月と歩いた。

月の満ち欠けのように、毎日ぼちぼちと歩く私。
明日はもう少し、先へ。

岡山旅行3日目 備前

2021-12-07 | 
今日は取材で佐賀県にいる。
1日目は飲食店取材だけで、夜はクライアントさんとカメラマンさんと飲みに行った。
でも、2人ともお酒に弱いので、私としては「これからやん!」という時に「そろそろ…」と。
無理やり飲ませる趣味はないので、コンビニでビールとワインを買って、ホテルの部屋で飲みながらこれを書くことにした。

*   *   *

岡山旅行の3日目は、朝から宮下酒造さんへ。
日本酒の蔵だが、ウイスキーやビールも造っている蔵で、その設備などは見学させてくれるという。

ものすごく簡易的なものではあったが、説明してくれたスタッフの女性も感じがよく、行ってよかった。
ウイスキーの蒸留釜はこんな感じで、珍しいドイツ製。


クラフトビールが今は流行っていていろんなところで造られているが、こちらはかなり昔からやっている。


見学した後は、家に帰る途中で備前に寄ると決めていた。
もちろんお目当ては備前焼。何年か前に夫と行って、酒器やお皿をいくつか買ったのだが、やはり備前は好きなので機会があればまた行きたいと思っていた。
それと、親友の誕生日が近かったので、プレゼントにマグカップを買いたいという目的もあった。
彼女はお酒は飲まないがコーヒーは飲むし、マグカップはいくつあっても気分で変えられるのでいいかなと思っていたので。

備前焼を見たいなら、伊部駅周辺に工房やショップがある。
なので、伊部駅前の駐車場に車を停めて、歩いていろいろ見に行った。
まずは伊部駅横にある備前焼伝統産業会館へ。
ここは備前の何十というたくさんの工房・作家さんの作品がある。
本当にたくさんあるので、じっくり見るとここだけでもかなり時間がかかる。
同じ備前焼でも造り手によってやはり違いはあるもので。自分の好みかそうではないか、はっきりわかれた。
とはいえ、比較的どれも良かったのだが、群を抜いて「これは!」という作家さんのものがあった。
備前では珍しく、青みがかったグレー。
ぐい吞みやマグカップを覗いてみると、中に紅葉が見える。
それに他とは明らかに違うのが、薄さだ。
備前焼はどちらかといえば、ぽってりとした厚めのものが多いのに、まるで磁器のようになめらかで薄い。
明らかに異色で、それが奇をてらっているのではなくて、久しぶりにドキドキするような器だった。

広いしたくさんあるので、夫とは別行動で見て回った。
すべて見終えて、「どうやった?何か買いたいのあった?」と私が聞くと、夫は「ひとつあった」と言う。
私も「私もひとつあったよ」と言って、さっきの作家さんのところへ連れていった。
「これ」と言うと、夫はびっくりしたようなにやけたような、変な顔をしている。
どうしたのかと思ったら、「俺もこれ」と言う。
何十もの作家さんがいて、何百の作品があって、2人ともこれなんておかしいと思い、「嘘やん!合わせてるやろー」と言ったら、夫が「だって、これ」と言って、ポケットから紙を出した。
それは、その作家さんの作品の前に置いてあった、工房の住所や電話番号が書かれたものだった。

二人で改めて「えー!」となり、それから「これいいよなぁ」「絶対買いたい」と言い合った。
それでもまだ備前焼めぐりはスタートしたところだったので、とりあえず買わずに他も見て、これ以上のものがなければ戻ってこようと話して、いったんそこを出た。
それから3,4軒めぐったが、正直、さっきの器以上のものを見つけることができず、それどころかますますさっきの器への想いが募ってくるのが自分でわかった。

私は引っ込み思案なので、積極的に自分からどこかに電話をするというのもないのだが、なぜかこの時はどうしたってこの器の工房へ行ってみたくて、夫がポケットに入れていた紙を出してもらって「電話して行ってみようよ」と提案してみた。
夫はもちろん「行こう、行こう」と乗り気だったので、電話することに。
ただ、やっぱり電話は夫にしてもらったのだが(笑)

電話を切った夫に「どうやった?」と聞いてみたら、「行っても大丈夫って。道も詳しく教えてくれた」という。
場所は近くで、車で10分もかからないくらいだった。

工房に着き、車から降りて「こんにちは」と入ると、作家さんらしい男性が迎えてくれた。
気さくに「こちらへどうぞ」とろくろのある工房へ案内してくれる。
さらにその奥の登り窯まで見せてくれて、今は焼いていないので中にまで入らせてくれた。





作家さんは延原勝志さんという。
作品を見た時にものすごく新しい備前焼という感じがしたので、若い人なのかと思っていたら60歳のベテランで、いろんな賞もとられているし、講演などもされているし、備前焼工芸士の中でもかなり権威のある方。
でも、とても気さくにいろんなことをお話してくださった。

私たちが魅せられた酒器がこれだ。


中の紅葉は本物で、これを焼きつける技法を確立するのに7年かかったという。
また、赤いものはいかにも備前焼の色だが、青みがかったグレーの色が珍しくて聞いてみると、「青備前」というらしい。
焼く時に酸化すると赤くなるが、酸素が少ない状態で焼くと青くなるのだとか。
備前焼は本当に知れば知るほど深いなぁと思う。1つとして同じものは生まれないし。

マグカップもあったので、友達のプレゼントもこれに決めていた。
赤にしようか青にしようか迷ったが、青備前は珍しいこともあり、青に決めた。
私たちも自宅用に、赤と青のマグカップと酒器を買った。

マグカップはこれ


今回の戦利品


延原先生は本当にいろんな話をしてくださって、奥様もお茶を出してくださって、工房での楽しい時間を過ごした。
気づけば1時間半!
先生はどうやら話し出すと止まらないらしい(笑)
「窯出しの時に来ていただいたら2割引きにしているんです」と言うので、連絡をいただけるようお願いした。
次はお皿も買いたい。
今回ももっといろいろ見たかったのだが、とにかく先生がめちゃくちゃおしゃべりなので、じっくりいろんな作品を見ることができなかったのだ。貴重なお話をいっぱい聞けたのでよかったのだが、今度は作品にじっくり向き合いたい。

そうそう、先生は京都で磁器を造られていたことがあったという。
それで備前焼らしからぬ、あのなめらかな薄さが表現されているのかと合点がいった。

青備前のぐい吞みは、お酒を注ぐと紅葉がふわっと紅くなる。
それがまた風情があっていいのだ。

器は本当に一期一会。
また良い出会いがあった。
友達にマグカップを送ったらとても喜んでもらえた。
私も毎朝このマグカップでコーヒーを飲んでいる。お気に入りの器があれば、それだけで幸せな気持ちになる。

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