カナ文字文庫(漢字廃止論)

日本文学の名作などをカナ書きに改めて掲載。

ある オンナ (ゼンペン 5)

2021-10-23 | アリシマ タケオ
 10

 はじめて の リョカク も ものなれた リョカク も、 バツビョウ した ばかり の フネ の カンパン に たって は、 おちついた ココロ で いる こと が できない よう だった。 アトシマツ の ため に せわしく ウオウ サオウ する センイン の ジャマ に なりながら、 なにがなし の コウフン に じっと して は いられない よう な カオツキ を して、 ジョウキャク は ヒトリ のこらず カンパン に あつまって、 イマ まで ジブン たち が ソバ ちかく みて いた サンバシ の ほう に メ を むけて いた。 ヨウコ も その ヨウス だけ で いう と、 タ の ジョウキャク と おなじ よう に みえた。 ヨウコ は タ の ジョウキャク と おなじ よう に テスリ に よりかかって、 しずか な ハルサメ の よう に ふって いる アメ の シズク に カオ を なぶらせながら、 ハトバ の ほう を ながめて いた が、 けれども その ヒトミ には なんにも うつって は いなかった。 そのかわり メ と ノウ との アイダ と おぼしい アタリ を、 したしい ヒト や うとい ヒト が、 ナニ か ワケ も なく せわしそう に あらわれでて、 めいめい いちばん ふかい インショウ を あたえる よう な ドウサ を して は きえて いった。 ヨウコ の チカク は ハンブン ねむった よう に ぼんやり して チュウイ する とも なく その スガタ に チュウイ して いた。 そして この ハンスイ の ジョウタイ が やぶれ でも したら タイヘン な こと に なる と、 ココロ の どこ か の スミ では かんがえて いた。 そのくせ、 それ を ものものしく おそれる でも なかった。 カラダ まで が カンカクテキ に しびれる よう な モノウサ を おぼえた。
 ワカモノ が あらわれた。 (どうして あの オトコ は それほど の インネン も ない のに しゅうねく つきまつわる の だろう と ヨウコ は ヒトゴト の よう に おもった) その みだれた うつくしい カミノケ が、 ユウヒ と かがやく まぶしい ヒカリ の ナカ で、 ブロンド の よう に きらめいた。 かみしめた その ヒダリ の ウデ から チ が ぽたぽた と したたって いた。 その シタタリ が ウデ から はなれて チュウ に とぶ ごと に、 ニジイロ に きらきら と トモエ を えがいて とびおどった。
「……ワタシ を みすてる ん……」
 ヨウコ は その コエ を まざまざ と きいた と おもった とき、 メ が さめた よう に ふっと あらためて ミナト を みわたした。 そして、 なんの カンジ も おこさない うち に、 ジュクスイ から ちょっと おどろかされた アカゴ が、 また たわいなく ネムリ に おちて ゆく よう に、 ふたたび ユメ とも ウツツ とも ない ココロ に かえって いった。 ミナト の ケシキ は いつのまにか きえて しまって、 ジブン で ジブン の ウデ に しがみついた ワカモノ の スガタ が、 まざまざ と あらわれでた。 ヨウコ は それ を みながら どうして こんな ヘン な ココロモチ に なる の だろう。 チ の せい と でも いう の だろう か。 コト に よる と ヒステリー に かかって いる の では ない かしらん など と ノンキ に ジブン の ミノウエ を かんがえて いた。 いわば ゆうゆう かんかん と すみわたった ミズ の トナリ に、 ウスガミ ヒトエ の サカイ も おかず、 たぎりかえって うずまきながれる ミズ が ある。 ヨウコ の ココロ は その しずか な ほう の ミズ に うかびながら、 タキガワ の ナカ に もまれ もまれて おちて ゆく ジブン と いう もの を ヒトゴト の よう に ながめやって いる よう な もの だった。 ヨウコ は ジブン の レイタンサ に あきれながら、 それでも やっぱり おどろき も せず、 テスリ に よりかかって じっと たって いた。
「タガワ ホウガク ハカセ」
 ヨウコ は また ふと イタズラモノ-らしく こんな こと を おもって いた。 が、 タガワ フサイ が ジブン と ハンタイ の フナベリ の トウイス に こしかけて、 せじせじしく ちかよって くる ドウセンシャ と ナニ か ジョウダングチ でも きいて いる と ヒトリ で きめる と、 アンシン でも した よう に ゲンソウ は また かの ワカモノ に かえって いった。 ヨウコ は ふと ミギ の カタ に アタタカミ を おぼえる よう に おもった。 そこ には ワカモノ の あつい ナミダ が しみこんで いる の だ。 ヨウコ は ムユウビョウシャ の よう な メツキ を して、 やや アタマ を ウシロ に ひきながら カタ の ところ を みよう と する と、 その シュンカン、 ワカモノ を フネ から サンバシ に つれだした センイン の こと が はっと おもいだされて、 イマ まで めしいて いた よう な メ に、 まざまざ と その おおきな くろい カオ が うつった。 ヨウコ は なお ゆめみる よう な メ を みひらいた まま、 センイン の こい マユ から くろい クチヒゲ の アタリ を みまもって いた。
 フネ は もう かなり ソクリョク を はやめて、 キリ の よう に ふる とも なく ふる アメ の ナカ を はしって いた。 ゲンソク から はきだされる ステミズ の オト が ざあざあ と きこえだした ので、 とおい ゲンソウ の クニ から イッソクトビ に とって かえした ヨウコ は、 ユメ では なく、 マガイ も なく メノマエ に たって いる センイン を みて、 なんと いう こと なし に ぎょっと ホントウ に おどろいて たちすくんだ。 はじめて アダム を みた イブ の よう に ヨウコ は まじまじ と めずらしく も ない はず の ヒトリ の オトコ を みやった。
「ずいぶん ながい タビ です が、 なに、 もう これだけ ニホン が とおく なりました ん だ」
と いって その センイン は ミギテ を のべて キョリュウチ の ハナ を ゆびさした。 がっしり した カタ を ゆすって、 イキオイ よく スイヘイ に のばした その ウデ から は、 つよく はげしく カイジョウ に いきる オトコ の チカラ が ほとばしった。 ヨウコ は だまった まま かるく うなずいた。 ムネ の シタ の ところ に フシギ な ニクタイテキ な ショウドウ を かすか に かんじながら。
「オヒトリ です な」
 しおがれた つよい コエ が また こう ひびいた。 ヨウコ は また だまった まま かるく うなずいた。
 フネ は やがて ノリタテ の センキャク の アシモト に かすか な フアン を あたえる ほど に ソクリョク を はやめて はしりだした。 ヨウコ は センイン から メ を うつして ウミ の ほう を みわたして みた が、 ジブン の ソバ に ヒトリ の オトコ が たって いる と いう、 つよい イシキ から おこって くる フアン は どうしても けす こと が できなかった。 ヨウコ に して は それ は フシギ な ケイケン だった。 こっち から ナニ か モノ を いいかけて、 この くるしい アッパク を うちやぶろう と おもって も それ が できなかった。 イマ ナニ か モノ を いったら きっと ひどい フシゼン な モノ の イイカタ に なる に きまって いる。 そう か と いって その センイン には ムトンジャク に もう イチド マエ の よう な ゲンソウ に ミ を まかせよう と して も ダメ だった。 シンケイ が キュウ に ざわざわ と さわぎたって、 ぼーっと けぶった キリサメ の かなた さえ みとおせそう に メ が はっきり して、 サキホド の おっかぶさる よう な アンシュウ は、 いつのまにか はかない デキゴコロ の シワザ と しか かんがえられなかった。 その センイン は ボウジャク ブジン に カクシ の ナカ から ナニ か かいた もの を とりだして、 それ を エンピツ で チェック しながら、 ときどき おもいだした よう に カオ を ひいて マユ を しかめながら、 エリ の オリカエシ に ついた シミ を、 オヤユビ の ツメ で ごしごし と けずって は はじいて いた。
 ヨウコ の シンケイ は そこ に いたたまれない ほど ちかちか と はげしく はたらきだした。 ジブン と ジブン との アイダ に のそのそ と エンリョ も なく オオマタ で はいりこんで くる ジャマモノ でも さける よう に、 その センイン から とおざかろう と して、 つと テスリ から はなれて ジブン の センシツ の ほう に ハシゴダン を おりて ゆこう と した。
「どこ に オイデ です」
 ウシロ から、 ヨウコ の アタマ から ツマサキ まで を ちいさな もの で でも ある よう に、 ヒトメ に こめて みやりながら、 その センイン は こう たずねた。 ヨウコ は、
「センシツ まで まいります の」
と こたえない わけ には ゆかなかった。 その コエ は ヨウコ の モクロミ に はんして おそろしく しとやか な ヒビキ を たてて いた。 すると その オトコ は オオマタ で ヨウコ と スレスレ に なる まで ちかづいて きて、
「カビン ならば ナガタ さん から の オハナシ も ありました し、 オヒトリタビ の よう でした から、 イムシツ の ワキ に うつして おきました。 ゴラン に なった マエ の ヘヤ より すこし キュウクツ かも しれません が、 ナニカ に ゴベンリ です よ。 ゴアンナイ しましょう」
と いいながら ヨウコ を すりぬけて サキ に たった。 ナニ か ホウジュン な サケ の シミ と シガー との ニオイ が、 この オトコ コユウ の ハダ の ニオイ で でも ある よう に つよく ヨウコ の ハナ を かすめた。 ヨウコ は、 どしん どしん と せまい ハシゴダン を ふみしめながら おりて ゆく その オトコ の ふとい クビ から ひろい カタ の アタリ を じっと みやりながら その アト に つづいた。
 24~25 キャク の イス が ショクタク に セ を むけて ずらっと ならべて ある ショクドウ の ナカホド から、 ヨコチョウ の よう な くらい ロウカ を ちょっと はいる と、 ミギ の ト に 「イムシツ」 と かいた ガンジョウ な シンチュウ の フダ が かかって いて、 その ムカイ の ヒダリ の ト には 「No.12 サツキ ヨウコ ドノ」 と ハクボク で かいた ウルシヌリ の フダ が さがって いた。 センイン は つかつか と そこ に はいって、 いきなり イキオイ よく イムシツ の ト を ノック する と、 たかい ダブル カラー の マエ だけ を はずして、 ウワギ を ぬぎすてた センイ らしい オトコ が、 あたふた と ほそながい なまじろい カオ を つきだした が、 そこ に ヨウコ が たって いる の を めざとく みてとって、 あわてて クビ を ひっこめて しまった。 センイン は おおきな ハバカリ の ない コエ で、
「おい 12 バン は すっかり ソウジ が できたろう ね」
と いう と、 イムシツ の ナカ から は オンナ の よう な コエ で、
「さして おきました よ。 きれい に なってる はず です が、 ゴラン なすって ください。 ワタシ は イマ ちょっと」
と センイ は スガタ を みせず に こたえた。
「こりゃ いったい センイ の プライベート なん です が、 アナタ の ため に おあけ もうす って いって くれた もん です から、 ボーイ に ソウジ する よう に いいつけて おきました ん です。 ど、 きれい に なっとる かしらん」
 センイン は そう つぶやきながら ト を あけて ひとわたり ナカ を みまわした。
「むむ、 いい よう です」
 そして ミチ を ひらいて、 カクシ から 「ニッポン ユウセン-ガイシャ エノシママル ジムチョウ クン 6 トウ クラチ サンキチ」 と かいた おおきな メイシ を だして ヨウコ に わたしながら、
「ワタシ が ジムチョウ を しとります。 ゴヨウ が あったら なんでも どうか」
 ヨウコ は また だまった まま うなずいて その おおきな メイシ を テ に うけた。 そして ジブン の ヘヤ と きめられた その ヘヤ の たかい シキイ を こえよう と する と、
「ジムチョウ さん は そこ でした か」
と たずねながら タガワ ハカセ が その フジン と うちつれて ロウカ の ナカ に たちあらわれた。 ジムチョウ が ボウシ を とって アイサツ しよう と して いる アイダ に、 ヨウソウ の タガワ フジン は ヨウコ を めざして、 スカーツ の キヌズレ の オト を たてながら つかつか と よって きて メガネ の オク から ちいさく ひかる メ で じろり と みやりながら、
「イソガワ さん が ウワサ して いらしった カタ は アナタ ね。 なんとか おっしゃいました ね オナ は」
と いった。 この 「なんとか おっしゃいました ね」 と いう コトバ が、 ナ も ない モノ を あわれんで みて やる と いう ハラ を ジュウブン に みせて いた。 イマ まで ジムチョウ の マエ で、 めずらしく ウケミ に なって いた ヨウコ は、 この コトバ を きく と、 つよい ショウドウ を うけた よう に なって ワレ に かえった。 どういう タイド で ヘンジ を して やろう か と いう こと が、 イチバン に アタマ の ナカ で ハツカネズミ の よう に はげしく はたらいた が、 ヨウコ は すぐ ハラ を きめて ひどく シタデ に ジンジョウ に でた。 「あ」 と おどろいた よう な コトバ を なげて おいて、 テイネイ に ひくく ツムリ を さげながら、
「こんな ところ まで…… おそれいります。 ワタクシ サツキ ヨウ と もうします が、 タビ には フナレ で おります のに ヒトリタビ で ございます から……」
と いって、 ヒトミ を イナズマ の よう に タガワ に うつして、
「ゴメイワク では ございましょう が なにぶん よろしく ねがいます」
と また ツムリ を さげた。 タガワ は その コトバ の おわる の を まちかねた よう に ひきとって、
「なに フナレ は ワタシ の サイ も ドウヨウ です よ。 なにしろ この フネ の ナカ には オンナ は フタリ ぎり だ から オタガイ です」
と あまり なめらか に いって のけた ので、 ツマ の マエ でも はばかる よう に コンド は タイド を あらためながら ジムチョウ に むかって、
「チャイニース ステアレージ には ナンニン ほど います か ニホン の オンナ は」
と といかけた。 ジムチョウ は レイ の シオカラゴエ で、
「さあ、 まだ チョウボ も ろくろく セイリ して みません から、 しっかり とは わかりかねます が、 なにしろ コノゴロ は だいぶ ふえました。 30~40 ニン も います か。 オクサン ここ が イムシツ です。 なにしろ 9 ガツ と いえば キュウ の ニッパチガツ の 8 ガツ です から、 タイヘイヨウ の ほう は しける こと も あります ん だ。 たまに は ここ にも ゴヨウ が できます ぞ。 ちょっと センイ も ゴショウカイ して おきます で」
「まあ そんな に あれます か」
と タガワ フジン は じっさい おそれた らしく、 ヨウコ を かえりみながら すこし イロ を かえた。 ジムチョウ は こともなげ に、
「しけます ん だ ずいぶん」
と コンド は ヨウコ の ほう を マトモ に みやって ほほえみながら、 おりから ヘヤ を でて きた コウロク と いう センイ を 3 ニン に ひきあわせた。
 タガワ フサイ を みおくって から ヨウコ は ジブン の ヘヤ に はいった。 さらぬだに どこ か じめじめ する よう な カビン には、 キョウ の アメ の ため に むす よう な クウキ が こもって いて、 キセン トクユウ な セイヨウ-くさい ニオイ が ことに つよく ハナ に ついた。 オビ の シタ に なった ヨウコ の ムネ から セ に かけた アタリ は アセ が じんわり にじみでた らしく、 むしむし する よう な フユカイ を かんずる ので、 せまくるしい バース を とりつけたり、 センメンダイ を すえたり して ある その アイダ に、 キュウクツ に つみかさねられた コニモツ を みまわしながら、 オビ を ときはじめた。 ケショウ カガミ の ついた タンス の ウエ には、 クダモノ の カゴ が ヒトツ と ハナタバ が フタツ のせて あった。 ヨウコ は エリマエ を くつろげながら、 ダレ から よこした もの か と その ハナタバ の ヒトツ を とりあげる と、 その ソバ から あつい カミキレ の よう な もの が でて きた。 テ に とって みる と それ は テフダガタ の シャシン だった。 まだ ジョガッコウ に かよって いる らしい、 カミ を ソクハツ に した ムスメ の ハンシンゾウ で、 その ウラ には 「コウロク サマ。 とりのこされたる チヨ より」 と して あった。 そんな もの を コウロク が しまいわすれる はず が ない。 わざと わすれた ふう に みせて、 ヨウコ の ココロ に コウキシン なり かるい シット なり を あおりたてよう と する、 あまり テモト の みえすいた カラクリ だ と おもう と、 ヨウコ は さげすんだ ココロモチ で、 イヌ に でも やる よう に ぽいと それ を ユカ の ウエ に ほうりなげた。 ヒトリ の タビ の フジン に たいして フネ の ナカ の オトコ の ココロ が どういう ふう に うごいて いる か を その シャシン 1 マイ が カタリガオ だった。 ヨウコ は なんと いう こと なし に ちいさな ヒニク な ワライ を クチビル の ところ に うかべて いた。
 シンダイ の シタ に おしこんで ある ひらべったい トランク を ひきだして、 その ナカ から ユカタ を とりだして いる と、 ノック も せず に とつぜん ト を あけた モノ が あった。 ヨウコ は おもわず シュウチ から カオ を あからめて、 ひきだした ハデ な ユカタ を タテ に、 しだらなく ぬぎかけた ナガジュバン の スガタ を かくまいながら たちあがって ふりかえって みる と、 それ は センイ だった。 はなやか な シタギ を ユカタ の トコロドコロ から のぞかせて、 オビ も なく ほっそり と トホウ に くれた よう に ミ を シャ に して たった ヨウコ の スガタ は、 オトコ の メ には ほしいまま な シゲキ だった。 コンイズク-らしく ト も たたかなかった コウロク も さすが に どぎまぎ して、 はいろう にも でよう にも ショザイ に きゅうして、 シキイ に カタアシ を ふみいれた まま トウワク そう に たって いた。
「とんだ フウ を して いまして ごめん くださいまし。 さ、 おはいり あそばせ。 なんぞ ゴヨウ でも いらっしゃいました の」
と ヨウコ は わらいかまけた よう に いった。 コウロク は いよいよ ド を うしないながら、
「いいえ なに、 イマ で なくって も いい の です が、 モト の オヘヤ の オマクラ の シタ に この テガミ が のこって いました の を、 ボーイ が とどけて きました んで、 はやく さしあげて おこう と おもって じつは ナニ した ん でした が……」
と いいながら カクシ から 2 ツウ の テガミ を とりだした。 てばやく うけとって みる と、 ヒトツ は コトウ が キムラ に あてた もの、 ヒトツ は ヨウコ に あてた もの だった。 コウロク は それ を てわたす と、 イッシュ の イミ ありげ な ワライ を メ だけ に うかべて、 カオ だけ は いかにも もっともらしく ヨウコ を みやって いた。 ジブン の した こと を ヨウコ も した と コウロク は おもって いる に ちがいない。 ヨウコ は そう スイリョウ する と、 かの ムスメ の シャシン を ユカ の ウエ から ひろいあげた。 そして わざと ウラ を むけながら ミムキ も しない で、
「こんな もの が ここ にも おちて おりました の。 オイモウト さん で いらっしゃいます か。 おきれい です こと」
と いいながら それ を つきだした。
 コウロク は ナニ か イイワケ の よう な こと を いって ヘヤ を でて いった。 と おもう と しばらく して イムシツ の ほう から ジムチョウ の らしい おおきな ワライゴエ が きこえて きた。 それ を きく と、 ジムチョウ は まだ そこ に いた か と、 ヨウコ は ワレ にも なく はっと なって、 おもわず きかえかけた キモノ の エモン に ヒダリテ を かけた まま、 ウツムキ カゲン に なって ヨコメ を つかいながら ミミ を そばだてた。 ハレツ する よう な ジムチョウ の ワライゴエ が また きこえて きた。 そして イムシツ の ト を さっと あけた らしく、 コエ が キュウ に イチバイ おおきく なって、
「Devil take it! No tame creature then, eh?」
と ランボウ に いう コエ が きこえた が、 それ と ともに マッチ を する オト が して、 やがて ハマキ を くわえた まま の クチゴモリ の する コトバ で、
「もう じき ケンエキセン だ。 ジュンビ は いい だろう な」
と いいのこした まま ジムチョウ は センイ の ヘンジ も またず に いって しまった らしかった。 かすか な ニオイ が ヨウコ の ヘヤ にも かよって きた。
 ヨウコ は キキミミ を たてながら うなだれて いた カオ を あげる と、 ショウメン を きって なんと いう こと なし に ビショウ を もらした。 そして すぐ ぎょっと して アタリ を みまわした が、 ワレ に かえって ジブン ヒトリ きり なの に アンド して、 いそいそ と キモノ を きかえはじめた。

 11

 エノシママル が ヨコハマ を バツビョウ して から もう ミッカ たった。 トウキョウ ワン を でぬける と、 クロシオ に のって、 キンカザン オキ アタリ から は コウロ を トウホク に むけて、 まっしぐら に イド を のぼって ゆく ので、 キオン は フツカ-メ アタリ から めだって すずしく なって いった。 リク の カゲ は いつのまにか フネ の どの フナベリ から も ながめる こと は できなく なって いた。 セバネ の ハイイロ な ハラ の しろい ウミドリ が、 ときどき おもいだした よう に さびしい コエ で なきながら、 フネ の シュウイ を むれとぶ ホカ には、 イキモノ の カゲ とて は みる こと も できない よう に なって いた。 おもい つめたい ガス が ノビ の ケムリ の よう に もうもう と ミナミ に はしって、 それ が アキ-らしい サギリ と なって、 センタイ を つつむ か と おもう と、 たちまち からっと はれた アオゾラ を フネ に のこして きえて いったり した。 カクベツ の カゼ も ない のに カイメン は いろこく なみうちさわいだ。 ミッカ-メ から は フネ の ナカ に さかん に スティム が とおりはじめた。
 ヨウコ は この ミッカ と いう もの、 イチド も ショクドウ に でず に センシツ に ばかり とじこもって いた。 フネ に よった から では ない。 はじめて とおい コウカイ を こころみる ヨウコ に して は、 それ は フシギ な くらい たやすい タビ だった。 フダン イジョウ に ショクヨク さえ まして いた。 シンケイ に つよい シゲキ が あたえられて、 とかく ウッケツ しやすかった ケツエキ も こく おもたい なり に なめらか に ケッカン の ナカ を ジュンカン し、 ウミ から くる イッシュ の チカラ が カラダ の スミズミ まで ゆきわたって、 うずうず する ほど な カツリョク を かんじさせた。 モラシドコロ の ない その カッキ が ウンドウ も せず に いる ヨウコ の カラダ から ココロ に つたわって、 イッシュ の ユウウツ に かわる よう に さえ おもえた。
 ヨウコ は それでも センシツ を でよう とは しなかった。 うまれて から はじめて コドク に ミ を おいた よう な カノジョ は、 コドモ の よう に それ が たのしみたかった し、 また センチュウ で カオミシリ の ダレカレ が できる マエ に、 これまで の こと、 これから の こと を ココロ に しめて かんがえて も みたい とも おもった。 しかし ヨウコ が ミッカ の アイダ センシツ に ひきこもりつづけた ココロモチ には、 もうすこし ちがった もの も あった。 ヨウコ は ジブン が センキャク たち から はげしい コウキ の メ で みられよう と して いる の を しって いた。 タテヤク は マクアキ から ブタイ に でて いる もの では ない。 カンキャク が まち に まって、 まちくたぶれそう に なった ジブン に、 しずしず と のりだして、 ブタイ の クウキ を おもうさま うごかさねば ならぬ の だ。 ヨウコ の ムネ の ウチ には こんな ずるがしこい イタズラ な ココロ も ひそんで いた の だ。
 ミッカ-メ の アサ デントウ が ユリ の ハナ の しぼむ よう に きえる コロ ヨウコ は ふと ふかい ネムリ から ムシアツサ を おぼえて メ を さました。 スティム の とおって くる ラディエター から、 シンクウ に なった クダ の ナカ に ジョウキ の ひえた シタタリ が おちて たてる はげしい ヒビキ が きこえて、 ヘヤ の ナカ は かるく あせばむ ほど あたたまって いた。 ミッカ の アイダ せまい ヘヤ の ナカ ばかり に いて スワリヅカレ ネヅカレ の した ヨウコ は、 せまくるしい バース の ナカ に キュウクツ に ねちぢまった ジブン を みいだす と、 シタ に なった ハンシン に かるい シビレ を おぼえて、 カラダ を アオムケ に した。 そして イチド ひらいた メ を とじて、 うつくしく マルミ を もった リョウ の ウデ を アタマ の ウエ に のばして、 ねみだれた カミ を もてあそびながら、 サメギワ の こころよい ネムリ に また しずか に おちて いった。 が、 ホド も なく ホントウ に メ を さます と、 おおきく メ を みひらいて、 あわてた よう に コシ から ウエ を おこして、 ちょうど メドオリ の ところ に ある イチメン に スイキ で くもった メマド を ながい ソデ で おしぬぐって、 ほてった ホオ を ひやひや する その マドガラス に すりつけながら ソト を みた。 ヨ は ホントウ には あけはなれて いない で、 マド の ムコウ には ヒカリ の ない こい ハイイロ が どんより と ひろがって いる ばかり だった。 そして ジブン の カラダ が ずっと たかまって やがて また おちて ゆく な と おもわしい コロ に、 マド に ちかい フナベリ に ざあっと あたって くだけて ゆく ハトウ が、 タンチョウ な ソコヂカラ の ある シンドウ を センシツ に あたえて、 フネ は かすか に ヨコ に かしいだ。 ヨウコ は ミウゴキ も せず に メ に その ハイイロ を ながめながら、 かみしめる よう に フネ の ドウヨウ を あじわって みた。 とおく とおく きた と いう リョジョウ が、 さすが に しみじみ と かんぜられた。 しかし ヨウコ の メ には おんならしい ナミダ は うかばなかった。 カッキ の ずんずん カイフク しつつ あった カノジョ には ナニ か パセティック な ユメ でも みて いる よう な オモイ を させた。
 ヨウコ は そうした まま で、 すぐる フツカ の アイダ ヒマ に まかせて おもいつづけた ジブン の カコ を ユメ の よう に くりかえして いた。 レンラク の ない オワリ の ない エマキ が つぎつぎ に ひろげられたり まかれたり した。 キリスト を こいこうて、 ヨル も ヒル も やみがたく、 ジュウジカ を あみこんだ うつくしい オビ を つくって ささげよう と いう イッシン に、 ニッカ も なにも ソッチノケ に して、 ユビ の サキ が ささくれる まで アミバリ を うごかした カレン な ショウジョ も、 その ゲンソウ の ウチ に あらわれでた。 キシュクシャ の 2 カイ の マド ちかく おおきな ハナ を ゆたか に ひらいた モクラン の ニオイ まで が そこいら に ただよって いる よう だった。 コクブンジ アト の、 ムサシノ の イッカク らしい クヌギ の ハヤシ も あらわれた。 すっかり ショウジョ の よう な ムジャキ な すなお な ココロ に なって しまって、 コキョウ の ヒザ に ミ も タマシイ も なげかけながら、 ナミダ と ともに ささやかれる コキョウ の ミミウチ の よう に ふるえた ほそい コトバ を、 ただ 「はいはい」 と ユメゴコチ に うなずいて のみこんだ あまい バメン は、 イマ の ヨウコ とは ちがった ヒト の よう だった。 そう か と おもう と サガン の ガケ の ウエ から ヒロセガワ を こえて アオバヤマ を イチメン に みわたした センダイ の ケシキ が するする と ひらけわたった。 ナツ の ヒ は ホッコク の ソラ にも あふれかがやいて、 しろい コイシ の カワラ の アイダ を マッサオ に ながれる カワ の ナカ には、 アカハダカ な ショウネン の ムレ が あかあか と した インショウ を メ に あたえた。 クサ を しかん ばかり に ひくく うずくまって、 はなやか な イロアイ の パラゾル に ヒ を よけながら、 だまって オモイ に ふける ヒトリ の オンナ ――その とき には カノジョ は どの イミ から も オンナ だった―― どこまでも マンゾク の えられない ココロ で、 だんだん と セケン から うずもれて ゆかねば ならない よう な キョウグウ に おしこめられよう と する ウンメイ。 たしか に ミチ を ふみちがえた とも おもい、 ふみちがえた の は ダレ が さした こと だ と カミ を すら なじって みたい よう な オモイ。 くらい サンシツ も かくれて は いなかった。 そこ の おそろしい チンモク の ナカ から おこる つよい こころよい アカゴ の ウブゴエ―― やみがたい ボセイ の イシキ―― 「ワレ すでに ヨ に かてり」 と でも いって みたい フシギ な ホコリ―― ドウジ に おもく ムネ を おさえつける セイ の くらい キュウヘン。 かかる とき おもい も もうけず ちからづよく せまって くる ふりすてた オトコ の シュウチャク。 アス をも たのみがたい イノチ の ユウヤミ に さまよいながら、 きれぎれ な コトバ で ヨウコ と サイゴ の ダキョウ を むすぼう と する ビョウショウ の ハハ―― その カオ は ヨウコ の ゲンソウ を たちきる ほど の ツヨサ で あらわれでた。 おもいいった ケッシン を マユ に あつめて、 ヒゴロ の ラクテンテキ な セイジョウ にも にず、 ウンメイ と とりくむ よう な シンケン な カオツキ で ダイジ の ケッチャク を まつ キムラ の カオ。 ハハ の シ を あわれむ とも かなしむ とも しれない ナミダ を メ には たたえながら、 コオリ の よう に ひえきった ココロ で、 うつむいた まま クチ ヒトツ きかない ヨウコ ジシン の スガタ…… そんな マボロシ が あるいは つぎつぎ に、 あるいは おりかさなって、 ハイイロ の キリ の ナカ に うごきあらわれた。 そして キオク は だんだん と カコ から ゲンザイ の ほう に ちかづいて きた。 と、 ジムチョウ の クラチ の あさぐろく ヒ に やけた カオ と、 その ひろい カタ と が おもいだされた。 ヨウコ は おもい も かけない もの を みいだした よう に はっと なる と、 その マボロシ は タワイ も なく きえて、 キオク は また とおい カコ に かえって いった。 それ が また だんだん ゲンザイ の ほう に ちかづいて きた と おもう と、 サイゴ には きっと クラチ の スガタ が あらわれでた。
 それ が ヨウコ を いらいら させて、 ヨウコ は はじめて ユメウツツ の サカイ から ホントウ に めざめて、 うるさい もの でも はらいのける よう に、 メマド から メ を そむけて バース を はなれた。 ヨウコ の シンケイ は アサ から ひどく コウフン して いた。 スティム で ぞんぶん に あたたまって きた センシツ の ナカ の クウキ は いきぐるしい ほど だった。
 フネ に のって から ろくろく ウンドウ も せず に、 ヤサイケ の すくない もの ばかり を むさぼりたべた ので、 ミウチ の チ には はげしい ネツ が こもって、 ケ の サキ へ まで も かよう よう だった。 バース から たちあがった ヨウコ は メマイ を かんずる ほど に ジョウキ して、 コオリ の よう な つめたい もの でも ひしと だきしめたい キモチ に なった。 で、 ふらふら と センメンダイ の ほう に いって、 ピッチャー の ミズ を なみなみ と トウキセイ の センメンバン に あけて、 ずっぷり ひたした テヌグイ を ゆるく しぼって、 ひやっと する の を かまわず、 ムネ を あけて、 それ を チブサ と チブサ との アイダ に ぐっと あてがって みた。 つよい はげしい ドウキ が おさえて いる テノヒラ へ つきかえして きた。 ヨウコ は そうした まま で マエ の カガミ に ジブン の カオ を ちかづけて みた。 まだ ヨル の キ が うすぐらく さまよって いる ナカ に、 ホオ を ほてらしながら ふかい コキュウ を して いる ヨウコ の カオ が、 ジブン に すら ものすごい ほど なまめかしく うつって いた。 ヨウコ は モノズキ-らしく ジブン の カオ に ワケ の わからない ビショウ を すら たたえて みた。
 それでも その うち に ヨウコ の フシギ な ココロ の ドヨメキ は しずまって いった。 しずまって ゆく に つれ、 ヨウコ は イマ まで の ヒキツヅキ で また メイソウテキ な キブン に ひきいれられて いた。 しかし その とき は もう ムソウカ では なかった。 ごく ジッサイテキ な するどい アタマ が ハリ の よう に ひかって とがって いた。 ヨウコ は ヌレテヌグイ を センメンバン に ほうりなげて おいて、 しずか に ナガイス に コシ を おろした。
 ワライゴト では ない。 いったい ジブン は どう する つもり で いる ん だろう。 そう ヨウコ は シュッパツ イライ の トイ を もう イチド ジブン に なげかけて みた。 ちいさい とき から マワリ の ヒトタチ に はばかられる ほど さいはじけて、 おなじ トシゴロ の オンナ の コ とは いつでも ヒトチョウシ ちがった ユキカタ を、 する でも なく して こなければ ならなかった ジブン は、 うまれる マエ から ウンメイ に でも のろわれて いる の だろう か。 それ か と いって ヨウコ は なべて の オンナ の じゅんじゅん に とおって ゆく ミチ を とおる こと は どうしても できなかった。 とおって みよう と した こと は イクド あった か わからない。 こう さえ ゆけば いい の だろう と とおって きて みる と、 いつでも とんでもなく ちがった ミチ を あるいて いる ジブン を みいだして しまって いた。 そして つまずいて は たおれた。 マワリ の ヒトタチ は テ を とって ヨウコ を おこして やる シカタ も しらない よう な カオ を して ただ ばからしく あざわらって いる。 そんな ふう に しか ヨウコ には おもえなかった。 イクド も の そんな にがい ケイケン が ヨウコ を カタイジ な、 すこしも ヒト を たよろう と しない オンナ に して しまった。 そして ヨウコ は いわば ホンノウ の むかせる よう に むいて どんどん あるく より シカタ が なかった。 ヨウコ は いまさら の よう に ジブン の マワリ を みまわして みた。 いつのまにか ヨウコ は いちばん ちかしい はず の ヒトタチ から も かけはなれて、 たった ヒトリ で ガケ の キワ に たって いた。 そこ で ただ ヒトツ ヨウコ を ガケ の ウエ に つないで いる ツナ には キムラ との コンヤク と いう こと が ある だけ だ。 そこ に ふみとどまれば よし、 さも なければ、 ヨノナカ との エン は たちどころに きれて しまう の だ。 ヨノナカ に いきながら ヨノナカ との エン が きれて しまう の だ。 キムラ との コンヤク で ヨノナカ は ヨウコ に たいして サイゴ の ワボク を しめそう と して いる の だ。 ヨウコ に とって、 この サイゴ の キカイ をも やぶりすてよう と いう の は さすが に ヨウイ では なかった。 キムラ と いう クビカセ を うけない では セイカツ の ホショウ が たえはてなければ ならない の だ から。 ヨウコ の カイチュウ には 150 ドル の ベイカ が ある ばかり だった。 サダコ の ヨウイクヒ だけ でも、 ベイコク に アシ を おろす や いなや、 すぐに キムラ に たよらなければ ならない の は メノマエ に わかって いた。 ゴヅメ と なって くれる シンルイ の ヒトリ も ない の は もちろん の こと、 ややともすれば シンセツゴカシ に ない もの まで せびりとろう と する テアイ が おおい の だ。 たまたま ヨウコ の シマイ の ナイジツ を しって キノドク だ と おもって も、 ヨウコ では と いう よう に テダシ を ひかえる モノ ばかり だった。 キムラ―― ヨウコ には ギリ にも アイ も コイ も おこりえない キムラ ばかり が、 ヨウコ に たいする ただ ヒトリ の センシ なの だ。 あわれ な キムラ は ヨウコ の チャーム に おちいった ばかり で、 サツキ-ケ の ヒトビト から イヤオウ なし に この おもい ニ を せおわされて しまって いる の だ。
 どうして やろう。
 ヨウコ は おもいあまった ソノバノガレ から、 タンス の ウエ に コウロク から うけとった まま なげすてて おいた コトウ の テガミ を とりあげて、 しろい セイヨウ フウトウ の イッタン を うつくしい ユビ の ツメ で タンネン に ほそく やぶりとって、 テスジ は リッパ ながら まだ どこ か たどたどしい シュセキ で ペン で ハシリガキ した モンク を よみくだして みた。

「アナタ は オサンドン に なる と いう こと を ソウゾウ して みる こと が できます か。 オサンドン と いう シゴト が オンナ に ある と いう こと を ソウゾウ して みる こと が できます か。 ボク は アナタ を みる とき は いつでも そう おもって フシギ な ココロモチ に なって しまいます。 いったい ヨノナカ には ヒト を つかって、 ヒト から つかわれる と いう こと を まったく しない で いい と いう ヒト が ある もの でしょう か。 そんな こと が できうる もの でしょう か。 ボク は それ を アナタ に かんがえて いただきたい の です。
 アナタ は キタイ な カンジ を あたえる ヒト です。 アナタ の なさる こと は どんな キケン な こと でも キケン-らしく みえません。 ゆきづまった スエ には こう と いう カクゴ が ちゃんと できて いる よう に おもわれる から でしょう か。
 ボク が アナタ に はじめて オメ に かかった の は、 この ナツ アナタ が キムラ クン と イッショ に ヤワタ に ヒショ を して おられた とき です から、 アナタ に ついて は ボク は、 なんにも しらない と いって いい くらい です。 ボク は だいいち イッパンテキ に オンナ と いう もの に ついて なんにも しりません。 しかし すこし でも アナタ を しった だけ の ココロモチ から いう と、 オンナ の ヒト と いう もの は ボク に とって は フシギ な ナゾ です。 アナタ は どこ まで いったら ゆきづまる と おもって いる ん です。 アナタ は すでに キムラ クン で ゆきづまって いる ヒト なん だ と ボク には おもわれる の です。 ケッコン を ショウダク した イジョウ は その オット に ゆきづまる の が オンナ の ヒト の トウゼン な ミチ では ない の でしょう か。 キムラ クン で ゆきづまって ください。 キムラ クン に アナタ を ゼンブ あたえて ください。 キムラ クン の シンユウ と して これ が ボク の ネガイ です。
 ぜんたい おなじ ネンレイ で ありながら、 アナタ から は ボク など は コドモ に みえる の でしょう から、 ボク の いう こと など は トンジャク なさらない か と おもいます が、 コドモ にも ヒトツ の チョッカク は あります。 そして コドモ は きっぱり した もの の スガタ が みたい の です。 アナタ が キムラ クン の ツマ に なる と ヤクソク した イジョウ は、 ボク の いう こと にも ケンイ が ある はず だ と おもいます。
 ボク は そう は いいながら イチメン には アナタ が うらやましい よう にも、 にくい よう にも、 かわいそう な よう にも おもいます。 アナタ の なさる こと が ボク の リセイ を うらぎって キカイ な ドウジョウ を よびおこす よう にも おもいます。 ボク は ココロ の ソコ に おこる こんな ハタラキ をも しいて おしつぶして リクツ イッポウ に かたまろう とは おもいません。 それほど ボク は ドウガクシャ では ない つもり です。 それだから と いって、 イマ の まま の アナタ では、 ボク には アナタ を ケイシン する キ は おこりません。 キムラ クン の ツマ と して アナタ を ケイシン したい から、 ボク は あえて こんな こと を かきました。 そういう とき が くる よう に して ほしい の です。
 キムラ クン の こと を―― アナタ を ネツアイ して アナタ のみ に キボウ を かけて いる キムラ クン の こと を かんがえる と ボク は これ だけ の こと を かかず には いられなく なります。
                                 コトウ ギイチ
   キムラ ヨウコ サマ」

 それ は ヨウコ に とって は ホントウ に こどもっぽい コトバ と しか ひびかなかった。 しかし コトウ は ミョウ に ヨウコ には ニガテ だった。 イマ も コトウ の テガミ を よんで みる と、 ばかばかしい こと が いわれて いる とは おもいながら も、 いちばん ダイジ な キュウショ を グウゼン の よう に しっかり とらえて いる よう にも かんじられた。 ホントウ に こんな こと を して いる と、 コドモ と みくびって いる コトウ にも あわれまれる ハメ に なりそう な キ が して ならなかった。 ヨウコ は なんと いう こと なく ユウウツ に なって コトウ の テガミ を まきおさめ も せず ヒザ の ウエ に おいた まま メ を すえて、 じっと かんがえる とも なく かんがえた。
 それにしても、 あたらしい キョウイク を うけ、 あたらしい シソウ を このみ、 セジ に うとい だけ に、 ヨノナカ の シュウゾク から も とびはなれて ジユウ で ありげ に みえる コトウ さえ が、 ヨウコ が イマ たって いる ガケ の キワ から サキ には、 ヨウコ が アシ を ふみだす の を にくみおそれる ヨウス を あきらか に みせて いる の だ。 ケッコン と いう もの が ヒトリ の オンナ に とって、 どれほど セイカツ と いう ジッサイ モンダイ と むすびつき、 オンナ が どれほど その ソクバク の モト に なやんで いる か を かんがえて みる こと さえ しよう とは しない の だ。 そう ヨウコ は おもって も みた。
 これから ゆこう と する ベイコク と いう トチ の セイカツ も ヨウコ は ひとりでに いろいろ と ソウゾウ しない では いられなかった。 ベイコク の ヒトタチ は どんな ふう に ジブン を むかえいれよう とは する だろう。 とにかく イマ まで の せまい なやましい カコ と エン を きって、 なんの カカワリ も ない シャカイ の ナカ に のりこむ の は おもしろい。 ワフク より も はるか に ヨウフク に てきした ヨウコ は、 そこ の コウサイ シャカイ でも フウゾク では ベイコクジン を わらわせない こと が できる。 カンラク でも アイショウ でも しっくり と ジッセイカツ の ナカ に おりこまれて いる よう な セイカツ が そこ には ある に ちがいない。 オンナ の チャーム と いう もの が、 シュウカンテキ な キズナ から ときはなされて、 その チカラ だけ に はたらく こと の できる セイカツ が そこ には ある に ちがいない。 サイノウ と リキリョウ さえ あれば オンナ でも オトコ の テ を かりず に ジブン を マワリ の ヒト に みとめさす こと の できる セイカツ が そこ には ある に ちがいない。 オンナ でも ムネ を はって ぞんぶん コキュウ の できる セイカツ が そこ には ある に ちがいない。 すくなくとも コウサイ シャカイ の どこ か では そんな セイカツ が オンナ に ゆるされて いる に ちがいない。 ヨウコ は そんな こと を クウソウ する と むずむず する ほど カイカツ に なった。 そんな ココロモチ で コトウ の コトバ など を かんがえて みる と、 まるで ロウジン の クリゴト の よう に しか みえなかった。 ヨウコ は ながい モクソウ の ナカ から いきいき と たちあがった。 そして ケショウ を すます ため に カガミ の ほう に ちかづいた。
 キムラ を オット に する の に なんの クッタク が あろう。 キムラ が ジブン の オット で ある の は、 ジブン が キムラ の ツマ で ある と いう ほど に かるい こと だ。 キムラ と いう カメン…… ヨウコ は カガミ を みながら そう おもって ほほえんだ。 そして みだれかかる ヒタイギワ の カミ を、 ふりあおいで ウシロ に なでつけたり、 リョウホウ の ビン を キヨウ に かきあげたり して、 リョウコウ が サイクモノ でも する よう に たのしみながら ゲンキ よく アサゲショウ を おえた。 ぬれた テヌグイ で、 カガミ に ちかづけた メ の マワリ の オシロイ を ぬぐいおわる と、 クチビル を ひらいて うつくしく そろった ハナミ を ながめ、 リョウホウ の テ の ユビ を ツボ の クチ の よう に ヒトトコロ に あつめて ツメ の ソウジ が ゆきとどいて いる か たしかめた。 みかえる と フネ に のる とき きて きた ヒトエ の ジミ な キモノ は、 ヨステビト の よう に だらり と さびしく ヘヤ の スミ の ボウシカケ に かかった まま に なって いた。 ヨウコ は ハデ な アワセ を トランク の ナカ から とりだして ネマキ と きかえながら、 それ に メ を やる と、 カタ に しっかり と しがみついて なきおめいた、 かの キョウキ-じみた ワカモノ の こと を おもった。 と、 すぐ その ソバ から ワカモノ を コワキ に かかえた ジムチョウ の スガタ が おもいだされた。 コサメ の ナカ を、 ガイトウ も きず に、 コニモツ でも はこんで いった よう に ワカモノ を サンバシ の ウエ に おろして、 ちょっと イソガワ ジョシ に アイサツ して フネ から なげた ツナ に すがる や いなや、 しずか に キシ から はなれて ゆく フネ の カンパン の ウエ に かるがる と あがって きた その スガタ が、 ヨウコ の ココロ を くすぐる よう に たのしませて おもいだされた。
 ヨ は いつのまにか あけはなれて いた。 メマド の ソト は モト の まま に ハイイロ は して いる が、 いきいき と した ヒカリ が そいくわわって、 カンパン の ウエ を マイアサ キソク ただしく サンポ する ハクハツ の ベイジン と その ムスメ との アシオト が こつこつ カイカツ-らしく きこえて いた。 ケショウ を すました ヨウコ は ナガイス に ゆっくり コシ を かけて、 リョウアシ を マッスグ に そろえて ながなが と のばした まま、 うっとり と おもう とも なく ジムチョウ の こと を おもって いた。
 その とき とつぜん ノック を して ボーイ が コーヒー を もって はいって きた。 ヨウコ は ナニ か わるい ところ でも みつけられた よう に ちょっと ぎょっと して、 のばして いた アシ の ヒザ を たてた。 ボーイ は イツモ の よう に ウスワライ を して ちょっと アタマ を さげて ギンイロ の ボン を タタミイス の ウエ に おいた。 そして キョウ も ショクジ は やはり センシツ に はこぼう か と たずねた。
「コンバン から は ショクドウ に して ください」
 ヨウコ は うれしい こと でも いって きかせる よう に こう いった。 ボーイ は まじめくさって 「はい」 と いった が、 ちらり と ヨウコ を ウワメ で みて、 いそぐ よう に ヘヤ を でた。 ヨウコ は ボーイ が ヘヤ を でて どんな フウ を して いる か が はっきり みえる よう だった。 ボーイ は すぐ にこにこ と フシギ な ワライ を もらしながら、 ケークウォーク の アシツキ で ショクドウ の ほう に かえって いった に ちがいない。 ホド も なく、
「え、 いよいよ ゴライゴウ?」
「きた ね」
と いう よう な ヤヒ な コトバ が、 ボーイ-らしい ケイハク な チョウシ で こわだか に とりかわされる の を ヨウコ は きいた。
 ヨウコ は そんな こと を ミミ に しながら やはり ジムチョウ の こと を おもって いた。 「ミッカ も ショクドウ に でない で とじこもって いる のに なんと いう ジムチョウ だろう、 イッペン も ミマイ に こない とは あんまり ひどい」 こんな こと を おもって いた。 そして その イッポウ では エン も ユカリ も ない ウマ の よう に ただ ガンジョウ な ヒトリ の オトコ が なんで こう おもいだされる の だろう とも おもって いた。
 ヨウコ は かるい タメイキ を ついて なにげなく たちあがった。 そして また ナガイス に こしかける とき には タナ の ウエ から ジムチョウ の メイシ を もって きて ながめて いた。 「ニッポン ユウセン-ガイシャ エノシママル ジムチョウ クン 6 トウ クラチ サンキチ」 と ミンチョウ で はっきり かいて ある。 ヨウコ は カタテ で コーヒー を すすりながら、 メイシ を うらがえして その ウラ を ながめた。 そして マッシロ な その ウラ に ナニ か ながい モンク でも かいて ある か の よう に、 フタエ に なる ゆたか な アゴ を エリ の アイダ に おとして、 すこし マユ を ひそめながら、 ながい アイダ マジロキ も せず みつめて いた。

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