カナ文字文庫(漢字廃止論)

日本文学の名作などをカナ書きに改めて掲載。

カイン の マツエイ 3

2015-10-24 | アリシマ タケオ
 4

 ハル の テンキ の ジュントウ で あった の に はんして、 その トシ は 6 ガツ の ハジメ から カンキ と インウ と が ホッカイドウ を おそって きた。 カンバツ に キキン なし と いいならわした の は スイデン の おおい ナイチ の こと で、 ハタケ ばかり の K ムラ なぞ は アメ の おおい ほう は まだ しやすい と した もの だ が、 その トシ の ナガアメ には タメイキ を もらさない ノウミン は なかった。
 モリ も ハタケ も みわたす かぎり マッサオ に なって、 ホッタテゴヤ ばかり が イロ を かえず に シゼン を よごして いた。 シグレ の よう な さむい アメ が とざしきった ニビイロ の クモ から トメド なく ふりそそいだ。 ヒクミ の アゼミチ に しきならべた スリッパ-ザイ は ぶかぶか と ミズ の ため に うきあがって、 その アイダ から マコモ が ながく のびて でた。 オタマジャクシ が ハタケ の ナカ を およぎまわったり した。 ホトトギス が モリ の ナカ で さびしく ないた。 アズキ を イタ の ウエ に トオク で ころがす よう な アメ の オト が アサ から バン まで きこえて、 それ が おやむ と シッケ を ふくんだ カゼ が キ でも クサ でも しぼましそう に さむく ふいた。
 ある ヒ ノウジョウシュ が ハコダテ から きて シュウカイジョ で よりあう と いう シラセ が クミチョウ から まわって きた。 ニンエモン は そんな こと には トンジャク なく アサ から バリキ を ひいて シガイチ に でた。 ウンソウテン の マエ には もう 2 ダイ の バリキ が あって、 アシ を つまだてる よう に しょんぼり と たつ ヒキウマ の タテガミ は、 イクホン か の ムチ を さげた よう に アメ に よれて、 その サキ から スイテキ が たえず おちて いた。 ウマノセ から は スイジョウキ が たちのぼった。 ト を あけて ナカ に はいる と バシャオイ を ナイショク に する わかい ノウフ が 3 ニン ドマ に タキビ を して あたって いた。 バシャオイ を する くらい の ノウフ は ノウフ の ナカ でも ボウケンテキ な キ の あらい テアイ だった。 カレラ は カオ に あたる タキビ の ホテリ を テ や アシ を あげて ふせぎながら、 ナガアメ に つけこんで ムラ に はいって きた バクト の ムレ の ウワサ を して いた。 まきあげよう と して はいりこみながら さんざん テ を やいて エキテイ から おいたてられて いる よう な こと も いった。
「オマエ も イチバン のって もうかれ や」
と その ナカ の ヒトリ は ニンエモン を けしかけた。 ミセ の ナカ は どんより と くらく しめって いた。 ニンエモン は くらい カオ を して ツバ を はきすてながら、 タキビ の ザ に わりこんで だまって いた。 ぴしゃぴしゃ と けうとい ワラジ の オト を たてて、 オウライ を とおる モノ が たまさか に ある ばかり で、 この キセツ の にぎわいだった ヨウス は どこ にも みられなかった。 チョウバ の わかい モノ は フデ を もった テ を ホオヅエ に して いねむって いた。 こうして カレラ は ニ の くる の を ぼんやり して 2 ジカン あまり も まちくらした。 きく に たえない よう な ワカモノ ども の バカバナシ も しぜん と インキ な キブン に おさえつけられて、 ややともすると、 チンモク と アクビ が ひろがった。
「ヒトハタリ はたらずに」
 とつぜん ニンエモン が そう いって イチザ を みまわした。 カレ は その めずらしい ムジャキ な ホホエミ を ほほえんで いた。 イチドウ は カレ の にこやか な カオ を みる と、 すいよせられる よう に なって、 いう こと を きかない では いられなかった。 ムシロ が もちだされた。 4 ニン は クルマザ に なった。 ヒトリ は きがるく わかい モノ の ツクエ の ウエ から ユノミ-ヂャワン を もって きた。 もう ヒトリ の オトコ の ハラガケ の ナカ から は サイ が フタツ とりだされた。
 ミセ の わかい モノ が メ を さまして みる と、 カレラ は コウフン した コエ を おしつぶしながら、 ムキ に なって ショウブ に ふけって いた。 わかい モノ は ちょっと ユウワク を かんじた が キ を とりなおして、
「こまる で ねえ か、 そうした こと ミセサキ で おっぴろげて」
と いう と、
「こまったら ツミニ こと さがして こう」
と ニンエモン は とりあわなかった。
 ヒル に なって も ニ の カイソウ は なかった。 ニンエモン は ジブン から いいだしながら、 おもしろく ない ショウブ ばかり して いた。 どっち に かわる か ジブン でも わからない よう な キブン が まっしぐら に わるい ほう に かたむいて きた。 キ を くさらせれば くさらす ほど カレ の ヤマ は はずれて しまった。 カレ は くさくさ して ふいと ザ を たった。 アイテ が なんとか いう の を ふりむき も せず に ミセ を でた。 アメ は おやみなく ふりつづけて いた。 ヒルゲ の ケムリ が おもく ジメン の ウエ を はって いた。
 カレ は むしゃくしゃ しながら バリキ を ひっぱって コヤ の ほう に かえって いった。 だらしなく ふりつづける アメ に クサキ も ツチ も ふやけきって、 ソラ まで が ぽとり と ジメン の ウエ に おちて きそう に だらけて いた。 おもしろく ない ショウブ を して いらだった ニンエモン の ハラ の ナカ とは まったく ウラアワセ な にえきらない ケシキ だった。 カレ は ナニ か おもいきった こと を して でも ムネ を すかせたく おもった。 ちょうど ジブン の ハタケ の ところ まで くる と サトウ の トシカサ の コドモ が 3 ニン ガッコウ の カエリ と みえて、 ニモツ を ハス に セナカ に しょって、 アタマ から ぐっしょり ぬれながら、 チカミチ する ため に ハタケ の ナカ を あるいて いた。 それ を みる と ニンエモン は 「まて」 と いって よびとめた。 ふりむいた コドモ たち は 「まだ か」 の たって いる の を みる と 3 ニン とも オソロシサ に カオ の イロ を かえて しまった。 なぐりつけられる とき する よう に ウデ を まげて メハチブ の ところ に やって、 にげだす こと も しえない で いた。
「ワラシ づれ は なじょう いうて ヒト の ハタケ さ ふみこんだ。 ヒャクショウ の ガキ だに ハタケ のう ダイジ-がる ミチ しんねえ だな。 こう」
 ニオウダチ に なって にらみすえながら カレ は どなった。 コドモ たち は もう おびえる よう に なきだしながら おずおず ニンエモン の ところ に あるいて きた。 まちかまえた ニンエモン の テッケン は いきなり 12 ほど に なる チョウジョ の やせた ホオ を ゆがむ ほど たたきつけた。 3 ニン の コドモ は イチド に イタミ を かんじた よう に コエ を あげて わめきだした。 ニンエモン は チョウヨウ の ヨウシャ なく てあたりしだい に なぐりつけた。
 コヤ に かえる と ツマ は ムシロ の ウエ に ぺったんこ に すわって ウマ に やる ワラ を ざくり ざくり きって いた。 アカンボウ は インチコ の ナカ で タコ の よう な アタマ を ボロ から だして、 ノキ から したたりおちる アマダレ を みやって いた。 カレ の キブン に ふさわない オモクルシサ が みなぎって、 ウンソウテン の ミセサキ に くらべて は ナニ から ナニ まで ベンジョ の よう に きたなかった。 カレ は だまった まま で ツバ を はきすてながら ウマ の シマツ を する と すぐ また ソト に でた。 アメ は ハダ まで しみとおって ぞくぞく さむかった。 カレ の カンシャク は さらに つのった。 カレ は すたすた と サトウ の コヤ に でかけた。 が、 ふと シュウカイジョ に いってる こと に キ が つく と その アシ で すぐ ジンジャ を さして いそいだ。
 シュウカイジョ には アサ の うち から 50 ニン ちかい コサクシャ が あつまって ジョウシュ の くる の を まって いた が、 ヒルスギ まで マチボケ を くわされて しまった。 ジョウシュ は やがて チョウバ を トモ に つれて あつい ガイトウ を きて やって きた。 カミザ に すわる と もったいらしく ジンジャ の ほう を むいて カシワデ を うって モクハイ を して から、 いあわせてる モノラ には ハンブン も わからない よう な こと を シタリガオ に いいきかした。 コサクシャ ら は ケゲン な カオ を しながら も、 ジョウシュ の コトバ が とぎれる と もっともらしく うなずいた。 やがて コサクシャ ら の ヨウキュウ が カサイ に よって テイシュツ せらる べき ジュンバン が きた。 カレ は まず オヤカタ は オヤ で コサク は コ だ と ときだして、 コサクシャ-ガワ の ヨウキュウ を かなり つよく いいはった アト で、 それ は しかし ムリ な オネガイ だ とか、 モノ の わからない ジブン たち が かんがえる こと だ から だ とか、 そんな こと は まず アトマワシ でも いい こと だ とか、 ジブン の いいだした こと を ジブン で うちこわす よう な ソエコトバ を つけくわえる の を わすれなかった。 ニンエモン は ちょうど そこ に ゆきあわせた。 カレ は イリグチ の ハメイタ に ミ を よせて じっと きいて いた。
「こう まあ いろいろ と おねがい した じゃ から は、 オタガイ も ココロ を しめて チョウバ さん にも メイワク を かけぬ だけ には せずば なあ (ここ で カレ は イチドウ を みわたした ヨウス だった)。 『バンコク ココロ を あわせて な』 と テンリキョウ の オウタサマ にも ある とおり、 きまった こと は きまった よう に せん と ならん じゃ が、 おおい ナカ じゃ に ムリ も ない よう な ものの、 アマ など を オヤカタ、 ぎょうさん つけた モノ も あって、 まこと すまん シダイ じゃ が、 ムリ が とおれば ドウリ も ひっこみよる で、 なりません じゃ もし」
 ニンエモン は ジョウキ も かまわず ハタケ の ハンブン を アマ に して いた。 で、 その コトバ は カレ に たいする アテコスリ の よう に きこえた。
「キョウ など も カオ を だしよらん ヨコシマモノ も あります じゃ で……」
 ニンエモン は イカリ の ため に ミミ が かぁん と なった。 カサイ は まだ ナニ か なめらか に しゃべって いた。
 ジョウシュ が まだ ナニ か クンジ-めいた こと を いう らしかった が、 やがて ざわざわ と ヒト の たつ ケハイ が した。 ニンエモン は イキ を ころして でて くる ヒトビト を うかがった。 ジョウシュ が チョウバ と イッショ に、 アト から カサイ に カサ を さしかけさせて でて いった。 ロウドウ で ジャクネン の ニク を きたえた らしい ガンジョウ な ジョウシュ の スガタ は、 どこ か ヒト を はばからした。 ニンエモン は カサイ を にらみながら みおくった。 やや しばらく する と ジョウナイ から キュウ に くつろいだ ダンショウ の コエ が おこった。 そして 2~3 ニン ずつ ナニ か かたりあいながら コサクシャ ら は コヤ を さして かえって いった。 やや おくれて ツレ も なく でて きた の は サトウ だった。 ちいさな ウシロスガタ は わかわかしくって アンコ の よう だった。 ニンエモン は コノハ の よう に ふるえながら ずかずか と ちかづく と、 とつぜん ウシロ から その ミギ の ミミ の アタリ を なぐりつけた。 フイ を くらって たおれん ばかり に よろけた サトウ は、 アト も みず に ミミ を おさえながら、 モウジュウ の トオボエ を きいた ウサギ の よう に、 マエ に ゆく 2~3 ニン の ほう に イチモクサン に かけだして その ヒトビト を タテ に とった。
「ワリャ ホイト か ヌスット か チクショウ か。 よくも ワレ が ガキ ども さ しかけて ヒト の ハタケ こと ふみあらした な。 うちのめして くれずに。 こ」
 ニンエモン は ヒノタマ の よう に なって とびかかった。 とうの フタリ と 2~3 ニン の トメオトコ とは マリ に なって アカツチ の ドロ の ナカ を ころげまわった。 おりかさなった ヒトビト が ようやく フタリ を ひきわけた とき は、 サトウ は どこ か したたか キズ を おって しんだ よう に あおく なって いた。 チュウサイ した モノ は カカリアイ から やむなく、 ニンエモン に つきそって ハナシ を つける ため に サトウ の コヤ まで マワリミチ を した。 コヤ の ナカ では サトウ の チョウジョ が スミ の ほう に まるまって いたい いたい と いいながら まだ なきつづけて いた。 ロ を アイダ に おいて サトウ の ツマ と ヒロオカ の ツマ とは サシムカイ に ののしりあって いた。 サトウ の ツマ は アグラ を かいて ながい ヒバシ を ミギテ に にぎって いた。 ヒロオカ の ツマ も セ に アカンボウ を しょって、 ハヤクチ に いいつのって いた。 カオ を チダラケ に して ドロマミレ に なった サトウ の アト から ニンエモン が はいって くる の を みる と、 サトウ の ツマ は ワケ を きく こと も せず に がたがた ふるえる ハ を かみあわせて サル の よう に クチビル の アイダ から むきだしながら ニンエモン の マエ に たちはだかって、 とびだしそう な イカリ の メ で にらみつけた。 モノ が いえなかった。 いきなり ヒバシ を ふりあげた。 ニンエモン は タワイ も なく それ を うばいとった。 かみつこう と する の を おしのけた。 そして チュウサイシャ が イッパイ のもう と すすめる の も きかず に ツマ を うながして ジブン の コヤ に かえって いった。 サトウ の ツマ は スハダシ の まま ニンエモン の セ に バリ を あびせながら フューリー の よう に ついて きた。 そして コヤ の マエ に たちはだかって、 さえずる よう に なかば ムチュウ で ニンエモン フウフ を ののしりつづけた。
 ニンエモン は おしだまった まま イロリ の ヨコザ に すわって サトウ の ツマ の キョウタイ を みつめて いた。 それ は ニンエモン には イガイ の ケッカ だった。 カレ の キブン は ミョウ に かたづかない もの だった。 カレ は サトウ の ツマ の ジブン から とつぜん はなれた の を おこったり おかしく おもったり おしんだり して いた。 ニンエモン が とりあわない ので カノジョ は さすが に コヤ の ナカ には はいらなかった。 そして しわがれた コエ で おめきさけびながら アメ の ナカ を かえって いって しまった。 ニンエモン の クチ の ヘン には いかにも ニンゲン-らしい ヒニク な ユガミ が あらわれた。 カレ は けっきょく ジブン の チエ の タリナサ を かんじた。 そして ままよ と おもって いた。
 スベテ の キョウミ が まったく さった の を カレ は おぼえた。 カレ は すこし つかれて いた。 はじめて ホントウ の ジジョウ を しった ツマ から シット-がましい しつこい コトバ でも きいたら すこし の ドウラクゲ も なく、 どれほど な ザンギャク な こと でも やりかねない の を しる と、 カレ は すこし ジブン の ココロ を おそれねば ならなかった。 カレ は ツマ に モノ を いう キカイ を あたえない ため に ツギ から ツギ へ と メイレイ を レンパツ した。 そして おそい ヒルメシ を したたか くった。 がらっと ハシ を おく と ドロダラケ な ビショヌレ な キモノ の まま で また ぶらり と コヤ を でた。 この ムラ に はいりこんだ バクト ら の はって いた トバ を さして カレ の アシ は しょうことなし に むいて いった。

 5

 よく これほど ある もん だ と おもわせた ナガアメ も 1 カゲツ ほど ふりつづいて ようやく はれた。 イッソクトビ に ナツ が きた。 いつのまに ハナ が さいて ちった の か、 テンキ に なって みる と ハヤシ の アイダ に ある ヤマザクラ も、 コブシ も あおあお と した ヒロバ に なって いた。 ムシブロ の よう な キモチ の わるい アツサ が おそって きて、 ハタケ の ナカ の ザッソウ は サクモツ を のりこえて ムグラ の よう に のびた。 アメ の ため いためられた に ソウイ ない と、 ナガアメ の ただ ヒトツ の クドク に ノウフ ら の いいあった コンチュウ も、 すさまじい イキオイ で ハッセイ した。 キャベツ の マワリ には エゾ シロチョウ が おびただしく とびまわった。 ダイズ には クチカキムシ の セイチュウ が うざうざ する ほど あつまった。 ムギルイ には クロボ の、 バレイショ には ベトビョウ の チョウコウ が みえた。 アブ と ブヨ とは シゼン の セッコウ の よう に もやもや と とびまわった。 ぬれた まま に つみかさねて おいた ヨゴレモノ を かけわたした コヤ の ナカ から は、 あらん カギリ の ノウフ の カゾク が エモノ を もって ハタケ に でた。 シゼン に はむかう ヒッシ な ソウトウ の マク は ひらかれた。
 ハナウタ も うたわず に、 アセ を ヒリョウ の よう に ハタケ の ツチ に したたらしながら、 ノウフ は コシ を フタツ に おって ジメン に かじりついた。 コウバ は クビ を さげられる だけ さげて、 かわききらない ツチ の ナカ に アシ を ふかく ふみこみながら、 たえず シリッポ で アブ を おった。 しゅっ と オト を たてて おそって くる ケ の タバ に したたか うたれた アブ は、 チ を すって まるく なった まま、 ウマ の ハラ から ぽとり と チ に おちた。 アオムケ に なって ハリガネ の よう な アシ を のばしたり ちぢめたり して もがく サマ は イノチ の うすれる もの の よう に みえた。 しばらく する と しかし それ は また キヨウ に ハネ を つかって おきかえった。 そして よろよろ と クサ の ハウラ に はいよった。 そして 14~15 フン の ノチ には また ハネ を はって ウナリ を たてながら、 メ を いる よう な ヒ の ヒカリ の ナカ に いさましく とびたって いった。
 ナツモノ が みな ムサク と いう ほど の フデキ で ある のに、 アマ だけ は ヘイネンサク ぐらい には まわった。 アオ ビロード の ウミ と なり、 ルリイロ の ジュウタン と なり、 あらくれた シゼン の ナカ の ヒメギミ なる アマ の ハタケ は やがて コモン の よう な ミ を その センサイ な クキ の サキ に むすんで うつくしい キツネイロ に かわった。
「こんな に アマ を つけて は シヨウ が ねえ で ねえ か。 ハタケ が かれて アトチ には なんだって でき は しねえ ぞ。 こまる な」
 ある とき チョウバ が みまわって きて、 ニンエモン に こう いった。
「オラ が も こまる だ。 ワレ が こまる と オラ が こまる とは コマリヨウ が どだい ちがわい。 クチ が ひあがる ん だあぞ オラ が の は」
 ニンエモン は つっけんどん に こう いいはなった。 カレ の マエ に ある オキテ は まず くう こと だった。
 カレ は ある ヒ アマ の タバ を みあげる よう に バリキ に つみあげて クッチャン の セイセンジョ に でかけた。 セイセンジョ では わりあい に ハカリ を よく かって くれた ばかり で なく、 タ の チホウ が フサク な ため に ケツジツ が なかった ので、 アマダネ を ヒジョウ な タカネ で ひきとる ヤクソク を して くれた。 ニンエモン の フトコロ の ナカ には テドリ 100 エン の カネ が あたたかく しまわれた。 カレ は ハタケ に まだ しこたま のこって いる アマ の こと を かんがえた。 カレ は イザカヤ に はいった。 そこ には K ムラ では みられない よう な きれい な カオ を した オンナ も いた。 ニンエモン の サケ は かならずしも カレ を きまった カタ には よわせなかった。 ある とき は カレ を おこりっぽく、 ある とき は ユウウツ に、 ある とき は ランボウ に、 ある とき は キゲン よく した。 その ヒ の サケ は もちろん カレ を ジョウキゲン に した。 イッショ に のんで いる モノ が リガイ カンケイ の ない の も カレ には ココロオキ が なかった。 カレ は よう まま に おおきな コエ で ジョウダングチ を きいた。 そういう とき の カレ は おおきな おろか な コドモ だった。 いあわせた モノ は つりこまれて カレ の シュウイ に あつまった。 オンナ まで ひっぱられる まま に カレ の ヒザ に よりかかって、 カレ の ホオズリ を ムジャキ に うけた。
「ワレ が の ホオ に オラ が ヒゲコ おえたら おかしかん べ なし」
 カレ は そんな こと を いった。 おもい その クチ から これ だけ の ジョウダン が でる と オンナ なぞ は ハラ を かかえて わらった。 ヒ が かげる コロ に カレ は イザカヤ を でて タンモノヤ に よって ハデ な モスリン の ハギレ を かった。 また ビール の コビン を 3 ボン と アブラカス と を バシャ に つんだ。 クッチャン から K ムラ に かよう コクドウ は マッカリ ヌプリ の ヤマスソ の トドマツ-タイ の アイダ を ぬって いた。 カレ は バリキ の ウエ に アグラ を かいて ビン から クチウツシ に ビール を あおりながら ダミウタ を コダマ に ひびかせて いった。 イクカカエ も ある トドマツ は シダ の ナカ から マッスグ に テン を ついて、 わずか に のぞかれる ソラ には ヒルヅキ が すこし ひかって ミエガクレ に ながめられた。 カレ は ついに バリキ の ウエ に よいたおれた。 ものなれた ウマ は デコボコ の ヤマミチ を ジョウズ に ひろいながら あるいて いった。 バシャ は かしいだり はねたり した。 その ナカ で カレ は こころよい ユメ に はいったり、 おもしろい ウツツ に でたり した。
 ニンエモン は ふと ジュクスイ から やぶられて メ を さました。 その メ には すぐ カワモリ ジイサン の まじめくさった イッテツ な カオ が うつった。 ニンエモン の かるい キブン には その カオ が いかにも おかしかった ので、 カレ は おきあがりながら コエ を たてて わらおう と した。 そして ジブン が バリキ の ウエ に いて ジブン の コヤ の マエ に きて いる こと に キ が ついた。 コヤ の マエ には チョウバ も サトウ も クミチョウ の ナニガシ も いた。 それ は この コヤ の マエ では みなれない コウケイ だった。 カワモリ は ニンエモン が メ を さました の を みる と、
「はよう ウチ さ いく べし。 ワレ が ニガ は おっちぬ べえ ぞ。 セキリ さ とっつかれた だ」
と いった。 タワイ の ない ユメ から イッソクトビ に この おそろしい ゲンジツ に よびさまされた カレ の ココロ は、 サイショ に カレ の カオ を タカワライ に くずそう と した が、 すぐ ツギ の シュンカン に、 カレ の カオ の キンニク を いちどきに ひきしめて しまった。 カレ は カオジュウ の チ が イチジ に アタマ の ナカ に とびのいた よう に おもった。 ニンエモン は ヨイ が イチジ に さめて しまって バリキ から とびおりた。 コヤ の ナカ には まだ 2~3 ニン ヒト が いた。 ツマ は と みる と ムシ の イキ に よわった アカンボウ の ソバ に うずくまって おいおい ないて いた。 カサイ が レイ の フルカバン を ヒザ に ひっつけて その ナカ から ゴフ の よう な もの を とりだして いた。
「お、 ヒロオカ さん ええ ところ に かえった ぞな」
 カサイ が いちはやく ニンエモン を みつけて こう いう と、 ニンエモン の ツマ は おそれる よう に うらむ よう に うったえる よう に オット を みかえって、 だまった まま なきだした。 ニンエモン は すぐ アカンボウ の ところ に いって みた。 タコ の よう な おおきな アタマ だけ が カレ の アカンボウ-らしい ただ ヒトツ の もの だった。 たった ハンニチ の うち に こう も かわる か と うたがわれる まで に その ちいさな もの は おとろえほそって いた。 ニンエモン は それ を みる と ハラ が たつ ほど さびしく こころもとなく なった。 イマ まで ケイケン した こと の ない ナツカシサ カワイサ が やく よう に ココロ に せまって きた。 カレ は もった こと の ない もの を しいて おしつけられた よう に トウワク して しまった。 その おしつけられた もの は おそろしく おもい つめたい もの だった。 ナニ より も まず カレ は ハラ の チカラ の ぬけて ゆく よう な ココロモチ を いまいましく おもった が どう シヨウ も なかった。
 もったいぶって カサイ が ゴフ を おしいただき、 それ で アカンボウ の フクブ を ジュモン を となえながら なでまわす の が ユイイツ の チカラ に おもわれた。 ソバ に いる ヒトタチ も キセキ の あらわれる の を まつ よう に カサイ の する こと を みまもって いた。 アカンボウ は チカラ の ない あわれ な コエ で なきつづけた。 ニンエモン は ハラワタ を むしられる よう だった。 それでも ないて いる アイダ は まだ よかった。 アカンボウ が なきやんで おおきな メ を ひっつらした まま マバタキ も しなく なる と、 ニンエモン は おぞましく も おがむ よう な メ で カサイ を みまもった。 コヤ の ナカ は ヒトイキレ で むす よう に あつかった。 カサイ の はげあがった ヒタイ から は アセ の タマ が たらたら と ながれでた。 それ が ニンエモン には とうとく さえ みえた。 コハントキ アカンボウ の ハラ を なでまわす と、 カサイ は また フルカバン の ナカ から カミヅツミ を だして おしいただいた。 そして クチ に テヌグイ を くわえて それ を ひらく と、 1 スン シホウ ほど な ナニ か ジ の かいて ある カミキレ を つまみだして ユビ の サキ で まるめた。 ミズ を もって こさして それ を その ナカ へ ひたした。 ニンエモン は それ を アカンボウ に のませろ と さしだされた が、 のませる だけ の ユウキ も なかった。 ツマ は かいがいしく オット に かわった。 かわききって いた アカンボウ は よろこんで それ を のんだ。 ニンエモン は ありがたい と おもって いた。
「ワシ も コ は なくした オボエ が ある で、 オヌシ の ココロモチ は よう わかる。 この コ を たすけよう と おもったら なんせ イッシン に テンリオウ サマ に たのまっしゃれ。 な。 ガッテン か。 ニンゲンワザ では およばぬ こと じゃ でな」
 カサイ は そう いって シタリガオ を した。 ニンエモン の ツマ は なきながら テ を あわせた。
 アカンボウ は ツヅケサマ に チ を くだした。 そして コヤ の ナカ が マックラ に なった ヒ の クレグレ に、 ナニモノ に か タスケ を もとめる オトナ の よう な ヒョウジョウ を メ に あらわして、 アテド も なく そこら を みまわして いた が、 しだいしだい に イキ が たえて しまった。
 アカンボウ が しんで から ソンイ は ジュンサ に つれられて ようやく やって きた。 コウデン-ガワリ の カミヅツミ を もって チョウバ も きた。 チョウチン と いう みなれない モノ が コヤ の ナカ を でたり はいったり した。 ニンエモン フウフ の かぎつけない セキタンサン の ニオイ は フタリ を コヤ から おいだして しまった。 フタリ は カワモリ に つきそわれて ニシ に まわった ツキ の ヒカリ の シタ に しょんぼり たった。
 セワ に きた ヒトタチ は ヒトリ さり フタリ さり、 やがて カワモリ も カサイ も さって しまった。
 ミズ を うった よう な ヨル の スズシサ と シズカサ との ナカ に かすか な ムシ の ネ が して いた。 ニンエモン は なんと いう こと なし に ツマ が シャク に さわって たまらなかった。 ツマ は また なんと いう こと なし に オット が にくまれて ならなかった。 ツマ は バリキ の ソバ に うずくまり、 ニンエモン は アテ も なく ツバ を はきちらしながら コヤ の マエ を いったり かえったり した。 ヨソ の ノウカ で この キョウジ が あったら すくなくとも トナリキンジョ から 2~3 ニン の モノ が よりあって、 かって だした サケ でも のみちらしながら、 なにかと ハナシ でも して ヨ を ふかす の だろう。 ニンエモン の ところ では カワモリ さえ いのこって いない の だ。 ツマ は それ を ココロ から さびしく おもって しくしく と ないて いた。 ものの 3 ジカン も フタリ は そうした まま で なにも せず に ぼんやり コヤ の マエ で ツキ の ヒカリ に あわれ な スガタ を さらして いた。
 やがて ニンエモン は ナニ を おもいだした の か のそのそ と コヤ の ナカ に はいって いった。 ツマ は メ に カド を たてて クビ だけ ウシロ に まわして ホラアナ の よう な コヤ の イリグチ を みかえった。 しばらく する と ニンエモン は アカンボウ を せおって、 1 チョウ の クワ を ミギテ に さげて コヤ から でて きた。
「ついて こう」
 そう いって カレ は すたすた と コクドウ の ほう に でて いった。 カンタン な ナキゴエ で ドウブツ と ドウブツ と が タガイ を リカイ しあう よう に、 ツマ は ニンエモン の しよう と する こと が のみこめた らしく、 のっそり と たちあがって その アト に したがった。 そして めそめそ と なきつづけて いた。
 フウフ が ゆきついた の は コクドウ を 10 チョウ も クッチャン の ほう に きた ヒダリテ の オカ の ウエ に ある ムラ の キョウドウ ボチ だった。 そこ の ウエ から は マツカワ ノウジョウ を イチメン に みわたして、 ルベシベ、 ニセコアン の レンザン も カワムカイ の コンブダケ も テ に とる よう だった。 ナツ の ヨル の トウメイ な クウキ は あおみわたって、 ツキ の ヒカリ が リン の よう に スベテ の ひかる もの の ウエ に やどって いた。 カ の ムレ が わんわん うなって フタリ に おそいかかった。
 ニンエモン は シタイ を せおった まま、 ちいさな ボヒョウ や セキトウ の たちつらなった アイダ の アキチ に アナ を ほりだした。 クワ の ツチ に くいこむ オト だけ が ケシキ に すこしも チョウワ しない にぶい オト を たてた。 ツマ は しゃがんだ まま で ときどき ホオ に くる カ を たたきころしながら ないて いた。 3 ジャク ほど の アナ を ほりおわる と ニンエモン は クワ の テ を やすめて ヒタイ の アセ を テノコウ で おしぬぐった。 ナツ の ヨル は しずか だった。 その とき とつぜん おそろしい カンガエ が カレ の トムネ を ついて うかんだ。 カレ は その カンガエ に ジブン ながら おどろいた よう に あきれて メ を みはって いた が、 やがて オオゴエ を たてて ガンドウ の ごとく なきおめきはじめた。 その コエ は みにくく ものすごかった。 ツマ は きょとん と して、 カオジュウ を ナミダ に しながら おそろしげ に オット を みまもった。
「カサイ の シコクザル め が、 ニガ こと ころした だ。 ころした だあ」
 カレ は みにくい ナキゴエ の ナカ から そう さけんだ。
 ヨクジツ カレ は また アマ の タバ を バリキ に つもう と した。 そこ には ハデ な モスリン の ハギレ が ランウン の ナカ に あらわれた ニジ の よう に しっとり アサツユ に しめった まま きたない バリキ の ウエ に しまいわすれられて いた。

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