カナ文字文庫(漢字廃止論)

日本文学の名作などをカナ書きに改めて掲載。

ある オンナ (ゼンペン 2)

2021-12-07 | アリシマ タケオ
 4

 レッシャ が カワサキ エキ を はっする と、 ヨウコ は また テスリ に よりかかりながら キベ の こと を いろいろ と おもいめぐらした。 やや いろづいた タンボ の サキ に マツナミキ が みえて、 その アイダ から ひくく ウミ の ひかる、 ヘイボン な ゴジュウサンツギ-フウ な ケシキ が、 デンチュウ で クトウ を うちながら、 ウツロ の よう な ヨウコ の メノマエ で とじたり ひらいたり した。 アカトンボ も とびかわす ジセツ で、 その ムレ が、 ヒウチイシ から うちだされる ヒバナ の よう に、 あかい インショウ を メ の ソコ に のこして みだれあった。 いつ みて も シンカイチ-じみて みえる カナガワ を すぎて、 キシャ が ヨコハマ の テイシャジョウ に ちかづいた コロ には、 8 ジ を すぎた タイヨウ の ヒカリ が、 モミジザカ の サクラナミキ を きいろく みせる ほど に あつく てらして いた。
 バイエン で マックロ に すすけた レンガカベ の カゲ に キシャ が とまる と、 ナカ から いちばん サキ に でて きた の は、 ミギテ に かの オリーブ イロ の ツツミモノ を もった コトウ だった。 ヨウコ は パラゾル を ツエ に よわよわしく デッキ を おりて、 コトウ に たすけられながら カイサツグチ を でた が、 ゆるゆる あるいて いる アイダ に ジョウキャク は サキ を こして しまって、 フタリ は いちばん アト に なって いた。 キャク を とりおくれた 14~15 ニン の テイシャジョウ-ヅキ の シャフ が、 マチアイベヤ の マエ に かたまりながら、 やつれて みえる ヨウコ に メ を つけて なにかと ウワサ しあう の が フタリ の ミミ にも はいった。 「ムスメ」 「ラシャメン」 と いう よう な コトバ さえ その はしたない コトバ の ウチ には まじって いた。 カイコウジョウ の がさつ な いやしい チョウシ は、 すぐ ヨウコ の シンケイ に びりびり と かんじて きた。
 なにしろ ヨウコ は はやく おちつく ところ を みつけだしたがった。 コトウ は テイシャジョウ の ゼンポウ の カワゾイ に ある キュウケイジョ まで はしって いって みた が、 かえって くる と ぶりぶり して、 エキフ の アガリ らしい チャミセ の シュジン は コトウ の ショセイッポ スガタ を いかにも バカ に した よう な コトワリカタ を した と いった。 フタリ は しかたなく うるさく つきまとわる シャフ を おいはらいながら、 シオ の カ の ただよった にごった ちいさな ウンガ を わたって、 ある せまい きたない マチ の ナカホド に ある 1 ケン の ちいさな リョジンヤド に はいって いった。 ヨコハマ と いう ところ には に も つかぬ よう な コフウ な ソトガマエ で、 ミノガミ の くすぶりかえった オキアンドン には ふとい フデツキ で サガミヤ と かいて あった。 ヨウコ は なんとなく その アンドン に キョウミ を ひかれて しまって いた。 イタズラズキ な その ココロ は、 カエイ-ゴロ の ウラガ に でも あれば ありそう な この ハタゴヤ に アシ を やすめる の を おそろしく おもしろく おもった。 ミセ に しゃがんで、 バントウ と ナニ か はなして いる あばずれた よう な ジョチュウ まで が メ に とまった。 そして ヨウコ が ていよく モノ を いおう と して いる と、 コトウ が いきなり とりかまわない チョウシ で、
「どこ か しずか な ヘヤ に アンナイ して ください」
と ブアイソウ に サキ を こして しまった。
「へいへい、 どうぞ こちら へ」
 ジョチュウ は フタリ を まじまじ と みやりながら、 キャク の マエ も かまわず、 バントウ と メ を みあわせて、 さげすんだ らしい ワライ を もらして アンナイ に たった。
 ぎしぎし と イタギシミ の する マックロ な せまい ハシゴダン を あがって、 ニシ に つきあたった 6 ジョウ ほど の せまい ヘヤ に アンナイ して、 つったった まま で あらっぽく フタリ を フシギ そう に ジョチュウ は みくらべる の だった。 あぶらじみた エリモト を おもいださせる よう な、 ニシ に デマド の ある うすぎたない ヘヤ の ナカ を ジョチュウ を ひっくるめて にらみまわしながら コトウ は、
「ソト より ひどい…… どこ か ヨソ に しましょう か」
と ヨウコ を みかえった。 ヨウコ は それ には ミミ も かさず に、 シリョ-ぶかい キジョ の よう な モノゴシ で ジョチュウ の ほう に むいて いった。
「トナリ も あいて います か…… そう。 ヨル まで は どこ も あいて いる…… そう。 オマエサン が ここ の セワ を して おいで?…… なら ホカ の ヘヤ も ついでに みせて おもらい しましょう かしらん」
 ジョチュウ は もう ヨウコ には ケイベツ の イロ は みせなかった。 そして ココロエガオ に ツギ の ヘヤ との アイ の フスマ を あける アイダ に、 ヨウコ は てばやく おおきな ギンカ を カミ に つつんで、
「すこし カゲン が わるい し、 また いろいろ オセワ に なる だろう から」
と いいながら、 それ を ジョチュウ に わたした。 そして ずっと ならんだ イツツ の ヘヤ を ヒトツヒトツ みて まわって、 カケジク、 カビン、 ウチワサシ、 コビョウブ、 ツクエ と いう よう な もの を、 ジブン の コノミ に まかせて あてがわれた ヘヤ の と すっかり とりかえて、 スミ から スミ まで きれい に ソウジ を させた。 そして コトウ を ショウザ に すえて こざっぱり した ザブトン に すわる と、 にっこり ほほえみながら、
「これ なら ハンニチ ぐらい ガマン が できましょう」
と いった。
「ボク は どんな ところ でも ヘイキ なん です がね」
 コトウ は こう こたえて、 ヨウコ の ビショウ を おいながら アンシン した らしく、
「キブン は もう なおりました ね」
と つけくわえた。
「ええ」
と ヨウコ は なにげなく ビショウ を つづけよう と した が、 その シュンカン に つと おもいかえして マユ を ひそめた。 ヨウコ には ケビョウ を つづける ヒツヨウ が あった の を つい わすれよう と した の だった。 それで、
「ですけれども まだ こんな なん です の。 こら ドウキ が」
と いいながら、 ジミ な フウツウ の ヒトエモノ の ナカ に かくれた はなやか な ジュバン の ソデ を ひらめかして、 ミギテ を ちからなげ に マエ に だした。 そして それ と ドウジ に コキュウ を ぐっと つめて、 シンゾウ と おぼしい アタリ に はげしく チカラ を こめた。 コトウ は すきとおる よう に しろい テクビ を しばらく なでまわして いた が、 ミャクドコロ に さぐりあてる と キュウ に おどろいて メ を みはった。
「どうした ん です、 え、 ひどく フキソク じゃ ありません か…… いたむ の は アタマ ばかり です か」
「いいえ、 オナカ も いたみはじめた ん です の」
「どんな ふう に」
「ぎゅっと キリ で でも もむ よう に…… よく これ が ある んで こまって しまう ん です のよ」
 コトウ は しずか に ヨウコ の テ を はなして、 おおきな メ で ふかぶか と ヨウコ を みつめた。
「イシャ を よばなくって も ガマン が できます か」
 ヨウコ は くるしげ に ほほえんで みせた。
「アナタ だったら きっと できない でしょう よ。 ……ナレッコ です から こらえて みます わ。 そのかわり アナタ ナガタ さん…… ナガタ さん、 ね、 ユウセン-ガイシャ の シテンチョウ の…… あすこ に いって フネ の キップ の こと を ソウダン して きて いただけない でしょう か。 ゴメイワク です わね。 それでも そんな こと まで おねがい しちゃあ…… よう ござんす、 ワタシ、 クルマ で そろそろ いきます から」
 コトウ は、 オンナ と いう もの は これほど の ケンコウ の ヘンチョウ を よくも こう まで ガマン を する もの だ と いう よう な カオ を して、 もちろん ジブン が いって みる と いいはった。
 じつは その ヒ、 ヨウコ は ミノマワリ の コドウグ や ケショウヒン を ととのえ-かたがた、 ベイコク-ユキ の フネ の キップ を かう ため に コトウ を つれて ここ に きた の だった。 ヨウコ は その コロ すでに ベイコク に いる ある わかい ガクシ と イイナズケ の アイダガラ に なって いた。 シンバシ で シャフ が ワカオクサマ と よんだ の も、 この こと が デイリ の モノ の アイダ に こうぜん と しれわたって いた から の こと だった。
 それ は ヨウコ が シセイシ を もうけて から しばらく ノチ の こと だった。 ある フユ の ヨ、 ヨウコ の ハハ の オヤサ が ナニ か の ヨウ で その オット の ショサイ に ゆこう と ハシゴダン を のぼりかける と、 ウエ から コマヅカイ が まっしぐら に かけおりて きて、 あやうく オヤサ に ぶっつかろう と して その ソバ を すりぬけながら、 ナニ か イミ の わからない こと を ハヤクチ に いって はしりさった。 その シマダマゲ や オビ の みだれた ウシロスガタ が、 チョウロウ の コトバ の よう に メ を うつ と、 オヤサ は クチビル を かみしめた が、 アシオト だけ は しとやか に ハシゴダン を あがって、 イツモ に にず ショサイ の ト の マエ に たちどまって、 シワブキ を ヒトツ して、 それから キソク ただしく マ を おいて 3 ド ト を ノック した。
 こういう こと が あって から イツカ と たたぬ うち に、 ヨウコ の カテイ すなわち サツキ-ケ は スナ の ウエ の トウ の よう に もろくも くずれて しまった。 オヤサ は ことに レイセイ な そこきみわるい タイド で フウフ の ベッキョ を シュチョウ した。 そして ヒゴロ の ニュウワ に にず、 きずついた オウシ の よう に モトドオリ の セイカツ を カイフク しよう と ひしめく オット や、 ナカ に はいって いろいろ いいなそう と した シンルイ たち の コトバ を、 きっぱり と しりぞけて しまって、 オット を クギダナ の だだっびろい ジュウタク に たった ヒトリ のこした まま、 ヨウコ ともに 3 ニン の ムスメ を つれて、 オヤサ は センダイ に たちのいて しまった。 キベ の ユウジン ら が ヨウコ の フニンジョウ を いかって、 キベ の とめる の も きかず に、 シャカイ から ほうむって しまえ と ひしめいて いる の を ヨウコ は ききしって いた から、 フダン ならば イチ も ニ も なく チチ を かばって ハハ に タテ を つく べき ところ を、 すなお に ハハ の する とおり に なって、 ヨウコ は ハハ と ともに センダイ に うずもれ に いった。 ハハ は ハハ で、 ジブン の カテイ から ヨウコ の よう な ムスメ の でた こと を、 できる だけ セケン に しられまい と した。 ジョシ キョウイク とか、 カテイ の クントウ とか いう こと を オリ ある ごと に クチ に して いた オヤサ は、 その コトバ に たいして キョギ と いう リシ を はらわねば ならなかった。 イッポウ を もみけす ため には イッポウ に どんと ヒノテ を あげる ヒツヨウ が ある。 サツキ オヤコ が トウキョウ を さる と まもなく、 ある シンブン は サツキ ドクトル の ジョセイ に かんする フシダラ を かきたてて、 それ に つけて の オヤサ の クシン と テイソウ と を フイチョウ した ツイデ に、 オヤサ が トウキョウ を さる よう に なった の は、 ネツレツ な シンコウ から くる ギフン と、 アイジ を チチ の アクカンカ から すくおう と する ハハ-らしい ドリョク に もとづく もの だ。 その ため に カノジョ は キリスト-キョウ フジン ドウメイ の フク カイチョウ と いう ケンヨウ な イチ さえ なげすてた の だ と かきそえた。
 センダイ に おける サツキ オヤサ は しばらく の アイダ は ふかく チンモク を まもって いた が、 みるみる シュウイ に ヒト を あつめて はなばなしく カツドウ を しはじめた。 その キャクマ は わかい シンジャ や、 ジゼンカ や、 ゲイジュツカ たち の サロン と なって、 そこ から リバイバル や、 ジゼンイチ や、 オンガクカイ と いう よう な もの が カタチ を とって うまれでた。 ことに オヤサ が センダイ シブチョウ と して はたらきだした キリスト-キョウ フジン ドウメイ の ウンドウ は、 その トウジ ノビ の よう な イキオイ で ゼンコク に ひろがりはじめた セキジュウジシャ の セイリョク にも おさおさ おとらない ほど の セイキョウ を ていした。 チジ レイフジン も、 なだたる ソホウカ の オクサン たち も その シュウカイ には レッセキ した。 そして 3 カネン の ツキヒ は サツキ オヤサ を センダイ には なくて ならぬ メイブツ の ヒトツ に して しまった。 セイシツ が ハハオヤ と どこ か にすぎて いる ため か、 にた よう に みえて ヒトチョウシ ちがって いる ため か、 それとも ジブン を つつしむ ため で あった か、 ハタ の ヒト には わからなかった が、 とにかく ヨウコ は そんな はなやか な フンイキ に つつまれながら、 フシギ な ほど チンモク を まもって、 ろくろく ハレ の ザ など には スガタ を あらわさない で いた。 それ にも かかわらず オヤサ の キャクマ に すいよせられる わかい ヒトビト の タスウ は ヨウコ に すいよせられて いる の だった。 ヨウコ の ヒカエメ な しおらしい ヨウス が いやがうえにも ヒト の ウワサ を ひく タネ と なって、 ヨウコ と いう ナ は、 タサイ で、 ジョウチョ の こまやか な、 うつくしい ハクメイジ を ダレ に でも おもいおこさせた。 カノジョ の たちすぐれた ミメカタチ は カリュウ の ヒトタチ を さえ うらやましがらせた。 そして イロイロ な フウブン が、 セイキョウト-フウ に シッソ な サツキ の ワビズマイ の シュウイ を カスミ の よう に とりまきはじめた。
 とつぜん ちいさな センダイ シ は カミナリ に でも うたれた よう に ある アサ の シンブン キジ に チュウイ を むけた。 それ は その シンブン の ショウバイガタキ で ある ある シンブン の シャシュ で あり シュヒツ で ある ナニガシ が、 オヤサ と ヨウコ との フタリ に ドウジ に インギン を つうじて いる と いう、 ゼンシ に わたった フリン きわまる キジ だった。 ダレ も イガイ な よう な カオ を しながら ココロ の ウチ では それ を しんじよう と した。
 この ヒ カミノケ の こい、 クチ の おおきい、 イロジロ な ヒトリ の セイネン を のせた ジンリキシャ が、 センダイ の マチナカ を せわしく かけまわった の を チュウイ した ヒト は おそらく なかったろう が、 その セイネン は ナ を キムラ と いって、 ヒゴロ から カイカツ な カツドウズキ な ヒト と して しられた オトコ で、 その ネッシン な ホンソウ の ケッカ、 ヨクジツ の シンブンシ の コウコクラン には、 ニダンヌキ で チジ レイフジン イカ 14~15 メイ の キフジン の レンメイ で、 サツキ オヤサ の エンザイ が すすがれる こと に なった。 この ケウ な おおげさ な コウコク が また ちいさな センダイ の シチュウ を どよめきわたらした。 しかし キムラ の ネッシン も コウベン も ヨウコ の ナ を コウコク の ナカ に いれる こと は できなかった。
 こんな サワギ が もちあがって から サツキ オヤサ の センダイ に おける イマ まで の セイボウ は キュウ に なくなって しまった。 その コロ ちょうど トウキョウ に いのこって いた サツキ が ビョウキ に かかって クスリ に したしむ ミ と なった ので、 それ を シオ に オヤサ は コドモ を つれて センダイ を きりあげる こと に なった。
 キムラ は ソノゴ すぐ サツキ オヤコ を おって トウキョウ に でて きた。 そして マイニチ いりびたる よう に サツキ-ケ に デイリ して、 ことに オヤサ の キ に いる よう に なった。 オヤサ が ビョウキ に なって キトク に おちいった とき、 キムラ は イッショウ の ネガイ と して ヨウコ との ケッコン を もうしでた。 オヤサ は やはり ハハ だった。 シキ を マエ に ひかえて、 いちばん キ に せず に いられない もの は、 ヨウコ の ショウライ だった。 キムラ ならば あの ワガママ な、 オトコ を オトコ とも おもわぬ ヨウコ に つかえる よう に して ゆく こと が できる と おもった。 そして キリスト-キョウ フジン ドウメイ の カイチョウ を して いる イソガワ ジョシ に コウジ を たくして しんだ。 この イソガワ ジョシ の まあまあ と いう よう な フシギ な アイマイ な キリモリ で、 キムラ は、 どこ か フカクジツ では ある が、 ともかく ヨウコ を ツマ と しうる ホショウ を にぎった の だった。

 5

 ユウセン-ガイシャ の ナガタ は ユウガタ で なければ カイシャ から ひけまい と いう ので、 ヨウコ は ヤドヤ に セイヨウモノミセ の モノ を よんで、 ヒツヨウ な カイモノ を する こと に なった。 コトウ は そんなら そこら を ほっつきあるいて くる と いって、 レイ の ムギワラ ボウシ を ボウシカケ から とって たちあがった。 ヨウコ は おもいだした よう に カタゴシ に ふりかえって、
「アナタ さっき パラゾル は ホネ が 5 ホン の が いい と おっしゃって ね」
と いった。 コトウ は レイタン な チョウシ で、
「そう いった よう でした ね」
と こたえながら、 ナニ か ホカ の こと でも かんがえて いる らしかった。
「まあ そんな に とぼけて…… なぜ 5 ホン の が おすき?」
「ボク が すき と いう ん じゃ ない けれども、 アナタ は なんでも ヒト と ちがった もの が すき なん だ と おもった ん です よ」
「どこまでも ヒト を おからかい なさる…… ひどい こと…… いって いらっしゃいまし」
と ジョウ を おさえる よう に いって むきなおって しまった。 コトウ が エンガワ に でる と また とつぜん よびとめた。 ショウジ に はっきり タチスガタ を うつした まま、
「ナン です」
と いって コトウ は たちもどる ヨウス が なかった。 ヨウコ は イタズラモノ-らしい ワライ を クチ の アタリ に うかべて いた。
「アナタ は キムラ と ガッコウ が おなじ で いらしった のね」
「そう です よ、 キュウ は キムラ の…… キムラ クン の ほう が フタツ も ウエ でした がね」
「アナタ は あの ヒト を どう おおもい に なって」
 まるで ショウジョ の よう な ムジャキ な チョウシ だった。 コトウ は ほほえんだ らしい ゴキ で、
「そんな こと は もう アナタ の ほう が くわしい はず じゃ ありません か…… シン の いい カツドウカ です よ」
「アナタ は?」
 ヨウコ は ぽんと タカビシャ に でた。 そして にやり と しながら がっくり と カオ を ウワムキ に はねて、 トコノマ の イッチョウ の ひどい マガイモノ を みやって いた。 コトウ が トッサ の ヘンジ に きゅうして、 すこし むっと した ヨウス で こたえしぶって いる の を みてとる と、 ヨウコ は コンド は コエ の チョウシ を おとして、 いかにも たよりない と いう ふう に、
「ヒザカリ は あつい から どこ ぞ で おやすみ なさいまし ね。 ……なるたけ はやく かえって きて くださいまし。 もしか して、 ビョウキ でも わるく なる と、 こんな ところ で こころぼそう ござんす から…… よくって」
 コトウ は ナニ か ヘイボン な ヘンジ を して、 エンイタ を ふみならしながら でて いって しまった。
 アサ の うち だけ からっと やぶった よう に はれわたって いた ソラ は、 ゴゴ から くもりはじめて、 マッシロ な クモ が タイヨウ の オモテ を なでて とおる たび ごと に ショキ は うすれて、 ソラ イチメン が ハイイロ に かきくもる コロ には、 はださむく おもう ほど に ショシュウ の キコウ は ゲキヘン して いた。 シグレ-らしく てったり ふったり して いた アメ の アシ も、 やがて じめじめ と ふりつづいて、 にしめた よう な きたない ヘヤ の ナカ は、 ことさら シトリ が つよく くる よう に おもえた。 ヨウコ は キョリュウチ の ほう に ある ガイコクジン アイテ の ヨウフクヤ や コマモノヤ など を よびよせて、 おもいきった ゼイタク な カイモノ を した。 カイモノ を して みる と ヨウコ は ジブン の サイフ の すぐ まずしく なって ゆく の を おそれない では いられなかった。 ヨウコ の チチ は ニホンバシ では ヒトカド の モンコ を はった イシ で、 シュウニュウ も ソウトウ には あった けれども、 リザイ の ミチ に まったく くらい の と、 ツマ の オヤサ が フジン ドウメイ の ジギョウ に ばかり ホンソウ して いて、 その ナミナミ ならぬ サイノウ を、 すこしも イエ の こと に もちいなかった ため、 その シゴ には シャッキン こそ のこれ、 イサン と いって は あわれ な ほど しか なかった。 ヨウコ は フタリ の イモウト を かかえながら この くるしい キョウグウ を きりぬけて きた。 それ は ヨウコ で あれば こそ しおおせて きた よう な もの だった。 ダレ にも ビンボウ-らしい ケシキ は ツユ ほど も みせない で いながら、 ヨウコ は しじゅう カヘイ 1 マイ 1 マイ の オモサ を はかって シハライ する よう な チュウイ を して いた。 それだのに メノマエ に イコク ジョウチョウ の ゆたか な ゼイタクヒン を みる と、 カノジョ の ドンヨク は あまい もの を みた コドモ の よう に なって、 ゼンゴ も わすれて カイチュウ に アリッタケ の カイモノ を して しまった の だ。 ツカイ を やって ショウキン ギンコウ で かえた キンカ は イマ いだされた よう な ヒカリ を はなって カイチュウ の ソコ に ころがって いた が、 それ を どう する こと も できなかった。 ヨウコ の ココロ は キュウ に くらく なった。 コガイ の テンキ も その ココロモチ に アイヅチ を うつ よう に みえた。 コトウ は うまく ナガタ から キップ を もらう こと が できる だろう か。 ヨウコ ジシン が ゆきえない ほど ヨウコ に たいして ハンカン を もって いる ナガタ が、 あの タンジュン な タクト の ない コトウ を どんな ふう に あつかったろう。 ナガタ の クチ から コトウ は イロイロ な ヨウコ の カコ を きかされ は しなかったろう か。 そんな こと を おもう と ヨウコ は ユウウツ が うみだす ハンコウテキ な キブン に なって、 ユ を わかさせて ニュウヨク し、 ネドコ を しかせ、 サイジョウトウ の シャンペン を とりよせて、 したたか それ を のむ と ゼンゴ も しらず ねむって しまった。
 ヨル に なったら トマリキャク が ある かも しれない と ジョチュウ の いった イツツ の ヘヤ は やはり カラ の まま で、 ヒ が とっぷり と くれて しまった。 ジョチュウ が ランプ を もって きた モノオト に ヨウコ は ようやく メ を さまして、 あおむいた まま、 すすけた テンジョウ に えがかれた ランプ の まるい コウリン を ぼんやり と ながめて いた。
 その とき じたっじたっ と ぬれた アシ で ハシゴダン を のぼって くる コトウ の アシオト が きこえた。 コトウ は ナニ か に ハラ を たてて いる らしい アシドリ で ずかずか と エンガワ を つたって きた が、 ふと たちどまる と おおきな コエ で チョウバ の ほう に どなった。
「はやく アマド を しめない か…… ビョウニン が いる ん じゃ ない か。……」
「この さむい のに なんだって アナタ も いいつけない ん です」
 コンド は こう ヨウコ に いいながら、 タテツケ の わるい ショウジ を あけて いきなり ナカ に はいろう と した が、 その シュンカン に はっと おどろいた よう な カオ を して たちすくんで しまった。
 コウスイ や、 ケショウヒン や、 サケ の カ を ごっちゃ に した あたたかい イキレ が いきなり コトウ に せまった らしかった。 ランプ が ほのぐらい ので、 ヘヤ の スミズミ まで は みえない が、 ヒカリ の てりわたる カギリ は、 ザッタ に おきならべられた なまめかしい オンナ の フクジ や、 ボウシ や、 ゾウカ や、 トリ の ハネ や、 コドウグ など で、 アシ の フミタテバ も ない まで に なって いた。 その イッポウ に トコノマ を セ に して、 グンナイ の フトン の ウエ に カイマキ を ワキノシタ から はおった、 イマ おきかえった ばかり の ヨウコ が、 ハデ な ナガジュバン ヒトツ で、 ヒガシ ヨーロッパ の ヒンキュウ の ヒト の よう に、 カタヒジ を ついた まま ヨコ に なって いた。 そして ニュウヨク と サケ と で ほんのり ほてった カオ を あおむけて、 おおきな メ を ユメ の よう に みひらいて じっと コトウ を みた。 その マクラモト には シャンペン の ビン が ホンシキ に コオリ の ナカ に つけて あって、 ノミサシ の コップ や、 きゃしゃ な カミイレ や、 かの オリーブ イロ の ツツミモノ を、 シゴキ の アカ が ヒ の クチナワ の よう に とりまいて、 その ハシ が ユビワ の フタツ はまった ダイリセキ の よう な ヨウコ の テ に もてあそばれて いた。
「おそう ござんした こと。 おまたされ なすった ん でしょう。 ……さ、 おはいり なさいまし。 そんな もの アシ で でも どけて ちょうだい、 ちらかしちまって」
 この オンガク の よう な すべすべ した チョウシ の コエ を きく と、 コトウ は はじめて イリュージョン から めざめた ふう で はいって きた。 ヨウコ は ヒダリテ を ニノウデ が のぞきでる まで ずっと のばして、 そこ に ある もの を ヒトハライ に はらいのける と、 カダン の ツチ を ほりおこした よう に きたない タタミ が ハンジョウ ばかり あらわれでた。 コトウ は ジブン の ボウシ を ヘヤ の スミ に ぶちなげて おいて、 はらいのこされた ホソガタ の キングサリ を かたづける と、 どっかと アグラ を かいて ショウメン から ヨウコ を みすえながら、
「いって きました。 フネ の キップ も たしか に うけとって きました」
と いって フトコロ の ナカ を さぐり に かかった。 ヨウコ は ちょっと あらたまって、
「ホント に ありがとう ございました」
と アタマ を さげた が、 たちまち ロギッシュ な メツキ を して、
「まあ そんな こと は いずれ アト で、 ね、 ……なにしろ おさむかった でしょう、 さ」
と いいながら ノミノコリ の サケ を ボン の ウエ に ムゾウサ に すてて、 2~3 ド ヒダリテ を ふって シズク を きって から、 コップ を コトウ に さしつけた。 コトウ の メ は ナニ か に ゲッコウ して いる よう に かがやいて いた。
「ボク は のみません」
「おや なぜ」
「のみたく ない から のまない ん です」
 この かどばった ヘントウ は オトコ を てもなく あやしなれて いる ヨウコ にも イガイ だった。 それで その アト の コトバ を どう つごう か と、 ちょっと ためらって コトウ の カオ を みやって いる と、 コトウ は たたみかけて クチ を きった。
「ナガタ って の は あれ は アナタ の チジン です か。 おもいきって ソンダイ な ニンゲン です ね。 キミ の よう な ニンゲン から カネ を うけとる リユウ は ない が、 とにかく あずかって おいて、 いずれ ちょくせつ アナタ に テガミ で いって あげる から、 はやく かえれ って いう ん です、 アタマ から。 シッケイ な ヤツ だ」
 ヨウコ は この コトバ に じょうじて きまずい ココロモチ を かえよう と おもった。 そして まっしぐら に ナニ か いいだそう と する と、 コトウ は おっかぶせる よう に コトバ を つづけて、
「アナタ は いったい まだ ハラ が いたむ ん です か」
と きっぱり いって かたく すわりなおした。 しかし その とき に ヨウコ の ジンダテ は すでに できあがって いた。 ハジメ の ホホエミ を ソノママ に、
「ええ、 すこし は よく なりまして よ」
と いった。 コトウ は タンペイキュウ に、
「それにしても なかなか ゲンキ です ね」
と たたみかけた。
「それ は オクスリ に これ を すこし いただいた から でしょう よ」
と シャンペン を ゆびさした。
 ショウメン から はねかえされて コトウ は だまって しまった。 しかし ヨウコ も イキオイ に のって おいせまる よう な こと は しなかった。 ヤゴロ を はかって から ゴキ を かえて ずっと シタテ に なって、
「ミョウ に おおもい に なった でしょう ね。 わるう ございまして ね。 こんな ところ に きて いて、 オサケ なんか のむ の は ホントウ に わるい と おもった ん です けれども、 キブン が ふさいで くる と、 ワタシ には これ より ホカ に オクスリ は ない ん です もの。 サッキ の よう に くるしく なって くる と ワタシ は いつでも オユ を アツメ に して はいって から、 オサケ を のみすぎる くらい のんで ねる ん です の。 そう する と」
と いって、 ちょっと いいよどんで みせて、
「10 プン か 20 プン ぐっすり ねいる ん です のよ…… イタミ も なにも わすれて しまって いい ココロモチ に……。 それから キュウ に アタマ が かっと いたんで きます の。 そして それ と イッショ に キ が めいりだして、 もうもう どうして いい か わからなく なって、 コドモ の よう に なきつづける と、 その うち に また ねむたく なって ヒトネイリ します のよ。 そう する と その アト は いくらか さっぱり する ん です。 ……チチ や ハハ が しんで しまって から、 たのみ も しない のに シンルイ たち から ヨケイ な セワ を やかれたり、 ヒトヂカラ なんぞ を アテ に せず に イモウト フタリ を そだてて いかなければ ならない と おもったり する と、 ワタシ の よう な、 ヒトサマ と ちがって フウガワリ な、 ……そら、 5 ホン の ホネ でしょう」
と さびしく わらった。
「それ です もの どうぞ カンニン して ちょうだい。 おもいきり なきたい とき でも しらん カオ を して わらって とおして いる と、 こんな ワタシ みたい な キマグレモノ に なる ん です。 キマグレ でも しなければ いきて いけなく なる ん です。 オトコ の カタ には この ココロモチ は おわかり には ならない かも しれない けれども」
 こう いってる うち に ヨウコ は、 ふと キベ との コイ が はかなく やぶれた とき の、 ワレ にも なく ミ に しみわたる サビシミ や、 しぬ まで ヒカゲモノ で あらねば ならぬ シセイシ の サダコ の こと や、 はからずも キョウ まのあたり みた キベ の、 しんから やつれた オモカゲ など を おもいおこした。 そして さらに、 ハハ の しんだ ヨ、 ヒゴロ は ミムキ も しなかった シンルイ たち が よりあつまって きて、 サツキ-ケ には ケ の スエ ほど も ドウジョウ の ない ココロ で、 サツキ-ケ の ゼンゴサク に ついて、 さも ジュウダイ-らしく カッテ キママ な こと を シンセツゴカシ に しゃべりちらす の を きかされた とき、 どう に でも なれ と いう キ に なって、 あばれぬいた こと が、 ジブン に さえ かなしい オモイデ と なって、 ヨウコ の アタマ の ナカ を ヤ の よう に はやく ひらめきとおった。 ヨウコ の カオ には ヒト に ゆずって は いない ジシン の イロ が あらわれはじめた。
「ハハ の ショナヌカ の とき も ね、 ワタシ は タテツヅケ に ビール を ナンバイ のみましたろう。 なんでも ビン が そこいら に ごろごろ ころがりました。 そして シマイ には ナニ が なんだか ムチュウ に なって、 タク に デイリ する オイシャ さん の ヒザ を マクラ に、 ナキネイリ に ねいって、 ヨナカ を アナタ 2 ジカン の ヨ も ねつづけて しまいました わ。 シンルイ の ヒトタチ は それ を みる と ヒトリ かえり フタリ かえり して、 ソウダン も なにも めちゃくちゃ に なった ん ですって。 ハハ の シャシン を マエ に おいといて、 ワタシ は そんな こと まで する ニンゲン です の。 おあきれ に なった でしょう ね。 いや な ヤツ でしょう。 アナタ の よう な カタ から ゴラン に なったら、 さぞ いや な キ が なさいましょう ねえ」
「ええ」
と コトウ は メ も うごかさず に ブッキラボウ に こたえた。
「それでも アナタ」
と ヨウコ は せつなさそう に なかば おきあがって、
「ウワツラ だけ で ヒト の する こと を なんとか おっしゃる の は すこし ザンコク です わ。 ……いいえ ね」
と コトウ の ナニ か いいだそう と する の を さえぎって、 コンド は きっと すわりなおった。
「ワタシ は ナキゴト を いって ヒトサマ にも ないて いただこう なんて、 そんな こと は コレンバカリ も おも や しません とも…… なる なら どこ か に オオヅツ の よう な おおきな チカラ の つよい ヒト が いて、 その ヒト が シンケン に おこって、 ヨウコ の よう な ニンピニン は こうして やる ぞ と いって、 ワタシ を おさえつけて シンゾウ でも アタマ でも くだけて とんで しまう ほど セッカン を して くれたら と おもう ん です の。 どの ヒト も どの ヒト も ちゃんと ジブン を わすれない で、 イイカゲン に おこったり、 イイカゲン に ないたり して いる ん です から ねえ。 なんだって こう なまぬるい ん でしょう。
 ギイチ さん (ヨウコ が コトウ を こう ナ で よんだ の は この とき が はじめて だった) アナタ が ケサ、 シン の ショウジキ な なんとか だ と おっしゃった キムラ に えんづく よう に なった の も、 その バン の こと です。 イソガワ が シンルイ-ジュウ に サンセイ さして、 はれがましく も ワタシ を ミンナ の マエ に ひきだして おいて、 ザイニン に でも いう よう に センコク して しまった の です。 ワタシ が ヒトクチ でも いおう と すれば、 イソガワ の いう には ハハ の ユイゴン ですって。 シニン に クチ なし。 ホント に キムラ は アナタ が おっしゃった よう な ニンゲン ね。 センダイ で あんな こと が あった でしょう。 あの とき チジ の オクサン はじめ ハハ の ほう は なんとか しよう が ムスメ の ほう は ホショウ が できない と おっしゃった ん です とさ」
 いいしらぬ ブベツ の イロ が ヨウコ の カオ に みなぎった。
「ところが キムラ は ジブン の カンガエ を おしとおし も しない で、 おめおめ と シンブン には ハハ だけ の ナ を だして あの コウコク を した ん です の。
 ハハ だけ が いい ヒト に なれば ダレ だって ワタシ を…… そう でしょう。 その アゲク に キムラ は しゃあしゃあ と ワタシ を ツマ に したい ん ですって。 ギイチ さん、 オトコ って それ で いい もの なん です か。 まあ ね モノ の タトエ が です わ。 それとも コトバ では なんと いって も ムダ だ から、 ジッコウテキ に ワタシ の ケッパク を たてて やろう と でも いう ん でしょう か」
 そう いって ゲッコウ しきった ヨウコ は かみすてる よう に かんだかく ほほ と わらった。
「いったい ワタシ は ちょっと した こと で スキキライ の できる わるい タチ なん です から ね。 と いって ワタシ は アナタ の よう な キイッポン でも ありません のよ。
 ハハ の ユイゴン だ から キムラ と フウフ に なれ。 はやく ミ を かためて ジミチ に くらさなければ ハハ の メイヨ を けがす こと に なる。 イモウト だって ハダカ で オヨメイリ も できまい と いわれれば、 ワタシ リッパ に キムラ の ツマ に なって ゴラン に いれます。 そのかわり キムラ が すこし つらい だけ。
 こんな こと を アナタ の マエ で いって は さぞ キ を わるく なさる でしょう が、 マッスグ な アナタ だ と おもいます から、 ワタシ も その キ で なにもかも うちあけて もうして しまいます のよ。 ワタシ の セイシツ や キョウグウ は よく ゴゾンジ です わね。 こんな セイシツ で こんな キョウグウ に いる ワタシ が こう かんがえる の に もし マチガイ が あったら、 どうか エンリョ なく おっしゃって ください。
 ああ いや だった こと。 ギイチ さん、 ワタシ こんな こと は オクビ にも ださず に イマ の イマ まで しっかり ムネ に しまって ガマン して いた の です けれども、 キョウ は どうした ん でしょう、 なんだか とおい タビ に でも でた よう な さびしい キ に なって しまって……」
 ユヅル を きって はなした よう に コトバ を けして ヨウコ は うつむいて しまった。 ヒ は いつのまにか とっぷり と くれて いた。 じめじめ と ふりつづく アキサメ に しとった ヨカゼ が ほそぼそ と かよって きて、 シッケ で たるんだ ショウジガミ を そっと あおって とおった。 コトウ は ヨウコ の カオ を みる の を さける よう に、 そこら に ちらばった フクジ や ボウシ など を ながめまわして、 なんと ヘントウ を して いい の か、 いう べき こと は ハラ に ある けれども コトバ には あらわせない ふう だった。 ヘヤ は いきぐるしい ほど しんと なった。
 ヨウコ は ジブン の コトバ から、 その とき の アリサマ から、 ミョウ に やるせない さびしい キブン に なって いた。 つよい オトコ の テ で おもうぞんぶん リョウカタ でも だきすくめて ほしい よう な タヨリナサ を かんじた。 そして ヨコハラ に ふかぶか と テ を やって、 さしこむ イタミ を こらえる らしい スガタ を して いた。 コトウ は やや しばらく して から ナニ か ケッシン した らしく マトモ に ヨウコ を みよう と した が、 ヨウコ の せつなさそう な あわれ な ヨウス を みる と、 おどろいた カオツキ を して われしらず ヨウコ の ほう に いざりよった。 ヨウコ は すかさず ヒョウ の よう に なめらか に ミ を おこして いちはやく も しっかり コトウ の さしだす テ を にぎって いた。 そして、
「ギイチ さん」
と フルエ を おびて いった コエ は ぞんぶん に ナミダ に ぬれて いる よう に ひびいた。 コトウ は コエ を わななかして、
「キムラ は そんな ニンゲン じゃ ありません よ」
と だけ いって だまって しまった。
 ダメ だった と ヨウコ は その トタン に おもった。 ヨウコ の ココロモチ と コトウ の ココロモチ とは ちぐはぐ に なって いる の だ。 なんと いう ヒビキ の わるい ココロ だろう と ヨウコ は それ を さげすんだ。 しかし ヨウス には そんな ココロモチ は すこしも みせない で、 アタマ から カタ へ かけて の なよやか な セン を カゼ の マエ の テッセン の ツル の よう に ふるわせながら、 2~3 ド ふかぶか と うなずいて みせた。
 しばらく して から ヨウコ は カオ を あげた が、 ナミダ は すこしも メ に たまって は いなかった。 そして いとしい オトウト でも いたわる よう に フトン から タチアガリザマ、
「すみません でした こと、 ギイチ さん、 アナタ ゴハン は まだ でした のね」
と いいながら、 ハラ の いたむ の を こらえる よう な スガタ で コトウ の マエ を とおりぬけた。 ユ で ほんのり と あからんだ スアシ に コトウ の メ が するどく ちらっと やどった の を かんじながら、 ショウジ を ホソメ に あけて テ を ならした。
 ヨウコ は その バン フシギ に アクマ-じみた ユウワク を コトウ に かんじた。 ドウテイ で ムケイケン で コイ の タワムレ には なんの オモシロミ も なさそう な コトウ、 キムラ に たいして と いわず、 トモダチ に たいして かたくるしい ギム カンネン の つよい コトウ、 そういう オトコ に たいして ヨウコ は イマ まで なんの キョウミ をも かんじなかった ばかり か、 ハタラキ の ない ワカラズヤ と みかぎって、 クチサキ ばかり で ニンゲンナミ の アシライ を して いた の だ。 しかし その バン ヨウコ は この ショウネン の よう な ココロ を もって ニク の じゅくした コトウ に ツミ を おかさせて みたくって たまらなく なった。 イチヤ の うち に キムラ とは カオ も あわせる こと の できない ニンゲン に して みたくって たまらなく なった。 コトウ の ドウテイ を やぶる テ を タ の オンナ に まかせる の が ねたましくて たまらなく なった。 イクマイ も カワ を かぶった コトウ の ココロ の ドンゾコ に かくれて いる ヨクネン を ヨウコ の チャーム で ほりおこして みたくって たまらなく なった。
 けどられない ハンイ で ヨウコ が あらん カギリ の ナゾ を あたえた にも かかわらず、 コトウ が かたく なって しまって それ に おうずる ケシキ の ない の を みる と ヨウコ は ますます いらだった。 そして その バン は ハラ が いたんで どうしても トウキョウ に かえれない から、 いや でも ヨコハマ に とまって くれ と いいだした。 しかし コトウ は がん と して きかなかった。 そして ジブン で でかけて いって、 シナ も あろう こと か マッカ な モウフ を 1 マイ かって かえって きた。 ヨウコ は とうとう ガ を おって サイシュウ レッシャ で トウキョウ に かえる こと に した。
 イットウ の キャクシャ には フタリ の ホカ に ジョウキャク は なかった。 ヨウコ は ふとした デキゴコロ から コトウ を おとしいれよう と した モクロミ に シッパイ して、 ジブン の セイフクリョク に たいする かすか な シツボウ と、 ぞんぶん の フカイ と を かんじて いた。 キャクシャ の ナカ では また いろいろ と はなそう と いって おきながら、 キシャ が うごきだす と すぐ、 コトウ の ヒザ の ソバ で モウフ に くるまった まま シンバシ まで ねとおして しまった。
 シンバシ に ついて から コトウ が フネ の キップ を ヨウコ に わたして ジンリキシャ を 2 ダイ やとって、 その ヒトツ に のる と、 ヨウコ は それ に かけよって カイチュウ から とりだした カミイレ を コトウ の ヒザ に ほうりだして、 ヒダリ の ビン を やさしく かきあげながら、
「キョウ の オタテカエ を どうぞ その ナカ から…… アス は きっと いらしって くださいまし ね…… おまち もうします こと よ…… さようなら」
と いって ジブン も もう ヒトツ の クルマ に のった。 ヨウコ の カミイレ の ナカ には ショウキン ギンコウ から うけとった 50 エン キンカ 8 マイ が はいって いる。 そして ヨウコ は コトウ が それ を くずして タテカエ を とる キヅカイ の ない の を ショウチ して いた。


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