Decca Decolaがお嫁入り

やっとこさ入手したDecca Decolaの整備記録

Western Electric のアンプ

2014-11-25 16:12:06 | Western Electric
 WEの製品、パーツは番号が割り当ててあります。また社外品のパーツはKSが頭につきます。
 自分なりにWEのアンプを分類してみると
1マグネチックスピーカーの時代
2WE555の時代
3WE594の時代
4汎用アンプの時代
5番外
スピーカーによる分類になってしまいました。代表的なアンプをあげると
1マグネチックスピーカーの時代
 万能球のWE205を使ったアンプで代表格はWE25。WE205D2本のアンプで1本は整流、1本は増幅に使用されています。入力トランス-WE205D-出力トランス、半波整流という回路で外観は日本の灯篭(!)という衝撃的なアンプです。1920年代、米国はジャポネスクブームだった?
 出力インピーダンスは機種によって違いますがWE25A,WE25Bは4KΩというハイインピーダンスでマグネチックスピーカー駆動です。またWE25Cはローインピーダンス出力で補聴器として用いられたようです。半波整流でコンデンサも極小、シングルアンプですので電源ハムは盛大に載りますが60Hzまで十分に再生しないスピーカーですので実用になったと思われます。出力は0.38Wでいかにも非力に思いますが当時の真空管はこんなもんでした。スピーカーの能率が高いので実用になった。ちなみに組み合わせたマグネチックスピーカーは通称陣笠と呼ばれる独特な形状のものでベースはWE25と同様日本的な形態でした。この組み合わせはレコーディングのモニターとしてもつかわれており、また大型の陣笠は東京駅のPAとしても設置されていたという情報もあります。
 もう一つよく見るアンプでWE7Aがあります。このアンプは2段増幅によるプッシュプルで真空管はすべてWE316というボール球です。電源は3種類必要でA電源(ヒーター)B電源(高圧回路)は外部から提供されバッテリーか半波整流管WE317を2本使った専用電源機器がありました。C電源(バイアス)は本体内にエバレディーバッテリーが内蔵されていました。このアンプと組み合わせるスピーカーはやはりマグネチックスピーカーですが10Dというホーンで音を拡大しています。これら一式はoutfitという形で民生用として供給され主にラジオ聴取に使われたと思われます。WE7Aの回路はプッシュプル回路の原理そのもので、2Dから3Dになっただけ!みたいにプリミティブです。木の板にむき出しの針金で直線的に配線したアンプ「ブレッドボードアンプ」は写真で見ることがありますが、WE7Aはボードにエボナイト板を貼り付けて裏側に被覆のあるワイヤーによる直線的配線となっており、内部のバッテリー交換時にトラブルが起きないように配慮したかな、、と思わせる構造です。でも昔の理科実験室に置いてあった教材っぽい。

2WE555の時代
 画期的な高性能ドライバーのWE555が開発されて駆動するアンプはWE41+WE42 またはWE46でした。WE41はプリアンプ、WE42はメインアンプでWE46はプリメインアンプといったところです。出力管はWE205Dのプッシュプル、整流はWE205D2本。WE46はWE205D2本またはWE274Aによるによる全波整流で出力は1.9Wでした。広い映画館のPAとして使われたわけでWE555の高能率には驚かされます。またWE43というブースターアンプも用意されていました。このアンプはWEが映画産業から撤退した後も引き継がれたメインテナンス会社によってメンテされ続け、使用する真空管も300B、ビーム管などに変えられて長生きしたようです。さすがに現代のスピーカーを駆動するには非力でありWE555を使用しない場合は出力1.9Wでは実用になりません。また数百オームの出力インピーダンスですのでWE555を駆動するには7Aマッチングトランスが必要です。これは200Aパネルに組み込まれていました。WEフリークにとっては専用ラックにマウントされたWE41,42,200Aの勇姿は所有欲を満足させるものでしょう。またフィルムに記録された音情報はフォトセルというもので再生されますが微弱な信号を増幅するWE49などのプリプリアンプも魅力的な存在です。それ以前はフィルムに合わせて円盤レコードを2台のレコードプレーヤーを切り替えて再生していました。アンプに共通しているのは直熱3極管を使用しているということで直熱管の欠点であるハムの発生、マイクロフォニックの抑え込みなどどうしてもシステム全体が電気的、機械的に大規模にならざるを得ませんでした。

3WE594の時代
 より高度な映画の音響設備が求められて、またライバル会社に押されてWE555のフルレンジ再生やウーハーとの組み合わせでは対応できなくなり、より高性能なWE594の開発がされました。ウーハーはJensenから供給された13インチ、18インチのものが使われました。WE最後期の劇場アンプのWE86,WE91はWE300によるプッシュプル、シングルアンプで出力はほぼ同じ10W以下、WE41+WE42+WE43とほとんど同じパフォーマンスが得られました。あれだけ大規模なシステムがWE91ではシングルで得られたこと自体が驚異だったわけですが、これはその後の真空管からトランジスター、IC,LSI、またSLからDL,ELという流れと同じでしょう。小型化、省力化が進んだWEですが基礎的な研究は最先端であり製品の魅力は保たれています。また基本的に製品は保守点検を含めたレンタル契約で販売することはありませんでした。WE91は300B使用のシングルアンプのお手本として有名ですが実際は数が少なく目にすることは稀です。またやはり規格いっぱいの設計のためトラブルも頻発したようでそのためのエマージェンシーアンプまで開発されました。ALTEC AA1000はショルダーベルトが付いたアンプで、「故障した!」という連絡があったときには肩掛けして保守担当者(東洋Westernの伊藤喜多男氏もかな)が現場に走った、、ということでしょう。WE91はマニアの憧れですので盛んにコピーされましたがやはり完コピが一番だというのが一般的です。1930年代に開発されたばかりの電解コンデンサーを11個使っています。耐圧、容量の低いものを直列、並列にしていますのでブリーダー抵抗が整流回路だけで12本、また厳重なデカップリングにも多数使用と完コピを目指すマニアを悩ませ(?)ました。またチョークはアンプには無く外部のスピーカーのフィールド回路兼用となっています。

4汎用アンプの時代
 劇場用のアンプを作らなくなった後もWEは電話、放送、PAなどにアンプを供給します。3桁以上のアンプで有名なのはWE118A,WE124,WE143などです。いずれも出力管はビーム管になっており6L6もしくは自社開発のWE350Bが使われます(WE118Aは6L6のみ)WE350Bは耐圧が高いのでコンパチアンプでは電圧の切り替えでパワーアップすることが可能です。しかし昨今のWE350Bの高騰でほとんどが低い電圧で大切に使っていると思います。これらは近代アンプという括りですが第2次世界大戦前後の1940年代ということで作られてから70年の経過です。日本の70年前の電気製品で残っているのは、、。WE143はビーム管のパラレルプッシュプルで内部の電圧切り替えで50W~70W(WE350B使用時)の出力でWE最大、最後のアンプです。出力トランス以外の電源、チョークトランスはトライアッド製でKSナンバー。個人的にはどんな鈍くてヨタなスピーカーでも鳴らし切る最強のアンプだと思っています。

5番外
 番外は電話アンプです。というより使われた電話球かな。特にWE100番台の球は専用のソケットが入手しずらかったし直熱管という扱いずらさで人気が無く省みる人がほとんどいませんでした。ただWE104Dという電話球は出力管として開発されたので、浅野勇先生の書籍に制作記事があります。前述のA氏がWE101Dをラインアンプとして発表して以来注目されるようになりました。もともとリピーター用に長期使用に耐えられる設計なので少々の定格オーバーは大丈夫だろうというアマチュア的発想でメインアンプも発表されWEの入門として忘れることができない球でした。WE205同様にボール球とST球がありました。しかしWE101DとWE101Fはコンパチではなくヒーターの規格が異なります。また形は似ていますがWE205とWE101の音はかなり異なるように思います。私が最初に入手したWE球は101Fのボール球でその美しさに魅了されて、、でした。この球2本でステレオシングルアンプを作って聴いていましたがある日突然暴走しパスコンがパーン!と破裂(初めて経験した。ホントにびっくりです)昇天しました。WE101やWE205などに使えるソケットを作ってくれた会社の功績は大きいと思います。WE純正ソケットは超高価でしたから、、。電話用のアンプは大量に作られたので良く見かけます。非常に堅牢な構造で魅力的ですし魅力的な部品も多いのですが、これをオーディオアンプとして活用するのはなかなか大変です。汎用アンプで電話用として用いられたのは多く(WE124Bなど)、これらは仕様変更が容易ですので問題なく使えます。またMT管時代のWE396 WE407 WE417 などのミニチュア管はやはり電話用として大量生産、大量ストックで価格も300円!だったこともありましたが、M氏やA氏などの制作記事で世界的にびっくりするほど価格が高騰しました。

 WE球の高騰といえばWE300,WE274は特にすごいですね。社外品も大量に出ているのに。オリジナルアンプを高額で入手した人にとってはやはり消耗部品ですので高額でも必要なのです。やはり夢の世界にしておいたほうがいいかもしれない。

Western Electricの世界

2014-11-25 14:21:39 | Western Electric
Western Electricはかつて存在した米国の電気メーカーです。19世紀末から電話、そして1920年代から映画、放送、など公共施設の音響設備を手がけていました。1920年代は真空管が開発されてまだ間もない頃で時代の最先端の企業でした。また公共施設への投資額は非常に大きく研究開発にも潤沢な資金と人材が供給されました。世界恐慌後の米国の映画産業は飛躍的な発展があり、トーキー映画の開発とともに大量の機器が投入され、海外にも支社ができましたが1930年代には映画産業から撤退しその後は1980年代まで放送局や公共施設そして電話産業を支えていました。
 なぜWestern Electricが21世紀の現代で注目されるのかは、なかなか興味深いものがあります。Western Electricの音響機器の魅力を私なりに考察してみますと、、。
1基本的な性能が優れている。  
 膨大な資金と人材による開発、製造で悪いものができるわけがありません。また業務機として堅牢に作られているため製造されてから80年以上も経過したものもあるにも関わらず未だに劣化が少なく稼働するものがある。肝心の「音」に対する評価は「音響」という一瞬で消えるものへの評価という難しさ、曖昧さで「人それぞれ」という判定基準のなさによって確定できない。
2物としての存在感がある。   
 業務機特有の存在感は蒸気機関車と通じるものがある。所有する喜びを感じる人は多い。
3魅力が文章によって表現された。 
 これだけ有名なWestern Electricだが実際にそのシステムを聴いたことがある人はそう多くはないのでは。かつて五味康祐がタンノイオートグラフやデッカデコラを紹介し、瀬川冬樹がEMT,JBLSA600,マークレビンソンを文章にして読者に夢を見せてくれたのと同様にWestern Electricは1990年代からオーディオ誌のライターであるA氏によって世界的に再評価されたと言える。発表されたA氏の制作記事はとても理解しやすくシンプルな回路で、発する音の素晴らしさを魅力的な文章で読者に伝えていた。それまでもM氏、AZ氏また販売店のWSなどによってその存在は知られていた。WEのトランスや真空管は米国に大量に存在していたためジャンク屋経由で販売されていたが真空管以外のそれらを利用しての制作記事はほとんどなかった。米国での価格は安かったが日本ではA氏の制作記事によって一足早くアンプ制作マニアで評判になりトランスなどパーツの価格は徐々に高騰していった。利鞘目当てでかなりの量が輸入されたと思われるがインターネットの普及で情報の一元化が進み、WE関係の製品の高騰は世界的なものになっていく。現在ではほとんど差がなくなり中には逆転している場合もある。WEのような古典的な真空管アンプの回路は専門家でなくても理解しやすく必ず動作する。また解析が十分ではない部分も完全コピーすることでオリジナルに近い性能が得られるし、たとえオリジナルとかけ離れていたとしてもオリジナルアンプが無ければ比較はできない。しかし大量にあった資源もやがて枯渇し、貴重なトランスや真空管はオリジナルアンプの補修に使うべきという考えでA氏は異なった方向へ転換することになる。またハンドメイドのアンプに部品以上の価値はなく(名人作は除いて)オリジナルアンプへの興味が移るのは当然の流れかと思う。数が限られているオリジナルアンプはさらに高騰し投機対象になっていく、、。
 私も約20年前よりA氏の影響を受けてWEの夢を見た一人です。思い出しても幸せな時を過ごすことができ心から感謝しています。そろそろ中間総括の時期かなぁと思いましてこのブログに記載していこうと思います。