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酒の感想ばかり

「アルスラーン戦記」田中芳樹(4/4)

2020-10-10 20:36:41 | 読書
いよいよ12巻まで読んで、残り4巻。口コミでは終盤になると、面白くなくなった、作者の才能が尽きたなど酷評されている。しかしここまでは全くそう思わない。むしろ安定した、第1巻から一貫したストーリーテリングのように思われる。ただ皆殺しの田中芳樹と言われており、登場人物が次々死んでいくと予想され、そうなるとちょっと読むのが辛くなる気もする。
「蛇王再臨13」
20081007刊行。1年10ヶ月ぶり。
チュルクの話、シングと弟のザッハルはパルスに調査に行き、ドン・リカルド達に殺された。チュルクの掟では失敗した者の家族はみな処刑されることになっているが、シングとザッハルの息子たちはチャンスを与えられ、2人で智略を尽くしてアルスラーンを討つことができたら、家族みな無罪とし、息子たちも要職に抜擢するといわれる。死に物狂いで挑戦する、ジャライルとバイスーン。しかし、いざ2人は旅立つと仲間割れしてしまう。そしてジャライルは手違いでバイスーンを死なせてしまう。こんな任務を押し付けたカルハナ王に憤りを覚える。そこへ魔導士ガズダハムとイルテリシュが現れる。イルテリシュはバイスーンを部下にしようとするが魔導士は納得できない。イルテリシュのこともザッハークに敬意を示さないことから気に入らない。イルテリシュからザッハークに会わせるよう要求され、捕らえられたザッハークの元に連れていく。レイラも一緒だ。不死身のザッハークなのになぜ鎖でつながれたままなのか。鎖の一つはルクナバードと同じように太陽から作り出したものだそうだ。そのためその鎖だけが切ることができなかった。イルテリシュはその鎖を切ろうと考える。そうすればザッハークは復活し、その鎖を鋳なおせば、ルクナバードと同じ剣を造ることができる。
ヒルメスの名を騙ったシャガードは牢に入れられていた。あの時すぐに殺しておけばよかったが、今となってはそれも面倒になる。南方軍からビプロスが船で河を使い戻ってくる。前都督のカラベクの次男だ。ナバタイ人が襲ってきて城を囲んでいるという。それを告げ、兵を出してもらうよう伝えに来たのだった。ヒルメスは兵を出そうとするが、自分が王都アクミームを離れた隙に、反乱分子が乗っ取ってしまう危険性があり思案する。南方軍が落ちればミスルはますます立場が悪くなる。そして早急に南方に出兵した。すると案の定王宮を反乱軍が襲う。王宮には幼い王と王太妃と戦は全くできない宰相のグーリィしかいない。王を人質にとれば王都を乗っ取ることができる。主犯はシャガードであった。王は後宮に隠れていたが、間もなく破られようとしている。その時ヒルメスが現れた。南方に向かったと見せかけ誰かが反乱するのを見越してすぐに引き返してきたのだった。シャガードを倒す。そして後顧の憂いなく安心して南方へ出征できるのであった。
ナルサスの悪辣な作戦。ぺシャワールを放棄する。ぺシャワールを狙って魔軍、シンドゥラ、チュルクが争い共倒れにしてしまおう。それにともない全将軍がエクナバートに帰ってくる。重症のエステルは足が壊死しており、生命も危うい状態。馬には乗れないので車でゆっくりとエクバターナに向かう。その事をダリューンから聞いたアルスラーンはこちらから会いに行く。再会を果たすアルスラーンとエステル。数言会話しただけで息を引き取る。エステルの遺志を継いでドン・リカルドはアルスラーンの臣下に入る。名付けてパラフーダ(白鬼)。かつて敵であったルシタニア人であっても臣下にするアルスラーンだった。感動の場面。
ザラーヴァントは王都の城司に任命される。
池の底を抜いて水浸しになった地下空間の調査に出る。足の腱を切って捕らえた魔導師グンディーを案内役として同行させる。ファランギースとアルフリード、イスファーン、ザラーヴァントがこの任務。地下には水が残っており船で進む。有翼猿鬼が現れる。グンディーは有翼猿鬼に腕を掴まれ逃げようとするがザラーヴァントの槍によって突き殺される。ザラーヴァントは仲間とはぐれ1人になる。その時一匹の有翼猿鬼が現れる。しゃべれないが仲間の血を拭ってそれで壁に文字を書いて伝える。自分はザラーヴァントの従兄弟のナーマルドだと。同情を誘う文面だがザラーヴァントは納得できない。しかし殺すには忍びないから立ち去り二度と前に現れるなと告げる。そして背を向けたとき、背中から槍で突かれる。ザラーヴァント死す。みんなは犯人がわからない。血文字でナーマルドと名乗っているが、誰もナーマルドが有翼猿鬼に化けたとは思いもよらない。ミステリー的展開を見せる。ザラーヴァントの後任はトゥースが任命される。解放王の十六翼将が16人揃ったのは20日間しかなかった。そこかしこに今後の展開を予感させる不穏な雰囲気を醸す作者の文章。
ぺシャワールから人がいなくなったとガズダハムは鳥面人妖から報告を受ける。が、その事はイルテリシュには知らせない。ジャライルは魔物でなく人間なのでルクナバードと同じ材料からできている、蛇王を拘束している鎖に触れることができる。なのでヤスリで鎖を削る。レイラはその鎖を溶かして剣を造るのでなく、鎧を造ってはどうかと提案する。そして鎖は切れ、蛇王が拘束から解放された。途端にデマヴァント山は地震が発生。ジャライルはなぜかレイラに興味があり、助け出そうとする。
表紙はエステル。扉絵はドン・リカルドとメルレインの対決場面だろうか。
「天鳴地動14」
20140516刊行なので5年7ヶ月ぶり。ちょっと長いか。確かに文調が変わった印象。断片的な記述で、会話文にひらがなが多くなった。諸将達が自由に集まって、好きなときに退座できる、お菓子を食べながらおしゃべりをする円座会議の場面がやたらと増える。
地震は続く。ぺシャワールを乗っ取ったラジェンドラ。チュルク兵は魔軍によって3万人が全滅したし、魔軍自体はなぜか撤退していったので、勝手に自分の手に入った。ラジェンドラは前世襲宰相のマヘーンドラの娘であるサリーナをカドフィセスの嫁にしようとする。チュルクの国王にしたあかつきにはシンドゥラと血縁関係を結べると考えた。ラジェンドラにはアサンガという宰相、バリパダという武将が登場。
イルテリシュは異国人なので蛇王を恐れない。蛇王の肩から生えている蛇の一匹を切り落とす。またすぐに生えてくるが、爽快な場面。地震は続く、イルテリシュ達は洞窟から出ようとする。その際に棺を運び出そうとする。中には誰が入っているか分からなかったが、遂に覗いてみると、ある人物だった。その時魔導師グルガーンが帰ってくる。しかしガズダハムとは仲が良くない。
ラジェンドラはまたしても兄弟分のアルスラーンを利用しようとする。
パルスでは円座会議で、国の政治についての退屈な描写が続く。人をどう雇うか。国庫はルシタニアからほぼ全部回収した。税をとると民が苦しむ。仕事を与えてやったらいい。町や道路の整備にダリューンとのキシュワードが我先にと競って志願する場面等。
ラジェンドラにダリューンが使いとして訪れる。ぺシャワールを簒奪したのが事実だがそれを逆に利用して東方を任せてしまおう。
イルテリシュはチュルクに入る。カルハナと一騎打ちしカルハナを倒す。バシュミルというトゥラーン人に再会し部下にする。チュルク人の国庫を管理するチャマンド。イルテリシュは魔物を指揮するのでなく、トゥラーン再興が望み。魔軍をどこかにやって、チュルクを支配下に治めたい。チュルク兵は皆殺しだが、チュルク人を新たに兵士に育てること。
シンドゥラからの帰りダリューン達にところに魔軍が襲ってくる。ガズダハムが率いている。副使節としてついていたパラフーダがガズダハムを倒す。初手柄。
カルハナが死んで家族を牢から解放できたジャライルは故郷に帰りたいとイルテリシュに申し入れると、意外と簡単に許す。しかも金貨をあたえる。
パルスではまた地震。アルスラーンを庇ってトゥースが大理石の下敷きになりあっけなく死ぬ。出た、安易に主要人物を退場させる。戦闘シーンでかなり危険な場面があったのに嘘みたいなタイミングで助けが来て免れたというのに、戦闘でなく地震なんかで死んでしまうとは。しかも何の見せ場もなく、ほぼ即死という。今後もこんな感じで続くのかもしれないが。確かにこれぞ作者の醍醐味だろう。長年細かい設定で登場人物を育ててきて、クライマックスで思うように退場させる。
ヒルメスは南方へ向かう。ナバタイ攻略のため。河を使い進撃。しかし途中の峡谷で火攻めに会う。ビプロスの兄テュニプの仕業。愚を装ってミスル簒奪をねらっていたのだ。ヒルメスがお膳立てした後、自分がミスルの権力者になろうとしていた。ヒルメスの軍は壊滅状態。客将軍府に戻るがテュニプの追手が来る。応戦する。テュニプはヒルメス達を殺す気はない。パルスへ帰ってくれればいい。ヌンガノは実はテュニプのスパイだった。金貨2千枚で去ればそれでよいとする。ヒルメスはそれに応じる。生きていれば再起も叶うという考えだ。フィトナは野望が高いためそんなヒルメスを見限り、テュニプの元に入る。またもや1人になるヒルメス。従うものはブルハーンのみ。マルヤムへと向かう。非常にハラハラした。つまりここでいともたやすくヒルメスが死んでしまわないかという意味で。
大地震後のパルス。被害者には金を支給したり、家を失った者には王宮を開放するという事務処理の場面が続く。近く訪れるであろう魔軍との戦の軍資金を集めにギランへ赴く。キシュワード、ファランギース、メルレイン、ジムサが任命される。途中でギーヴと合流。ギランに着くとグラーゼに迎えられる。資金は4人の富商から提供してもらうよう面会する。ところが4人とも鳥面人妖に乗っ取られていた。そして有翼猿鬼が襲来。格闘場面。グラーゼは有翼猿鬼の投げ網に捕らえられ空中に連れ去られる。網を切っても魔物を斬っても墜落の危険がありなすすべがない。建物の屋根に近づいたときに網を破り飛び移る。左手で掴んだがその手を鳥面人妖が噛み切る。グラーゼは墜落し地面にたたきつけられる。グラーゼの部下が近寄ると「お前らより先に死なぬ」と言葉を発するが、血を吐き息絶える。魔物に乗っ取られた富商だが、その財産はいくらか残し国庫に入れるということになる。資金調達に成功した一行はエクバターナに帰る。しかしあと1日で帰り着くというときに、またしても魔軍が襲来。無数の相手に際限がない。特に魔物の血は毒が強く薬品で焼かれたような火傷を作るためそれをかわしつつ戦う必要がある。うんざりしかけたところにダリューンの援軍が加わる。ジムサは吹き矢で対抗していたが、首領格の巨大な鳥面人妖と戦ううち吹き矢の筒を折られてしまう。続いて剣を抜くが、巨大なためか傷をものともしない。ついに剣も取り落としてしまう。ギーヴ、ファランギース、メルレインの矢によって援護を受ける。折れた吹き矢のの筒を鳥面人妖の口に突き刺し、脳まで貫通させとどめを刺すが、鳥面人妖に体をつかまれ背骨を折り、鉤爪によって背中に重傷を負ったジムサは倒される。この軍資金集めの旅で2人の部将を失った。王都に戻った一行。ナルサスはアルスラーンに言う。キシュワードに罰を与えるようにと。キシュワードは今回の件で自責の念に駆られており、次の戦では自分の死をもって償おうと考えているに違いない。なので、アルスラーンから罰を与えることで早まった行動をとらせないようにしたのだ。これによりキシュワードは大将軍の任を解かれ謹慎となる。大将軍の後任はダリューンが任命される。なるっすとダリューンはイルレリシュの姿が見えないことに懸念を示す。チュルクの場面。イルテリシュはグルガーンから故郷の乳濁酒を献上される。以前からからにおわされていたが、ザッハークの血をもう一度飲ませようとしていて、その酒に混ぜられているのであろうことは予想できる。乳濁酒を杯にそそいだところでいきなり完、次回へ続く。
表紙はラジェンドラ。扉絵は恐らくイルテリシュ、ジャライル、ガズダハム、グルガーンだろう。
「戦旗不倒15」
20160518刊行。2年ぶり。
ミスルの場面。ヒルメスに使えていたパルス人商人ラヴァンは手のひらを返し裏の顔を見せる。魔物に入れ替わられたのか。真実かはわからないがフィトナがアンドラゴラスとタハミーネの娘であることを知っている。ラヴァン正統の内親王であることを活かしミスルの王妃となり、パルスを奪還し、いずれはパルスとミスルの女王となるよう、耳打ちする。テュニプには8歳の現王であるサーリフを殺し自身が王になるようそそのかす。ヒルメスの部下であったパルス兵のフラマンタスとセビュックはヒルメスがトゥラーン人のブルハーンだけ連れてマルヤムへ逃げ、自分達を捨てたことに不満を持っている。これをまたテュニプの部下になるようそそのかす。テュニプは忠誠の証として幼王を殺すよう2人に命じる。ここへ来てまたミスルがパルスを攻めるという新しい展開を開始する。
ギスカールの前にヒルメスが現れる。兵を貸せと脅迫する。不本意ではあるが一応再度手を組むようだ。
チュルクではイルテリシュにザッハークの血(血は赤いのではなく白いのだ)を飲ませることに成功したグルガーン。そして人骨で作られた棺の中にはアンドラゴラスの遺体が。そして起き上がったアンドラゴラスは蛇王ザッハークと名乗る。切り捨てようとしたイルテリシュだが素手で剣を簡単に折られてしまう。さらに殺されかけたが、軍を統率する力があるとグルガーンの助言により助かる。ザッハークのオーラによって遂に膝を屈する。
ファランギースとアルフリードが街を巡察していると、トゥースの死後故郷へ帰っていた元妻の3人が戻ってくるところに出会う。ファランギースの独居に住むことになる。
ダリューンとナルサスの会話。ミスルでヒルメスが追放された件を、情報筋から得たという。ヒルメスがマルヤムへ向かったことも知る。いずれアルスラーンに刃を向ける前に、始末しておきたいと告げる。
ギーヴ、ジャスワント、パラフーダが巡察していると、神官が不吉なことが続くのは国王がカイホスローの正嫡の血を引いていないからと讒言しているところに出くわす。全国民から信頼されているわけではない、不吉な前兆。
ラジェンドラはまたしてもカドフィセスを王に、かつて恋を寄せていたサリーマを王妃にあてがおうとしていたが、サリーマを女王にしようと考えるようになった。そのころ将軍バリパダはサリーマを狙っている。サリーマをカドフィセスに与えるか、バリパタに与えるか悩むラジェンドラ。サリーマ自身に相談し、あるアイディアを耳打ちされる。
アンドラゴラスを器として完全復活したザッハーク。イルテリシュは完全にザッハークに服従している。イルテリシュは臣下のバシュミルにパルスへの出撃の用意を命じる。
ファランギースをはじめとする女性キャラ総出場での穏やかなひととき。
カドフィセスとバリパタの対決は何とスピーチ大会。バリパタは敗北するが、逆上しカドフィセスを殺害してしまう。さらに勢いラジェンドラに槍を向けてしまい、謀反人として追われる身となる。サリーマは混乱の場を上手く裁き、遣り手感を見せる。
バリパタはパルスに身を売ろうとパルス方面へ逃亡。そこでメルレイン率いるゾット族のパルス軍別動隊と出くわす。問答無用で対決するはめに陥る。圧倒的にメルレインが優勢。そこにキシュワードの軍が到着。副将としてついていたジャスワントが同郷のバリパダを見て自分に任せてほしいと言う。その時デマヴァント山に巨大な魔物が出現。ザッハークの形をした巨人だった。メルレイン、キシュワード、ジャスワントが次々攻撃するが全く動じない。そんな時は溶岩が流れだし、巨人は溶岩に呑み込まれあっけなく没し去る。しかし山の奥にチュルク兵が現れる。ザッハークとチュルクが手を結んだとは信じがたいが、キシュワードたちは応戦しようとする。人間相手なら余裕だと。そこへギーヴが登場。チュルクを偵察していたという。ギーヴの考えではチュルク兵はただの囮で、その後ろにはザッハークの部下の魔物達が控えているのではないか。ならば一旦撤退した方がいいとのこと。そしてソレイマニエへ引いて体勢を整えることとした。ギーヴは先にソレイマニエへ戻り住民に知らせる任務。ジャスワントは捕らえたバリパダをエクバターナに連行しアルスラーンの前に引き出すことに。それにしてもナルサスの軍略は無敵だが、魔軍への対処は全く無力だ。自身も非合理な要因と自分の知略が及ばないことを嘆いているのではあるが。
マルヤムにおいては、ヒルメスがギスカールをけしかけパルスに兵を出そうとしている。ミスルでは、ラヴァンに操られたフィトナがテュニプをそそのかし、パルスに侵攻しようとしている。チュルクでは蛇王ザッハークの指示のもとイルテリシュがチュルク兵と魔軍をパルスに送り込もうとしている。四方全てから攻められんとする危機を迎える。
まず始めに攻撃を仕掛けてきたのはイルテリシュ率いるチュルク兵と魔軍。ソレイマニエで抗戦する。キシュワード、メルレイン、パラフーダそしてギーヴ。圧倒的な数でパルスを襲うイルテリシュ。きりがなく読者はハラハラする。キシュワードとイルテリシュの一騎打ち。もはや魔人と化したイルテリシュに太刀打ちできないキシュワード。防戦一方となる。ギーヴはキシュワードに関しては武術の面では安心していたが、どうも今回はすんなり助勢した方がいいのではないかと弓を構える。その時2人は死角に入ってしまう。その代わり現れたのがレイラだった。ファランギースやアルフリードなら気後れするが自分ならしがらみなしに斬れると、レイラの前に立つ。危険を察知したレイラは逃走する。同時にイルテリシュも例の籠にのって去っていった。それを引き金に魔軍は撤退する。楽しみは翌日に残しておこうというわけだ。ギーヴの提案で一刻も早くソレイマニエから撤退することが決定される。パルスの体力はもう限界であり、翌日にはただ殺されるだけになるからだ。そして今回も諸将は1人も欠けることなく王とへ帰還する。アルスラーンの前に連行されたバリパダだが、信用を得ず牢に入れられる。四方から狙われいよいよクライマックス然としてきた。ナルサスの奇策が炸裂するのだろうか。
東方は何とかなるとして西方が手薄なため、アルスラーンはダリューン、ナルサス、イスファーンを引き連れ出征することにする。ファランギースはナルサスにくっついてアルフリードも西へ行くだろうと、3つの鈴を預ける。危険の大きさによって鈴のなる数が増えるというものだ。ここのところファランギースがアルフリードに対して何かの予感を持っている描写が多く、読者は不安になる。
ナルサスとアルフリードはある夜結ばれる。その唐突感。作者はこういうシーンは苦手なのだろう、コミカル風にさらっと流した。
蛇王はグルガーンに尊師の正体を知っているか尋ねる。グルガーンは当然知らないが、アルスラーンの首をとったあかつきにはその前で教えてやろうと言う謎。
ミスルがディジレ河を渡って進行してきた。ミスルはそれほど強くはなくパルスが優勢となる。パルス本体はミスルに対応する。それと別にイスファーンの別動隊を北へ配置し、ミスルの側面を突くことになる。ナルサスは何を思ったか近くのザーブル城に三百人の兵だけ連れて布陣する。圧倒的な強さと作戦によってミスルをディジレ河に追い返す。船で逃げようとするミスル兵に火矢を打ち火攻めにする。よく考えたらかつてテュニプ自身がヒルメスを同じ作戦で罠にかけた逆のパターン。テュニプの船は転覆し、河の鰐に襲われる。鰐に食われるよりはということでファランギースは弓矢でテュニプに止めを刺す。それを遠くで見ているフィトナ。これを機に自分がミスルの女王となり、兵を立ち上げやがてパルスの正統としてアルスラーンを攻めようと目論む。パルスの勝利。
一方北の方からマルヤムの軍で先遣隊のヒルメスが様子を探っていた。パルスとミスルの先頭のどさくさにアルスラーンただ一人倒し、倒せばパルスは瓦解すると考え、即座に兵を進める。まず、かつてこもったことのあるザーブルに入城しようとする。そこにいたのが偶然にもナルサス。ナルサスとダリューンにも恨みを持つヒルメスはナルサスを襲う。ナルサスとの一騎打ち。何合も打ち合うが一瞬の隙でナルサスは斬られる。最後の言葉もないぐらいの壮絶な倒され方。アルフリードは仇を討とうとする。圧倒的にヒルメスの腕が上だが、渾身の一撃で左腕に傷をつけることができた。しかし運もそれまで、アルフリードはブルハーンの弓によって討たれる。アルフリードごときに傷つけられたことで逆上していたヒルメスは、余計な手出しをしたブルハーンを叱責する。かつてよく似た場面があった。ただ前回のようにブルハーンを斬ることはなかった。ついにナルサス、アルフリードが討たれてしまった。ダリューンが助けに来たがすでに遅かった。ヒルメスを攻撃しようとしたが、今は逃げるにしかず、ヒルメスは逃亡する。
王都を守るキシュワードとメルレインの元に告死天使が戻ってくる。文を足に結わえてある。ナルサスとアルフリードの訃報を知ったキシュワードは復讐を誓う。
帯には宿敵ヒルメスの憎悪の刃が襲う!アルスラーン最大の危機!!などと、結末のネタバレをしている。そのくせアルスラーンにヒルメスの刃が襲うわけではないので嘘だ。
表紙はアルスラーンと十六翼将。クバードがちょっと華奢な感じがしないでもない。あとこのイラストレーターは鼻を描くのが下手だ。扉絵は蛇王の形をした巨人。
「天涯無限16」
20171214刊行。1年7か月振り。
シンドゥラにジャスワントが現れる。アルスラーンは蛇王との対戦を控え、女子供、但し幹部の家族だけシンドゥラに避難させようとした。その使者としてジャスワントが選ばれた。またバリパダをラジェンドラに送還し処遇を得るつもりだったが、バリパダは檻を脱出し、ジャスワントと争う。ジャスワントはバリパダを倒すが自分も重症を受けた。死力を尽くしラジェンドラと交渉し、パルスの女子供を受け入れる了承を得た。そしてジャスワントは息絶える。冒頭からいきなり武将が死んでしまう。世の中の口コミはこういったところに不満を持ったのかもしれないが、取り立てて不当でもないように思う。
今までに名前すら出てこなかった諸侯の1人カーゼルン。取り立てて取り柄はない反アルスラーン派の1人だが、そのカーゼルンの元に中身がザッハークであるところのアンドラゴラスが現れる。実は死んでいなかった。アルスラーンを成敗するから兵を用立てしろと命令を受ける。5万人集まる。ザッハークは闇で活動するわけではなく、意外と庶民の前に気軽に現れるのかと意外だ。
アルスラーン達はサーブル城を撤退しルクナバードに戻る。捕らえたブルハーンの処置として、誰かと対決させる。名乗りをあげたのは当然メルレイン。妹と妹の夫(ナルサスのことだが、実際ナルサスを倒したのはヒルメスである)の仇だから。勝負はメルレインの勝ち。
いつの間にやら尊師が復活している。というよりはラヴァンに化けていたのは読者も薄々気づいている。そして話口調は年寄りめいているものの見かけは美青年になっているのだ。魔導師の弟子の最後の1人グルガーンに、今のところ自分の後継者候補といい喜ばせる。しかし蛇王は自身が尊師のことを尊師と呼ぶ。果たしてその正体は?蛇王は自分は幽閉されていたアンドラゴラスとし、パルス兵を率いてアルスラーンを討つ。イルテリシュは魔物とチュルク兵を率いるという形をとる。
チュルク軍がまず仕掛けてくる。ダリューン、ギーヴ、エラム、イスファーンのそれぞれの活躍の場面。そしてクバードも登場し暴れまわる。最後にパラフーダの活躍の場面。
有翼猿鬼に対しては林に追い込み飛びづらくしたり、網を張り巡らせて絡めとる作戦で対応。ほどなくパルスは勝利する。今回の作戦は敵に強さを見せつけること。イルテリシュの存在の確認。このまとまりのない戦いかたからイルテリシュは不在であることを確認。
使い果たした矢を補充するため城に戻ったエラム。宰相ルーシャンと会話する。別れた後現れたのがグルガーン。毒を塗った短刀でルーシャンを殺害。そこへファランギースが登場しグルガーンを斬ろうとする。毒の塗られた短刀で襲う。その時エラムの放った弓矢がグルガーンを打ち抜く。武将ではないが、アルスラーン王誕生時から活躍していたルーシャンが倒れる。そして最後の魔導師グルガーンも討たれた。ルーシャンの後任はキシュワード。ただ戦うことも許された。
アルスラーンはメルレインにザーブル城の食料庫に火を放つよう指示する。火をつけるだけですぐに引き返すこと。ザーブルにはギスカールはじめヒルメス達がいる。雪解けを待って春にルクナバード進撃することを決定した。しかしそれを待つことなくメルレインによって火をつけられる。火が苦手なヒルメスはあっさりと逃亡する。メルレインはある程度戦ってあわよくばギスカールかヒルメスの首をとろうとしたが、数で勝るマルヤム兵に圧倒される。そこへファランギースとパラフーダが応援に来る。ギスカール、オラベリアとパラフーダの元ルシタニア兵がばったり再会する。オラベリアはこちらに戻るよう説得するがパラフーダは拒む。そしてそれでもギスカールを斬ることは抵抗があるとして去る。その直後ギスカールは胸に2本の矢を受ける。ファランギースとメルレインの放った矢だ。「俺は死なん」と言い残しこと切れる。マルヤムで国造りをしていたらよい支配者になっただろうに、ヒルメスにそそのかされあっけない最期だった。
ザーブルに残ったマルヤム兵アルスラーンはダリューンを使者として送る。即刻帰国したなら命は保証すると。しかしマルヤム兵達は春になり暖かくなるまで滞在するよう希望する。即帰国すれば良かったものの残留したせいで魔軍からの襲撃という憂き目を見る。それをヒルメスは目撃する。ヒルメス自身魔物を見るのは初めてだった。
ギーヴはカーゼルンの領地に単独偵察にはいる。領館にアンドラゴラスの姿を見る。自分と同じくらい美形の魔導師が侍る。ザッハークとアンドラゴラスの関係が理解できないギーヴ。ギーヴが盗み聞きしているのを承知で聞かせていた魔導師が突如ギーヴを襲う。からくも逃げることに成功。
アンドラゴラスが8万の兵をもってエクバターナに進撃する。同じ頃ヒルメスはミスル軍がエクバターナに向かって行軍しているのを見つける。フィトナが女王でありパルスの正統と宣言するため王都に向かっているという事実を知ったヒルメスはフィトナに会いに行く。狡猾なフィトナはヒルメスと改めて組むよう申し出る。ミスル軍5万のうち500騎を任せられる。
アルスラーンの作戦は一撃離脱戦法。これで被害は少なく多くの敵を倒す。アルスラーンは魔物に子供がなぜいないか熟考した考えを伝える。子が成長するのでなく、作られたものであること。それはザッハーク自体がそうであろうこと。ナルサスがザーブルに別行動をしてまで伝えようとしていたことらしい。か、その理由はわからない。
アンドラゴラスによってタハミーネが拉致されてくる。エレンも呼ばれる。母娘の対面だという。タハミーネはアンドラゴラスに、アルスラーンの前に出ることを命令される。盾にしようというのだが、タハミーネは拒む。するとアンドラゴラスは役立たずの女と斬って捨てる。しかもレイラまで。あっけない最期。アンドラゴラスの非情さがよく分かる場面だが、物語的には今までキャラを育ててきたのは全く無駄ということになる。もうここまで読んでページは残り半分、ページが足りないのがわかる。16巻で収めるには話を膨らませ過ぎたものと思われる。もともと14巻完結と言ってたのを撤回して16巻まで引き伸ばしたのだから、さらに巻数を増やしてもよかったのではないかと思うが。
アンドラゴラス側の一応の宰相カーゼルンはダリューンに討ち取られる。
アンドラゴラスに初めに出くわしたのはパラフーダだった。3本の矢は全て外される。1本は蛇に刺さる。怒った蛇は口から緑色の液体を撒き散らす。それを被った馬は棹立ちになりパラフーダは落馬する。そこへトゥラーン兵が剣を突き立てる。パラフーダは絶命。パリザートによろしく伝えるようファランギースに託して。それにしても皮肉なことにこうして今要約して文を書いているが、こちらの方がクドクドしい。それだけ原文の方が簡潔でなおかつ情報量が多い。作者の筆力のすごさを感じる。
キシュワードはアンドラゴラスに呼ばれる。そしていきなり一撃で剣の1本を折られてしまう。さらにもう一本も剣を突いたら抜けなくなった。ファランギースが矢を射て窮地を救い、その場は一旦下がる。
クバードはイルテリシュと対戦。互角に戦いだが、メルレインの兵によってチュルク兵が劣勢であることを聞き、イルテリシュはその場を去る。
エクバターナに向かうヒルメスの前にギーヴが現れる。対決はせずエクバターナに今行かなければ一生後悔すると謎の言葉を告げられ、王都へ急ぐ。後ろを進むミスル軍。1台の戦車にヌンガノが馭者をつとめるフィトナが乗っている。ギーヴは3本の矢を射る。1本は車輪1本はヌンガノ、1本はフィトナ。こうしてフィトナはあっけなくパルス初の女王となる機会を永遠に失う。ミスル軍は国へ帰る。
ヒルメスはイスファーンと会うが、アルスラーンを撃ち取るという目的を優先させ、対決を避ける。
クバードはイルテリシュと出会う。対戦。互角の戦い。そして互いの一撃が互いの右目を切った。両目を失ったクバード。圧倒的に不利だが、イルテリシュと相討ちで倒れる。クバードらしい最期だ。
もうこの頃になると乱戦。個人が各々自立して戦うという、ドロドロの戦いだ。
イスファーンは尊師と出会う。尊師が魔道の力で圧倒的。尊師の衣に包まれたかと思うと即死する。アルスラーンは仇をとるため自ら赴く。エラムが従う。そこへギーヴが登場。告死天使が頭を襲い、狼が足を襲う。ギーヴとエラムが居合するべく構える。尊師の衣の中は毒針で埋められていた。アルスラーンを包もうとした。アルスラーンはルクナバードで突き通す。アンドラゴラスに出会うメルレイン。まずは弓矢で蛇を射抜く。しかしアンドラゴラスの投げた短剣で弓糸を切られる。剣に持ち替えたメルレインだが、アンドラゴラスの斬撃で首を落とされる。アンドラゴラスは遂に蛇王として本性を表す。敵味方関係なく殺戮しはじめる。そこへヒルメスが現れる。アンドラゴラスは父親の仇だ。殺そうとするが、肩から蛇が生えていることに気付きうろたえる。このヘタレ化がちょっと憐れだ。作者も人が悪い。
キシュワードとザッハークの再戦。キシュワードは両方の蛇を切断したが、両手首を切られ、さらに腹部を抉られ討たれる。
ヒルメスとダリューンの対決。はじめは槍と戟、続いて剣。ダリューンは対等の条件で戦う。打ち合うこと百余合、遂にヒルメスは左胸を斬られる。イリーナの名を言葉にし、剣を地面に突き立てたったまま息絶える。ダリューン曰くヒルメスは死にたがっていたと。ザッハークに退治するアルスラーンとダリューン、ファランギース、ギーヴ、エラム。しかし最終決戦は明日となる。逃げるなら今の内というが誰も逃げない。その夜最後の酒宴をする。
翌日アルスラーンと臣下4人にわずかに残った兵とアンゴラゴラス軍が対峙する。アルスラーンはアンドラゴラスに問いを発する。ザッハークの正体や王となった暁にはなど。ザッハークの正体は大昔に人間によって作られた者。つまり人造人間。人間が命を作るということの傲慢さ。命を造っては使い捨てにする愚かしさ。作られた生命が反乱を起こすこともあり得る、と言うことを示すために復讐をしようというのがザッハークの考え。従って征服後は恐怖と混沌だけ望むということ。その後両軍の攻撃が開始。いくつかの戦闘の後ダリューンはザッハークを呼ぶ。そして現れる。激しい決闘が続くがついにダリューンは剣で胸を突かれ破れる。ザッハークに多少の傷はつけた。しかしダリューンをもってしても倒すことはかなわなかった。ダリューンの仇とアルスラーンはルクナバードもってザッハークと対決する。勝負は相打ち。アルスラーンは右胸を突きさされる。ザッハークは脳天から腰まで斬り下げられた。なんとアルスラーンも死んでしまった。エラムに自分の後継と期待をかけて、ルクナバードを鞘から抜くように言うが抜けない。つまりルクナバードがエラムを認めなかったのだ。そしてアルスラーンはエラムにルクナバードを受け継ぐものを探し出すよう言い残す。ギーヴとファランギースはそれを補佐するように。気に入っていたキャラクターのギーヴが死ななくてよかった。ファランギースも。
エラム、ギーヴ、ファランギースはアルスラーンの遺言通りシンドゥラに赴く。ラジェンドラはアルスラーンが死んだことを知って悲しむ。そしてパルス人居留区で彼らや、先に贈られた将たちの家族は生活することを許される。ここからがみるみる時が流れる。ギーヴのその後の人生はシンドゥラの友軍を率いたが、38歳の時に遠征先で感染症にかかりこの世を去る。ファランギースは自分の寺院で過ごし48歳で病没する。あっという間に時は流れみなこの世を去っていく。ラジェンドラも。ラジェンドラの後継は第一子バレーリイ3世となり、そろそろパルスに帰ってはどうかとエラムに提案する。手始めに、今となっては誰とも知らない小さい諸侯が納めているペシャワールから。エラムはキシュワードの息子アイヤールに叔父上と呼ばれる。エラムはすでに68歳。アイヤールも53歳となっている。アイヤールにはさらに15歳になる子供がいて、ロスタムという。アイヤールはルクナバードを抜くことができなかったが、エラムはロスタムに試させると、抜くことができた。ついにルクナバードを引き継ぐ人物が現れた。やっと役目を終えることができたエラムは岩に腰を掛けると幻を見る。向こうから騎馬やってくる。みればあの当時のアルスラーンや十六翼将たちだった。一緒に来いと言われるが、自分はもうそんな若くないとためらうが、自分もあの当時と同じ歳に若返っていたのだった。そしてともに馬を進めるのだった。岩の上にはエラムの姿はもはやなかった。何とも叙情的なラストシーン。
アマゾンの口コミでかなり厳しいコメントがあったが、自分としては全く問題なく最後まで一貫して楽しむことができた。
30年越しに読み終わってただ作者に感謝、そして登場人物たちに「ありがとう」と、そして「さようなら」といいたい。
 
「蛇王再臨」
20200918読み始め
20200920読了
「天鳴地動」
20200921読み始め
20200923読了
「戦旗不倒」
20200923読み始め
20200924読了
「天涯無限」
20200924読み始め
20200925読了

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