Decca Decolaがお嫁入り

やっとこさ入手したDecca Decolaの整備記録

McIntosh MC-60 について

2021-02-21 02:47:37 | オーディオ

 McIntoshとMarantzは昔からのオーディオ愛好家にとって重要な存在で特に真空管アンプ全盛時は2つの頂点として君臨していた。両者はよく比較されたがMarantzは高度な技術を要した先進の回路と言われ時にF1に例えられた。対するMcIntoshは芳醇で豊かな個性的な音創りだと。故瀬川冬樹氏の文章は今でも印象深いが時代の先端技術はいずれ後発に追い抜かれる運命にありJBL、マークレビンソンらに道を譲った。一方で個性を追求する姿勢のアンプは時代が変わっても色あせることがない、、というような内容だったかと思う。

 実はMcIntoshのアンプを日常的に使用したことがなくちょっと距離を置いていた。豊かな時代のアメリカを象徴するような存在に抵抗があったのかもしれないし、同じような傾向のアメ車に興味がなかったからかもしれない。MC-60は拙宅に来てかなりの年月が経っているのだがいまだにスイッチを入れたことすらない。さすがに経年変化を起こしてヤバい状態になってるかもしれない気がして学習を兼ねて整備しようと思います。

 

 McIntoshの管球メインアンプは50Wなどの黎明期を経てMC-30からイメージを決定つける特徴的な外観に移行した。厚いクロムメッキと黒い部分のコントラストが美しいシャーシデザインは当時のMcIntoshの象徴と言えるもので文字通り光り輝いていた。1955年発表のMC-60までがモノーラルの時代でその後MC-240ではじめてステレオアンプが登場しMC-275で頂点そして終焉を迎える。またMC-60は整流管を採用した最後のアンプで早い時代から半導体整流を取り入れたり最初期からユニティカップルド回路を取り入れてハイパワーとハイクォリティの両立を果たすなど技術的な面でも先進的なメーカーだった。MC-60は1961年まで製造されたが途中で細かな回路変更がされていてMarantzのようなバリアブルダンピング機能付きもあった。

 

 MC-60のマニュアルを見て注目するところはアンプの名前の通り60Wという当時としては驚きのハイパワー出力が歪率0.5%以下で20Hz〜20000Hzで得られる事、組み合わされるプリアンプはC-4,C-8などのモノラルアンプだということであらためて1958年登場のステレオLPレコードより前の時代のアンプだということを再認識する。最終価格は$219。

 回路構成は入力を250kΩのボリューム受け - 1/2 12AX7 - 12AU7(ムラード型位相反転) - 12BH7(電圧増幅)- 12AX7(カソードフォロアー) -  KT88/6550 x2 ,5U4GB x2(整流回路) となっている。前年の1954年に発表されたMC-30の回路とほぼ同じで出力段や電源がパワーアップされている。整流管は2本と大型アンプらしい余裕をもった贅沢な創りでチョークコイルはシャーシの中に配置している。入力はハイインピーダンス、出力はスピーカー以外でもトランスの1次側から500/600Ωの平衡出力と70.7Vの伝送出力がある。負帰還は専用巻線からオーバーオールにかけられている。プリアンプ接続用のオクタルソケットは入力のほかプリアンプへのB+とヒーター電源が出ている。この回路図は1960年4月19日でシリアルNo,3FB46以上とある(雑誌の特集記事で誤記あり)ので6年にわたるMC-60の製造でも最後期と思われる。MC-30とMC-60は同時期に同じような変更、改良が行われていることから出力の異なる兄弟機と思われる。MC-30はほぼおなじ特性で出力は半分の30W、価格は$143.5でこれは半分ではなかった。

 

     

 出力管はKT88/6550だが6550が刺さっている。若い頃はKT88の形態に魅力を感じていたが次第に6550に惹かれるようになった。6550はT型とダルマ型の2種類あるが当然ダルマ型に。出力管の後ろに並ぶ5U4GBはT型なので出力管はダルマ型にして存在感を出したい。四半世紀ほど前はT管の6550は当時物の出力管としては普通に新品が入手できた覚えがあるが1本6500円ほどで比較的安価だった。当時既にKT88は高騰していて(6550の数倍した)やっぱり真空管は見た目が大事か、、と納得していた。

 見た目といえばこのMC-60のシャーシ上の部品の配置は以前からちょっと違和感を感じていてなぜなんだろう?と思っていた。先日webでMC-60の写真を見ていたら2本の電解コンデンサーが10mmほど背の低いものに取り替えられているのを見つけて安定感があって好ましく感じた。部品交換した修理品がオリジナルより好ましく感じるというのは私にとっては初めての経験だった。細長い2本の存在感が強すぎると感じたのかもしれない。

   

 高温多湿の日本ではメッキに錆が出やすい。慌てて乱暴に錆落としをするとレタリングが消えて間が抜けた感じになるのでレタリング部分は決して強く擦ってはいけない。幸いに錆は少なく外観に大きなダメージはなさそうで内部も手が入った形跡は見当たらない。ボードにCRを配置している関係で非常にすっきりしている、というか場所によって密度が極端に異なってスカスカ部分とギュウギュウ部分の差が激しい。トランス類の近くにはパーツを配していないのはS/Nを考慮したのかもしれない。

 なぜか指定と異なった真空管が刺さっていて初段の1/2 12AX7 の代わりに5751が。整流管の5U4GBも1本足りず長い間に他のアンプにもぎ取られていったらしい。なんとか調達して動作の様子を伺う。

 すると上記の回路図と結構異なることがわかった。webで探してみると発表当時の1955年6月30日の回路図がでてきたがすでに2種類ある。シリアルNo,500から1703とシリアルNo,1508以上で両者とも「TYPE A-112」となっている。後発と思われる回路図には1956年4月30日とMC-60-3という記載もあるので1年程度の間に2回の変更があった事がうかがえる。上記の1960年4月19日の最終と思われる回路図は「TYPE A-125」で回路も大幅に異なっている。回路図以外の過渡期の製品もあるようでバリアブルダンピング回路も加わったものなどアンプは重たいがフットワークは軽い(意味不明)会社だったらしい。熟成させる時間が不足していたといえばそれまでだが完成させた後もなお研究を進めて製品に反映していく姿勢はMarantzとともに先端を走っていた企業に相応しい。

 

https://raphaelbouziane.files.wordpress.com/2018/02/2016-05-04-schc3a9ma-mcintosh-mc60-owner-manual-two-different-schematic.pdf

 ユニティカップルド回路もよくわからんのにこの初段も理解できずで困ったものです。最初は12AX7もちゃんと2ユニット使われていたことになる。拙宅のMC-60はシリアルNo,が5000番台なので真ん中の回路図に近かそう。バイアス用の巻線はない電源トランスで高圧半波を整流している。最初にバイアスを確認したが円筒形のセレンは一応生きている様子。セレン下の1.8kΩ抵抗でバイアス値を調整できそう。

測定時100V運転なので正常値-45Vが-32Vとかなり低く注意が必要。B+電圧は正常値435Vが360V、ヒーター電圧は5.7Vなのでやはり117Vかけて測定しないと意味がない。ところでACラインに回路図にはない100Ωセメント抵抗が入っている。

 この抵抗は突入電流の保護かと思うが結構発熱する。ヒーター電圧を基準にしてAC電圧を調整しバイアス値を再度確認してみましょう。その他気づいた点として出力段プレートのCHが抵抗になっている。最終回路図にはあるのでその後また復活したということか。MC-60をメンテするにはまず適合する回路図を見つける必要があることがわかったが当時は個人でのメンテは最初から考慮していないのだと思う。以前読んだ青柳圭亮氏の「マッキントッシュ 製品の変遷」という記事にアメリカ全土を巡回してメンテナンスサービスを行っていた「マッキントッシュ・クリニック」というのがあったという。どの程度の期間行われていたかは不明だがアンプを事前に告知された会場に持ち込むと修理やメンテナンスがその場で無料で受けられるという夢のようなサービスで当時の豊かなアメリカを象徴するような内容だった。またそれだけ自社製品に誇りを持っていたのだとも思う。


マイクロテレビ とstay home

2021-02-18 23:05:42 | テレビ

 ようやく新型コロナワクチンの接種が始まった。まず医療従事者、次に高齢者、基礎疾患のある方、次に一般の人の順番で私は最後のグループになる。十分な治験がないままの不安な接種開始だったが幸いなことに世界的にも深刻な副反応は出ていないようだ。ところが先日知人と話をしていたら「米国の〇〇の報告では死者が数百人出ているから自分は接種しない」という。紹介されたHPを見るともっともらしい名前の怪しい団体が出てきて悪質なフェイクニュースだということがわかった。感染拡大初期には違う方から「感染を予防するにはお湯を飲めば良い」と真顔で教えられてびっくりしたことがある。人はこうも簡単に偽の情報を信じてしまうのかと逆に新鮮だった。だれも(私も含めて)確固たるものなど持ち合わせていない。風が吹いてくれば風下に流され、いい匂いがすれば引き寄せられる。人間の本質は昔からちっとも変わっていないようだ。

 新型コロナの流行でstay homeが言われた昨年4月ころからマイクロテレビの修復を始めそれから10ヶ月経過した。テレビ世代にもかかわらずいままでほとんど触ったことのない分野で非常に新鮮な気分だった。フィルム写真機はまだ愛好家が居るが白黒テレビはアナログ放送が終了した現在では実用性は無い。にもかかわらず熱中したのはかつてラジオやアンプを作ったり修理した記憶が蘇り動き出した時の感動が大きかったから。かつては時代の最先端で日本の技術の粋を集めた製品に現代の電気製品には感じられない開発された方々の熱意が込められているような気がしたため。そして造形が素晴らしかったこと。

 幸いなことにほとんどが二束三文もしくは安価で入手できる状況で自分の趣向の赴くままに楽しむことができた。これらがどうなるかは未定だがしばらくはこのままにしておこうかと思っている。

 入手した時はほぼ100%どこかしら故障していた。最上段の銀色のヘルメット型(回路図が入手できていない)以外はすべて稼働する。スペースエイジデザインの製品はそれなりの引き合いがあるようだ。


Nagra について

2021-02-13 10:24:15 | オープンデッキ

 Nagraはスイスのローザンヌにある業界デジタルTV、パブリックアクセス、サイバーセキュリティの企業「NagraKudelski Group」の1951年に創設されたブランド。Nagraテープレコーダーは同社の最初の成功した製品でポーランドの研究者Stefan Kudelski氏(2013年没)によって開発された。現在はクデルスキーグループを離れロマネルシュルローザンヌに本拠を置く独立所有の会社Audio Technology Switzerland S.A.によって開発、製造、販売されている。「Nagra」は開発者の母国であるポーランド語で「記録する」という意味(Wikipediaから引用)。

 Nagraテープレコーダーは映画撮影現場で使用されていた映像と同期する機能を備えた可搬型が有名。過酷な環境でもトラブルなく稼働する必要があり小型で堅牢、高性能な製品として第一線を退いた現在でも魅力を放っていて愛好家は多い。

 私も若い頃からスイスメイドの精密で美しい造形に憧れた一人だが現役で稼働していた当時はコンシューマ市場で見ることはなくステレオサウンド誌で紹介された美しい写真を眺め、価格の"0"の数を数えてリアルに天文学的な数字に慄いた。日本の代理店があり入手は可能といってもまったく実感はわかなかった。今となっては「どうあがいても手が届かないもの」の存在は人格形成において必要ではないかとさえ感じる。しばらくして雑誌の売買欄で売りに出されたNagra Ⅳがありハガキで問い合わせたら結構な量のマニュアルのコピーが送られてきて「まずこれで勉強しなさい!だれに譲るかは後日通知する」旨のメモといかにNagraが貴重で素晴らしい物かが滔滔と書かれてあった。所有する側にもそれなりのレベルが求められるみたいな上から目線でさすがにこれにはちょっと引いた。

 

 最初の製品は1951年のNagara Ⅰ

Nagra Ⅰ (Audio Technology Switzerland S.A. HPより)

 世界初のポータブルテープレコーダーでそれまでは洗濯機のようなサイズで多くの電力と手間のかかるメンテナンスが必要とされた。1951年はSONYのデンスケ1号機がNHKに納品された年だがそれよりも遥かに小型。

 1953年Nagra Ⅱはモジュロメーターが搭載されその後ⅡCⅠではプリント基板化されるなど細かな改良がされた。ⅡCⅠでは7本の真空管を用いていて電池は135Vの積層電池とヒーター用電池を必要とする。モーターはゼンマイ駆動。

Nagra ⅡCⅠ (Audio Technology Switzerland S.A. HPより) その後のNagra Ⅲの原型と一目でわかる。

 

 Nagra Ⅲ(1957年)

Nagra Ⅲ (Audio Technology Switzerland S.A. HPより)

 ローマオリンピック(1960年)の放送で活躍し以来各国のブロードキャスターに導入されるようになった。カメラと同期するための水晶発振子を利用したNP(ネオパイロット)を搭載したⅢNPは1962年。

・電源:                          ATN電源か単一電池12個
・テープスピード:        38.1cm(15inch)/s(NAB)、19.05cm(7 1/2inch)/s (CCIR/NAB切替)、9.525cm(3 3/4inch)/s
・ワウ・フラッター:     0.04%(15ips)、0.06%(7.5ips)
・クロストーク:           70dB以上(1kHz)
・ノーマル録音レベル: 0dB=510nWB/m
・周波数特性:               30~18kHz(±1dB)15ips 40~15kHz(±1dB)7.5ips
・SN比:                        72dB以上
・外形寸法:                   W360×D240×H110mm
・重量:                          6.3kg

 内臓電池は単一12本で18V。外部電源はコネクターはDIN 6pinで他の機種と共通だがATN2は出力電圧の関係で使用できない。適正電圧は12V〜24Vで無負荷のATN2電源は35Vまで上昇するためでNagra Ⅲ専用電源 ATNが用意されている。

 

             ATN(Nagra Ⅲ用外部電源)                          ATN2 for NAGRAⅣ&4.2only でわざわざNAGRAⅢにバッテンがついている。

 ATN2には「注意:NAGRAⅢに接続するな」と朱書きのシールまで貼られていて誤接続によるトラブルが多発したことが伺える。

 

        

 電池を内蔵すると結構な重量となる。黒のパネルにシルバーのリングが4輪でこれはもう蒸気機関車にしか見えない。Nagra ⅢNPが拙宅に来たのは四半世紀以上前でステレオのNagra Ⅳと比べて人気がなかったのか結構流通していたように思う。改めて観察すると古典と未来が混ざったような独特の雰囲気でネジ一つにもクラフトマンシップが行き届いている気がする。民生機と全く異った構造で巨額の費用が掛けられた宇宙船の内部はこんな雰囲気ではないだろうか、、などと思ってしまう。 

   

 数本のネジを緩めるだけでパカッ!と口をあけて内部を見ることができる。保守点検にはとても都合がよい。

 ワンモーターのメカニズムとユニット化された電子回路は美しくNagra Ⅲは64年前のNagra最初のソリッドステート製品のはずだが、、この完成度には驚嘆する。(この個体は1965年製造)。

 Nagra Ⅲの周辺機器

 DH

  

  

(引用 https://www.radiomuseum.org/r/kudelski_nagra_aktivlautsprecher_active_speaker_box_hp.html)

 「DH」という名前のパワードスピーカーで製造は1964年、外部電源は接続できず単一電池12本必要で現場での使用に特化している。パネルはNagra Ⅲと合わせているが予算の関係なのか角メーター。欧州製品らしい楕円形スピーカーを積んでいる。

 

MIXER MBⅡ

 

 

(引用:https://www.radiomuseum.org/r/kudelski_nagra_mixer_bm_ii_bm_2.html)

 MBⅡは200Ωのマイク入力が3系統、LINE入力が1系統のNagra Ⅲ専用アクティブミキサーで本体から10.5Vの電源が供給される。各々にローカットフィルターがありコントロールは入力だけで出力はなく本体で行う。出力はDIN6pinで信号、電源が含まれる。オリジナルのツマミは他と同様に金属のバーなのだが使い勝手が良くなかったのか日本製のものに置き換えられている。他の製品と同様にパネルには誇らしげに「SWISS MADE」とある。

 

 Nagra Ⅲ 1963年4月の米国のパンフレット

(引用:https://museumofmagneticsoundrecording.org/RecordersNagra.html)

 いかに優れた性能かが述べられているが注目すべきは価格で Nagra ⅢB   $ 1045       Nagra ⅢNP   $1095 。 米国の現在の物価は1963年当時の約9倍と言われるので100万円程度でちょっと低いような、、。1963年当時の大卒初任給19700円で現在は約10倍。当時は1$=360円なので$1000=36万円(そういえば1000ドルカー パブリカなんてCMがあった)その10倍とすると360万円でこちらの方が感覚的に近い気がする。

 

 Nagra Ⅳ-S(1971年)

 Nagra初のステレオテープレコーダーでNagra製品では一番知られている。

 Nagra Ⅳ-S (Audio Technology Switzerland S.A. HPより)

電源:交流電源(ATN-2)によるか、単一電池12個による駆動(充電地も可)
テープスピード:         38.1cm(15inch)/s(NAB及びNAGRAMASTER)、19.05cm(7 1/2inch)/s、9.525cm(3 3/4inch)/s
ワウ・フラッター:        0.028%(15ips)、0.030%(7.5ips)、0.043%(3.75ips) NAB規格
クロストーク:            70dB(1kHz)
ノーマル録音レベル:  0dB=510nWB/m
周波数特性:               30~20kHz(±1dB)15ips
                                    30~15kHz(±1dB)7.5ips
                                    30~10kHz(±2dB)3.75ips
SN比:                         STD...70.5dB (NAB 15ips)
                                    NAGRAMASTER...74.5dB(NAB 15ips)
外形寸法:                   W333×D242×H113mm
重量:                          6.4kg

 Nagra Ⅳ-Sには3種類ありⅣ-SDは通常の2chステレオ機 Ⅳ-SLはパイロットヘッドを加えたタイプ Ⅳ-SJは騒音、振動測定などのデータレコーダーで非オーディオ用。本体には7号リールまでかかるがアクリルカバーが閉じるのは5号まで。ただし7号に対応したアクリルカバーも用意されていて(冒頭の写真)、QGBアダプター(後述)を用いれば10号リールまで可能。それ以外でも夥しい数の周辺機器が用意されている。

 

   

 

    

 左右の入力ボリュームはスイッチで連動、非連動の切り替えができる。

 

この切り替えが不調で調整した。ツマミをギアに押し付けるクラッチ機構になっている。イモネジは1/16inch。

 日本国内の代理店は「報映産業」で取扱は多分Nagra 4.2 Nagra Ⅳ-Sからではないかと思う。1983年1月1日の価格表を見るとNagra 4.2 は1,270,000円 Nagra Ⅳ-SDは1,330,000円 Nagra Ⅳ-SJは1,790,000円 オーディオ愛好家が注目したのはやはりステレオの仕様のNagra Ⅳ-SDで、モジュロメーターの立体的な造形はNagraの象徴としてその後のアンプにまで取り入れられた。

 

 Nagara ⅠS(1974年)

 

 Nagra ⅠSは初の3モーターを搭載した小型フルトラック機でマニュアルによると用途に合わせて以下の4種類がある。

 電源は単一電池8本12Vで本体と切り離すことができるボックスに収まる。3モーター機ということで今までと内部の構造も大きく異なっている。

 

 メカニズム部分が少なくなり電子回路に置き換わった。Nagraに限らずテープレコーダーほとんどがこの流れだったわけだがキャブから電子制御の燃料噴射になったみたいだと感じる。上を向いているマイクとヘッドホン端子が本体の両サイドから飛び出しているという特異な形状でフルトラックのモノだがマイクは2本接続できて本体でミキシング可能。フロントパネルに端子を設けなかったのはオーダーに応じてのコネクターの変更を配慮したと思われる。この機種はマイクはキャノンのメス2本、ヘッドホンは6.3mmになっている。突起が左右にあるということで通常のキャリングケースの形状では出し入れに問題が生じるので

 

 この専用レザーケースは左右の大きなポケットの内側に穴が開いていて左右から被せるように突起部分が収まる。「DR」のシールは「DENMARK RADIO」のマークでパネルにも美しく刻印されていてこれはNagraにオーダーしたのかもしれない。当時Nagra ⅠSが日本に正式に輸入されていたかは不明で報映の価格表にも見当たらない。モノトラック録音機はNagra 4.2やNagra Eで足りるとされたのだろうか。

 

 Nagra E(1976年)

 最後のNagraアナログポータブルテープレコーダー。

 

1312  

 

 

 

Specifications 
THD at  400 Hz             < 0.9 % at 0 dB, < 2 % at +3 dB 
Frequency response     50- 15000 Hz at +/- 2 dB 
Signal to noise ratio     62 dB ASA A weighted 
Erase depth                  12000 Hz recorded signal > 79 dB 
Wow and flutter            +/- 0.1 % (DIN 45507) 
Reference oscillator      1 kHz signal, 0 VU level – 8 dB 
Built in reference oscillator 
                                       For tape calibration –12 dB @ 1 kHz, 6.3 kHz and 10 kHz 
Operating range           - 20 to 70 °C 
Autonomy                     In continous operation 20 hours 
 
Inputs / output 
Mic input                      3 pin XLR’s  
Mic powering              “T”power, Dynamic 
Sensitivity                    From 0.2 mV to 4 mV / 0 dB 
Line input 
   On microphone          2.5 mV / 0 dB 
   Line                            Assymetrical with output load > 300  , 0.94 V for 320 nWb/m 
 
Physical 
Dimensions                 315 x 226 x 104 mm
Weight                         5.5 kg(12 cells and tape  included) 
 
 1モーターでメカニズム部分はⅣ-Sとほとんど一緒だがモーターの直径が少し小さい。筐体の高さも若干低くツマミ類は先祖返りした。トレードマークのカラフルな赤に染められているがパネルの厚みは2mmで以前の機種と変わりない。にもかかわらず華奢で軽く感じられるのは(実際1kg程度は軽いのだが)リッドを受ける部分のゴムパッキンが省略されていること、アイキャッチャーのNagraメーターが(非常に見やすいのだが)角メーターになったこと、外装に使われているネジが安っぽいことなどかと思う。(特にこのネジは非常に気になるところで隙あらば交換してしまいたい!と思う。多分しないけど。)
 電子回路はワンボードになったがNagra ⅠSで採用されたロジック回路は1モーターということで使われていない。オペアンプなども無くすべてディスクリートで構成されているのも古典的だが不慮のトラブルに対応するためかもしれない。

 前年の1975年にはSONY TC5550-2が発売されている。nagra Eの1978年の価格は680,000円でNagra 4.2やNagra Ⅳ-Sの約半額という廉価版だがそれでもSONY TC-5550-2の4倍の価格。モノラル機であるし一般人にはなかなか手を出しづらかったと思う。しかしRevoxではなくStuderを、ThorensではなくEMTを、など日本には業務機を崇める気風がありオーディオブーム最盛期には入手された方も居たかもしれない。

 

     QGB

 Nagra E   Nagra 4.2  Nagra Ⅳ-S に装着できる10.5inchアダプターで内部にモーターと制御するための電子回路がある。電源は本体とDIN 6pinコードを繋いで本体のバッテリーからもしくはQGBに接続する外部電源のATN2(3)で両者に供給される。StellavoxのABR85はSP7専用で電源も必要としないがQGBはテレコ本体とは完全に独立しているため他のテープレコーダーとも物理的に合体できれば稼働させることができる。

   

 久々に稼働させようとしたがリールクランパーがうまく動かずリールを固定できない。

 なかなか原理を理解できず思いの外修理に時間がかかってしまった。

 巻き戻し、早送りはこのダイヤルを引っ張り上げて送りたい方向に捻ると高速で移動する。真ん中だとどちらにも行かず止まっている。

 

 テープのテンションは2個のローラーで検知され軸の回転がコントロールされる。回路図を見ると50個以上のトランジスターで構成されサーボが掛けられていると思うが非常に複雑でほとんど理解できない。故障しないのを祈るのみ。

 

 Nagra Ⅳ-S本体の足にクランプでしっかり固定され位置決めされる。本体の前面にパネルがあるので水平使用に限られるがしっかり一体となるのは安定動作するための重要な要素と思う。高さの低いNagra Eと組み合わせるにはちょっと工夫がいるし本体足の形態がⅣと異なる。他のテープレコーダーの場合はテープが走行する高さを揃えて走行経路に障害物がないようにすれば大丈夫そうで実際にSONY TC5550-2やStellavox SP7と組み合わせている写真を見ることがある。 Stellavox のABR85は使いづらく実用性は低かったがQGBはとてもよくできたアダプターで動きは快適、設計者は天才ではないかとさえ思う。

 

 Nagra SN(1971年)

 半世紀前に開発されたNagra SNは当時世界最小のオープンテープレコーダーでテープ幅は1/8inch(3.81mm)でカセットテープと同じ。単3電池2本で稼働しフルトラック、ハーフトラック、そして2chステレオタイプがある。

  Nagra SNN    フルトラック録音     9.5cm/s  4.75cm/s

       Nagra SNS    ハーフトラック録音    4.75cm/s  2.38cm/s

       Nagra SNST(1977年)ステレオ録音

 外形寸法:約147 x 101 x 26mm
 重量:510g

  

  

 

 

 

 

 スパイ映画によく登場すると言われるが私は見たことがない。アポロ宇宙船で月まで行ったとかスピーカーを搭載していないのでオープンテープ版のウォークマンとも言われる。レタリングは精緻で今ならレーザー刻印ができそうだが当時はどうやったのだろう?と思う。操作は横に飛び出しているレバーで行い早送り機能はなくて巻き戻しはハンドルを起こして手動で行う。ヘッドホンは3.5mmのプラグでその他多くのオプション機器とは横についているコネクターで接続する。

 今ではよく目にするが当時はスパイが隠し持ってるのだから一般人は見ることができない、、などと思っていた(ホントです)。雑誌の写真に反応して「実際に流通してるとは思わなかった!」などというコメントが次の号に載ったりするほど幻の製品だった。swiss madeの時計のような位置付けで大切にされ酷使されたのは少ないように思います。

 

 適当なケースがないかと探して見つかったのはマレーシア航空の洗面セット。ポルシェデザインらしく大きさもちょうど良い。ビジネスクラスなんて乗ったことがないので知らなかった。その他ハードディスクドライブのケースが良さそう。