怪しい中年だったテニスクラブ

いつも半分酔っ払っていながらテニスをするという不健康なテニスクラブの活動日誌

「合気道とラグビーを貫くもの」内田樹 平尾剛

2017-12-09 08:37:25 | 
ラグビーと合気道というと如何にも異種格闘技みたいな感じですが、平尾剛は内田主催の「甲南麻雀連盟」の創成期からの正会員だそうで、付き合いもそれなりに長いみたい。この本は内田が「武術的立場」というタイトルで行った平尾とのトークセッションをもとにしているものです。
と言っても特に前半は、一方的に内田が自分から見たラグビー論なりを話して平尾が相槌を打つという感じなのですが、最後の方では平尾もようやく慣れてきたのからラグビーを通して、特に今、小中学生に教えている経験から自分なりに考えたことを話しているという感じです。
で妙に腹に落ちたことと言うのは、スパルタ軍とペルシャ軍との戦いの話。数の上では圧倒的にスパルタ軍が少数なのに勝ってしまうのはなぜかということ。まあ、昔の話なのでかなり話としては数がもってあると思うのですが、同じような話はカエサルのガリア戦記にもある。そこには数は多くても「ばらばらの軍隊」と数は少なくても「一体化した軍隊」の効率の違いがある。スパルタ兵は全員が一つの意思をもって一体として動くように訓練しているので個別的戦闘局面では無敵になると。よく訓練されたベテラン兵の強さというのはこういうことだったんだ。
ラグビーでいうと他者と身体感覚を共有していく能力というのはパスの放り手と受け手がスムーズにパスしていくのに必須。声を出して行けと言うけど声を出してからでは間に合わないし、目で見たら相手チームに読まれてしまう。体感と直感でパスを出すのだがそれは気のコミュニケーションとしか言いようがない。チーム全員がひとつの身体のように集団的に動ける能力があればスパルタ軍のように強いチームになる。
ところで、その昔新日鉄釜石の松尾は「スキャン」出来たというのだが、上空から自分を見下ろす視点を持っていて相手チームのフィフティーンも自分のチームのフィフティーンも全部視野に入っていて、なおかつその30人がこの後どういう動きをするのかもスキャンできている。だからこそ空くはずのスペースめがけて突進していくの。こういう感覚自身は平尾も何回か経験したとか。
う~ん、レベルはだいぶ違うのだがテニスでいつも森の熊さんは空いたスペースを察知して逆を突くようにショットを打ち込んでくる。一度どこを見ているのか聞いたことがあるけど打つ時にはもう打つコースを決めていて、あとはボールを見ていると言っていたけど、相手の動きと自分の動きをスキャンしていたんだ。
武術の達人というのは、フィジカルなレベルとは違って時間をフライングできる人であって、試合の時に1秒フライングできればもう無敵になる。身体の割をどんどん細かくしていくと身体時計の単位がどんどん密になってきて周囲の時間の流れが主観的にはゆっくり感じられる。そうやって時間を自由に往還できる人はその場の主宰者になる。他人の身体の中に入り込んでいって他人の身体を操るようになると。それは浸透性の高い身体コミュニケーションというのだそうですが、こういう話になると内田の独壇場。でも感覚的には分かるような気がします。こちとらは、ラリーの時にいつも魅入られたように相手の正面に打ってしまうのですが、これは相手の身体コミュニケーションに同調してしまっているから、やっぱりそうだったんだと.妙に納得します。
スポーツをするときに一番大切なことは、身体を動かすとことそれ自体が楽しいということを追求すること。自分の身体的パーフォーマンスが上がってゆくことを感じ取ること。これは外形的な数値や成績とは違う。身体運用のブレークスルーを経験するということ。おお、テニスをやっていてもその場その場の勝ち負けではないんだ。動きの体感を頭の中で想像して理想的な動きを脳内で再生するのも大切。休んでいる時にビールを飲んでくだを巻いているんじゃなくて人の動きをよく観察しなくちゃ。そして自分のやったことのないやり方で身体を操作させる、やったことのないことだからどうやってやるんだろうかとあれこれ工夫する。その工夫に夢中になり、いつのまにか目標に達していくことが楽しいんだろう。
最近は体を鍛えるとなると筋トレしてウエイトトレーニングをしてとなるんですが、筋肉はつけるものではなくてついてくるもの。「胸」「腹」「背中」「脚」という各部位に分けてそれを個別に鍛えて数値を上げ力を付けましたとなるのですが、負荷を局部に集めてそこの筋肉を太くするよりも負荷を全身に散らす能力の方が大事。筋肉ムキムキのトップアスリートはボディビルダーだけ…いかに身体運用をバージョンアップしていくかが大切なんです。
武道の才能について内田が言うには煎じ詰めれば「気持ちが悪いことが分かる」ということだそうです。気持ちが悪い状態を解消しようとする動きは最短距離、最短時間、最小エネルギー消費の動き、つまり武道的に言うと「最強、最速の動き」になると。だから(身体的、精神的)気持ちの悪さをとにかく早く感知して動くことだと。今のスポーツの練習は気持ちの悪いことを我慢する練習になっていて、指導者は絶えず怒鳴る。それではブレークスルーは出来ないんですよね。
いや~、面白かったし、考え方はテニスにも使えそうです。 
コメント
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