1936年1月から稼働したとされる「1936 Series No,6」は10年以上前の雑誌の記事でその存在を知った。Western Electric社が供給していた劇場用サウンドシステムのうち1933年から始まった「ワイドレンジサウンドシステム」の最後期のシステムでその後WEは「ミラフォニックサウンドシステム」へと移行していく(劇場によってはWE555を中心にしたシステムは長く使われた場合もあった)。
(引用:http://www.kaponk.com/2020/12/05/original-western-electric-22a-speaker-system/)
このスピーカーシステムを再現するための構成部品を1個づつ検討していこうと思います。
(1)TA7331 バッフル
スピーカーでバッフルというのはユニットを取り付ける板のことでこの時代は桟の入った巨大な平面板というのが普通。現代のようなスピーカーユニットが箱に入った場合と比べてコーン紙への負荷が少ないので動きに制約が出にくく素直な音が取り出せるとされる。スピーカーの前後は位相の異なる同じ音波が出るため両者が打ち消しあわないようにするのがバッフルの役目で無限大バッフルが理想的。実際は桟の入れ方などのノウハウがあるが基本的には板に穴を開ければことが足りるので現代でも実践している方はいる。
TA7331は平面バッフルを前方と後方へ折り曲げて箱状にしたものと考えられる。コンパクトにすることが目的だったわけだが現代のスピーカーにはない前方の箱がユニークで他に例を見ない。ユニットは真ん中あたりに取り付けられ後ろの箱(背の低い方)の天板を外してユニットの着脱を行う。前面の箱はホーンロードのようにも共鳴管のようにも作用する。指向性を狭くし前面に張り付けられた布で高音域がカットされる。
ボックス後方の45度で取り付けられた5枚の布は後方音を斜め上方に誘導しスクリーン裏の壁に反射させてさらにサウンドテックスドレープと呼ばれる布で導かれ前方に放出され前方音とミックスされる。ネットワークのクロスオーバーは300Hz。
写真とこの配置図ではサウンドテックスの位置が異なる。配置図では22Aとスクリーンはホーンの開口部の延長のように斜めに結ばれていて後方部分も斜め。一方写真では前方の布は無くボックス後部から垂直に立ち上がって途中から22A下部に向かってゆるく伸びている。配置図に「写真を見ろ」と書かれているのにこの違いで現場は混乱したか?また22Aホーンとの位置関係は3inch(75mm)前方にと書かれている割には後方の壁との位置関係の記載は無く先ほどの推論は怪しい限りだが映画館によって構造が異なるため現場での混乱をさけるためにあえて自由度をもたせた(それだけ後方音の影響は少なかった)ためかもしれない。スペアナがあったかは不明だが実際に音出ししながら位置決めされたと思う。
TA7331の材質はホワイト・パイン(米松)かFir(もみの木)、またダーク・ウォールナットのオイル仕上という情報もあるが設計図にはそうは書かれていない。使用ユニットは13inchのTA4171,TA4153,TA4151などで8個の金具で取り付けられた。詳細な設計図が残っていて使われる材や釘の細かな指定まで親切に書かれていることからこの箱は現地の大工にオーダーされた可能性もありこの図面があれば十分に製作可能だと思う。しかし単純な形のようだが補強材の入れ方などは結構複雑、小型バッフルといっても十分に大きくて重い。
この個体を入手したのは10年ほど前で1980年代に日本で製作されたものらしい。
キズだらけの表面には分厚いウレタン塗装がされていた。まず気になるこの塗料を剥離して
コンプレッサーが貧弱なのでエアーサンダーは殆ど役に立たない。6時間ほどかけてようやく表面の塗料の剥離が終わった。内部はウレタン塗装ではなさそうでこのままとします。あらためて各部のサイズを測定して上記の設計図と比較すると誤差はほぼ5mm以内に収まっていた。桟の寸法は選別した50mmx50mmのホワイトパインかもみの木という指示だが残念ながらそこまで太くはなくまた1ヶ所桟が入っていないところがありこれは見落としかもしれない。板は18mm厚 5plyの米松合板でこれはほぼ指定通りだった。またボックス前面には「マニラのmedium hevy black china silk」を取り外しできるようにして張れとの指示がありこのボックスも木ねじ跡があるのでそのようにしていたらしい。「medium hevy black china silk」がどのようなものかはよくわからないが結構厚手のものであれば高音が吸収されるフィルターになっていたと思う。ボックス後部の5枚のドレープは取り付けられた形跡は無かった。
近くの手芸店でサランネットの布を探しに行って普段スピーカーには使われないデニム地を選んだ。木枠作って張って前面に鬼目ナットを埋め込んでネジで固定した。
同様に裏側には15cmの角棒5本を仮組みしてみる。ここにサウンドテックスドレープを張るのだがこの布は「ステップルで固定せよ」となっている。全体の仕上げの指示は「"Derayco" flat black paint」とあり"Derayco"は何の事か不明だがさすがに真っ黒には塗りたくないのでオークのオイル仕上げにした。
定番のワトコオイルを探して数ヶ所のホームセンターを回ったがあまり品揃えがよろしくない。結局違うメーカーのを使用した。こんなに楽な仕上げ方法はないと思うのだが巷の評価は違うのかもしれない。 庭で作業して数時間乾燥させ磨き込んだが部屋に入れるとやはり臭いがきつい。水性オイル(?)もあるがここはしばらく家族には我慢してもらいましょう。
後部のサウンドテックスドレープの縁は縫っておこうとミシンを引っ張り出して来たが絶不調で単純な直線縫いにもかかわらずかなり難航した。ミシン糸を買ってくるもダメで故障なのか調整不良なのかわからない。かなり古い機種なのでコンピュータは内蔵されていない。市販品を調べてみたが安いものは数千円からあってこれでは街のミシン屋さんはなかなか大変そうだ。実家の母親にも相談したが使っているのは家庭用では一番高価なものだったらしくちょっとびっくりした。実家の職業柄布地はたくさんあってそれらをリフォームする事が日常生活の大きな要素になっている。今後のことを考えても我が家ではミシンの出番はさほどありそうもない。母親からのアドバイスで今のミシンをなんとか調整して事が足りた。異音が出てるのでミシンオイルの注油が必要。
ようやく完成しました。
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