カナ文字文庫(漢字廃止論)

日本文学の名作などをカナ書きに改めて掲載。

ビショウ 2

2020-11-07 | ヨコミツ リイチ
 タカダ の きた ヒ から フツカ-メ に、 セイホウ から カジ へ テガミ が きた。 それ には、 ただいま テンノウ ヘイカ から ハイエツ の ゴサタ が あって サンダイ して きました ばかり です。 ナミダ が ながれて ワタシ は なにも もうしあげられません でした が、 ワタシ に かわって トウダイ ソウチョウ が みな おこたえ して くださいました。 キンジツチュウ ゴホウコク に ぜひ おうかがい したい と おもって おります。 と それ だけ かいて あった。 セイホウ の こと は とうぶん わすれて いたい と おもって いた オリ、 カジ は たしょう この セイホウ の テガミ に ウシロ へ もどる ワズラワシサ を かんじ、 いそがしそう な カレ の ジタイ を ながめて いた。 すると、 その ヨクジツ セイホウ は ヒトリ で カジ の ところ へ きた。
「サンダイ した ん です か」
「ええ、 なにも おこたえ できない ん です よ。 コトバ が でて こない の です。 イチド ボク の ソバ まで こられて、 それから ジブン の オセキ へ もどられました が、 アシカズ だけ かぞえて います と、 11 ポ でした。 5 メータ です。 そう する と、 ミス が さがりまして、 その ムコウ から ゴシツモン に なる の です」
 ぱっと イツモ の うつくしい ビショウ が ひらいた。 この セイホウ の ムジャキ な ビショウ に あう と、 カジ は ホカ の イッサイ の こと など どうでも よく なる の だった。 セイホウ の コウイ や シゴト や、 また、 カレ が キョウジン で あろう と ニセモノ で あろう と、 そんな こと より、 セイホウ の ホオ に うかぶ ツギ の ビショウ を カジ は まちのぞむ キモチ で ハナシ を すすめた。 ナニ より その ビショウ だけ を みたかった。
「ヘイカ は キミ の ナ を なんと および に なる の」
「チュウイ は、 と おっしゃいました よ。 それから おって サタ する、 と サイゴ に おっしゃいました。 オレ のう、 もう アタマ が ぼっと して きて、 キチガイ に なる ん じゃ ない か と おもいました よ。 どうも、 あれ から ちょっと おかしい です よ」
 セイホウ は メ を ぱちぱち させ、 いう こと を きかなく なった ジブン の アタマ を なでながら、 フシギ そう に いった。
「それ は おめでたい こと だった な。 ヨウジン を しない と、 キチガイ に なる かも しれない ね」
 カジ は そう いう ジブン が セイホウ を キョウジン と おもって はなして いる の か どう か、 それ が どうにも わからなかった。 すべて シンジツ だ と おもえば シンジツ で あった。 ウソ だ と おもえば また ことごとく ウソ に みえた。 そして、 この あやしむ べき こと が なんの あやしむ べき こと でも ない、 さっぱり した この バ の ただ ヒトツ の シンジツ だった。 ハイチュウリツ の マッタダナカ に うかんだ、 ただ ヒトツ の チョッカン の シンジツ は、 こうして イマ カジ に みごと な ジツレイ を しめして くれて いて、 「さあ、 どう だ、 どう だ。 ヘントウ しろ」 と カジ に せまって きて いる よう な もの だった。 それ にも かかわらず、 まだ カジ は だまって いる の で ある。 「みた まま の こと さ、 オレ は ビショウ を しんじる だけ だ」 と、 こう カジ は ブショウ に こたえて みた ものの、 ナニモノ に か、 たくみ に ころがされ ころころ ホンロウ されて いる の も ドウヨウ だった。
「キョウ おうかがい した の は、 イチド ゴチソウ したい の です よ。 イッショ に これから いって くれません か。 ジドウシャ を シブヤ の エキ に またせて ある の です」 と、 セイホウ は いった。
「イマゴロ ゴチソウ を たべさす よう な ところ、 ある ん です か」
「スイコウシャ です」
「なるほど、 キミ は カイグン だった ん です ね」 と、 カジ は、 キョウ は ガクセイフク では ない セイホウ の カイキンフク の ケンショウ を みて わらった。
「キョウ は オレ、 タイイ の ケンショウ を つけてる けれど、 ホントウ は もう ショウサ なん です よ。 あんまり わかく みえる ので、 さげてる ん です」
 ショウネン に みえる セイホウ の まだ ケンショウ の ホシカズ を よろこぶ ヨウス が、 フシゼン では なかった。 それにしても、 この ショウネン が ソコク の キキュウ を すくう ユイイツ の ジンブツ だ とは、 ――じっさい、 イマ さしせまって きて いる センキョク を ユウリ に みちびく もの が あり と すれば、 セイホウ の ブキ イガイ に ありそう に おもえない とき だった。 しかし、 それにしても、 この セイホウ が―― イクド も かんじた ギモン が また ちょっと カジ に おこった が、 なにひとつ カジ は セイホウ の いう ジケン の ジジツ を みた わけ では ない。 また しらべる ホウホウ とて も ない ユメ だ。 カレ の いう スイコウシャ への デイリ も セイホウ ヒトリ の ユメ か どう か、 ふと カジ は この とき ミ を おこす キモチ に なった。
「キミ と いう ヒト は フシギ な ヒト だな。 ハジメ に キミ の きた とき には、 なんだか アシオト が フツウ の キャク と どこ か ちがって いた よう に おもった ん だ が。――」 と カジ は つぶやく よう に いった。
「あ、 あの とき は、 オレ、 エキ から オタク の ゲンカン まで アシカズ を はかって きた の です よ。 652 ホ」 セイホウ は すぐ こたえた。
 なるほど、 カレ の セイカク な アシオト の ナゾ は それ で わかった、 と カジ は おもった。 カジ は セイホウ の コキョウ を A ケン のみ を しって いて、 その ケン の どこ か は しらなかった が、 はじめ きた とき カジ は セイホウ に、 キミ の セイカ の チカク に ヒラタ アツタネ の セイカ が ありそう な キ が する が、 と ヒトコト きく と、 この とき も 「100 メータ」 と メイリョウ に すぐ こたえた。 また、 カイグン との カンケイ の セイリツ した ヒ の フクツウ の ヨクジツ、 シン ヒコウキ の セイノウ ジッケン を やらされた とき、 セイホウ は、 スイチョク に ラッカ して くる キタイ の ナカ で、 その とき で なければ できない ケイサン を ヨタビ くりかえした ハナシ も した。 そして、 ビヨク に ケッテン の ある こと を ハッケン して、 「よく なります よ、 あの ヒコウキ は」 と いったり した が、 ハンラン しつつ カレ の アタマ に おそいかかって くる スウシキ の ウンドウ に テイシ を あたえる こと が できない なら、 セイホウ の アタマ も くるわざる を えない で あろう と カジ は おもった。
 セイカク だ から くるう の だ、 と いう ギャクセツ は、 カレ には たしか に ツウヨウ する キンダイ の みごと な ウツクシサ をも かたって いる。
「キミ は キョウ は、 スイコウシャ から きた ん です か。 ケンペイ は ついて きて いない の」 と カジ は セイホウ に イエ を でる マエ たずねて みた。
「キョウ は チチジマ から かえった ばかり です よ。 その アシ で きた の です」
 セイホウ の ハツオン では チチジマ が チシマ と きこえる ので、 チシマ へ どうして と カジ が たずねかえす と、 チチジマ と セイホウ は いいなおした。
「ジッケン を すませて きた の です よ。 セイコウ しました。 いちばん はやく しぬ の は ネコ です ね。 あれ は もう、 ちょっと コウセン を あてる と、 ころり と いく。 その ツギ が イヌ です。 サル は どういう もの か すこし ジカン を とります ね」
 と セイホウ は ひくく わらいながら、 ヒタイ に ヒヤケ の スジ の はいった アタマ を かいた。 キョウジン の ネゴト の よう に ムゾウサ に そう いう の も、 よく ききわけて みる と、 おそる べき コウセン の ヒミツ を つぶやいて いる の だった。
「ボク は ドウブツ の シンゾウ と いう もの に キョウミ が でて きました よ。 どうも、 いろいろ シンゾウ に シュルイ が ある よう な キ が して きて、 これ を みな しらべたら おもしろい だろう なあ と おもいました」
 セイホウ の ブキ は、 じじつ それなら シンコウ して いる の だろう か、 と カジ は おもった。 しかし、 なぜ だ か カジ は、 ここ まで カレ と したしく なって きて いて も、 それ が ジジツ か どう か を セイホウ に ききかえす キ は しなかった。 あまり に メンドウ で おこって いる ジケン は イヨウ-すぎて、 かえって カジ に ハクリョク を あたえない。 のみならず、 どこ か で セイホウ を まだ キョウジン と おもって いる ところ が あって、 ナニ を いって も カレ を ゆるして おける の だった。
「チチジマ まで は どれほど かかる の です」
「2 ジカン です。 あそこ の デンリョク は よわい から、 ジッケン は おもう よう には できない ん です よ。 それでも、 1 マン フィート ぐらい まで なら、 コウリョク が あります ね。 ハジメ は カイチュウ では ダメ だろう と おもって いた ん です が、 カイスイ は シオ だ から、 クウキ-チュウ より カイチュウ の ほう が、 コウリョク の ある こと が わかりました よ」
「へえ。 1 マン フィート なら ソウトウ な もの だな。 うまく いきます か、 ヒコウキ だ と おちます ね」
「おちました。 はじめ ソウジュウシ と アイズ しといて ラッカサン で とびおりて から、 その アト の カラ の ヒコウキ へ コウセン を あてた の です。 うまく いきました よ。 ソウジュウシ と ユウベ は アクシュ して、 ウィスキー を フタリ で のみました。 ユカイ でした よ その とき は」
 ジシン に みちた セイホウ の エガオ は、 ニチジョウ メ に する グンシュウ の ユウウツ な カオ とは およそ かけはなれて はれて いた。
「センスイカン にも かけて みました が、 これ は、 うっかり して、 コウビ へ あたっちゃった もの だ から、 うきあがる はず の やつ が、 いつまでも うかない ん です よ。 キノドク な こと を した。 でも、 まあ、 しょうがない、 クニ の ため だ から、 ガマン を して もらわなきゃあ」
 ちょっと セイホウ は かなしげ な ヒョウジョウ に なった が、 それ も たちまち はれあがった。
「ニホン の センスイカン?」 と カジ は おどろいて たずねた。
「そう です。 いや だった なあ、 あの とき は。 もう ジッケン は こりごり だ と おもいました ね。 あれ だ から いや に なる」
 イヨウ な ジケン が ふしぎ と シンジツ の ソウ を おびて カジ に せまって きはじめた。 では、 みな ジジツ か。 この セイネン の くちばしって いる こと は――
「しかし、 そんな ブキ を アクニン に もたした ヒ には、 コト だなあ」 と カジ は おもわず つぶやいた。
「そう です よ。 カンリ が タイヘン です」
「ジンルイ が ほろんじまう よ」
「その ブキ を つんだ フネ が 6 パイ あれば、 ロンドン の テキゼン ジョウリク が できます よ。 アメリカ なら、 この ゲツマツ に だって ジョウリク は できます ね」
 もう ジョウダンゴト では なかった。 どこ から どこ まで ジュウジツ した ハナシ か いぜん ギモン は のこりながら も、 ヒトコト ごと に セイホウ の イイカタ は、 クウキョ な もの を ジュウテン しつつ たんたん と すすんで いる。 カジ は ジブン が おどろいて いる の か どう か、 もはや それ も わからなかった。 しかし、 どうして こんな バアイ に、 フイ に アクニン の こと を ジブン は かんがえた の だろう か。 たしか に、 コト は センソウ の カチマケ の こと だけ では すみそう に ない と カジ は おもった。 もちろん、 カレ は ジブン が クニ を あいして いる こと は うたがわなかった。 まける こと を のぞむ など とは かんがえる こと さえ できない こと だった。 かって もらいたかった。 しかし、 かって いる アイダ は、 こんな に かちつづけて よい もの だろう か と いう ウレイ が あった。 それ が マケイロ が つづいて おそって きて みる と、 ウレイ どころ の サワギ では おさまらなかった。 センソウ と いう もの の ゼンアク イカン に かかわらず ソコク の メツボウ する こと は たえられる こと では なかった。 そこ へ シュツゲン して きた セイホウ の シン ブキ は、 きいた だけ でも ムネ の おどる こと で ある。 それに なにゆえ また ジブン は その ブキ を テ に した アクニン の こと など かんがえる の だろう か。 ひやり と イチマツ の フアン を おぼえる の は どうした こと だろう か。 ――カジ は ジブン の シンチュウ に おこって きた この フタツ の シンジツ の どちら に ジブン の ホンシン が ある もの か、 しばらく じっと ジブン を みる の だった。 ここ にも ハイチュウリツ の つめよって くる ナヤマシサ が うすうす と もみおこって ココロ を さして くる の だった。 センジツ まで は、 まだ セイホウ の シン ブキ が ユメ だ と おもって いた センジツ まで、 セイホウ の イノチ の アンキ が シンパイ だった のに、 それ が ジジツ に ちかづいて きて みる と、 カレ の こと など もはや どうでも よく なって、 アクマ の ショザイ を かぎつけよう と して いる ジブン だ と いう こと は―― アクマ、 たしか に いる の だ コイツ は、 と カジ は おもった。
「その キミ の ブキ は、 ゼンニン に てわたさなきゃあ、 クニ は ほろぶ ね。 もし アクニン に わたした ヒ には、 そりゃ、 マケ だ」 と、 なぜ とも なく カジ は つぶやいて たちあがった。 カミ います、 と カレ は モンク なく そう おもった の で ある。

 セイホウ と カジ とは ソト へ でた。 ニシビ の さす ヒケドキ の シブヤ の プラット は、 シャナイ から ながれでる キャク と のりこむ キャク と で うずまいて いた。 その グンシュウ の ナカ に まじって、 のる でも ない、 おり も しない ヒトリ の せだかい、 あおざめた テイダイ の カクボウ スガタ の セイネン が カジ の メ に とまった。 ユウシュウ を たたえた きよらか な マナザシ は、 ほそく カガヤキ を おびて クウチュウ を みて いた が、 セイホウ を みる と、 つと うつくしい シセン を さけて ソッポ を むいた まま うごかなかった。
「あそこ に テイダイ の セイト が いる でしょう」
 と セイホウ は カジ に いった。
「ふむ。 いる」
「あれ は ボク の ドウリョウ です よ。 やはり カイグン-ヅメ です がね」
 グンシュウ の ナガレ の まま に フタリ は、 カイグン と リカ との フタツ の エリショウ を つけた その セイネン の ほう へ ちかづいた。
「あっ、 だまって いる な。 テキガイシン を かんじた かな」 と セイホウ は いう と、 ヨコ を むいた セイネン の ハイゴ を、 これ も そのまま カジ と イッショ に すぎて いった。
「もう ボク は、 にくまれる にくまれる。 ダレ も わかって くれ や しない」 と セイホウ は また つぶやいた が、 ホチョウ は いっそう カッパツ に かつかつ と ひびいた。 ならんだ カジ は セイホウ の ホチョウ に そまって リズミカル に なりながら、 われて いる の は グンシュウ だけ では ない と おもった。 ニホン で もっとも ユウシュウ な ジッケンシツ の チュウカク が われて いる の だ。
 セイホウ が またせて ある と いった ジドウシャ は、 シブヤ の ヒロバ には いなかった。 そこで フタリ は トデン で ロッポンギ まで いく こと に した が、 セイホウ は、 ジドウシャ の バンゴウ を カジ に つげ、 マチナカ で みかけた とき は その バンゴウ を よびとめて いつでも のって くれ と いったり した。 デンシャ の ナカ でも セイホウ は、 21 サイ の ジブン が 30-スギ の カリョウ を ヨビツケ に する クツウ を かたって から、 こう も いった。
「ボク が イマ いちばん ソンケイ して いる の は、 ボク の つかって いる 35 の イズ と いう カキュウ ショッコウ です よ。 これ を しかる の は、 ボク には いちばん つらい こと です が、 カゲ では、 どうか ナニ を いって も ゆるして もらいたい、 コウジョウ の ナカ だ から、 キミ を ヨビステ に しない と ホカ の モノ が、 いう こと を きいて は くれない、 クニ の ため だ と おもって、 トウブン は ゆるして ほしい と たのんで ある ん です。 これ は えらい オトコ です よ。 ジンカク も リッパ です。 そこ へ いく と、 ボク なんか、 イズ を ヨビステ に できた もん じゃ ありません がね」
 この セイホウ の どこ が キョウジン なの だろう か、 と カジ は また おもった。 21 サイ で ハカセ に なり、 ショウサ の シカク で、 トシウエ の タクサン な カリョウ を ヨビステ に テアシ の ごとく つかい、 ニホンジン と して サイコウ の エイヨ を うけよう と して いる セイネン の キョドウ は、 セイホウ を みのがして ホカ に レイ の あった ためし は ない。 それなら、 これから ユクサキ の ながい トシツキ、 セイホウ は イマ ある より も ただ くだる ばかり で ある。 なんと いう フコウ な こと だろう、 カジ は この うつくしい エガオ を する セイネン が キノドク で ならなかった。
 ロッポンギ で フタリ は おりた。 トチノキ の ならんだ マミアナ の トオリ を あるいた とき、 ユウグレ の せまった マチ に ヒトカゲ は なかった。 そこ を サカシタ から こちら へ 10 ニン ばかり の リクグン の ヘイタイ が、 おもい テツザイ を つんだ クルマ を ひいて のぼって くる と、 セイホウ の タイイ の エリショウ を みて、 タイチョウ の カシ が ケイレイッ と ゴウレイ した。 ぴたっと とまった 1 タイ に トウレイ する セイホウ の キョシュ は、 スキ なく しっかり イタ に ついた もの だった。 グンタイ-ナイ の セイホウ の スガタ を カジ は はじめて みた と おもった。
「もう キミ には、 ガクセイ-シュウ は なくなりました ね」 と カジ は いった。
「ボク は カイグン より リクグン の ほう が すき です よ。 カイグン は カイキュウ セイド が だらしなくって、 その テン リクグン の ほう が はっきり して います から ね。 ボク は イマ リクグン から ヒッパリ に きて いる ん です が、 カイグン が ゆるさない の です」
 スイコウシャ が みえて きた。 この カイグン ショウコウ の シュウカイジョ へ はいる の は、 カジ には はじめて で あった。 どこ の エントウ から も ケムリ の でない コロ だった が、 ここ の たかい エントウ だけ 1 ポン もうもう と ケムリ を ふきあげて いた。 ケイタイヒン アズケジョ の ダイ の ウエ へ タンケン を はずして だした セイホウ は、 ケン の ツカ の ところ に キク の モン の ほられて いる こと を カジ に いって、
「これ ボク ん じゃ ない の です が、 オンシ の グントウ です よ。 ヒト の を かりて きた ん です。 もう じき、 ボク も もらう もん です から」
 こどもらしく そう いいながら、 ヘヤ の イリグチ へ アンナイ した。 そこ には サカン イジョウ の ヘヤ の ヒョウサツ が かかって いた。 アブラ の ミガキ で くろぐろ と した コウタク の ある カワバリ の ソファ や イス の ナカ で、 タイイ の セイホウ は わかわかしい と いう より、 ショウネン に みえる フニアイ な ドウガン を にこにこ させ、 カジ に ナグサメ を あたえよう と して ほねおって いる らしかった。 ショクジ の とき も、 あつまって いる ショウコウ たち の どの カオ も チンウツ な ヒョウジョウ だった が、 セイホウ だけ ヒトリ いきいき と した エガオ で、 ヒジ を たかく ビール の ビン を カジ の コップ に かたむけた。 フライ や サラダ の サラ が でた とき、
「そんな キミ の イカン の エリショウ で、 ここ に いて も いい の です か」 と カジ は たずねて みた。
「ミナ ここ の ヒト は ボク の こと を しって ます よ」
 セイホウ は わるびれず に こたえた。 その とき、 また ヒトリ の サカン が カジ の ソバ へ きて すわった。 そして、 セイホウ に アイサツ して もくもく と フォーク を もった が、 この サカン も ひどく この ユウ は しずんで いた。 もう カイグンリョク は どこ の カイメン の も ゼンメツ して いる ウワサ の ひろがって いる とき だった。 レイテ-セン は ソウハイボク、 カイグン の ダイホンザン、 センカン ヤマト も ゲキチン された フウセツ が ながれて いた。
 めずらしい パン-ツキ の ショクジ を おわって から、 カジ と セイホウ は、 ナカニワ の ひろい シバフ へ おりて トウゴウ ジンジャ と ショウガク の ある ホコラ の マエ の シバフ へ ヨコ に なった。 ナカニワ から みた スイコウシャ は 7 カイ の カンビ した ホテル に みえた。 フタリ の よこたわって いる ゼンポウ の ユウゾラ に ソヴィエット の タイシカン が タカサ を スイコウシャ と きそって いた。 トウゴウ ショウシ の ハイゴ の ほう へ、 おれまがって いる ひろい トクベツシツ に ヒ が はいった。 セイホウ は ツゲ の ハ の スキ から みえる ウシロ の その ヘヤ を さして、
「あれ は ショウショウ イジョウ の ショクドウ です が、 ナニ か カイギ が ある らしい です よ」 と セツメイ した。 おおきな タテモノ ゼンタイ の ナカ で その イッシツ だけ こうこう と あかるかった。 さわやか な しろい テーブルクロス の アイダ を しろい ナツフク の ショウカン たち が イリグチ から ながれこんで きた。 カジ は、 ハイセン の ショウ たち の トウカ を うけた ムネ の ナガレ が、 サザナミ の よう な いそがしい シロサ で チャクセキ して いく スガタ と、 ジブン の ヨコ の シバフ に イマ ねそべって、 ハンシン を ねじまげた まま ヒ の ナカ を さしのぞいて いる セイホウ を みくらべ、 タイカ の くずれん と する とき、 ヒトミナ この イチボク に たよる ばかり で あろう か と、 アタリ の フウケイ を うたがった。 ヒトリ の メイセキ ハンダン の ない クルイ と いう もの の もつ キョウフ は、 もはや ニチジョウ サハンジ の ヘイセイサ さえ ともなって いる しずか な ユウグレ だった。
「ここ へ くる ニンゲン は、 ミナ あの ヘヤ へ はいりたい の だろう が、 コンヤ の あの ヒ の シタ には アイシュウ が ある ね。 マエ には ソヴィエット が みて いる し」
「ボク は、 ホントウ は ショウセツ を かいて みたい ん です よ。 テイダイ シンブン に ヒトツ だした こと が ある ん です が、 ソウタイセイ ゲンリ を たたいて みた ショウセツ で、 カサヤ の ムスメ と いう ん です」
 どういう セイホウ の クウソウ から か、 とつぜん、 セイホウ は テマクラ を して カジ の ほう を むきかえって いった。
「ふむ」 カジ は まことに イガイ で あった。
「チョウヘン なん です よ。 スウガク の キョウジュ たち は おもしろい おもしろい と いって くれました が、 ボク は これから、 スウガク を ショウセツ の よう に して かいて みたい ん です。 アナタ の かかれた リョシュウ と いう の、 4 ド よみました が、 あそこ に でて くる スウガク の こと は おもしろかった なあ」
 かんがえれば、 ねて も たって も おられぬ とき だ のに、 タイカ を ささえる イチボク が ショウセツ の こと を いう の で ある。 あわただしい ショウカン たち の ユキキ と ソヴィエット に はさまれた ユウヤミ の ソコ に よこたわりながら、 ここ にも フカカイ な シンジダイ は もう きて いる の か しれぬ と カジ は おもった。
「それ より、 キミ の コウセン の イロ は どんな イロ です」 と カジ は ハナシ を そらせて たずねた。
「ボク の コウセン は ヒルマ は みえない けども、 ヨル だ と シュウイ が ぽっと あおくて、 ナカ が きいろい フツウ の ヒカリ です。 ソラ に あがったら みて いて ください」
「あそこ で やってる コンヤ の カイギ も、 キミ の ヒカリ の カイギ かも しれない な。 どうも それ より しょうがない」
 くらく なって から フタリ は カエリジタク を した。 ケイタイヒン アズケジョ で セイホウ は、 うけとった タンケン を コシ に つりつつ カジ に、 「ボク は コウ 1 キュウ を もらう かも しれません よ」 と いって、 ゲンキ よく ウワギ を まくしあげた。
 ソト へ でて マックラ な ロッポンギ の ほう へ、 あるいて いく とき だった。 また セイホウ は カジ に すりよって くる と、 とつぜん コエ を ひそめ、 イマ まで おさえて いた こと を キュウ に はきだす よう に、
「ジュンヨウカン 4 セキ と、 クチクカン 4 セキ を しずめました よ。 コウセン を あてて、 ボク は トケイ を じっと はかって みて いたら、 4 フン-カン だった。 たちまち でした よ」
 アタリ には ダレ も いなかった。 アンチュウ アイクチ を さぐって ぐっと ヨコバラ を つく よう に、 セイホウ は コシ の ズボン の トケイ を すばやく はかる テツキ を しめして カジ に いった。
「しかし、 それなら ハッピョウ する でしょう」
「そりゃ、 しません よ。 すぐ テキ に わかって しまう」
「それにしても――」
 フタリ は また だまって あるきつづけた。 キンパク した イシガキ の ツメタサ が こみさえて とおった。 くらい マミアナ の ガイロ は しずか な ノボリザカ に なって いて、 ひびきかえる クツオト だけ ききつつ カジ は、 センジツ から おどろかされた チョウテン は コンヤ だった と おもった。 そして、 セイホウ の いう こと を ウソ と して しりぞけて しまう には、 あまり に ムリョク な ジブン を かんじて さみしかった。 いや、 それ より、 ジブン の ナカ から はげおちよう と して いる セイホウ の ゲンエイ を、 むしろ ささえよう と して いる イマ の ジブン の コウイ の ゲンイン は、 みな ひとえに セイホウ の ビショウ に ケンイン されて いた から だ と おもった。 カレ は それ が くやしく、 ひとおもいに カレ を キョウジン と して はらいおとして しまいたかった。 カジ は れいぜん と して いく ジブン に ミョウ に フアン な センリツ を おぼえ、 くろぐろ と した コダチ の チンモク に ミ を よせかけて いく よう に あるいた。
「ボク は ね、 センセイ」 と また しばらく して、 セイホウ は カジ に すりよって きて いった。 「イマ ボク は ヒトツ、 なやんで いる こと が ある ん です よ」
「ナン です」
「ボク は イマ まで イチド も、 しぬ と いう こと を こわい と おもった こと は なかった ん です が、 どういう もの だ か、 センジツ から しぬ こと が こわく なって きた ん です」
 セイホウ の ホンシン が めざめて きて いる。 カジ は そう おもって、 「ふむ」 と いった。
「なぜ でしょう かね。 ボク は もう ちょっと いきて いたい の です よ。 ボク は コノゴロ、 それで ねむれない の です」
 シンブ の ニンゲン が ゆれうごいて きて いる コエ で ある。 きづいた な と カジ は おもった。 そして、 ミミ を よせて ツギ の セイホウ の コトバ を まつ の だった。 また フタリ は だまって しばらく あるいた。
「ボク は もう、 ダレ か に すがりつきたくって、 しょうがない。 ダレ も ない の です」
 イマ まで ムジャキ に テンクウ で たわむれて いた ショウネン が ヒト の いない シュウイ を みまわし、 ふと シタ を のぞいた とき の、 なきだしそう な コドク な キョウフ が もれて いた。
「そう だろう な」
 コタエヨウ の ない ジブン が うすらかなしく、 カジ は、 ガイロジュ の ミキ の カワ の アツサ を みすごして ただ あるく ばかり だった。 カレ は はやく トウカ の みえる ツジ へ でたかった。 ちょうど、 そうして ユウグレ テツザイ を つんだ 1 タイ の ヘイシ と であった バショ まで きた とき、 はつらつ と して いた ヒルマ の セイホウ を おもいだし、 やっと カジ は いった。
「しかし、 キミ、 そういう ところ から ニンゲン の セイカツ は はじまる の だ から、 アナタ も そろそろ はじまって きた の です よ。 なんでも ない の だ、 それ は」
「そう でしょう か」
「ダレ にも すがれない ところ へ キミ は でた のさ。 ゼロ を みた ん です よ。 この トオリ は マミアナ と いって、 タヌキ ばかり すんで いた らしい ん だ が、 それ が いつのまにか、 ニンゲン も すむ よう に なって、 この とおり です から ね。 ボクラ の イッショウ も いろんな ところ を とおらねば ならん です よ。 これ だけ は どう シヨウ も ない。 まあ、 いつも ヒト は、 はじまり はじまり と いって、 タイコ でも たたいて いく の だな。 しぬ とき だって、 ボクラ は そう しよう じゃ ない です か」
「そう だな」
 ようやく なきどまった よう な セイホウ の ただしい クツオト が、 また カジ に きこえて きた。 ロッポンギ の テイリュウジョ の ヒ が フタリ の マエ へ さして きて、 その シタ に かたまって いる 2~3 の ヒトカゲ の ナカ へ フタリ は たつ と、 デンシャ が まもなく サカ を のぼって きた。

 アキカゼ が たって 9 ガツ ちかく なった コロ、 タカダ が カジ の ところ へ きた。 セイホウ の ガクイ ロンブン ツウカ の シュクガカイ を アス もよおしたい から、 カジ に ぜひ シュッセキ して ほしい、 バショ は ヨコスカ で すこし エンポウ だ が、 セイホウ から ぜひとも カジ だけ は つれて きて もらいたい と イライ された と いう こと で、 カイ を クカイ に したい と いう。 クカイ の シュクガカイ なら シュッセキ する こと に して、 カジ は タカダ の サソイ に でて くる アス を まった。
「どういう ヒト が キョウ は でる の です」
 と、 カジ は ツギ の ヒ、 ヨコスカ-ユキ の レッシャ の ナカ で タカダ に たずねた。 タイイ キュウ の カイグン の ショウコウ スウメイ と ハイク に キョウミ を もつ ヒトタチ ばかり で、 ヤマ の ウエ に ある ヒコウキ セイサク ギシ の ジタク で もよおす の だ と、 タカダ の コタエ で あった。
「この ギシ は ハイク も うまい が、 ユウシュウ な えらい ギシ です よ。 ボク と ハイク トモダチ です から、 エンリョ の いらない アイダガラ なん です」 と タカダ は フカ して いった。
「しかし、 ケンペイ に こられちゃ ね」
「さあ、 しかし、 そこ は クカイ です から、 なんとか うまく やる でしょう」
 トチュウ の アイダ も、 カジ と タカダ は セイホウ が キョウジン か イナ か の ギモン に ついて は、 どちら から も ふれなかった。 それにしても、 セイホウ を キョウジン だ と ハンテイ して カジ に いった タカダ が、 その セイホウ の シュクガカイ に、 カジ を グンコウ まで ひきずりだそう と する の で ある。 ギシ の タク は エキ から も とおかった。 ウミ の みえる ヤマ の ノボリ も キュウ な カタムキ で、 たかい イシダン の イクマガリ に カジ は コキュウ が きれぎれ で あった。 クズ の ハナ の なだれさがった シャメン から ミズ が もれて いて、 ひくまって いく ヒ の みちた タニマ の ソコ を、 ヒグラシ の コエ が つらぬきとおって いた。
 チョウジョウ まで きた とき、 あおい ダイダイ の ミ に うまった イエ の モン を はいった。 そこ が ギシ の ジタク で クカイ は もう はじまって いた。 トコマエ に すわらせられた ショウキャク の セイホウ の アタマ の ウエ に、 ガクイ ロンブン ツウカ シュクガ ハイクカイ と かかれて、 その ヒ の ケンダイ も ならび、 20 ニン ばかり の イチザ は コエ も なく クサク の サイチュウ で あった。 カジ と タカダ は マガリエン の イッタン の ところ で すぐ ケンダイ の クズ の ハナ の サック に とりかかった。 カジ は ヒザ の ウエ に テチョウ を ひらいた まま、 ナカ の ザシキ の ほう に セ を むけ、 ハシラ に もたれて いた。 エダ を しなわせた ダイダイ の ミ の ふれあう アオサ が、 カジ の ヒロウ を すいとる よう で あった。 まだ あかるく ウミ の ハンシャ を あげて いる ユウゾラ に、 ヒグラシ の コエ が たえず ひびきとおって いた。
「これ は ボク の アニ でして。 キョウ、 でて きて くれた の です」
 セイホウ は コウホウ から コゴエ で カジ に ショウカイ した。 トウホク ナマリ で、 レイ を のべる コガラ な セイホウ の アニ の アタマ の ウエ の タケヅツ から、 クズ の ハナ が たれて いた。 クカイ に キョウミ の なさそう な その アニ は、 まもなく、 キシャ の ジカン が きれる から と アイサツ を して、 ダレ より サキ に でて いった。
「トウ あおき オカ の ワカレ や クズ の ハナ」
 カジ は すぐ ハジメ の イック を テチョウ に かきつけた。 セミ の コエ は まだ ふる よう で あった。 ふと カジ は、 スベテ を うたがう なら、 この セイホウ の ガクイ ロンブン ツウカ も また うたがう べき こと の よう に おもわれた。 それら セイホウ の して いる コトゴト が、 たんに セイホウ コジン の ムユウチュウ の ゲンエイ と して のみ の ジジツ で、 シンジツ で ない かも しれない。 いわば、 その ゼロ の ごとき クウキョ な ジジツ を しんじて ダレ も あつまり いわって いる この サンジョウ の ショウカイ は、 イマ こうして ハナ の よう な ウツクシサ と なり さいて いる の かも しれない。 そう おもって も、 カジ は フマン でも なければ、 むなしい カンジ も おこらなかった。
「ヒグラシ や シュカク に みえし クズ の ハナ」 と、 また カジ は イック かきつけた シヘン を ボン に なげた。
 ヒ が おちて ヘヤ の ヒ が ニワ に さす コロ、 カイ の ヒトリ が リンセキ の モノ と ささやきかわしながら、 ニワ の マガキ の ソト を みつめて いた。 カキスソ へ しのびよる ケンペイ の アシオト を ききつけた から だった。 シュサイシャ が ケンペイ を ナカ へ しょうじいれた もの か、 どうした もの か と セイホウ に ソウダン した。
「いや、 いれちゃ いかん。 クセ に なる」
 トコマエ に タンザ した セイホウ は、 イツモ の カレ には みられぬ ジョウカン-らしい イゲン で クビ を ヨコ に ふった。 だんこ と した カレ の ソッケツ で、 クカイ は そのまま ゾッコウ された。 タカダ の ヒコウ で イチザ の サック が よみあげられて いく に したがい、 カジ と タカダ の 2 サク が しばらく コウテン を せりあいつつ、 しだいに また タカダ が のりこえて カイ は おわった。 オカ を くだって いく モノ が ハンスウ で、 セイホウ と したしい アト の ハンスウ の のこった モノ の ユウショク と なった が、 シノビアシ の ケンペイ は まだ カキ の ソト を まわって いた。 サケ が でて ザ が くつろぎかかった コロ、 セイホウ は カジ に、
「この ヒト は いつか おはなし した イズ さん です。 ボク の いちばん オセワ に なって いる ヒト です」
 と ショウカイ した。
 ロウドウフク の ムクチ で ケンゴ な イズ に カジ は レイ を のべる キモチ に なった。 セイホウ は サケ を つぐ テツダイ の チジン の ムスメ に かるい ジョウダン を いった とき、 したしい オウシュウ を しながら も、 ムスメ は 21 サイ の ハカセ の セイホウ の マエ では カオ を あからめ、 タチイ に オチツキ を なくして いた。 いつも リョウウデ を くんだ シュサイシャ の ギシ は、 しずか な ヒタイ に トクボウ の ある キヒン を たたえて いて、 ヒトリ なごやか に しずむ クセ が あった。
 トウキョウ から の キャク は ショウリョウ の サケ でも マワリ が はやかった。 ヒタイ の そまった タカダ は アオムキ に たおれて ソラ を あおいだ とき だった。 ヒ を つけた テイクウ ヒコウ の スイジョウキ が 1 キ、 オカ スレスレ に バクオン を たてて まって きた。
「おい、 セイホウ の コウセン、 あいつ なら おとせる かい」 と タカダ は テマクラ の まま セイホウ の ほう を みて いった。 イッシュン どよめいて いた ザ は しんと しずまった。 と、 タカダ は はっと ワレ に かえって おきあがった。 そして、 きびしく ジブン を シッセキ する メツキ で タンザ し、 カン ハツ を いれぬ ハヤサ で ふたたび シズマリ を ギャクテン させた。 みて いて カジ は、 あざやか な タカダ の シュワン に ヒッシ の サギョウ が あった と おもった。 シャツ 1 マイ の セイホウ は たちまち おどる よう に たのしげ だった。
 その ヨル は カジ と タカダ と セイホウ の 3 ニン が ギシ の イエ の 2 カイ で とまった。 タカダ が カジ の ミギテ に ねて、 セイホウ が ヒダリテ で、 すぐ ネムリ に おちた フタリ の アイダ に はさまれた カジ は、 ネツキ が わるく おそく まで さめて いた。 ジョウハンシン を ラタイ に した セイホウ は フトン を かけて いなかった。 ウワブトン の 1 マイ を ヨッツ に おって カオ の ウエ に のせた まま、 リョウテ で だきかかえて いる ので、 カレ の ネスガタ は ザブトン を 4~5 マイ カオ の ウエ に つみかさねて いる よう に みえて コッケイ だった。 どういう ユメ を みて いる もの だろう か と、 ヨナカ ときどき カジ は セイホウ を のぞきこんだ。 ゆるい コキュウ の キフク を つづけて いる ヘソ の シュウイ の うすい シボウ に、 にぶく デントウ の ヒカリ が さして いた。 フトン で セイホウ の カオ が かくれて いる ので、 クビナシ の よう に みえる わかい ドウ の ウエ から その ヘソ が、
「ボク、 しぬ の が なんだか こわく なりました」 と カジ に つぶやく ふう だった。 カジ は セイホウ の ヘソ も みた と おもって ネムリ に ついた。

 カジ と セイホウ は ソノゴ イチド も あって いない。 その アキ から はげしく なった クウシュウ の オリ も、 カジ は トウキョウ から イッポ も でず ソラ を みて いた が、 セイホウ の コウセン は ついに あらわれた ヨウス が なかった。 カジ は タカダ と よく あう たび に セイホウ の こと を たずねて も、 イエ が やけ スミカ の なくなった タカダ は、 セイホウ に ついて は もう キョウミ の うせた コタエ を する だけ で、 なにも しらなかった。 ただ イチド、 セイホウ と わかれて 1 カゲツ も した とき、 クカイ の ヒ の ギシ から タカダ に あてて、 セイホウ は エリショウ の ホシ を ヒトツ フカ して いた リユウ を ツミ と して、 グン の ケイムショ へ いれられて しまった と いう ホウコク の あった こと と、 クウシュウチュウ、 ギシ は ケッコン し、 その ヨクジツ キュウビョウ で シボウ した と いう フタツ の ハナシ を、 カジ は タカダ から きいた だけ で ある。 セイホウ と おなじ ところ に キンム して いた ギシ に しなれて は、 タカダ も そこ から セイホウ の こと を きく イガイ に、 ホウホウ の なかった それまで の ミチ は たちきれた わけ で あった。 したがって カジ も また なかった。
 センソウ は おわった。 セイホウ は しんで いる に ちがいない と カジ は おもった。 どんな シニカタ か、 とにかく カレ は もう コノヨ には いない と おもわれた。 ある ヒ、 カジ は トウホク の ソカイサキ に いる ツマ と サンチュウ の ムラ で シンブン を よんで いる とき、 ギジュツイン ソウサイ-ダン と して、 ワガクニ にも シン ブキ と して サツジン コウセン が カンセイ されよう と して いた こと、 その イリョク は 3000 メートル に まで たっする こと が できた が、 ハツメイシャ の イチ セイネン は ハイセン の ホウ を きく と ドウジ に、 クヤシサ の あまり ハッキョウ シボウ した と いう タンブン が ケイサイ されて いた。 ウタガイ も なく セイホウ の こと だ と カジ は おもった。
「セイホウ しんだ ぞ」
 カジ は そう ヒトコト ツマ に いって シンブン を てわたした。 イチメン に つまった くろい カツジ の ナカ から、 あおい ホノオ の コウセン が イチジョウ ぶっと ふきあがり、 ばらばらっ と くだけちって なくなる の を みる よう な ハヤサ で、 カジ の カンジョウ も はなひらいた か と おもう と まもなく しずか に なって いった。 みな ゼロ に なった と カジ は おもった。
「あら、 これ は セイホウ さん だわ。 とうとう なくなった のね。 1 キ も いれない って、 アタシ に いって らした のに。 ホント に、 まけた と きいて、 くらくらっ と した ん だわ。 どう でしょう」
 ツマ の そう いう ソバ で、 カジ は、 セイホウ の ハッキョウ は もう すでに あの とき から はじまって いた の だ と おもわれた。 カレ の いったり したり した こと は、 ある こと は ジジツ、 ある こと は ユメ だった の だ と おもった。 そして、 カジ は ジブン も すこし は カレ に デンセン して、 ハッキョウ の キザシ が あった の かも しれない と うたがわれた。 カジ は タマテバコ の フタ を とった ウラシマ の よう に、 ぼうっと たつ ハクエン を みる オモイ で しばらく ソラ を みあげて いた。 ギシ も しに、 セイホウ も しんだ イマ みる ソラ に カレラ フタリ と わかれた ヨコスカ の サイゴ の ヒ が えいじて くる。 ギシ の イエ で イッパク した ヨクアサ、 カジ は セイホウ と ギシ と タカダ と 4 ニン で オカ を おりて いった とき、 カイメン に テイハク して いた センスイカン に チョクゲキ を あたえる レンシュウキ を みおろしながら、 ギシ が、
「ボク の は いくら つくって も つくって も、 おとされる ほう だ が、 セイホウ の は おとす ほう だ から な、 ボクラ は かないません よ」
 しょうぜん と して つぶやく コン セビロ の ギシ の イッポ マエ で、 これ は また はつらつ と した セイホウ の サカミチ を おりて いく ワニアシ が、 ゆるんだ オダワラ-ヂョウチン の マキ-ゲートル スガタ で うかんで くる。 それから ミカサ-カン を ケンブツ して、 ヨコスカ の エキ で わかれる とき、
「では、 もう ボク は オメ に かかれない と おもいます から、 オゲンキ で」
 はっきり した メツキ で、 セイホウ は そう いいながら、 カジ に つよく ケイレイ した。 どういう イミ か、 カジ は わかれて あるく うち、 ふと セイホウ の ある カクゴ が セ に しみつたわり サミシサ を かんじて きた が、――
 ソカイサキ から トウキョウ へ もどって きて カジ は キュウ に ビョウキ に なった。 ときどき カレ を ミマイ に くる タカダ と あった とき、 カジ は セイホウ の こと を いいだして みたり した が、 タカダ は シジ の ヨワイ を かぞえる ツマラナサ で、 ただ アイマイ な ワライ を もらす のみ だった。
「けれども、 キミ、 あの セイホウ の ビショウ だけ は、 うつくしかった よ。 あれ に あう と、 ダレ でも ボクラ は やられる よ。 あれ だけ は――」
 ビショウ と いう もの は ヒト の ココロ を ころす コウセン だ と いう イミ も、 カジ は ふくめて いって みた の だった。 それにしても、 ナニ より うつくしかった セイホウ の あの ショシュン の よう な ビショウ を おもいだす と、 みあげて いる ソラ から おちて くる もの を まつ ココロ が おのずから さだまって くる の が、 カジ には フシギ な こと だった。 それ は イマ の ヨ の ヒト タレ も が まちのぞむ ヒトツ の メイセキ ハンダン に にた キボウ で あった。 それ にも かかわらず、 レイショウ する が ごとく セカイ は ますます フタツ に わかれて おしあう ハイチュウリツ の サナカ に あって ただよいゆく ばかり で ある。 カジ は、 カイテン して いる センプウキ の ハネ を ゆびさし ぱっと あかるく わらった セイホウ が、 イマ も まだ ヒトビト に いいつづけて いる よう に おもわれる。
「ほら、 ハネ から シセン を はずした シュンカン、 まわって いる こと が わかる でしょう。 ボク も イマ とびだした ばかり です よ。 ほら」

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