カナ文字文庫(漢字廃止論)

日本文学の名作などをカナ書きに改めて掲載。

ビショウ 1

2020-11-22 | ヨコミツ リイチ
 ビショウ

 ヨコミツ リイチ

 ツギ の ニチヨウ には カイ へ いこう。 シンリョク は それ は うつくしい。 そんな カイワ が すれちがう コエ の ナカ から ふと きこえた。 そう だ。 もう シンリョク に なって いる と カジ は おもった。 キセツ を わすれる など と いう こと は、 ここ しばらく の カレ には ない こと だった。 サクヤ も ラジオ を きいて いる と、 マチ の タンボウ ホウソウ で、 ノウビョウイン から セイシンビョウ カンジャ との イチモン イットウ が きこえて きた。 そして、 オワリ に セイシンカ の イシャ の キシャ に いう には、
「まあ、 こんな カンジャ は、 イマ は めずらしい こと では ありません。 ニンゲン が 10 ニン あつまれば、 ヒトリ ぐらい は、 キョウジン が まじって いる と おもって も、 よろしい でしょう」
「そう する と、 イマ の ニホン には、 すこし おかしい の が、 500 マン-ニン ぐらい は いる と おもって も、 サシツカエ ありません ね、 あはははははは――」
 わらう コエ が うすきみわるく ヨル の トウカ の ソコ で ゆらめいて いた。 500 マン-ニン の キョウジン の ムレ が、 あるいは イマ イッセイ に こうして わらって いる の か しれない。 ジンジョウ では ない コエ だった。
「あははははは……」
 ながく オ を ひく この ワライゴエ を、 カジ は ジブン も しばらく キョウチュウ に えがいて みて いた。 すると、 しだいに あははは が げらげら に かわって きて、 ニンゲン の コエ では もう なかった。 ナニモノ か ニンゲン の ナカ に まじって いる コエ だった。
 ジブン を キョウジン と おもう こと は、 なかなか ヒト には これ は むずかしい こと で ある。 そう では ない と おもう より は、 むずかしい こと で ある と カジ は おもった。 それにしても、 イマ も カジ には わからぬ こと が ヒトツ あった。 ニンゲン は ダレ でも すこし は キョウジン を ジブン の ナカ に もって いる もの だ と いう メイゲン は、 わすれられない こと の ヒトツ だ が、 なかでも これ は、 かききえて いく オオク の キオク の ナカ で、 ますます センメイ に ふくれあがって くる イッシュ イヨウ な キオク で あった。
 それ も シンリョク の ふきでて きた バンシュン の ある ヒ の こと だ。
「シキシ を 1 マイ アナタ に かいて ほしい と いう セイネン が いる ん です が、 よろしければ、 ひとつ――」
 チジン の タカダ が カジ の ところ へ きて、 よく いわれる そんな チュウモン を カジ に だした。 べつに まれ な デキゴト では なかった が、 この とき に かぎって、 イツモ と ちがう トクベツ な キョウミ を おぼえて カジ は フデ を とった。 それ と いう の も、 まだ しらぬ その セイネン に ついて、 タカダ の セツメイ が イガイ な キョウミ を よびおこさせる もの だった から で ある。 セイネン は セイホウ と いって ハイゴウ を もちいて いる。 セイホウ は ハイジン の タカダ の デシ で、 まだ 21 サイ に なる テイダイ の ガクセイ で あった。 センコウ は スウガク で、 イジョウ な スウガク の テンサイ だ と いう セツメイ も あり、 ゲンザイ は ヨコスカ の カイグン へ ケンキュウセイ と して ひきぬかれて つめて いる と いう。
「もう シュウイ が カイグン の グンジン と ケンペイ ばかり で、 イキ が できない らしい の です よ。 だもんだから、 こっそり ぬけだして あそび に くる にも、 ハイゴウ で くる ので、 ホンミョウ は ダレ にも いえない の です。 まあ、 サイトウ と いって おきます が、 これ も カメイ です から、 その おつもり で」
 タカダ は そう カジ に いって から、 この セイホウ は、 トクシュ な ブキ の ハツメイ を 3 シュルイ も カンセイ させ、 イマ サイゴ の ヒトツ の、 これ さえ できれば、 ショウリ は ゼッタイテキ カクジツ だ と いわれる サクヒン の シアゲ に かかって いる、 とも いったり した。 このよう な ハナシ の シンジツセイ は、 カンカク の トクシュ に エイビン な タカダ と して も カクショウ の シヨウ も ない、 ただ ウワサ の テイド を ショウジキ に カジ に つたえて いる だけ で ある こと は わかって いた。 しかし、 センキョク は ゼンメンテキ に ニホン の ハイショク に かたむいて いる クウシュウ チョクゼン の、 シンリョク の コロ で ある。 ウワサ に して も、 ダレ も あかるい ウワサ に うえかつえて いる とき だった。 こまやか な ニンジョウカ の タカダ の ひきしまった ヨロコビ は、 もちろん カジ をも ゆりうごかした。
「どんな ブキ です かね」
「さあ、 それ は タイヘン な もの らしい の です が、 2~3 ニチ したら オタク へ ホンニン が うかがう と いって ました から、 その とき でも きいて ください」
「ナン だろう。 ウワサ の ゲンシ バクダン と いう やつ かな」
「そう でも ない らしい です。 なんでも、 すごい コウセン らしい ハナシ でした よ。 よく ワタシ も しりません が、――」
 まけかたむいて きて いる ダイシャメン を、 ふたたび ぐっと はねおきかえす ある ヒトツ の みえない チカラ、 と いう もの が、 もし ある の なら ダレ しも ほしかった。 しかし、 そういう もの の ヒトツ も みえない スイヘイセン の かなた に、 ぽっと さしあらわれて きた イチル の コウセン に にた ウスビカリ が、 あるいは それ か とも カジ は おもった。 それ は ユメ の よう な ゲンエイ と して も、 まけくるしむ ゲンエイ より よろこび かちたい ゲンエイ の ほう が キョウリョク に カジ を シハイ して いた。 ソコク ギリシャ の ハイセン の とき、 シラクサ の ジョウヘキ に せまる ローマ の ダイカンタイ を、 イカリ で つりあげ なげつける キジュウキ や、 テキ センタイ を やきつける カガミ の ハツメイ に ムチュウ に なった アルキメデス の スガタ を カジ は その セイネン セイホウ の スガタ に にせて クウソウ した。
「それ には また、 ものすごい セイネン が でて きた もの だなあ」 と カジ は いって カンタン した。
「それ も かわいい ところ の ある ヒト です よ。 ハツメイ は ヨナカ に する らしくて、 おおきな オト を たてる もの だ から、 どこ の ゲシュクヤ から も ほうりだされまして ね。 コンド の ゲシュク には ムスメ が いる から、 コンド だけ は よさそう だ、 なんて いって ました。 ガクイ ロンブン も とおった らしい です」
「じゃ、 21 サイ の ハカセ か。 そんな わかい ハカセ は はじめて でしょう」
「そんな こと も いって ました。 とおった ロンブン も、 アインシュタイン の ソウタイセイ ゲンリ の マチガイ を シテキ した もの だ と いって ました がね」
 イサイ の デシ の ノウリョク に タカダ も ケンソン した ヒョウジョウ で、 コチョウ を さけよう と つとめて いる クシン を カジ は かんじ、 まず そこ に シンヨウ が おかれた キモチ よい イチニチ と なって きた。
「ときどき は そんな ハナシ も なくて は こまる ね。 もう わるい こと ばかり だ から なあ。 たった 1 ニチ でも よい から、 アタマ の はれた ヒ が ほしい もの だ」
 カジ の ゲンエイ は ウタガイ なく そのよう な キモチ から しのびこみ、 ひろがりはじめた よう だった。 とにかく、 ソコク を ハイボウ から すくう かも しれない ヒトリ の キョジン が、 イマ、 カジ の シンペン に うろうろ しはじめた と いう こと は、 カレ の ショウガイ の ダイジケン だ と おもえば おもえた。 それ も、 イマ の タカダ の ハナシ ソノモノ だけ を ジジツ と して みれば、 キボウ と ゲンエイ は おなじ もの だった。
「しかし、 そんな セイネン が イマゴロ ボク の シキシ を ほしがる なんて、 おかしい ね。 そんな もの じゃ ない だろう」
 と カジ は いった。 そして、 そう おもい も した。
「けれども、 なんと いって も、 まだ コドモ です よ。 アナタ の シキシ を もらって くれ と いう の は、 なんでも スウガク を やる ユウジン の ナカ に、 アナタ の イエ の ヒョウサツ を ぬすんで もってる モノ が いる ので、 よし、 オレ は シキシ を もらって みせる と、 つい そう いって しまった らしい の です」
 カジ は 10 ネン も マエ、 ジタク の ヒョウサツ を かけて も かけて も はずされた コロ の ヒ の こと を おもいだした。 ながくて ヒョウサツ は ミッカ と もたなかった。 その ヒ の うち に とられた の も 2~3 あった。 ユウビン ハイタツ から は コゴト の クイヅメ に あった。 それから は かたく クギ で うちつけた が、 それでも モンピョウ は すぐ はがされた。 この ショウジケン は トウジ カジ イッカ の シンケイ を なやまして いた。 それだけ、 イマゴロ ヒョウサツ の カワリ に シキシ を ほしがる セイネン の タワムレ に ジッカン が こもり、 カジ には、 ヒトゴト では ない チョクセツテキ な ツナガリ を ミ に かんじた。 トウジ の ナヤミ の タネ が イガイ な ところ へ おちて いて、 いつのまにか そこ で ハ を のばして いた の で ある。 カレ は 1 ニチ も はやく セイホウ に あって みたく なった。 おそる べき セイネン たち の イッカイ を さしのぞいて、 カレラ の ナヤミ、 ――それ も ミナ スウガクシャ の サナギ が ハネ を のばす に ヒツヨウ な、 ナニ か くいちらす ハ の 1 マイ と なって いた ジブン の ヒョウサツ を おもう と、 サナギ の カオ の ナヤミ を みたかった。 そして、 カジ ジシン の ウレイ の イロ を それ と くらべて みる こと は、 うしなわれた モンピョウ の、 カレ を うつしかえして みせて くれる グウゼン の イギ でも あった。

 ある ヒ の ゴゴ、 カジ の イエ の モン から ゲンカン まで の イシダタミ が クツ を ひびかせて きた。 イシ に なる クツオト の カゲン で、 カジ は くる ヒト の ヨウケン の オヨソ の ハンテイ を つける クセ が あった。 イシ は イシ を あらわす、 と そんな ジョウダン を いう ほど まで に、 カレ は、 ナガネン の セイカツ の うち この イシ から サマザマ な オンキョウ の シュルイ を おしえられた が、 これ は まことに おそる べき イシダタミ の シンピ な ノウリョク だ と おもう よう に なって きた の も サイキン の こと で ある。 ナニ か そこ には デンジ サヨウ が おこなわれる もの らしい イシ の ナリカタ は、 その ヒ は、 イッシュ イヨウ な ヒビキ を カジ に つたえた。 ひどく カクチョウ の ある セイカク な ヒビキ で あった。 それ は フタリヅレ の オンキョウ で あった が、 ヨッツ の アシオト の ヒビキグアイ は ぴたり と あい、 みだれた フアン や カイギ の オモサ、 コドク な テイメイ の サマ など いつも ききつける アシオト とは ちがって いる。 ゼンシン に あふれた チカラ が みなぎりつつ、 チョウテン で カイテン して いる トウメイ な ヒビキ で あった。
 カジ は たった。 が、 また すぐ すわりなおし、 ゲンカン の ト を アケカゲン の オト を きいて いた。 この ト の オト と アシオト と イッチ して いない とき は、 カジ は ジブン から でて いかない シュウカン が あった から で ある。 まもなく ト が あけられた。
「ごめん ください」
 ハジメ から コエ まで キョウ の キャク は、 すべて イッカン した リズム が あった。 カジ が でて いって みる と、 そこ に タカダ が たって いて、 そして その アト に テイダイ の ガクボウ を かぶった セイネン が、 これ も タカダ と にた ビショウ を フタツ かさねて たって いた。
「どうぞ」
 とうとう モンピョウ が もどって きた。 どこ を イマ まで うろつきまわって きた もの やら、 と、 カジ は オウセツシツ で ある なつかしい アカルサ に みたされた キモチ で、 セイネン と むかいあった。 タカダ は カジ に セイホウ の ナ を いって ショタイメン の ショウカイ を した。
 ガクボウ を ぬいだ セイホウ は まだ ショウネン の オモカゲ を もって いた。 マチマチ の イチグウ を かけまわって いる、 いくら イタズラ を して も しかれない スミ を カオ に つけた ワンパク な ショウネン が いる もの だ が、 セイホウ は そんな ショウネン の スガタ を して いる。 コウガイ デンシャ の カイサツグチ で、 ジョウキャク を ほったらかし、 ハサミ を かちかち ならしながら ドウリョウ を おっかけまわして いる キップキリ、 と いった セイネン で あった。
「オハナシ を きく と マイニチ が タイヘン らしい よう です ね」
 まず そんな こと から カジ は いった。 セイホウ は だまった まま わらった。 ぱっ と オト たてて アサ ひらく ハナ の われさく よう な エガオ だった。 アカゴ が はじめて わらいだす エクボ の よう な、 きえやすい ワライ だ。 この ショウネン が ハカセ に なった とは、 どう おもって みて も カジ には うなずけない こと だった が、 エガオ に あらわれて かききえる シュンカン の ウツクシサ は、 その ホカ の ウタガイ など どうでも よく なる、 マネテ の ない ムジャキ な エガオ だった。 カジ は ガクモンジョウ の カレ の クルシミ や ハツメイ の シンク の コウテイ など、 セイホウ から ききだす キモチ は なくなった。 また、 そんな こと は たずねて も カジ には わかりそう にも おもえなかった。
「オクニ は どちら です」
「A ケン です」
 ぱっと わらう。
「ボク の カナイ も そちら には ちかい ほう です よ」
「どちら です」 と セイホウ は たずねた。
 T シ だ と カジ が こたえる と、 それでは Y オンセン の マツヤ を しって いる か と また セイホウ は たずねた。 しって いる ばかり では ない、 その ヤドヤ は カジ たち イッカ が いく たび に よく とまった ヤド で あった。 それ を いう と、 セイホウ は、
「あれ は オジ の ウチ です」
 と いって、 また ぱっと わらった。 チャ を いれて きた カジ の ツマ は、 セイホウ の オジ の マツヤ の ハナシ が でて から は たちまち フタリ は トクベツ に したしく なった。 その チホウ の こまかい ソウホウ の ワダイ が しばらく タカダ と カジ と を すてて にぎやか に なって いく うち に、 とうとう セイホウ は ジブン の こと を、 イナカ コトバ マルダシ で、 「オレ のう」 と カジ の ツマ に いいだしたり した。
「もう すぐ クウシュウ が はじまる そう です が、 こわい です わね」 と カジ の ツマ が いう と、 「1 キ も いれない」 と セイホウ は いって また ぱっと わらった。 このよう な ダンショウ の ハナシ と、 センジツ タカダ が きた とき の ハナシ と を ソウゴウ して みた カレ の ケイレキ は、 21 サイ の セイネン に して は フクザツ で あった。 チュウガク は シュセキ で ジュウドウ は ショダン、 スウガク の ケンテイ を 4 ネン の とき に とった カレ は、 すぐ また イチコウ の リカ に ニュウガク した。 2 ネン の とき スウガクジョウ の イケン の チガイ で キョウシ と あらそい タイコウ させられて から、 チョウヨウ で ラバァウル の ほう へ やられた。 そして、 ふたたび かえって テイダイ に ニュウガク した が、 この ニュウガク には カレ の サイノウ を おしんだ ある ユウリョクシャ の チカラ が はたらいて いた よう だった。 この カン、 セイホウ の カテイジョウ には この ワカモノ を なやまして いる ヒトツ の ヒゲキ が あった。 それ は、 ハハ の ジッカ が ダイダイ の キンノウカ で ある ところ へ、 チチ が サヨク で ゴク に はいった ため、 セキ もろとも ジッカ の ほう が セイホウ ハハコ フタリ を うばいかえして しまった こと で ある。 フボ の わかれて いる こと は たちがたい セイホウ の ひそか な ナヤミ で あった。 しかし、 カジ は この セイホウ の カテイジョウ の ナヤミ には ワダイ を ふれさせたく は なかった。 キンノウ と サヨク の アラソイ は、 ニホン の チュウシン モンダイ で、 ふれれば、 たちまち ものぐるわしい ウズマキ に まきおそわれる から で ある。 それ は スウガク の ハイチュウリツ に にた カイケツ コンナン な モンダイ だった。 セイホウ は、 その チュウシン の カチュウ に ミ を ひそめて コキュウ を して きた の で あって みれば、 チチ と ハハ との アラソイ の どちら に オモイ を めぐらせる べき か、 と いう あいはんする フボ フタツ の シソウ タイケイ に もみぬかれた、 カレ の わかわかしい セイシン の クルシミ は、 ソウゾウ に かたく ない。 ドウイツ の モンダイ に シンリ が フタツ あり、 イッポウ を シンリ と すれば タ の ほう が あやしく くずれ、 フタツ を ドウジ に シンリ と すれば、 ドウジ に フタツ が ウソ と なる。 そして、 この フタツ の チュウカン の シンリ と いう もの は ありえない と いう スウガクジョウ の ハイチュウリツ の クルシミ は、 セイホウ に とって は、 チチ と ハハ と コ との アイダ の モンダイ に かわって いた。
 しかし、 キンノウ と サヨク の こと は ベツ に して も、 ヒト の アタマ を つらぬく ハイチュウリツ の ふくんだ この カクリツ だけ は、 ただ たんに セイホウ ヒトリ に とって の モンダイ でも ない。 じつは、 チジョウ で あらそう モノ の、 ダレ の ズジョウ にも ふりかかって きて いる セイシン に かんした モンダイ で あった。 これ から アタマ を そらし、 そしらぬ ヒョウジョウ を とる こと は、 ようするに、 それ は スベテ が ニセモノ たる べき ソシツ を もつ こと を ショウメイ して いる が ごとき もの だった。 じつに しずしず と した ウツクシサ で、 そして、 いつのまにか スベテ を ずりおとして さって いく、 おそる べき マ の よう な ナンダイ-チュウ の この ナンダイ を、 カジ とて イマ、 この わかい セイホウ の アタマ に つめより うちおろす こと は しのびなかった。 いや、 カジ ジシン と して みて も ジブン の アタマ を うちわる こと だ。 いや、 セカイ も また―― しかし、 げんに セカイ は ある の だ。 そして、 あらそって いる の だった。 シンリ は どこ か に なければ ならぬ はず にも かかわらず、 アラソイ だけ が シンリ の ソウボウ を ていして いる と いう ときがたい ナゾ の ナカ で、 クンレン を もった ボウリョク が、 ただ その クンレン の ため に カガヤキ を はなって ハクネツ して いる。
「いったい、 それ は、 メ に する スベテ が ユウレイ だ と いう こと か。 ――テ に ふれる カンカク まで も、 これ は ユウレイ では ない と どうして それ を ショウメイ する こと が できる の だ」
 ときには、 きりおとされた クビ が、 ただ そのまま ひっついて いる だけ で、 しらず に うごいて いる ニンゲン の よう な、 こんな あやしげ な ゲンエイ も、 カジ には うかんで くる こと が あったり した。 ワレ ある に あらざれど、 この イタミ どこ より きたる か。 コジン の なやんだ こんな ナヤマシサ も、 10 スウネン-ライ まだ カジ から とりさられて いなかった。 そして、 センソウ が ハイボク に おわろう と、 ショウリ に なろう と、 ドウヨウ に つづいて かわらぬ ハイチュウリツ の うみつづけて いく ナンモン たる こと に カワリ は ない。
「アナタ の コウセン は、 イリョク は どれほど の もの です か」
 カジ が セイホウ に たずねて みよう か と おもった の も、 ナニ か この とき、 ふと キガカリ な こと が あって、 おもいとまった。
「ドイツ の つかいはじめた V 1 ゴウ と いう の も、 ハジメ は ショウネン が ハツメイ した とか いう こと です ね。 なんでも ボク の きいた ところ では、 セカイ の スウガクカイ の ジツリョク は、 ネンレイ が 20 サイ から 23~24 サイ まで の セイネン が にぎって いて、 それ も、 ハントシ ごと に チュウシン の ジツリョク が ツギ の もの に かわって いく、 と いう ハナシ を、 ある スウガクシャ から きいた こと が あります が、 ニホン の スウガク も、 ジッサイ は そんな ところ に あります かね。 どう です」
 キミ ジシン が イマ それ か、 と あんに たずねた つもり の カジ の シツモン に、 セイホウ は、 ぱっと ひらく ビショウ で だまって こたえた だけ だった。 カジ は また すぐ、 シン ブキ の こと に ついて ききたい ユウワク を かんじた が、 コッカ の ヒミツ に セイホウ を さそいこみ、 クチ を わらせて カレ を キケン に さらす こと は、 あくまで さけて とおらねば ならぬ。 せまい カンドウ を くぐる オモイ で、 カジ は シツモン の クチ を さがしつづけた。
「ハイク は ふるく から です か」
 これ なら ブジ だ、 と おもわれる アンゼン な ミチ が、 とつぜん フタリ の マエ に ひらけて きた。
「いえ、 サイキン です」
「すき なん です ね」
「オレ のう、 アタマ の やすまる ホウ は ない もの か と、 いつも かんがえて いた とき です が、 タカダ さん の ハイク を ある ザッシ で みつけて、 さっそく ニュウモン した の です。 もう ボク を たすけて くれて いる の は、 ハイク だけ です。 ホカ の こと は、 ナニ を して も くるしめる ばかり です ね。 もう、 ほっと して」
 アオバ に さしこもって いる ヒカリ を みながら、 やすらか に わらって いる セイホウ の マエ で、 カジ は、 もう この セイネン に ジュウヨウ な こと は なにひとつ きけない の だ と おもった。 ウゾウ ムゾウ の ダイグンシュウ を いかす か ころす か カレ ヒトリ の アタマ に かかって いる。 これ は ガンゼン の ジジツ で あろう か、 ユメ で あろう か。 とにかく、 コト は あまり に ジュウダイ-すぎて ソウゾウ に ともなう ジッカン が カジ には おこらなかった。
「しかし、 キミ が そうして ジユウ に ガイシュツ できる ところ を みる と、 まだ カンシ は それほど きびしく ない の です ね」 と カジ は たずねた。
「きびしい です よ。 ハイク の こと で でる と いう とき だけ、 キョカ して くれる の です。 ゲシュクヤ ゼンブ の ヘヤ が ケンペイ ばかり で、 ぐるり と ボク ヒトリ の ヘヤ を とりかこんで いる もの です から、 カッテ な こと の できる の は、 ハイク だけ です。 もう たまらない。 キョウ も ケンペイ が ついて きた の です が、 クカイ が ある から と いって、 シナガワ で まいちゃいました」
 かえって から ケンペイ への コウジツ と なる シキシ の ヒツヨウ な こと も、 それ で わかった。 カジ は、 ジブン の シキシ が セイホウ の キケン を すくう だけ、 ジブン へ ギワク の かかる の も かんじた が、 モンピョウ に つながる エン も あって カレ は セイホウ に シキシ を かいた。
「カガクジョウ の こと は よく ボク には わからなくて、 ザンネン だ が、 イマ は ヒミツ の ウバイアイ だ から、 キミ も ソウトウ に あぶない です ね、 キ を つけなくちゃ」
「そう です。 センジツ も ユウシュウ な ギシ が ピストル で やられました。 それ は ユウシュウ な ヒト でした がね。 イチド ヨコスカ へ きて みて ください。 ボクラ の コウジョウ を おみせ します から」
「いや、 そんな ところ を みせて もらって も、 ボク には わからない し、 しらない ほう が いい です よ。 アナタ に これ で おたずね したい こと が たくさん ある が、 もう ゼンブ ヤメ です。 それ より、 アインシュタイン の マチガイ って、 それ は ナン です か」
「あれ は カセツ が まちがって いる の です よ。 カセツ から カセツ へ わたって いる の が アインシュタイン の ゲンリ です から、 サイショ の カセツ を たたいて みたら、 ホカ が みな ゆるんで しまって――」
 クウチュウ ロウカク を えがく ユメ は アインシュタイン とて もった で あろう が、 イマ それ が、 この セイホウ の ケンエツ に あって ソセキ を くつがえされて いる とは、 これ も あまり に ダイジケン で ある。 カジ には もはや ハナシ が つづかなかった。 セイホウ を キョウジン と みる には、 まだ セイホウ の オウトウ の どこ ヒトツ にも クルイ は なかった。
「キミ の スウガク は ドクソウ ばかり の よう な カンジ が する が、 キミ は ゼロ の カンネン を どんな ふう に おもう ん です。 キミ の スウガク では。 ボク は ゼロ が カンジン だ と おもう ん だ が、 どう です か」
「そこ です よ」 セイホウ は ひどく のりだす ふう に ハヤクチ に なって わらった。 「オレ の は、 みんな そこ から です。 ダレヒトリ わかって くれない。 コノアイダ も、 それ で ケンカ を した の です が、 ニホン の グンカン も フネ も、 みな まちがって いる の です。 センタイ の ケイサン に ゴサン が ある ので、 オレ は それ を なおして みた の です が、 オレ の いう よう に すれば、 6 ノット ソクリョク が はやく なる、 そう いくら いって も、 ダレ も きいて は くれない の です よ。 あの センタイ の マガリグアイ の ところ です。 そこ の ゼロ の オキドコロ が まちがって いる の です」
 ダレ も ハンテイ の つきかねる ところ で、 セイホウ は ただ ヒトリ コドク な タタカイ を つづけて いる よう だった。 ことに、 レイテン の オキドコロ を カイカク する と いう よう な、 いわば、 キセイ の カセツ や タンイツセイ を マッサツ して いく ムボウサ には、 いまさら ダレ も おうじる わけ には いくまい と おもわれる。 しかし、 すでに、 それ だけ でも セイホウ の ハッソウ には テンサイ の シカク が あった。 21 サイ の セイネン で、 ゼロ の オキドコロ に イシキ を さしいれた と いう こと は、 あらゆる キセイ の カンネン に ギモン を いだいた ショウコ で あった。 おそらく、 カレ を みとめる モノ は いなかろう と カジ は おもった。
「とおる こと が あります か。 アナタ の シュチョウ は」 と カジ は たずねた。
「なかなか とおりません ね。 それでも、 フネ の こと は とうとう かって とおりました。 ガクシャ は ミンナ ボク を やっつける ん だ けれども、 オレ は、 ショウメイ して みせて いう ん です から、 シカタ が ない でしょう。 これから の フネ は ソクド が はやく なります よ」
 どうでも よい こと ばかり ウンシュウ して いる ヨノナカ で、 これ だけ は と おもう イッテン を、 さしうごかして シンコウ して いる するどい ズノウ の マエ で、 オトナ たち の えいえい と した まぬけた ムダ-ボネオリ が、 ヤマ の よう に カジ には みえた。
「イッペン コウジョウ を み に きて ください。 ゴアンナイ します から。 おもしろい です よ。 ハイク の センセイ が きた ん だ から と いえば、 キョカ して くれます」 セイホウ は、 カジ が ブキ に かんする シツモン を しない の が フフク らしく、 カジ の だまって いる ヒョウジョウ に チュウイ して いった。
「いや、 それ だけ は みたく ない なあ」 と カジ は コタエ を しぶった。
 セイホウ は いっそう フマン-らしく だまって いた。 ゼンゴ を つうじて セイホウ が カジ に フマン な ヒョウジョウ を しめした の は、 この とき だけ だった。
「そんな ところ を みせて もらって も、 ボク には なんの エキ にも ならん から ね。 みたって わからない ん だ もの」
 これ は すこし ザンコク だ と カジ は おもい も した。 しかし、 カジ には、 モノ の コンテイ を うごかしつづけて いる セイホウ の セカイ に たいする、 いいがたい クツウ を かんじた から で ある。 この カジ の イッシュン の カンジョウ には、 キド アイラク の スベテ が こもって いた よう だった。 べんべん と して なす ところ なき カジ ジシン の ムリョクサ に たいする ケンオ や、 セイホウ の セカイ に はむかう テキイ や、 サツジンキ の セイゾウ を モクゲキ する サビシサ や、 ショウリ への ヨソウ に コウフン する ヒロウ や、 ――いや、 みない に こした こと は ない、 と カジ は おもった。 そして、 セイホウ の いう まま には うごけぬ ジブン の シット が さびしかった。 なんとなく、 カジ は セイホウ の ドリョク の スベテ を ヒテイ して いる ジブン の タイド が さびしかった。
「キミ、 ハイチュウリツ を どう おもいます かね、 ボク の シゴト で、 イマ これ が いちばん モンダイ なん だ が」
 カジ は、 とうまい と おもって いた こと も、 つい こんな に、 ワダイ を そらせたく なって カレ を みた。 すると、 セイホウ は、 「あっ」 と コゴエ の サケビ を あげて、 ゼンポウ の タナ の ウエ に カイテン して いる センプウキ を ゆびさした。
「レイテン 5 だっ」
 ひらめく よう な セイホウ の コタエ は、 もちろん、 この とき カジ には わからなかった。 しかし、 カジ は、 ききかえす こと は しなかった。 その シュンカン の セイホウ の ドウサ は、 たしか に ナニ か に オドロキ を かんじた らしかった が、 そっと そのまま カジ は セイホウ を そこ に しずめて おきたかった。
「あの センプウキ の チュウシン は ゼロ でしょう。 ナカ の ハネ は まわって いて みえません が、 ちょっと メ を はずして みた シュンカン だけ、 ちらり と みえます ね。 あの ゼロ から、 みえる ところ まで の キョリ の リツ です よ」
 カン ハツ を いれぬ セイホウ の セツメイ は、 カジ の シツモン の ツボ には おちこんで は こなかった が、 いきなり、 カイテン して いる ガンゼン の センプウキ を ひっつかんで、 なげつけた よう な この セイホウ の ハヤワザ には、 カジ も ミ を ひるがえす スベ が なかった。
「その テ で キミ は ハツメイ を する ん だな」
「オレ のう、 マチ を あるいて いる と、 イシ に つまずいて ぶったおれた ん です。 そしたら、 ヨコ を とおって いた デンシャ の シタッパラ から、 ヒ の ふいてる の が みえた ん です よ。 それから、 ウチ へ かえって、 ラジオ を つけよう と おもって、 スイッチ を ひねった ところ が、 ぼっ と なって、 そのまま なんの オト も きこえない ん です。 それで、 デンシャ の ヒ と、 ラジオ の ぼっ と いった だけ の オト と を むすびつけて みて、 かんがえだした の です よ。 それ が ボク の コウセン です」
 この ハッソウ も ヒボン だった。 しかし、 カジ は そこ で、 いそいで セイホウ の クチ を しめさせたかった。 それ イジョウ の ハツゲン は セイホウ の イノチ に かかわる こと で ある。 セイネン は キケン の ゲンカイ を しらぬ もの だ。 セイホウ も カジ の しらぬ ところ で、 その ゲンカイ を ふみぬいて いる ヨウス が あった が、 チュウイ する には はや おそすぎる ウタガイ も カジ には おこった。
「たおれた の が ハッソウ か。 たおれなかったら、 なんにも ない わけ だな」
 これ も スベテ が ゼロ から だ と カジ は おもって いった。 カレ は セイホウ が キノドク で たまらなかった。

 その ヒ から カジ は セイホウ の コウセン が キ に かかった。 それにしても、 カレ の いった こと が ジジツ だ と すれば、 セイホウ の イノチ は フウゼン の トモシビ だ と カジ は おもった。 いったい、 どこ か ヒトツ と して キケン で ない ところ が ある だろう か、 カジ は そんな に ハンタイ の アンゼンリツ の メン から さがして みた。 たえず スキマ を ねらう キョウキ の ムレ や、 シッシ チュウショウ の おこす ホノオ は ナニ を たくらむ か しれた もの でも ない。 もし センソウ が まけた と すれば、 その ヒ の うち に ジュウサツ される こと も ヒツジョウ で ある。 もし かった と して も、 ヨウ が すめば、 そんな キケン な ジンブツ を ヒト は いかして おく もの だろう か。 いや、 あぶない。 と カジ は また おもった。 この キケン から ミ を ふせぐ ため には、 ――カジ は その ホウホウ をも かんがえて みた が、 スベテ の ニンゲン を ゼンニン と かいさぬ かぎり、 なにも なかった。
 しかし、 このよう な あんたん と した クウキ に かかわらず、 セイホウ の エガオ を おもいだす と、 ヒカリ が ぽっと さしひらいて いる よう で あかるかった。 カレ の ヒョウジョウ の どこ イッテン にも ウレイ の カゲ は なかった。 ナニモノ か みえない もの に シュゴ されて いる トウトサ が あふれて いた。
 ある ヒ、 また セイホウ は タカダ と イッショ に カジ の イエ へ たずねて きた。 この ヒ は しろい カイグン チュウイ の フクソウ で タンケン を つけて いる カレ の スガタ は、 マエ より いくらか オトナ に みえた が、 それでも チュウイ の ケンショウ は まだ セイホウ に にあって は いなかった。
「キミ は イマ まで、 あぶない こと が たびたび あった でしょう。 たとえば、 イマ おもって も ぞっと する と いう よう な こと で、 ウン よく イノチ が たすかった と いう よう な こと です がね」 と、 カジ は、 あの オモワク から ハナシナカバ に セイホウ に たずねて みた。
「それ は もう、 ずいぶん ありました。 サイショ に カイグン の ケンキュウジョ へ つれられて きた その ヒ にも、 ありました」
 セイホウ は そう こたえて その ヒ の こと を てみじか に はなした。 ケンキュウジョ へ つく なり セイホウ は あたらしい セントウキ の シケン ヒコウ に のせられ、 キュウチョッカ する その トチュウ で、 キ の セイノウ ケイサン を めいぜられた こと が あった。 すると、 キュウ に その とき フクツウ が おこり、 どうしても キョウ だけ は ゆるして もらいたい と セイホウ は タンガン した。 グン では ジジツ を ヘンコウ する こと は できない。 そこで、 その ヒ は セイホウ を のぞいた モノ だけ で シケン ヒコウ を ジッコウ した。 みて いる と、 オオゾラ から キュウコウカ バクゲキ で スイチョク に くだって きた シン ヒコウキ は、 セイホウ の ガンゼン で、 クウチュウ ブンカイ を し、 ずぼり と カイチュウ へ つきこんだ そのまま、 ことごとく しんで しまった。
 また ベツ の ハナシ で、 ラバァウル へ いく ヒコウチュウ、 ソウジュウセキ から サンドウィッチ を さしだして くれた とき の こと、 セイホウ は ミ を ナナメ に かたむけて テ を のばした その シュンカン、 テキダン が とんで きた。 そして、 カレ に あたらず、 ウシロ の モノ が ムネ を うちつらぬかれて ソクシ した。
 また ベツ の ダイサン の グウゼンジ、 これ は いちばん セイホウ-らしく カジ には キョウミ が あった が、 ――ショウネン の ヒ の こと、 まだ セイホウ は ショウガッコウ の セイト で、 アサ ガッコウ へ いく トチュウ、 その ヒ は ハハ が セイホウ と イッショ で あった。 ユキ の ふかく ふりつもって いる ミチ を あるいて いる とき、 1 ワ の コトリ が とんで きて カレ の シュウイ を まいあるいた。 ショウネン の セイホウ は それ が おもしろかった。 リョウテ で コトリ を つかもう と して おっかける たび に、 コトリ は ミ を ひるがえして、 いつまでも とびまわった。
「オレ のう、 もう つかまる か、 もう つかまる か と おもって、 リョウテ で トリ を おさえる と、 ひょいひょい と、 うまい グアイ に トリ は にげる ん です。 それで、 とうとう ガッコウ が おくれて、 ついて みたら、 オオユキ を かぶった オレ の キョウシツ は、 ナダレ で ぺちゃんこ に つぶれて、 ナカ の セイト は ミナ しんで いました。 もうすこし ボク が はやかったら、 ボク も イッショ でした」
 セイホウ は アト で ハハ に その コトリ の ハナシ を する と、 そんな トリ なんか どこ にも いなかった と ハハ は いった そう で ある。 カジ は きいて いて、 この セイホウ の サイゴ の ハナシ は たとい ツクリバナシ と して も、 すっきり ぬけあがった カサク だ と おもった。
「トリ とんで トリ に にたり、 と いう シ が ドウゲン に ある が、 キミ の ハナシ も ドウゲン に にて ます ね」
 カジ は アンシン した キモチ で そんな ジョウダン を いったり した。 ニシビ の さしこみはじめた マド の ソト で、 1 マイ の モクセイ の スダレ が たれて いた。 セイホウ は それ を みながら、
「センジツ オタク から かえって から、 どうしても ねむれない の です よ。 あの スダレ が メ に ついて」 と いって、 なお カレ は マド の ソト を みつづけた。 「ボク は あの スダレ の ヨコイタ が イクツ あった か わすれた ので、 それ を おもいだそう と して も、 いくら かんがえて も わからない の です よ。 もう キ が くるいそう に なりました が、 とうとう わかった。 やっぱり あってた。 22 マイ だ」 セイホウ は うれしそう に エガオ だった。
「そんな こと に キ が つきだしちゃ、 そりゃ、 たまらない なあ」 ヒトリ いる とき の セイホウ の クツウ は、 もう ジブン には わからぬ もの だ と カジ は おもって いった。
「ユメ の ナカ で スウガク の モンダイ を とく と いう よう な こと は、 よく ある ん でしょう ね。 センジツ も クロネッカー と いう スウガクシャ が ユメ の ナカ で かんがえついた と いう、 セイシュン の ロンリ とか いう テイリ の ハナシ を きいた が、――」
「もう しょっちゅう です。 コノアイダ も アサ おきて みたら、 ツクエ の ウエ に むつかしい ケイサン が いっぱい かいて ある ので、 ゲシュク の バアサン に これ ダレ が かいた ん だ と きいたら、 アナタ が ユウベ かいてた じゃ ありません か と いう ん です。 ボク は ちっとも しらない ん です がね」
「じゃ、 キチガイ アツカイ に される でしょう」
「どうも、 そう おもってる らしい です よ」 セイホウ は また メ を あげて、 ぱっと わらった。
 それでは キョウ は セイホウ の キュウジツ に しよう と いう こと に なって、 それから カジ たち 3 ニン は ク を つくった。 アオバ の イロ の にじむ ほう に カオ を むけた セイホウ は、 「わが カゲ を おいゆく トリ や ヤマナナメ」 と いう キカガクテキ な ムキ の ク を すぐ つくった。 そして、 ハヤマ の ヤマ の シャメン に トリ の せまって いった 4 ガツ の ショクモク だ と セツメイ した。 タカダ の するどく ひかる マナザシ が、 この ヒ も デシ を マエ へ おしだす ケンヨク な タイド で、 クカイ の バカズ を ふんだ カレ の ココロヅカイ も よく うかがわれた。
「ミタビ チャ を いただく キク の カオリ かな」
 タカダ の つくった この ク も、 キャクジン の コフウ に たかまる カンジョウ を しめおさえた セイシュウ な キブン が あった。 カジ は よい ヒ の ゴゴ だ と よろこんだ。 でて きた カジ の ツマ も タベモノ の なくなった ヒ の ワビ を いって から、 キュウリモミ を だした。 セイホウ は、 カジ の ツマ と チホウ の コトバ で はなす の が、 ナニ より なぐさまる ふう らしかった。 そして、 さっそく シキシ へ、
「ホウゲン の ナマリ なつかし キュウリモミ」 と いう ク を かきつけたり した。

 セイホウ たち が かえって いって から 10 スウニチ たった ある ヒ、 また タカダ ヒトリ が カジ の ところ へ きた。 この ヒ の タカダ は しおれて いた。 そして、 カジ に、 キノウ ケンペイ が きて いう には、 セイホウ は ハッキョウ して いる から カレ の いいふらして あるく こと イッサイ を シンヨウ しない で くれ と、 そんな チュウイ を あたえて かえった と いう こと だった。
「それで、 セイホウ の あるいた ところ へは、 ミナ に そう いう よう、 と いう ハナシ でした から、 オタク へも ちょっと その こと を おつたえ したい と おもいまして ね」
 イチゲキ を くらった カンジ で カジ は タカダ と イッショ に しばらく しずんだ。 みな セイホウ の いった こと は ウソ だった の だろう か。 それとも、 ――カレ を キョウジン に して おかねば ならぬ ケンペイ たち の サクリャク の クシン は、 セイホウ の ため かも しれない とも おもった。
「キミ、 あの セイネン を ボクラ も キョウジン と して おこう じゃ ない です か。 その ほう が ホンニン の ため には いい」 と カジ は いった。
「そう です ね」 タカダ は たれさがって いく よう な ゲンキ の うせた コエ を だした。
「そう しとこう。 その ほう が いい よ」
 タカダ は セイホウ を ショウカイ した セキニン を かんじて わびる ふう に、 カジ に ついて あがって は こなかった。 カジ も、 ともすると しずもう と する ジブン が あやしまれて くる の だった。
「だって キミ、 あの セイネン は キョウジン に みえる よ。 また そう かも しれない が、 とにかく、 もし キョウジン に みえなかった なら、 セイホウ クン は あぶない よ。 あるいは そう みえる よう に、 ボク なら する かも しれない ね。 キミ だって そう でしょう」
「そう です ね。 でも、 なんだか、 みな あれ は、 カガクシャ の ユメ なん じゃ ない か と おもいます よ」 タカダ は あくまで よろこぶ ヨウス も なく、 その ヒ は イチニチ おもく だまりとおした。
 タカダ が かえって から も、 カジ は、 イマ まで ジジツ ムコン の こと を しんじて いた の は、 タカダ を シンヨウ して いた ケッカ タダイ だ と おもった が、 それにしても、 カジ、 タカダ、 ケンペイ たち、 それぞれ 3 ヨウ の シタイ で セイホウ を みて いる の は、 ミッツ の ゼロ の オキドコロ を たがえて いる カンサツ の よう だった。
 イッサイ が クウキョ だった。 そう おもう と、 にわか に、 そのよう に みえて くる むなしかった 1 カゲツ の キンチョウ の とけくずれた ケダルサ で、 いつか カレ は ソラ を みあげて いた。
 ザンネン でも あり、 ほっと した アンシン も あり、 すべりおちて いく クラサ も あった。 アス から また こうして タヨリ も ない ヒ を むかえねば ならぬ―― しかし、 ふと、 どうして こんな とき ヒト は ソラ を みあげる もの だろう か、 と カジ は おもった。 それ は セイリテキ に じつに シゼン に ソラ を みあげて いる の だった。 まるい、 なにも ない、 ふかぶか と した ソラ を。――

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