Decca Decolaがお嫁入り

やっとこさ入手したDecca Decolaの整備記録

HICKOK 真空管試験機 TV-3 について

2019-01-30 11:25:10 | 真空管試験機

 HICKOK社の軍用真空管試験機はTV-2,TV-7が有名で特にTV-7は大量に生産されたらしく現在でもよく見かける。ロール紙のチャートなど可動部分を省いてコンパクト、軽量、堅牢にして現場での良否判定に絞ったものだった。一方のTV-2は動作条件を独立して設定してより詳しく実際の運用状態に近づけて判定することができる。ただその割には結果表示は「Percent Quality」メーターで良否の判定のみというアンバランスさでgm直読やプレート電流の表示は無いというちょっと不思議な高級機だった。
 今回のTV-3は見ることが少ないと思われる機種で(そういえばTV-1からTV-10まで全て存在していたのだろうか?)マニュアルには1949年9月とあるので発売は1940年代(TV-7は1952年、TV-2はそれ以前ということになる)。
 TV-2、TV-7両シリーズとも長期に製造されていたらしく各々4種類、5種類が存在する。TV-7の変遷をみると動作原理には殆ど変更は無いが後期になるほど校正し易くなっている。やはり現場での経験や噴出した問題への対応かと思う。

 TV-3にはTV-3/U、TV-3A/U、TV-3B/Uの3種類があるらしい。TV-2,TV-7ともにシリーズ内での外観には殆ど違いはなかったのだがTV-3シリーズの3機種は大きな変更がされている。


 今回入手したのは名板が失われているがTV-3A/Uで真空管試験のほかDC,AC電圧、DC電流、直流抵抗、コンデンサー容量などが測定できるマルチメーターとなっていてこれはTV-3シリーズを通じて共通している。

  
 内部の様子が往年のWestern Electric製品を思わせるような見事なレーシングと匂い(?)でオーラを感じる。
 傷んでいた電源コードを修復してからスライダックで恐る恐る電圧を上げていく。パイロットランプが不点灯なのはソケットの接触不良だったがメインの水銀整流管「83」のヒーターが点灯しない。チェックすると真空管は無事で色々探っていくと点灯することもあるが(写真は5Z3)

 どうもトランスの不具合らしい。引き出し線を触ると非接触になったりする。トランスの他の出力は問題ないが測定器に不確実な要素はNGなのでこの巻線は諦めることにして整流管の代わりにダイオード整流に変更することにした。

 とりあえずシリコンダイオード2個取り付けて後から調整することにします。

 もう一つの問題点。「LINE ADJ.」ボタンを押してadjustツマミを回してメーターメモリの中央にある「「LINE TEST」ポイントに調整するという重要ステップがあるのだがボタンを押してもメーターが動かない。この辺りはTV-7と同じ原理かと思うので同マニュアルから関連記事を探すと 原理はよくわからないがとにかく2個のダイオードが使われている。交流電圧計も内蔵しているのでどこかに整流子があるはずと探すがなかなか発見できない。ようやくそれらしいものを見つけた。
 
 セレンと思われるがダイオードと入れ替えるもやはり動かない。一旦取り外してチェックすると機能しているようなので再度取り付けた。TV-3/Uの回路図しか入手できていないし構造がわからないので配線を追っていくのは非常に骨が折れる。プッシュスイッチの接触不良も疑ったがはっきりわからない。ただテストの電圧や信号は出力されている様子。
 そのうち結線が外れている所が見つかったがどこから外れているかがわからない。以前に修理の手が入っていて分かりづらいことに拍車をかけている。回路図とにらめっこしてようやく判明した。
 
 ついでに配線を整理した。100Vを繋いでメーターが中央になるように調整して117Vヒーターの電圧を測定してみると
  
 124.2VでこれはTV-3/Uのデータの中央値より1.2Vほど高め。この状態で電源トランス1次側の電圧を測定すると規定値93Vのところ94.9Vで1.9V高い。この部分を調整するには回路図の

 R101を調整する(この場合は値を下げる)しかないようです。試しに1.2MΩ抵抗をパラにしてみたら93Vに近づいたがヒーター電圧は低い方へ外れるものがある。ヒーター電圧はLINEの調整しか適合させることはできないのでここを優先することにしてこのままにします。

 TV-3/Uのマニュアルによれば当時の測定器でDC電圧測定時の抵抗値は1kΩ/VとなっているのでDMMでの測定は配慮が必要。プレート電圧は150Vなので150kΩの抵抗器でシャントして測定することにします。

 まずプレート電圧を測定すると155V。シリコンダイオードに置き換えてあるので当たり前に高い値。現在1mAしか流れていないわけだが実際の測定時にはどれくらいの電流でどの程度の電圧低下になるかはわからないが5V程度減らさなくてはならない。一番安易な方法で5KΩの抵抗器を挿入した。。やっぱりマズイ気がする。10mA流れたら50Vの降下だ!調べてみるとツェナーダイオードをシリーズに入れた記事を見かけた。さてどうするか。。

 次にスクリーングリッド電圧は130Vで実測134V。ここも適当に抵抗器。というのもTV-3/Uの回路図にあるR114(640Ω)は見当たらない。5Y3の出力を8.5k+3k+15(Ω)でシャントしている。これはブリーダー抵抗と考えられ11.3mAの電流を流している。R114の代わりに。

 後日談
  これは間違いと気づいて抵抗は撤去した。半固定巻線抵抗でスクリーン電圧(P3で130V P2とP3同時で56V)を調整する。

 なにせ半固定抵抗など見当たらない。唯一のものが

 2ヶ所可変部分がある。。バイアス電圧の調整用らしい。
 バイアスツマミが100の時にDC-40V,22の時にDC-3Vになるように調整する。

 後日談 ロースクリーン電圧とバイアス電圧調整は同じタップからみたいでこれは??TV-7A/Uのシリアル1200までと同じで名人芸が必要とされる、、かもしれない。

 あとはほぼ定格に収まっているか確認して終了。早速校正してあるTV-7D/Uと比較してみましょう。。

  ところが電圧は正常なのだがメーターが振れない。これはいったい。。
  


    UNIVERSITY STREET 竹内まりや (1979年 RVC)
 今からちょうど40年前の竹内まりや2枚目のアルバム。楽曲を提供している作家陣も豪華で恵まれた環境で丁寧に製作されたと思われ、デビュー当時からアイドルというよりもシンガーとしての資質を認められていた事がわかる。当時学生だった自分もリアルタイムに聴いていて1曲目の「オン・ザ・ユニヴァーシティ・ストリート」(自身の作詞作曲)の冒頭から衝撃を受けた。2分あまりの短い曲だがペニー・レインみたいな出だしと間奏、アン・ルイスとの会話も入れ込んだり。終曲の「グッドバイ・ユニヴァーシティ」(自身の作詞 梅垣達志 作曲)まで佳作ぞろいでよくカレン・カーペンターを引き合いに出される竹内まりやの歌唱はすでに完成されていた。その後次第にシンガーから作家へと軸足を移していくのだが30年ほど前のバブル期前後の充実ぶりには目を見張った。ファン熱が高じて出雲市にあるご実家の旅館に宿泊したこともある。中居さんに「帰って来られる事もありますか?」などと尋ねた記憶があるが返事は忘れた。ここ20年くらいは離れてしまったが還暦を過ぎてもまだ活動しているのを見ると(失礼至極だが)過去の遺産だけで繋いでいるのではないと思う。まだまだ期待しています。



 HICKOK TV-3A/Uのマニュアルは当初は見つからず入手できたTV-3/UとTV-3B/Uの回路図で原因を探っていた。ワイヤーハーネスを解いて走行を見たりロータリースイッチの接点を確認して回路を追ってみたが数日費やしても恥ずかしい事に原因がわからない。いよいよギブアップで一旦は閉めてしまったのだがもう一度マニュアルを探すとなんと簡単に見つかった。。
  
 Gm測定の概念図として共通にこの回路図が載っている。しかしSCALEツマミをA SHUNTにするとメーターは振れるのだがB〜Eまでは全く動かない。SHUNT抵抗からの接続を見ると確かに接続されていないのでメーターは動かないのは当たり前。。ここで行き詰まって数日経過した。
 ようやく(?)入手できた TV-3A/Uの回路図。

 同じTV-3シリーズだが各々かなり異なっている。回路を追ってみるとR140とR141に2波のプレート電圧がかかりその外側にあるR115とR142を介して流れる電流を測定する事がわかった。マニュアルの写真を参考に計測するとR115が断線していてようやく原因がつかめた時はホントに嬉しかった。
  
 断線は端子部分だったので精密巻線抵抗器からワイヤーを引き出して修復した。R142との抵抗値を比較すると0.5Ω程度異なるがこのまま校正してみる事にします。
 真空管試験機を修理する時は当たり前にマニュアルが必須だと気づいた次第です。

 ようやくメーターが振れた(!)ので改めて校正してみる。プレート電圧は数ボルト高かったのでwebの記事を参考にしてツェナーダイオードを入れることにした。ボルトの違う詰め合わせを注文したら

 大量に送られてきて一生持ちそう。これで500円程度。原理はよくわからないのだが3Vのを整流ダイオード出力に逆方向に入れたらほぼ定格になった。




 地味に難航した修理だったがようやく完了した。注意点としては本体のケースへの出し入れは巻線抵抗を傷めないように慎重に行う。今回のトラブルも多分これが原因かと思われた。

 HICKOK TV-3シリーズは冒頭に書いた通り真空管試験機のほかマルチメーターとしての万能測定器で多機能を詰め込んだもので必然的に構造が複雑。また軍用機としての基本設計がまだ確立していなかったこともうかがえる。この後の製品では真空管試験機以外の機能はカットされ製品としての完成度は上がっていきHICKOK TV-7D/Uで終焉を迎える。
 真空管は時間の経過とともに性能が劣化していきそのうち使用不能になる。その判定のためにあるキカイであるにもかかわらず実際の動作とは結構異なる条件下での判定であるために一定時間経過したものと共に廃棄されたものでもまだまだ使えたものが多かったと思う。(もちろんリアルタイムではないが軍の放出品が秋葉原で並んでいた)
 いずれ真空管測定大会を開催してみたいです。



 


 お読みいただきありがとうございました。