2011年4月5日(火)「しんぶん赤旗」
主張
震災と労働者
被災者の実情踏まえ雇用守れ
地震で会社が壊れ、津波で流され、あるいは原発からの緊急避難で働く場を失った人が膨大な数にのぼっています。すでに解雇や自宅待機、雇い止め、就職内定取り消しが続発しており、大規模に拡大することが懸念されます。
政府は「被災者等就労支援・雇用創出推進会議」を設置し、対策の検討に入りましたが、地震、津波、原発事故という未曽有の複合的な大災害の実情を踏まえ、雇用の確保・拡大のための対策を迅速に打ち出すべきです。
阪神大震災を上回る
どれだけの人が職を失ったか全容はまだ明らかではありませんが、厚労省によると岩手、宮城、福島の3県で津波に襲われた臨海部の市町村だけで事業所は8万8000カ所、就業者数は84万1000人です。町の中心部が丸ごと流されたところが多数です。職を失った人が5万人といわれる1995年の阪神・淡路大震災をはるかに上回る被害が予想されます。
緊急の措置として、現行制度で実態に即して特例措置をとり、柔軟に活用することが求められています。雇用保険では休業によって一時的に離職を余儀なくされた労働者にたいする失業手当受給を思い切って広げること、事業者を支援する雇用調整助成金制度や未払い賃金の立て替え払い制度では要件と手続きを緩和することなど、あらゆる制度で支援すべきです。
また何万人という規模の行方不明者や、津波に流された人を救えなかったという精神的ショックで勤務が困難になっている人を業務災害として労災認定することは今回の場合とくに重要です。柔軟で積極的な対応が求められます。
被災者が書類づくりで自治体やハローワーク、労働基準監督署などをたらい回しされることがないように相談体制を強化し、ゆきとどいた対応をとることも大事です。大企業による「派遣切り」で仕事も住まいも失った労働者が行政サービスを受ける手続きを関係機関が1カ所に集まり実施した「ワンストップ」を応用すべきです。
こうした緊急支援対策とともに、被災地の復興のための国家的プロジェクトに雇用対策を位置づけて、事業を起こし、雇用を確保することが重要です。がれきの撤去など臨時の公共事業が想定されますが、それだけにとどまらず、もっと抜本的な対策が必要です。
阪神・淡路大震災のさい、政府は「被災失業者の就労促進に関する特別措置法」をつくりました。しかし対象を「公共的な建設又は復旧の事業」にかぎったため、法律ができてから1年間で雇われた失業者が41人しかいないというのが実態でした。福祉、医療、介護などに対象を拡大し、さらに免許・資格取得希望者には生活費を支給する職業訓練制度をつくるなど総合的な対策をとるべきです。
住みつづけたい願いに
被災地の人たちの多くは、町の惨状を目の当たりにして、なんとしても復興し、ここに住み続けたい、役に立ちたいと願っています。その願いにそって地域の産業の特徴に見合った復旧・復興と雇用づくりの計画が欠かせません。
被災地は農業、漁業、水産加工業の就業者が全国平均より高い地域です。農地や港、漁船、養殖場の復旧を迅速に行うなど、地元で雇用を生み出すことに力点を置いた対策が重要です。