観るも八卦のバトルロイヤル

映画・ドラマを独断と偏見(?)で、
斬って斬って斬りまくる。
※無断転載は一切禁止。

これまでになかった反戦ドラマと捉える「硫黄島 戦場の郵便配達」

2006年12月11日 | 映画・ドラマ
 クリント・イーストウッド監督の映画「硫黄島からの手紙」の公開前哨戦の形でフジテレビが放映。
 木更津航空隊・少尉の根本正良(伊藤淳史)と根本の鈴鹿航空隊時代の教官で、海軍少将・市丸利之助(藤竜也)を軸に、ドラマとドキュメンタリーを上手く合体させて不自然なく物語は進行。
 テレビと言うことで、予算や時間の関係であろうが、戦闘シーンや空襲シーンは迫力に欠けるが、それのどこがいけない。焦点はこんなところではないのだ。
 ただ敗戦を遅らせるために灼熱地獄に苦しみ、兵器も食料も、そして一杯の水さえも口にできない悪条件の中、決して勝つことの無い(これは生き残れる可能性の無いことを意味する)戦いに命を落として行った男たちの実話である。
 彼らの唯一の楽しみは、本土の家族からの手紙。そしてそれを命をかけて届けることを志願した男たちのドラマである。
 硫黄島はすでに本土からの支援もままならない、見捨てられた島と化していた。国のために国の命令で赴任し、そして見捨てられた命は2万。
 戦争の悲劇と共に、それでも死ぬことに命をかけなければならない人の犠牲と共に、今我々はのうのうと生きているということを知らなければならないのだ。
 現在、悲惨な事件が多発し、命の主さを計り知れない人が続出。いじめなどはその典型的な例だが、これは平和と裕福の産んだ副産物。こんな時代が合ったことを誰もが知り、そして忘れてはならないのだ。
 市丸利之助少将の妻、市丸スエ子の手塚理美がナレーションも受け持ち、ドキュメンタリー部分の解説もしている。そして実際に生き残った兵士や家族のインタビューを交えたドラマに不自然さは無く、かなりの出来映えと言えるだろう。
 とにかくと言っても単発ドラマなので、そうそう観ることはできないと思うが、再放送があれば是非お勧めする。「男たちのYAMATO」「壬生義士伝」などの名作とは違った意味で、臨場感や胸を打つ一作である。
 テレビドラマでもここまでやれる。
 それにしても硫黄島って数奇な島だね。
 伊藤淳史と伊崎充則って地味だが、ひと昔の宮川一朗太みたいで、彼らが画面に映ると、時代が急に逆戻りしてしまうような、実際に当時を生きていたような気にさせる役者。その最も足る存在が、中井貴一だろう。

アメリカの正義「ワールド・トレード・センター」

2006年12月11日 | 映画・ドラマ
 「さっすがオリバー・ストーン監督、捕らえ所が違う」まさにこの一言に尽きる。当初、ビルが崩壊したり、飛行機が突っ込んだりのド派手なスペクタル映画なんだろうと思っていたのだが、任務のために二次災害を受けた警察官の家族に焦点を合わせた、家族愛、友情をテーマにしたものだった。
 家族が夫や父を案じるシーンでは、止めどなく涙があふれてくるほどの真に迫った内容。実話ということだが、正に、家族を思う家族はこうなのだろうと思わせた。
 ニコラス・ケイジの奥さんが「20年警察のためだけに尽くして、結果はこれなの」と言うシーンは、危険な仕事に従事する家族にしか言えない台詞であった。
 主演のニコラス・ケイジなんか、「救出に行くぞ」と準備してただけで、二次災害で閉じ込められちゃって、「何もしてねー」なんて曲がった観点で観ていることが恥ずかしくなるほど。
 それにしてもリアルな「ワールド・トレード・センター」の崩壊は、日本人の私でさえ、込み上げる感慨があったほどなので、アメリカ人は観るのも辛かったのでは?
 やはり、どんなに国が乱れていたとしても根底にキリスト教の教えのある民族は違うなと思い知った次第。
 ベトナム戦争というアメリカの恥部を余す所無く表現し、あのテーマの中からも、人間というものを浮き彫りにさせたオリバー・ストーン監督。こんなにまで深い監督はほかにいないと断言できる。
 余談だが、アメリカに数十年住むある人が「アメリカは侵略の歴史で、自国が被害を被ることがなかったから、いい薬に成っただろう」と当時つぶやいた一言が未だ脳裏を駆け巡る。