《本記事のポイント》
- 分断の境界線上で紛争が多発する時代に突入
- 火薬庫が世界にばら撒かれた
- 欧米側とロシアによる分断が進む西アフリカ
プロフィール
(かわだ・せいじ)1967年、岐阜県生まれ。防衛大学校を卒業後、航空自衛隊にパイロットとして従事。現在は、ハッピー・サイエンス・ユニバーシティ(HSU)の未来創造学部で、安全保障や国際政治学を教えている。
1941年にナチス・ドイツに対抗して、自由と民主主義を監視する機関として設立されたフリーダムハウスは、世界に自由を拡大し守ることを使命に掲げる国際NGOで、毎年「政治的権利」と「市民的自由」の二つの観点から世界210カ国・地域の自由度を評価し報告しています。
フリーダムハウスによると、戦後に自由な国家は増加し、1973年の初調査では、「自由」国は148カ国中わずかに44カ国でしたが、現在では195カ国中84カ国が「自由」と評価されるようになり、格段に自由になったことは事実です。
自由主義国家は減少の一途、全体主義国家が増加している
しかし2023年の最新の調査報告レポートでは、コロナパンデミック、経済の悪化、世界各地での衝突や内乱などにより、民主的国家の体制がゆらぎ、権威主義国家においては一層自由がなくなり、過去17年間で最も「自由度」が低下したとされています。自由主義国家は、17年間減少を続けており、今回の報告で「不自由」と認定された国は、57カ国、約30億人に達した、と警告しています。
下記は過去50年間の「自由国」と「一部自由国」、「不自由国」の推移を、フリーダムハウスの報告をもとに筆者がグラフにしたものです(FREEDOM HOUSE, Comparative and Historical Data Files)。
グラフからは、2000年前後から自由国家数が停滞し、2010年代に入るとむしろ減少していることが分かります。一方の不自由な国、つまり独裁国家などの全体主義の国は、増加傾向にあります。
一部自由国と不自由国とで世界の57%を占め(196カ国中112カ国)、「市民的自由」と「政治的権利」の両方で自由といえる国家は世界の半数にも満たない43%(84カ国)しかありません。
繰り返しになりますが、恐るべきことは、世界で全体主義的な国家が増えつつあることです。
これらの自由でない国が増えている理由の一つに、戦争やクーデターなどで民主的制度が破壊されたことが挙げられます。近年ではタイ、ミャンマー、アフリカのブルキナファソ、マリ、ニジェールなどがそれに当たります。また現職指導者が権力を強化して独裁が進んだというケースも目につきます。こうした国にくくられるのが、トルコ、エルサルバドル、チュニジアなどです。
このような観点からも、世界から紛争を抑止し、平和にしていくことは重要です。
無神論・唯物論の中国こそ全体主義国家の代表
1989年の冷戦の終結、そして1991年に無神論・唯物論のソ連が崩壊した時、世界から共産党政権が駆逐され、無神論国家を消滅できるとの期待感が高まりました。
中国でも1989年に天安門事件が起こり、民主化への大きなうねりが起きました。しかし中国の民主化運動は、参加した学生などの多くが共産党の軍隊である人民解放軍によって蹂躙、弾圧され失敗してしまいます。天安門事件を受けて世界が中国に制裁を課す中、日本政府は真っ先に制裁解除を先導しました。それにより、海外の直接投資が中国の成長を促しました。
神様は地球から唯物論国家を一掃しようとしておられた時に、日本政府の行動は大国として責任ある行動だったとは言えません。
そのツケは世界の大きな脅威としてやってきました。
2000年頃から急速に中国は台頭し、自由主義国にとって、世界最大の無神論・唯物論の全体主義国家、中国の覇権拡大をどう押し止めるかが、国際政治および安全保障上の最大のテーマとなったのです。
実際に中国は、他国の政治体制のモデルとなることを目指しており、例えばアジアでは、ラオス、カンボジアに加え、ミャンマーやタイでは独裁化の傾向が強く出てきています。そして中国政府は、これら独裁国家と深い関係を維持しており、内政不干渉を名目に人権抑圧を続ける独裁政権を追認して、その延命に手を貸してきたのです。
分断の境界線上で紛争が多発する時代に突入
このように中国の独裁体制が近年最大のテーマだったにもかかわらず、アメリカでバイデン政権が誕生すると、思考が冷戦時代に逆戻りしロシアを第一の敵と定めてしまいました。
ロシアによるウクライナ侵攻は至極残念と言うほかありません。しかし、本欄でも述べてきた通り、この戦争は、アメリカが中心となって、ロシアが緩衝地帯と考えるウクライナを西側に取り込む画策を続けた結果で起きたことです。また、侵攻後にアメリカがロシアに経済制裁を科したことで、ロシアは中国と緊密な関係を強化せざるを得なくなりました。つまりバイデン政権は、わざわざロシアを不可逆的に中国側に追いやる"歴史的愚策″を行ったと言えるのです。
その報いは、親欧米側と反欧米側という世界的な分断として顕在化しました。現在、この分断の境界線上で、紛争が多発する時代に、世界は突入しつつあるのです。
火薬庫が世界にばら撒かれた
現時点で世界を見渡してみると、至るところで戦争が起きており、またそのリスクが高まっています。ニューズウィーク誌も「新・紛争時代」と呼んで7月18・25日号で特集を組みました。
境界線における衝突や紛争危機は、アジアでは台湾、朝鮮半島、日本、ミャンマーなど、中東ではイラン、シリア、ナゴルノカラバフなど、欧州ではウクライナ、コソボ、アフリカではリビア、スーダン、ニジェールなどがあります。まさしく世界はふたたび戦争の世紀へと逆戻りしつつあるのです。
今回は、西アフリカを中心に述べたいと思います。
欧米側とロシアによる分断が進む西アフリカ
日本人にとって西アフリカは意識的にも辺境にある地域かもしれません。しかし、例えばニジェールは、ウランの有力な生産国です。EUのウラン輸入量の約24%を供給していますし、日本にも輸出しています。
ニジェールでは7月にクーデターが起きて親露政権になりました。ロシア産ウランの輸入を削減しているEUにとっては、ウラン燃料の輸入に、懸念材料が増えました。
これまでも西アフリカでは、欧州の支配、特にフランスの干渉から逃れようとする軍事指導者らによる蜂起やクーデターが何度も起こってきました。西アフリカの国々は、もともとフランスの植民地だったところが多いのですが、独立後もフランスの強い干渉を受けてきたからです。
西アフリカの情勢が劇的に変わり始めたのは2020年以降です。
2020年8月と翌年5月にマリで2回のクーデター、2021年9月にギニアでクーデター、2022年2月にはギニアビサウでクーデター未遂、2022年1月と9月にブルキナファソで2度もクーデターが起き、ドミノ倒しのように、親フランス政権が倒れ始めました。
これは2000年以来で最も高い発生件数で、国連のグテーレス事務総長は、「クーデターの流行」と呼んで危機感を露わにしています。
西アフリカ地図:筆者作成
これらの国々のクーデターを首謀した軍事指導者は、旧宗主国のフランスと対立し、ロシアと接近しています。
マリではクーデター後にフランスとの防衛協定を破棄、外交関係は断絶され、仏語は公用語から外されました。また駐留していた仏軍がマリから撤退する代わりに、マリはロシアの民間軍事会社ワグネルを頼りました。
ブルキナファソの新しいリーダーとなったトラオレ暫定大統領は、今年の7月にサンクトペテルブルクで開催されたロシア・アフリカ首脳会議の際、演説でロシアをアフリカ家族の一員と呼びました。
なお、2022年12月にワグネルの影響力が高まる中央アフリカからも、駐留フランス軍は撤退しています。
そして今年7月26日にニジェールでクーデターが発生しました。モハメド・バズム大統領は拘束され、憲法は無効とされ、全ての機関の機能が停止されたほか、国境も閉鎖されました。
市内ではクーデター支持者らによる暴動が発生し、ロシア国旗を掲げて、「打倒フランス」などと記された手書きのプラカードも見られたようです。
西アフリカの一員であるナイジェリアは、フランスの重要な同盟国で、また西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)のリーダーです。欧米側のECOWASは、ニジェールのクーデターを受けて緊急会合を開き、新軍事政権を「一切容認しない」として、バズム大統領の復帰要求が1週間以内に満たされない場合、軍事行動も辞さない構えを示しました。
一方、隣国のマリとブルキナファソは共同声明を発表し、ECOWASが軍事介入した場合、両国はECOWASから離脱し、隣国ニジェールの防衛に向かうと警告しました。
ニジェール側も話し合いに前向きな姿勢を示しているものの、8月17日に開かれたECOWASの軍指導部による会合では、ニジェールとの対話など「他のすべてが失敗した場合」、あらためて軍事介入する用意があると述べています。そして翌18日には具体的な日付こそ明かしませんでしたが、軍事介入の「開始日を決めた」と述べました。
前述のとおり、ニジェール、マリ、ブルキナファソは親露路線をとっており、ロシアの民間軍事会社ワグネルが浸透しています。もし西アフリカで紛争が起きれば、欧米vs.ロシアの代理戦争がアフリカでも起きることになります。
ちなみにロシアは7月末に2回目となるロシア・アフリカ首脳会議を開催しましたが、プーチン大統領は、アフリカの40以上の国々と軍事協力などの協定を結び、武器などを供与していると明かしました。
(後編に続く)
HSU未来創造学部では、仏法真理と神の正義を柱としつつ、今回の世界情勢などの生きた専門知識を授業で学び、「国際政治のあるべき姿」への視点を養っています。詳しくはこちらをご覧ください(未来創造学部ホームページ)。
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