Western Electricの劇場用コーン型スピーカーユニットは当初は12inchと13inchの2種類で各々励磁のための整流回路を内蔵、内臓しないものがあった。いずれも特許権の関係でJensen社からのOEM供給だった。
民生用の12inch(口径約30cm)の励磁型スピーカーは多かったようだが業務用のWE「ワイドレンジサウンドシステム」では主には13inchの複数使用が多く12inchのTA4165,TA4166は現在でもあまり見る機会はない。
励磁回路を持つWestern Electric TA4165(12inch) 後部の袴に電源トランス、整流管、コンデンサーが搭載されてAC115Vをつなぐ。
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ボイスコイルDC抵抗:5.7Ω
ボイスコイルインピーダンス:8Ω
許容入力:10W
フィールドコイルDC抵抗:2700Ω
フィールド電力18W
整流管:274A
ボイスコイル径:1.7nch
(整流回路をもたないのはTA4166)
(2)Western Electric TA4151
TA4151は1933年のワイドレンジサウンドシステムに採用された。
ヴォイスコイル・インピーダンス(最小) 10.5Ω(300Hz)
ヴォイスコイルRCR 6Ω
ヴォイスコイル最大入力(連続) 15W
フィールドコイル端子電圧 105〜125VAC/50〜60Hz
パワーサプライ 0.5A/60W
重量 19.48kg
13inch(13.5inch)は何と言ってもTA4151が有名でこれは大量に作られたためと思われる。TA4151は励磁のための整流回路を搭載しているがバッフルに複数装着する場合はトラブル回避の目的で整流回路を持たない(外部からDCが供給される)TA4153と混ぜていたらしい。Jensen自社の13inch励磁スピーカーはM,V,Lの3種類がありMは通常使用、Vは主に音声用、Lはウーファー用とされる。このアルファベットの後の数字が10の場合は整流回路搭載、20は非搭載。Western Electric TA4151とJensen M-10はよく似ている。
TA4151とTA4153(整流回路なし)の寸法図とTA4151の励磁回路
TA4153(整流回路を持たない)
フィールドコイル端子電圧 105〜125VDC
パワーサプライ 0.25A/35W(?)
フィールドコイルDCR 460Ω
重量 13.59kg
WE 1936 Series No,6のTA7331に装着されたウーファーはTA4171だが見たことはない。
TA4171(ほぼ同規格でハム・バッキングコイルを持たない)
フィールドコイル端子電圧 10VDC
パワーサプライ 2A/22W
フィールドコイルDCR 4.45Ω
TA4151,TA4153,TA4171は同じ13.5inchでフィールドコイルのDCRは異なるがほぼ同じ規格と考えられる。フィールド電力がどの程度かだが、大型ウーファーのTA4181が30Wなので22Wくらいが妥当なところではないだろうか。
一般に見られるのはTA4151AでTA4151の改良版とされるがこれはTA4151のラベルになっている。両者の違いはコーン紙ということだが確かにTA4151Aはほとんどがコルゲーションがあるタイプだがこれには無い。ただし長い間にコーン紙を交換する場合もあったと思うので初めからこのコーン紙だったかは分からない。ただスクリーンを白く再塗装した時の飛沫がついているのを見ると結構古くからのものかもしれないと思っている。フレームは本体にボルト留めされていてコーン紙の交換はフレームごとされるので比較的容易だった。どういった状況で使われて居たか不明だが非常に重量のある金属製のL字型のバッフルに固定されていた。JensenのM-10ととてもよく似ているので混同しやすいがわかりやすい識別点としては
TA4151の整流管のソケットには「274-A」とある(JensenM-10はたしか「83V」だったと思う)。保護カバーの形状も異なる。
袴の内部にはコンデンサーなどが収まる。オリジナルは角形の8μFX2 450V コンデンサーがパラ接続され16μFの平滑回路となっている。この円筒型の電解コンデンサーは同じ16μF。実はこのユニットを購入した時は500μFの電解コンデンサーが入っていた。貴重なWE274Aがあっという間にご臨終になる暴挙で発見した時は驚きと同時に怒りがこみ上げてきた。作られてから90年近くも生き延びてきた遺産には相当の敬意を払ってほしいと思う(自戒も込めて)。
製造元のJensen社では同様の製品や他社へのOEM供給を行なっていた。
Jensen Auditorium Speaker
フィールドDCR:6.35kΩ
フィールド電力22Wで計算してみると
フィールド電圧 373V
フィールド電流 60mA
ラベルには「Jensen Auditrium Speaker L-10」とあるがL-10の袴を20と交換したと思われる。「L-」はウーファー用でこのコーン紙はフラットでTA4151と同様にコルゲーションはない。本体の形状も一緒のように見える。
整流回路を持たないユニットのための直流電源だがJensen製と思われるフィールド電源
ラベルが剥がれて資料も見当たらないので品番などは不明。整流管はWE274Aとほぼ同規格の83Vが指定されている。シャーシ上のトランスはB電源用でシャーシ内にはヒータートランスとチョークコイルがありこのあたりはTA4151やM-10よりも上等。この個体はコンデンサーが交換され多分元々はチョークインプットではないかと思うが通常のπ型平滑回路となっている(自分が行なったと思うがすっかり忘れている)。
この外部電源について情報をお持ちの方がおられましたらぜひご一報ください。
整流管83Vがなかったのでかわりに5Z3をさして(ヒーター電流がオーバーするので短時間で)Jensen Auditrium M-20を繋いで電源電圧を変化させながら出力電圧を測定してみる。
前述のようにフィールド電力22Wは出力電圧373Vで達成される。この電源にあるスイッチは低電圧、高電圧の切り替えでその差は30V程度となっている。入力電圧117V、高電圧ポジションで得る事ができた。入力100V時は357Vでこれでも問題はなさそう。電源の平滑回路をコンデンサー入力にしたのは出力電圧の調整だった様子(全く忘れている)。iPhoneのイヤホン出力を入力してしばらく聴いてみた。電流は計算では60mA以下なので電源トランスの大きさから余裕の数値と思われ複数のスピーカーでも大丈夫そう。
Capehart Speaker
フィールドDCR:309Ω
フィールド電力22Wで計算してみると
フィールド電圧 82V
フィールド電流 265mA
これは同じく13inchだがラベルは「Capehart」になっている。Capehartは高級電蓄メーカーで各社から供給されたプレーヤー、アンプ、チューナー、スピーカーを豪華なキャビネットに組み込んでモノラル電蓄として販売していた。当時の米国の栄華が偲ばれるような華々しい製品群でWestern Electric製のスピーカーが搭載されていたものもある。この個体は端子、取手が省略されていてコーン紙が一般的なコルゲーション入りになっている他は違いはなさそうでM-20の形状と思われる。
有名なJensen 12AはOEM供給先の仕様でフィールド電圧は様々なものが存在したことからこのCapehart Speakerも注文に応じた仕様と思われる。82V 265mAはどうやって得たのだろうか?セレンか?
これはWEのKS電源で「煙が出て壊れた」というジャンクを譲ってもらったもの。Constant Voltage Rectifireとあるので定電圧電源らしく回路図は内部に貼ってあったが原理は全く理解できなかった。元々はダイオード整流でコンデンサーのトラブルで破損していた。緑色はセレンで当時ダイオードの代わりに4個使ってブリッジを組んで修理した。入力は105〜125V 60Hz 出力は120V 0.8A 回路図のR-3で出力電圧が可変できる。以前WE49に使えないかと接続したがどうやってもハムが取れず諦めた経緯がある。この電源が使えないだろうか?
出力の波形をみると激しく乱れていて当初はセレンを始めパーツの不良を疑ったが電圧の可変はできるし電力は取り出せている様子。セレンブリッジだけ切り離してトランス出力を整流してみたが特に問題なさそう。出力波形はこの方が整っていてこの定電圧電源の用途は音響用ではないのかもしれない。100VAC入力で出力電圧を最小に設定するとDC100V程度になるのでもう少し平滑して綺麗な82V出力が取り出せないか実験してみることにします。
定電圧電源の後に平滑回路を追加してみます。まずバラックで実験
これで大丈夫そうなのでシャーシに組んでみる。
このシャーシケースはVideoshere のパタパタ時計修理のために入手したオーディオタイマーの残った金属ケースをカットして塗装したもの。チョークコイル、コンデンサーは手持ちの大容量のものでDCRも丁度良く電圧降下する。鉄製ケースの加工が大変でほぼ1日かかってしまった。。
フィールド電源は拘りだすとエンドレスに陥る危険がある。信号によってヴォイスコイルは磁界中で運動するが同時に磁界に影響を与え周囲のフィールドコイルには起電力が生じる。これは出音にとって有害であるため如何に打ち消すかが良い音で聴取するための大きな要素とされる。方法としてはフィールド回路にチョークコイルを数多く配し生じた音声信号が回路内を駆け回りながら消滅する(させる)というもの。コイル類は重く大きいので必然的にリスニングルームは実験室と化しなかなか脱出できなくなる。アマチュアの特権でもあるがそんな時は簡素なTA4151を思い出して正気に戻るようにしている(冗談です)。できれば大容量のコンデンサーは使わずにフィールドコイルに近い所はチョークコイルを入れたいと思う。
TA4151,Jensen Auditrium L-10,Capehartの比較試聴をしてみた。音源はIPhone、アンプはBell研 2B
どれも問題なく音が出てビリつきなども感じられない。WEの安定電源はジーという機械的なノイズが気になる。能率は同じ、HAMはどれも問題なさそう。3本は磁気回路はほぼ同一と思われたが出音はコーン紙の違いからと思われる差が出た。TA4151とL-10はほぼ同じコルゲーションの無いプレーンなコーン紙でやはり良く似た音。Capehartの数本のコルゲーションのあるコーン紙はTA4151Aなどでよくみるタイプ。コーン紙は厚く他よりも重量があるのではないかと思うしコーン紙表面の張りが弱くこれではバリッとした音は出にくいのでは。コルゲーションで分割振動して高域が伸びているかと思えばそうでもなく割と音が固まって分解能が低く聞こえるのは高域が不足しているためのような気がする。
Capehartのコーン紙はフレームに金具でネジ止めされ、取り付け穴も開けられていないなどかつて交換されたものと考えられる。TA4151とL-10はハトメで止められているので元々のコーン紙のようだ。ガスケットを作る場合はこのネジ頭を避けなければない。
22Aホーンで使ったフェルトがあったのでそれで製作した。格好はあまり宜しくない。
TA7331に組み込むのはクロスオーバーが300Hzということを考えてCapehartにしようと思います。音出しして問題あればまた考えます。TA7331に取り付ける際に8個の特製金具で固定する指示があるがバッフルにはフレームの彫り込みと取り付け穴がすでに開けられているのでそれを利用する事にします。固定金具は細かな寸法はもとより塗料の指定まである。鉄の材料を叩いて製作
勘違いして6個しか作らなかった。。あした2個追加せねば、、。材料費が安くて助かる。22Aの修正で買った鈑金ハンマーが役に立った。
翌日追加の金具2個を製作して早速音出ししてみる。ネットワークなしのフルレンジ再生、音源はIPhone、モノミックスはトランス、アンプは2B
モノミックストランスはWE246Cで普段はステレオカートリッジ出力に使っている。
一聴ボックスに取り付けたらやっぱりHAMが気になる。このCapehartスピーカーはハムバッキング回路があり信号は経由している。原因は励磁電源でこれは何とかしなくてはならぬレベル。入力をあげても歪み、ビリつきは感じられない。家の方がビリビリいうまで音量を上げたが大丈夫そう。元々はどんな使われ方だったかは不明だが高域不足からフルレンジ再生ではなさそうでフィールドツィーターと組み合わせたと思われる。しばらく聴いてみたが堅牢なエンクロージャーと物量を投入したユニットらしい厚い音で特に問題はなさそう。
電源は再検討してみます。
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