像出力するようになった。しかし横の白線は解決していない。気になるのは回路図と実際が異なっている部分で改造されたものなのか仕様変更なのか。配線が汚いとことや整理されていないところが目につくので支障のなさそうな所から本来の姿に戻す事にした。また画面が不安定なのは電源コンデンサーが原因かもしれないのでチェックを行いながら進めていく。

 整流回路から入る平滑回路最初の100μF 200Vの大きな電解コンデンサー

 

 アキシャル型しか入手できなかったが交換した。映像増幅終段のスクリーングリッドへの給電は電圧を上げるためか改造されていたので回路図通りに戻した。

 

写真のヒューズみたいな2本は整流ダイオードでその横のスペースにもともとあったはずの電解コンデンサーと電圧降下の抵抗を復活させた。これで定格通りの電圧になったがカソード抵抗のBrightボリュームでバイアス電圧を調整するとプレート電圧、スクリーングリッド電圧は大きく変化する。映像増幅終段のコントロールグリッド抵抗を追加し映像入力を、音声入力はグリッドに入っているボリュームに新設した。帰線消去回路は変更されていて回路図通りに戻してみたが白い横線にはほとんど変化がなく結局最初の回路に戻した。映像と音声入力は背面のアンテナ端子にコネクターを設置した。

  

 ピントが甘いのはどう対処すればいいのだろう?若干の課題を残したが一応一区切りにしようと思います。真空管式テレビは初めてだったがトランジスター製品と比べてランドマークが多くわかりやすく感じた(その割には完治しなかったのだが)。今回は幸運な事に回路図を含むマニュアルが入手できたが設計変更か修理の名残なのかは不明だが現物と結構異なっていた。

 この製品の前オーナーによると出所は軽井沢の別荘地とのことで往時に家具調度品として海外から持ち込まれたものかもしれない。取手があり背面までデザインされていることから向きを変えたりベランダに持ち運んだりとハイソなリビングに似合う美しいテレビだと思う。1950年代の豊かなアメリカの香りが漂ってくる、、ような気がする。

 

 

お読みいただきありがとうございました。


Panasonic AG-7400 について

2021-08-23 18:46:49 | テレビ

 業務用のVHS機を自宅に置いていた時期がある。再録機2台とコントローラー、モニター数台、専用卓、ドーリー付き大型三脚、TVカメラや照明などで結構なスペースを占有していた。これらは払い下げ機器だったが現役時代に製作したのは職場の結婚式に上映する二人の生立ち映像やイベントの記録などで今思うと赤面するような幼稚なレベルだった。現在ではずっと鮮明な映像が数十分の一の投資で作成できアマチュアの制作とは思えないような高度な作品も頻繁に目にする。

 当時の記録媒体はVHSかS-VHS、8ミリビデオがほとんどだったがいずれも現役を退いていてかつて撮影したテープはあるが再生できないというご家庭は多いのではないかと思う。デジタルダビングを請け負う業者はあるがダビング料金はテープ1本あたり1000円前後。それならばと自身で行うために中古のビデオデッキを購入する場合もあるかもしれない。前述の業務機器はすべて処分したが拙宅でもS-VHSテープの再生の必要に迫られてもう一度導入することにした。折角なのでなるべく高性能でコンパクトなハンディ業務機、おまけにデザインがカッコいいのが欲しいと思う。業務用のS-VHSビデオ機器を販売していたのはPanasonic,Victorや少数の専業メーカーだと思うがハンディ機となるとカメラ一体型が主流だったのかあまり見当たらずwebでも業務機については資料が乏しい。

 

 Panasonic AG-7400 (1987年〜93年)

 

 Panasonicの映像業務機は「AG-」から始まる。丸メーターがキャッチーでスロー再生ボタンがありトラッキング調整ツマミが再生、スロー再生各々にある。AG-7400の前身のAG-6400(1986年発売のVHS機で価格は28万円)と比べてもパネルデザインはほとんど変化なくS-VHS対応以外はメカニズムそのままなのかもしれない。マイクの入力は6.5mmジャック。価格は正確には不明だがwebでは35万円程度という記述があった。

 今回Panasonic AG-7400を入手した。数十年前に製造されて一度引退し長期間使われていなかったビデオデッキはメンテナンスなしにまともに動く方が少なくオークションでも多くが動作未確認のジャンク扱いとなっていてこれはほぼ不動と考えて間違いない。落札価格は低くて送料の方が高い場合もあるが修理できかはほとんど運任せ、そしてたとえ動いたとしても本来の性能が発揮されているとは限らない。

 それでも精密なメカニズムと集積されたエレクトロニクスというかつて日本の得意分野のノウハウがぎっしりと詰め込まれているような小型で美しい製品に惹かれる。なんとか動いてくれればOKでフォーマットの異なる現行機と画質を張り合う必要はない。映像は優劣がつけやすく主観や曖昧さが支配する趣味のオーディオと異なるところだと思っています。

 

 テレビに接続すると一応動作しているようでこれは本当にラッキー。電源は内蔵されておらず専用バッテリーを挿入するか12Vの外部電源を接続するかになる。幸い社外品だが電源が付属していたのでこの整備から始めます。

 SONYのACパック/バッテリーチャージャーだが回路はよく分からない。当初はACパックとしてAG-7400のバッテリー部になんとか収めようと考えたがどうもノイズが盛大に出る様子でケースから取り出さない方が良さそうなのと負荷を接続しなくても若干の発熱があるので内蔵することは諦めてコード類の整理だけにした。出力は13Vと16Vで通常の負荷の時は13Vだったが電池を感知して16Vでチャージするのではないかと思う。

   

 全体に酷使された気配もなく埃も少ない。rewのマイクロスイッチの反応がちょっと悪い。すでにチップ抵抗などが使われていて基板の修理など素人の私には全く不可能と思われる。不具合が生じても液漏れしている電解コンや焼けている抵抗など目視のチェックしかできそうもなくICも使われているがこの辺りが故障したら即廃棄になりそう。基板を取りはずすのも気後れして掃除だけして早々に組み立てた。

 

   

 隣は同じくナショナルのNV-3000ポータブルマックロードで以前整備したもの。画質を比較したかったが残念ながら故障してしまい別筐体のチューナーと電源部は解体してドナーとなって現在は不動。縦横比は異なるがAG-7400の方が少し小型で持ち上げてみてもかなり軽い。カメラのコネクターも規格が異なっている。テープリッドが横幅いっぱいのスリムな形状なので現場では使いやすかったと思うしカメラ一体のドッカブルタイプが主流となってからはプレイバック用として使われる事が多かったかもしれない。画質は輪郭がすこし強調されたようなくっきりタイプでHDを見慣れた眼には荒く感じるがこれは仕方ない。

 

 オリンピックの開閉会式は諸問題の影響からか評価は散々だった一方でパラリンピックの開会式は高い評価を得ているようだ。リアルタイムでは見ていなかったのでダイジェストで鑑賞したがプロジェクションマッピングやVTR映像とライブの融合が見事だった。オリンピック開会式のドローンが描く地球の姿には感動したがインテルが運営していてイベント用に価格も細かく提示されている商品と知ってもっと驚いた。できれば国産の技術で日本からパンデミックや紛争に苦しんでいる世界中の人たちにメッセージを届けられなかったのだろうかと思う。パラの開会式のメッセージはしっかり伝わってきた。障がいを持つ人のパフォーマンスは見る人によって受け止め方はさまざまだと思う。職業柄ハンディキャップを持つ人と関わる機会は多くあったが彼らの事を本当に理解していたのだろうかと引退した今では考えることもある。他人(ひと)と比べて自身の幸せを推し量ることだけはしたくないと思う。

 

 

 

 

 

 

 お読みいただきありがとうございました。

 

 後日談1

 気に入ってその後もう一台入手しました。

 

 内外の状態は1台目とほぼ同じ様子だったが残念ながらこちらは不動。シリンダー回転ヘッドが回転しない。実は1台目も同じ症状が出る事があるのでこの機種の持病か外部電源に問題があるのかもしれない。とりあえず分解して掃除するとラッキーなことに動き出した。ところがテープ走行がギクシャクしていて不安定。こちらはアイドラーなど走行系の掃除を繰り返したがなかなか安定せず。そこでVHSテープ型のヘッドクリーニングカセット(湿式)を二度ほど通すと安定するようになった。しばらく映画を見ていたが問題は発生していない。しかしトラブルの原因を突き止めたわけではないのでいずれトラブル再発の可能性は高いがその時はまた考えましょう。使い倒された業務機はガタボロの悲惨な状態になっているものが多いがこの2台は丁寧に使われていたらしくとても綺麗、というかプロユースではなかったのかもしれない。

 

 


ラックスキット A3300 について

2021-08-04 22:15:57 | オーディオ

 「ラックス(LUX)」は古くからのオーディオファンにとってはおなじみのブランドだが「ラックス」と「ラックスマン」の違いがわからなかった。同社の歴史を調べてみると創業は1925年の錦水堂額縁店のラジオ部門で1961年に社名をラックス株式会社に改名、そして2000年に新たに設立したラックスマン株式会社に事業移譲し旧ラックスは投資ファンド(!)に業態変更した(wikipediaより抜粋)。2005年には両社とも売却されて現在のブランドは創業家ではないらしい。かつての専業メーカーはPC周辺機器メーカーなどに業態を変えた以外はほぼ居なくなってしまった。経営者が変わってもブランドが続いているのはまだ幸せかもしれない。

 ラックスキット(LuxKit)は1971年から1980年まで続いた同社のブランドで計測器シリーズ、真空管・トランジスタアンプ、ターンテーブルなど約70のキットを発売していた(wikipedia)。A3300は1972年2月に発売されたラックスキット初の製品、管球式プリアンプで価格は45,000円(36,000円という記述もあってウッドケースの有無かもしれない。専用電源A33は7,900円)

 

(引用:https://audio-heritage.jp/LUXMAN/kit/a3300.html)

型式 管球式コントロールアンプキット
出力電圧 定格:2V(歪率0.08%以下)
最大:15V(歪率0.5%)
出力インピーダンス 950Ω
全高調波歪率 0.08%以下(出力2V)
周波数特性 20Hz~20kHz -0.5dB
入力感度/入力インピーダンス
(出力1V時)
Phono1、2:1.8mV/47kΩ
Aux1、2、3:130mV/150kΩ
SN比 Phono1、2:60dB以上
Aux1、2、3:77dB以上
トーンコントロール LUX方式NF型湾曲点切換付
低域湾曲点:250Hz、500Hz
高域湾曲点:2.5kHz、5kHz
フィルター ローカット:70Hz(-6dB/oct)
ハイカット:6kHz(-6dB/oct)
付属装置 ヘッドホン用アンプ(出力50mW)
テープモニタ回路
使用真空管 12AX7x4
12AU7x2
使用半導体 2SC735x4
2SA562x4
KB265x2
電源部 外部電源方式
A33パワーサプライまたはA3500/A2500
外形寸法

幅400x高さ130x奥行245mm

 

重量 3.5kg
別売 専用パワーサプライ A33(¥7,900)
アッセンブリマニュアル(¥500)

(引用:オーディオの足跡)

 電源は搭載されておらず専用電源のA33(右写真)もしくは同社A3500メインアンプから供給される。管球式だがヘッドホンアンプはソリッドステート、プリント基板上に真空管が立っている。意匠設計された方は存じ上げませんが工業デザインの傑作だと思っています。

 私が最初に購入したメーカー製アンプが中古の(誰かが組み立てた)A3300+A33だった。入手当時1978年頃のラインアップはプレーヤーはパイオニアの普及品、メインアンプは50CA10シングルアンプ(自作品でまだ手元にある)、ダイヤトーンP-610(もしくはCORAL 6F60)+自作箱というもの。選択した一番の理由はカッコイイからでmarantz #7c McIntosh c22 QUAD22にも匹敵するデザインだと思っていた。

 1972年12月刊の「初歩のラジオ別冊 初歩のステレオ製作技術 誠文堂新光社」

 

 A3300のパネルデザインはなぜ美しいのかを解説し自作する時のアドバイスの記述がある。この本は入り口から出口まで自作のためのノウハウが詰め込まれていて回路設計から製作記事、キットの解説まで網羅していた。1972年の段階で真空管アンプは少なくなっている云々とあり時代はソリッドステートへ移行していて真空管はすでに過去のものになりつつあった。それから半世紀が経過したがいまだに絶滅せずに生産されている事は(ギターアンプのおかげとはいえ)ちょっと感慨深い。真空管プリアンプのキットの紹介はA3300以外は無く(他には三栄無線やクリスキット、オーディオプロフェッサなどがあったと思うがそう多くはなかった)当時キットとしては破格の高額商品だった(marantz #7k  #8BK  #9kはこの後に発売されたと思います)。この雑誌は中身が濃く半世紀が経過してボロボロだが捨てることができない。

 

 当時友人に貸し出して帰ってきたときにはなぜか電源が紛失していて(!)それ以来聞くこともなくいつ手放したかも覚えていない。当時の音の印象は角が丸くて大人しいイメージだった。これはその後入手したYAMAHAのCなにがしのプリアンプとの比較した印象だと思うし今から考えるとメンテナンス不足だった可能性もある。管球式アンプのプリント基板についても特有の癖があるとか色々言われてきたが最大の欠点は基板の劣化で長期のメンテナンスに耐えられないことだと思う。特にベーク板のプリント基板は経年変化で曲がってきたり脆くなったりまた修理の時には箔の剥がれにも気を使います。

 

その1

  

 縁あって拙宅に来たA3300、久々のご対面。以前は樹脂ケースだったが今回はウッドケース付き(ウッドケースは必需)。ただしケースの中に樹脂ケースのA3300が入っていると思い込んでたが実際は底のパンチングメタルのみ。上面はどうした?一応外装の掃除はされていたがツマミやスイッチは念入りに再度おこなう。内部の埃は少ないが真空管の曇り具合から長い間手付かずだった事が伺える。また電源の配線はなぜか切断されていて何か問題があったのかもしれないが電源がないので試動作できない。

 全体のクリーニング後に切断されたワイヤーを修復した。専用電源A33は時々オークションで見かけるが探している人が多いのか結構な高価で取引されている。仕方ないのでケースとコネクターだけ購入して部品箱を漁って自作した。

 

 DC電源は3系統で高圧Bは380V 20mA 6本の真空管のヒーターはすべて直列で75V 150mA そしてヘッドホンアンプとパイロットランプに8V 50mA。なにか大層な内部だが適当なトランスがなかったので2個になった。いずれの系統も負荷がかかるとどの程度電圧降下するかわからなかったのでバラックを組んで本体に繋ぎながらホーロー可変抵抗で抵抗値を決定した。ケースは「アイディアル」社製品でせっかくなのでパネルの文字とロゴのシールを作って貼り付けた。これでようやく本体の整備に掛かれます。

 

 早速接続するとライン入力でも問題多数発生。

 1メインボリュームの10時付近でLchにガリ 2出力のノイズ大 アッテネートするとかなり治るがON,OFFでノイズ大 3ハムあり 4Rchのbassトーンコントロールが効かない。 5ヘッドホンジャックの抜き差しで出力ノイズ大 さてどうしよう、、。

 まず出力のDC漏れを確認すると両ch共次第に増えていって0.98Vと0.37Vに。ヘッドホンジャックにラインとヘッドホンの切り替えがあるので5の原因となっている。このアンプはトーンコントロール回路からのライン出力となっているようで出力インピーダンスが950Ωと低い(よく解ってない)。12本のMPコンデンサーの漏洩を測ってみるがよくわからないがとりあえず発注した。1のボリュームのガリもEQからのDCもれが原因で抵抗帯が破損した可能性もあるしバイアス不良で真空管も道連れになってしまう場合もある。ヘッドホンアンプは出力に1000μFの電解コンデンサーが入る設計でここも気になるところだがまずは正常動作を目指します。

 ガリのボリュームを分解して何とか修復できないか?250kΩ 2連 Atype

 一部のボリュームが高騰している関係でなんとか修理できないかと考えるがこのボリュームは軸に摺動子がカシメられている関係で再組み立ては難しい。2連のうち不調chが先側であれば何とかなる場合もあるかと思うが根本側は軸を外さないと分解できない。今回は残念ながらガリが根本側だったので諦めて注文した。管球ステレオアンプ用の250kΩ 2連という特殊さに加えて軸径やA3300のボリュームつまみはネジ止めではないなど選択肢は限られる。

 

 LEDランタンを購入して夜釣りに持っていったら岩から海中に落としてしまい一応防水らしいのだが悲しいかな中がジャブジャブ(確認したら防水ではなく防滴だった)。拾おうとしたら転んで自分までびしょ濡れになってしまった。

 帰って徹底的に分解して温水で洗って一応復活したが今後充電や使用は十分注意が必要で決して勧められない。購入価格は3000円ほどだが4種の発光と輝度の調節ができてUSBから充電、3600mA/hの出力もできる。分解して感じたことだが非常に良くできています。機能もさることながら細かな配慮がある構造、耐久性もありそうで多分隣国の製造かと思うがかつての印象とはかなり違う。緑色デザインはコールマンのランタン風だが世界を相手にしているというエネルギーを感じる。

 

 これは他のA3300のキャビネット内部の写真だが底部にはアルミシートのシールド処理がされていてパンチングメタルはシャーシ上面だけのよう。修復中のA3300は剥がれてしまっていて早速アルミテープを貼った。固定ネジでシャーシと密着される。

 

 コンデンサーが届いたので手持ちと合わせて早速交換してみる。はずしたコンデンサーは日本ケミコンのMPコンデンサーなどだが絶縁抵抗を測ってみると

 

100MΩ程度はあって問題ないように思える。ただし購入した新品のメタライズドポリプロピレンコンデンサーはほぼ無限大。安価なのは良いが気になるのは音質がどう変わるか。

 ボリュームが届きました。 早速小加工して取り付けてコンデンサー交換後の初めての試聴してみます。

 

 メインアンプはJBL SE400、スピーカーはALTEC 755C+618銀箱、音源はCD。まずボリューム、ヘッドホンプラグを差し込む時やアッテネータON OFFのガリ、ハムは消えました。出力のDCもほぼ0に、トーンコントロールも動作するようになりphonoにすると綺麗なホワイトノイズでS/Nも良好。ケース底のアルミテープは有効でケースに納めたほうがノイズが減る。やはりプリアンプのキットはプリント基板でないと所定の性能を出すのは難しいと再認識した。メインアンプのJBL SE400はインターステージトランス、出力がゲルマニウムトランジスターというソリッドステート黎明期のアンプ。A3300が日本的な真面目のライト級管球プリアンプだとすればメインアンプは大げさでなくでも細かなところまできちんと鳴らす軽量アンプがいいかな、、と考えてこの組み合わせにしてみた。しばらく聴いてみましょう。

 

 昨日2回目の新型コロナワクチン接種を受けた。発熱、筋肉痛、倦怠感、頭痛などの副反応については色々と聞いていたので身構えていたが一夜明けても何ともない。統計では加齢とともに発生率が下がっているらしいので名実ともに自分もジジィになったと思う。抗体がしっかりできることを祈ります。昨日と今日は一日中音楽を聴いていた。

 ワクチン接種の翌々日から県をまたいで帰省した。お盆は父の命日でもあり実家には高齢の母一人でどうしても帰らなくてはならない(と自分に言い聞かせて)。帰省前や滞在中も極力ひとと合わないようにしていたが全国的な感染爆発で安全な所はない。JRの便数も減らされていて列車内は昨年よりも混雑が目立った。近隣では「フジロック」が開催されていたがその影響と思われる人出は見られなかった。高齢者の感染が減ったにも関わらずこの数字を見るとデルタ株の感染力は本家と比べてかなり強く若者の重症者数から危険性も高い。ワクチン接種が進んでいるのでこの感染爆発は早晩収まると思われるが新たな変異株が現れないか、3回目または毎年のワクチン接種が必要とされるのか、治療薬と心理的に安心な国産ワクチンの運用時期など不確定な要素は多い。高まった政治不信や人との距離が広がった事が社会に与える影響はこれから現れる。帰宅して数日後緊急事態宣言が出された。娘の職場でも濃厚接触者という判断で2週間の自宅待機している人が複数いていよいよ危険が身近に迫ってきた。

 

 暫く上記の構成で聴き続けた。当初はJBL SE400が不安定でJBL SE400Sと交換したりだったが時間とともに安定してきた。試聴の感想はとても好ましいものでほとんど不満を感じない。動作は安定していてS/Nは良好、出音に余裕を感じるし余分な音(歪んだ音、耳障りな音など)がしない。聞き慣れた音源にも新たな発見があり聴いていてとても楽しい。今更ながらアンプの基本性能の大切さを実感した。高価なコンデンサーへの交換はその次のステージで安定動作していなければ音味云々の意味は薄い。ALTEC 755Cの素性の良さにも感心した。

 

その2

 こちらも電源はなかったので自作A33を繋いで試聴した。音量ボリュームが少しさわさわ言う位でS/Nも良好。

 「その1」と比べるとキャビネットの色が薄い。パネル上面に傷があるが全体に酷使された様子はない。おかしな挙動も無いようなので未整備だが暫く聴いてみた。「その1」より大人しく特にボーカルが後ろに下がっている。良く言えばウォームトーンの角が丸い懐かしい音で歪み感も少なく気に入る人も多いと思う。

 

 B電源のブロックコンデンサーはニチコンにプリント基板上のMPコンデンサーの多くはNTK(日通工)の同じくメタライズドフィルムコンデンサーに変更されている。出力にDCは出ておらず各コンデンサーの機能にも問題はなさそう。真空管はすべて国産National製。今のところ手を入れる必要のあるところは見当たらない。「その2」のためにもう一台電源を作る事にした。やはり適当なトランスがなく今回も2台使用したがオークションを見ていたら特注品として製作されたA33電源用トランスが出品されている。これを利用するのが一番手っ取り早かったがすでに遅い。手持ちと入手したパーツで組み上げた。

 

 

 久しぶりに国産アンプをメンテナンスした。戦前のアンプばっかり触っているとつい最近の製品のように錯覚するがすでに半世紀も前の骨董品、それでもちょっと手をいれればまだ十分に働いてくれる。日本的なサイズ感で華美にはならず品格を感じる。やはり美しいアンプだと思います。

 

 

 

 

お読みいただきありがとうございました。

 

 その後

 2台目の電源のヒーター回路に入っている300Ωのホーロー抵抗の発熱が大きい。DC150mAなので300Ωx0.15Ax0.15A=6.75w でやはりこの大きさではいかにホーロー抵抗でも無理そう。パラにしたセメント抵抗(合計20W)と交換した。発熱するパーツはプリント基板から浮かせて取り付けている。

 

  その1はお嫁に行きました。到着時にネジが1本外れて中で転がっていたようでご迷惑をおかけしました。新しいご主人の元でお幸せに。

 

  その2にも縁談があって久しぶりに様子を伺う。音源はEMT981とThorens TD184+shureM3D、メインアンプはJBL SE600、スピーカーはJBL L75メヌエット これらも久方ぶりのお出まし。

   

 最初はボリュームを回すとやはり少しサワサワ言っていたがやがて静かになった。これはしばらく放って置かれた恨み節かもしれない。2009年のカーペンターズベスト盤を聴いてみる。。拙宅のJBLメヌエットは度重なるトラブルを乗り越えて生きながらえてきたのだが暫くぶりの音は「こんなに良かったっけ?」。JBL LE8Tとの付き合いは長いがそれでも新鮮で高音質CDの出来が良いのかもしれないがあらためて聴き入ってしまった。JBL SE600はトランジスター黎明期のソリッドステートメインアンプで位相反転にトランスを使っている超古典アンプだが終段がゲルマニウムトランジスターのためなのか独特の音味があるように思う。

 phono入力に接続するアナログプレーヤーはThorens TD184でこれも久しぶりの登場。せっかくなのでshure M3Dの針を交換した。この針は社外品だがそれでも最近は高騰して入手が困難になってきている。針圧は5g。モノラルレコードの時はシェルごとバリレラと交換している。これで一応SPレコードからステレオLPまでカバーする。

     

 暫くぶりなので適応範囲のAC117Vで稼働させたが特に問題はなさそう。このレコードは尊敬するIさんから最近頂いたローラ・ボベスコのバイオリンソナタ集で早速愛聴版になったもの。晩年のボベスコの日本公演のCDも(これも以前に頂いたもの)大切にしている。世間のアナログレコード回帰への流れはよく耳にするが本心では疑っていた。しかし最近の様子を見聞きすると本物かもしれない。ただし周辺機器を含めてかつて流行った大業な再生装置ではなさそうだ。Thorens TD184やTD134など趣味の良い(個人の感想です)小型のレコードプレーヤーは性能を一途に追求したオーディオ全盛期より現代の方が存在価値が増しているように思う。ケースの中にイコライザーとBluetoothを組み込んだらいいかもしれない(私はしないけど)。話が随分外れましたがLUXKIT A3300は特におかしな挙動はなさそうです。

 幸いその2も気に入ってもらえたようでホッとしています。いつものことながら手元を離れるのは寂しく感じるが製品にとってはメンテナンスを受けながら使ってもらうのが一番なのはまちがいない。楽しく働いてほしい。