月と歩いた。

月の満ち欠けのように、毎日ぼちぼちと歩く私。
明日はもう少し、先へ。

たまたまの中に意味がある

2012-10-01 | 仕事
今、私は書籍を出す目的で原稿を書かせてもらっている。
といっても、ボランティア的なもの。
「自分の本を書きたい」という人がいて、その人の気持ちに賛同して、無報酬で書いている。
まあ、その件を「こんな人がいるんだけど、やってくれない?」と持ってきた人が、自分にとって本当に大切で恩のある人だから、ということが強いけれど。

数日前、私はその件についてこんなふうに書いていた。

書籍の件も、依頼者と話し合っているうちに、なんだか最初に私が思い描いていたものとは方向性が変わってきた。
エリヤフ・ゴールドラットの『The Goal』のような<物語的ビジネス書>になる予定だったのに、今はなんだかただの事業設立の流れを書き綴っているだけにすぎない。
最初は依頼者を主人公にしたストーリーある形で書いていて、その時はすごく楽しかった。
依頼者もそれを望んでいたはずなのだけど、途中から「やっぱり…」と方向転換を要求された。

これって、私が書く意味があるのかな・・・。
今はそう感じている。


ザ・ゴールみたいなストーリー性のあるビジネス本を書けると思って嬉しくて挑んだのに、蓋を開けてみれば方向転換された。
なんだよぉ・・・と思いながらも、雑にもできないし、もちろん投げるわけにもいかない。
結局、苦しんだあげくに、自分なりのスタイルで書き始めた。

今日、1ヶ月ぶりに依頼者と会って、書き上げた分だけ読んでもらって、質問して補足させてもらうということをした。

正直、読んでもらう間、ドキドキだったのだ。
煙草を吸う人なので、じゃあ、一服しながら読ませてもらいますねと言って、外に原稿を持って出て行った。
待っている間、そわそわした。

「なんか違う」と言われることが本当に怖かった。
でも、そう言われたら、「もう自分には無理です」と断る覚悟でいた。

そうしたら、喫煙所から戻ってきたその人が、開口一番こう言った。

「いいですねぇ~!」

「ほんまですか・・・?」
遠慮がちに聞く私。

「いやー、本当にいい。僕はこんなふうには書けない。僕が書くと難しい言葉を使うし、論文みたいになっちゃうんですよ。さすがプロは違いますね。本当にさんのうさんに頼んでよかったと思ってますよ。さすがプロのライターは違うと思いました!」

それが、お世辞とかじゃなくて、本気で言ってくれていることはよくわかった。
今までに見たことがないほどテンションが上がっていたからだ。

「何回も自分で書こうとして挫折してきたんですよ。でも、今度こそ本になると思えました。今度こそ実現すると思えました。ありがとうございます」
そう言ってくれたのだ。

私は疑問に思っていたことを聞いた。
「でも、これって、私が書く意味ってありますか?Kさん(依頼者)が書いたほうが、正確で早くないですか?」

Kさんは言った。
「僕はこれを書けない。しゃべることはいくらでもできる。だけど、人に伝えようと思ったら、わかりやすい言葉に変換することが必要じゃないですか。それが僕にはできない。だけど、さんのうさんはできる。むしろ、さんのうさんのフィルターを通して、世の中の人に必要なことを書いてほしいんですよ。だから、本当にお願いしてよかったと思っています」

もうね、なんと言うのかな・・・
先日、仕事に存在意義を見出していたらダメだと書いたばかりだけど、矛盾してるけど、でも、本当に自分が「書く」人間でよかったと、少しでも人の役に立てたと、そう思ったら胸がいっぱいになった。
だって、本当に嬉しそうだったのだ。
何度もお会いしたけど、今日みたいに嬉しそうで確信をもった顔を見たことはなかった。
「この人に任せたら、自分が書きたかったものが実現する!」そう思ってくれていることが伝わった。

なんだか、ぺこぺこした(笑)
ありがとうございます、と。
自分がなんだかぺこぺこしてしまった。

仕事で自分の存在意義を見出してばかりだとダメだ。それはわかってる。
だけど、やっぱりこんなときは、目に見えない何か、神様なのかなんなのかわからないけれど、そんな存在に向けて、「まだ書いていていいんですか?これが私の生きる意味なんですか?」と聞いてしまう。
そして、結局は、「ありがとうございます」なのだ。

その後も、これまでにないくらい依頼者は嬉しそうで、ずーっと笑顔で話していた。
めちゃくちゃテンションが高かった。
ああ、本当にこの人は、自分がやってきたことを「カタチ」にして残したかったんだなぁと思った。
でもそれを何度も自分でやろうとして失敗してきて、今回私がやっとカタチにできた。
それが嬉しくてたまらなかったんだなぁと思った。それがよくわかった。

この人の力になれて、喜んでもらえてよかった!!
ようやくそう思えた。

報酬も、存在意義も関係ない。
自分の能力が誰かのために役立つなら、それでいいじゃないかと、そう思えた。

それに、たぶん、これは意味がある。後で出てくる。そんな気がしている。

この間、灘校の伝説の講師、橋本武先生の取材をさせてもらったときに伺ったこと。
橋本先生は5回死にかけて全部奇跡としか思えないような理由で助かっている。
「たまたまが重なっただけ。それで生きている」
とおっしゃっていた。
それと比べるのも申し訳ないけれど、世の中の事はほとんどそういうことなのかな、と思う。
全部たまたま。
この書籍の依頼は、私がお世話になっているデザイン事務所の人から来た。
そのデザイン事務所は、それこそまた格安で仕方なく受けた仕事先で、別の案件で知り合った。
格安の案件というのは、知り合いのライターさんからもらった。
もう10年以上お会いしていないそのライターさんと出会ったのは、某スポーツ新聞の仕事だった。

そうやって考えれば、すべてが別に自分の意志で動いたことではなく、たまたまの連続なのだ。
たどってたどって、書籍にたどりついた。
だから、きっとこれは意味がある。また後に続く。
なんだかわからないけれど、漠然としているけれど、そんな気がしている。

とにかく、この本は必ず仕上げる。
いいものにする。

自分がしたこと、特に書くという自分の存在意義である仕事で、人があんなに喜んでくれるということは、本当にうれしいこと。
めちゃくちゃいいですね!」と言って笑顔を見せてくれたときに、大げさと言われても仕方がないけど、「あー、生きててよかった」と、そんな気分になってしまったのだ。

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2 コメント

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Unknown (あんこ)
2012-10-01 15:27:22
よかったね!
ブログ読んで私も嬉しくなった。
かおりんとおんなじ。
大きな仕事や、文章が長いものであるほど、見せる時にドキドキする。
なんか違う的なことを言われたら、断ろう!と時間がかかったものや、手のかかったもの、これでいいのかな?と少し腑に落ちていないものほど、そう思う。
でも、この反応。
ほんとに嬉しいよね。
報酬とか関係なく、この仕事はかおりんにとって力になるのではないかな。
生意気だけど。
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Unknown (かおり)
2012-10-01 16:26:51
あんこちゃん

共感してくれてありがとう!
自分が一番好きなことで、人を喜ばせることができるって、幸せやね。

ホント、あんこちゃんの言うとおり、これは私にとって力になると思うよ。
1つのものでここまで長い文章は初めてやし。
いろんな意味で勉強になる。
これから自分がやりたいことのベースにもなると思う。

がんばるわー^^
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