1回目の東京オリンピックが開催された1964年、ニューヨークでは万国博覧会が60ヶ国の参加で開催された。観客数も5100万人と過去最大で日本からも新幹線の実物大模型などが展示された。日本Victorもブースを出して4T-20という当時としては超軽量(電池内蔵で3kg)、最小(4.5型)で電池駆動が可能な(ナショナルハイトップ電池で10時間、他社製品だが銘柄指定!)テレビが出品されてメーカーによると「大評判だった」らしい。現金正価はイヤホン電池付きで48,500円、月販価格は51,000円。
とても珍しい機種なのだが縁あって元箱付きの綺麗な個体が来た。電源は内蔵されておらず背部にあるコネクターから早速DC12Vを供給してみよう、、
安定化電源を接続しても反応がない。本体下部は電池ボックスなのだが後ろに引き出してみると
どっひゃぁぁ、、驚いた事に当時の電池がそのまま入っていた!。懐かしいNOVELの単一電池で錆は出ているが目立った液漏れはなく優秀。電池ボックスと区分しているベーク板を外すと
立体的な配置の内部、ブラウン管はナショナル製で電池はハイトップ指定というのも頷ける(?)。限界まで詰め込んでいてメンテナンスも手強そう。
現在4T-20の回路図は入手できていない。これは1966年の回路図集にある「victor 9T-14」で日本Victorが1965年〜66年間に発売していた13種類の白黒テレビで唯一のトランジスター製品。回路図集には4T-20はすでに掲載されておらず短命だったらしい。なかなか興味深い回路で垂直偏向出力がダーリントン接続の純コンプリとは(!)水平出力が2SC411個なのに何故なんだろう?音声出力もコンデンサーは入っているがコンプリOTLで凝っている。真空管ではできない回路を試す事でトランジスターの可能性を探っていたのかも知れない。でもこの回路図が参考になるのかはわからない。
電池ボックスのスポンジがボロボロで細かなところに入り込んでしまう。全バラしないと掃除できないかもしれない。回路図はなかったが2枚の基板横に部品配置図が貼ってあった。
IFから映像、音声出力基板。映像IFは4段でなかなか豪華、トランジスターの名称は少し異なるが「9T-14」とほぼ同じ。
こちらは偏向出力基板。話題の(?)垂直偏向出力はやっぱりコンプリだがブラウン管が小さいのでダーリントン部がない。60Hzの増幅なので面白い事にオーディオ出力回路と同じ構成になっている。
水平偏向出力Trは2SB130Aと読み取れてPNP型のようだ。通電されていないようなので電源回路を調べると12Vバッテリーからのコネクター部
プラグがキツくて奥まで入らず差し込んだ時の内蔵バッテリーとの切り替え接点が動いていないように見える。経年変化でプラグの樹脂部分が膨らんだのかも知れない。しっかり奥まで入るようにヤスリで形態を修正してようやく電源が入った。
コードの途中に大きな電源スイッチがあるのだが開けてみるとヒューズと逆接続保護のダイオードがパラに入っている。本体の電源スイッチは内蔵電池のみに有効で外部電源時はこのスイッチを使う。シガーソケットが付いていて中央がマイナスなのだが本体はプラスアースで黒ワイヤーがプラス、おまけに電解コンデンサーの黒表示がプラスになっていて混乱する。当時の車がイギリス車の影響でプラスアースになっていた関係かも知れないが大昔の車載製品では度々見ることがある。そのうちに受信はしているのだがブラウン管が時々光らなくなって基板の部品を叩き回ると回復する事もあったのだが再現性がなくそのうちにまったく反応しなくなってしまった。
調べると水平偏向回路は発振している。終段の波形は歪んでいるが一応16kHzくらいの周波数で発振部初段は大丈夫そう。
これはフライバックトランスからでているリード線に繋がっていたコンデンサーだが外してみるとすでに抵抗と化している。このタイプはダメになっていることが多いのかも知れない。嬉々として交換したが残念ながら変化なし。フライバックトランスの不良まで疑ったが高圧スパークは飛んでいる。ブラウン管そのものの不良か?
なかなか原因がわからずブラウン管のヒーター断線など故障も疑ったが引き出してみるとちゃんと点灯している。思い立ってコントロールグリッド電圧を測ってみると-30V台でとても低い気がする。どれくらいが正常かはわからないが輝度調整ツマミを回しても変化なくコントロールグリッドへの接続を外すとブラウン管が明るくなった(かなりホッとした)。これは偏向基板のパーツを交換しないと解決しないかもしれない。
数時間かけて闇雲に30個以上のコンデンサーを交換した時に1個ずつ良不良を確認していったが明らかな不良は発見できなかった。これで再通電してみると
幸い輝度調整でコントロールグリッド電圧が変化するようになり-10V〜となって輝度が復活した。ところがいくら調整しても同期しない。周波数を測ってみると垂直偏向出力は60Hz前後に調節できるが水平偏向は(以前は16kHzだったのだが)通電直後は23kHzで前段のAFC電圧を調整すると徐々に下がるがある所でいきなり14kHz程度となり再び上昇しなくなる。多分発振周波数がずれてしまって前段のAFCの調整範囲を超えてしまっているのだと思うが以前より状態が悪化してしまった。。回路がわからないしどこを調整したらいいのだろう、、とこれは基板上のトリマーで16kHz付近に調整することができた。これで一応出画するようになったが画面が横にずれて画質も悪い。まだまだ道のりは長そう。
ACアダプターは手持ちの12Vスイッチング電源をシガーソケットと付け替えた。本体の電源電圧は13.5Vの乾電池になっているのでコードスイッチ内にあるダイオードをショートさせて現在11V台の電圧を少しでも上昇するようにした(結果的にほとんど変わらなかった)。電源回路に5個並列につながる電解コンデンサーを取り替えて容量は3倍になったがこれでも画面は変化なかった。水平偏向の波形が綺麗でないのが問題かと思い確認していくが改善の糸口がわからない。そのうちに偏向基板に並んでいる半固定VRの一つが接触不良になっている事に気づいた。回路も追っていなかったがこのVRだけ違う形態をしていて接触を回復すると水平偏向出力波形の振幅が少し大きくなってそれに伴い画面は改善した。
アンテナ入力がしっかりされてない関係でちょっと不鮮明だがこれで一区切りにした。内部はラグ板を使って-B電源1ヶ所にワイヤーを集中させたりと真空管時代のようなワイヤリングで生産効率はかなり悪かったと思う。熟練の手作り部分が多く大量生産は難しそうで非常に高価だった事もうなずける。多くの部品交換やボロボロのスポンジを掃除したりと作業時間は長かったがそれ以上に回路図がなく(部品の配置図と同社の他製品の回路図にはとても助けられた)トラブルの対処に時間を取られた。理詰めというよりも手探りが多く相変わらず自分の力不足を感じる。
製品としての完成度はSONY製品に一歩譲るとしても本気で取り組もうと思わせる魅力的な製品だった。この製品の数年後にはJVCからスペースエイジの申し子のような「videosphere」が発表される。
お読みいただきありがとうございました。
後日談1
スイッチを入れると画面が小さくなったり起動しなくなったりすることがあり12V 1Aのスイッチング電源が原因のようだ。定格では問題なさそうだが高容量負荷が原因か?スイッチボックスのダイオードをもどして5000μFのコンデンサーを3000μFに減らして一応改善したがもう少し電源を大きくしなくてはならないかもしれない。
後日談2
ハンダの吸い取りはいつも「スッポン」と「吸取網」を使っていたのだが今回の部品交換でちょっとくたびれたので思い切って購入した。
白光(HAKKO) ダイヤル式温度制御はんだ吸取器 ハンディタイプ FR301-81
2万円近くしたのだが評判も良く一生ものだと思って自分へのクリスマスプレゼント。
今FM放送でN響のベートーベン第9交響曲を聴きながら書いてます。やはり年末に相応しい。
みなさま良いお年をお迎えください。
その後1
もう一台の4T-20がやって来た。今回は本体に加えてACアダプターを兼ねた外部スピーカーボックスが付属していた。
電源はチョークコイルを用いた非安定化でSONYのマイクロテレビと構成が似ている。DC電源とチャージ電源の切り替えがあり3Pプラグの出力が変わる。本体にニッカド電池が内蔵されてそのままチャージできたらしい。スピーカーは3.5mmプラグを本体に差し込んで繋ぐ。
別電源を繋ぐととりあえずラスターが出てホッとする。まず掃除でもしましょう。