日本はアフリカで存在感を取り戻せるか TICAD7から見えてきた日本の課題
2019.08.30(liverty web)
写真:AFP/アフロ
《本記事のポイント》
- 日本の「騎士道精神」から始まったTICAD
- 統治体制を輸出する中国に勝つには、「アフリカの明治維新」を担う人材の育成を
- 中国の国際金融市場での資金調達を止めるには、デフレからの脱却が不可欠
第7回アフリカ開発会議(TICAD)が、30日に横浜市で閉幕した。安倍晋三首相は基調演説で、日本政府として今後3年間で200億ドル(約2兆1000億円)を上回る民間投資の実現を後押しすると表明。6年ぶりに日本で開催となったTICADで、「最大のフロンティア」アフリカに対する日本の戦略を示す機会となった。
そもそも、TICADとは何か。日本がTICADを提唱するようになったのは1993年。その背景について、HSU(ハッピー・サイエンス・ユニバーシティ)で安全保障などを教える河田成治氏はこう語る。
「冷戦時代にアメリカなどの西側諸国は、アフリカがソ連に取り込まれないように、アフリカへの援助を行いました。しかし冷戦終結とともに、西側はアフリカへの関心を失ってしまいます。
その時に、このままではいけないと立ち上がったのが日本でした。『アフリカが世界から忘れられた時、日本が世界の関心を喚起してくれた』という言葉もあるほどです。
背景にあったのは、東南アジアでの開発援助の成功体験です。
戦後、日本の東南アジアへの支援は、「基幹産業である農業の発展」、「治安の維持」、「道路や電気、下水などのインフラ整備」を三本柱にして行われました。それが、海外からの投資を呼び込み、東南アジア諸国が経済成長を遂げるための重要な基盤になるからです。
『日本企業進出のための開発か』という非難の声がアジア諸国から高まると、現地の人の雇用を増やすなど、改善を重ねました。それが東南アジアの発展の原動力となっていきます。
この成功体験を生かして、アフリカの開発に力を入れ始めた日本を見て、今の中国が真似を始めました」
日本は、後進国に成功を還元する「騎士道精神」で立ち上がったところまではよかったが、平成元年の消費税の導入をきっかけに、平成30年間の景気が低迷。その間、官民ともにアフリカへの投資は縮小し、「失われた30年」は「アフリカを失った30年」となった。
その空白を突くかのように、巨大経済圏構想「一帯一路」を掲げる中国は、アフリカ進出を拡大。企業数や直接投資の規模で中国に抜かれ、日本はアフリカで存在感を失っていった。
その後、インフラ整備の支援を受けた国が、中国から借りた資金を返済できない場合、中国の影響下に置かれる「債務の罠」にはまり、港を明け渡したジブチのようなケースが発生している。
このため今回のTICAD7は、この平成30年の「出遅れ」を取り戻し、「一帯一路」に対抗できるものになっているかどうかが主な評価基準になるだろう。
評価: 「債務の罠」の転落防止策を含む
まず評価できる点は、各国が「債務の罠」にはまらないよう、日本が金融面で対策を打っていることだ。
現在、中国が行っているアフリカの投資は、重商主義時代のヨーロッパよりたちが悪いという。それを象徴するのが、ザンビアのマイケル・サタ元大統領の言葉だ。
「植民地時代の欧州による搾取は、中国の搾取と比べればよいものだと考えられる。(中略)(欧州の)植民地時代には、社会・経済基盤のための投資が行われていた。だが、中国の投資は地元の人々の幸福を顧みることなく、アフリカからできる限りのものを持ち出すことばかりに力を入れている」
中国は、アフリカから石油、鉄鉱石、銅、プラチナ、ダイヤモンド、マンガンなど資源を持ち出している。しかも、相手国に「インフラを整備してあげる」と言いながら、中国の企業と労働者が現地にやってきて、すべての事業を請け負うため、地元にはびた一文もお金が落ちない。
さらに、出来高ベースではなく計画ベースのため、橋の落下事故などのずさんな工事をしても、当事国には支払い義務が残る。債務が返済できなければ、担保にしていた石油や港湾を差し押さえていく。実態は、ヤクザまがいの侵略的なインフラ投資なのだ。
今回のTICAD7では、ザンビアなどの対中債務リスクが高い国を含め、30カ国の財政当局者に債務管理の助言をしたり、リスク研修を実施したりする方針だという。要するに、日本は「ヤクザから借金をしてはいけませんよ」と借り手に対する教育に乗り出すことになる。
だが、すでにエジプト、エチオピア、ケニアなど債務リスクの高い国が増えてからの指導は、遅きに失した感も否めない。
課題(1) 予算規模で中国を下回るため、日本だけでは対抗できない
「借りると危険」と警告されても、人口が増え続けるアフリカにおいては、安いインフラを提供してくれる中国はいまだに魅力的だ。インフラの提供国を代替できるかが勝負となる。
だが中国に対抗するのは簡単ではない。中国は昨年9月に、3年間で600億ドル(約6兆3000億円)をアフリカ支援のために拠出すると表明。2015年の公表分と合わせると、6年間で1200億ドル(約12兆円)に上る。日本だけで、中国の「規模」には太刀打ちできないことになる。
このため、今年10月に「米国債開発金融公社」(DFC)を始動させ途上国への投資を強化するアメリカやフランス、イギリス、インドなどとの連携が不可欠となる。西側の協力体制構築が急務なのだ。
課題(2) 「アフリカの明治維新を担う」知識人層の育成を
TICAD7のサイドイベントとして、日本とアフリカのICT(情報通信技術)担当閣僚が集う会議が開催された。共同声明では、日本が通信インフラ整備などの優先プロジェクトを支援することが確認された。
中国はアフリカのデジタル化を推し進めるなかで、スーダン、エチオピア、ジンバブエなどに対し、世論をどう操作し監視テクノロジーを使うのかについてアドバイスを与えている。
また中国IT企業ファーウェイの協力で、ウガンダ、ザンビア両政府が国内の政敵を監視していたと、米ウォール・ストリート・ジャーナル紙が報じたばかりだ。
監視カメラを国中に張り巡らせ、5G通信で大量の情報を迅速に送受信できれば、国民の監視は容易になる。貧しく未成熟な国の指導者が、専制的な統治の“味をしめれば"、国民は政府の餌食になるだろう。
技術は使う側の民度次第。「自由で民主的な政治体制」を根づかせるには、それぞれの国にある程度の知識層をつくることが不可欠となる。
TICAD7で日本政府は、司法や行政分野の人材を今後3年間で1000人育成すると公表した。これが「アフリカ型の明治維新」につながるよう、長期的な確固とした戦略を持つことが求められる。
課題(3) デフレからの脱却で、邦銀からの中国の資金流入を止める
TICAD7で国からの援助よりも、民間投資を重視する考えが強調されたのは、途上国に対する政府開発援助(ODA)が、財政難により大幅増を見込めないという理由からだ。
一方、高度経済成長を遂げた中国は、官民ともに対外直接投資を増やしている。2000年に5億ドル(約532億円)にすぎなかった海外への貸し付けは、2017年までに累計で5兆ドル(約530兆円)に達している。
デフレに陥り、日本国内に投資先が少なく、企業が新たな借金をしないため、邦銀は海外向けの貸し出しを増やしている。日本の銀行から国際金融市場を通じて、直接または間接的に中国に約5300億ドル(約56.4兆円)の資金が流れている状況だ。
そのお金が元手となり、中国による「アフリカの植民地化」が進むなら、まず中国の資金源を絶たなければならない。日本政府は、消費増税を止めて、デフレからの脱却と景気回復を目指すべきだろう。
さまざまな課題を抱えるTICADだが、日本はアフリカにおいて、中国への対抗措置を開始したのは評価できる。しかも今回の会合は、トランプ米政権が「第4弾」となる対中制裁を発動する前夜に開かれた。
中国では現在、人民元の海外流出が続いている。元安が進んでいけば、アメリカから「為替操作国」と認定された中国へのさらなる制裁発動もあり得る。中国の軍事的な野望を徹底的にくじく年にするには、日本は対中圧力を緩めてはならない。
(長華子)
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