カナ文字文庫(漢字廃止論)

日本文学の名作などをカナ書きに改めて掲載。

フガク ヒャッケイ 2

2013-05-05 | ダザイ オサム
 ことさら に、 ツキミソウ を えらんだ ワケ は、 フジ には ツキミソウ が よく にあう と、 おもいこんだ ジジョウ が あった から で ある。 ミサカ トウゲ の その チャミセ は、 いわば サンチュウ の イッケンヤ で ある から、 ユウビンブツ は、 ハイタツ されない。 トウゲ の チョウジョウ から、 バス で 30 プン ほど ゆられて トウゲ の フモト、 カワグチ コハン の、 カワグチ ムラ と いう モジドオリ の カンソン に たどりつく の で ある が、 その カワグチ ムラ の ユウビンキョク に、 ワタシ-アテ の ユウビンブツ が とめおかれて、 ワタシ は ミッカ に イチド くらい の ワリ で、 その ユウビンブツ を ウケトリ に でかけなければ ならない。 テンキ の よい ヒ を えらんで ゆく。 ここ の バス の オンナ シャショウ は、 ユウランキャク の ため に、 かくべつ フウケイ の セツメイ を して くれない。 それでも ときどき、 おもいだした よう に、 はなはだ サンブンテキ な クチョウ で、 あれ が ミツトウゲ、 ムコウ が カワグチ-コ、 ワカサギ と いう サカナ が います、 など、 ものうそう な、 ツブヤキ に にた セツメイ を して きかせる こと も ある。
 カワグチ キョク から ユウビンブツ を うけとり、 また バス に ゆられて トウゲ の チャヤ に ひきかえす トチュウ、 ワタシ の すぐ トナリ に、 こい チャイロ の ヒフ を きた あおじろい タンセイ の カオ の、 60 サイ くらい、 ワタシ の ハハ と よく にた ロウバ が しゃんと すわって いて、 オンナ シャショウ が、 おもいだした よう に、 ミナサン、 キョウ は フジ が よく みえます ね、 と セツメイ とも つかず、 また ジブン ヒトリ の エイタン とも つかぬ コトバ を、 とつぜん いいだして、 リュックサック しょった わかい サラリーマン や、 おおきい ニホンガミ ゆって、 クチモト を ダイジ に ハンケチ で おおいかくし、 キヌモノ まとった ゲイシャ-フウ の オンナ など、 カラダ を ねじまげ、 イッセイ に シャソウ から クビ を だして、 いまさら の ごとく、 その ヘンテツ も ない サンカク の ヤマ を ながめて は、 やあ、 とか、 まあ、 とか まぬけた タンセイ を はっして、 シャナイ は ひとしきり、 ざわめいた。 けれども、 ワタシ の トナリ の ゴインキョ は、 ムネ に ふかい ユウモン でも ある の か、 タ の ユウランキャク と ちがって、 フジ には イチベツ も あたえず、 かえって フジ と ハンタイガワ の、 ヤマミチ に そった ダンガイ を じっと みつめて、 ワタシ には その サマ が、 カラダ が しびれる ほど こころよく かんぜられ、 ワタシ も また、 フジ なんか、 あんな ゾク な ヤマ、 みたく も ない と いう、 コウショウ な キョム の ココロ を、 その ロウバ に みせて やりたく おもって、 アナタ の オクルシミ、 ワビシサ、 みな よく わかる、 と たのまれ も せぬ のに、 キョウメイ の ソブリ を みせて あげたく、 ロウバ に あまえかかる よう に、 そっと すりよって、 ロウバ と おなじ シセイ で、 ぼんやり ガケ の ほう を、 ながめて やった。
 ロウバ も なにかしら、 ワタシ に アンシン して いた ところ が あった の だろう、 ぼんやり ヒトコト、
「おや、 ツキミソウ」
 そう いって、 ほそい ユビ で もって、 ロボウ の 1 カショ を ゆびさした。 さっと、 バス は すぎて ゆき、 ワタシ の メ には、 イマ、 ちらと ヒトメ みた コガネイロ の ツキミソウ の ハナ ヒトツ、 カベン も あざやか に きえず のこった。
 3778 メートル の フジ の ヤマ と、 リッパ に アイタイジ し、 ミジン も ゆるがず、 なんと いう の か、 コンゴウリキソウ と でも いいたい くらい、 けなげ に すっくと たって いた あの ツキミソウ は、 よかった。 フジ には、 ツキミソウ が よく にあう。
 10 ガツ の ナカバ すぎて も、 ワタシ の シゴト は ちち と して すすまぬ。 ヒト が こいしい。 ユウヤケ あかき ガン の ハラグモ、 2 カイ の ロウカ で、 ヒトリ タバコ を すいながら、 わざと フジ には メ も くれず、 それこそ チ の したたる よう な マッカ な ヤマ の コウヨウ を、 ギョウシ して いた。 チャミセ の マエ の オチバ を はきあつめて いる チャミセ の オカミサン に、 コエ を かけた。
「オバサン! アシタ は、 テンキ が いい ね」
 ジブン でも、 びっくり する ほど、 うわずって、 カンセイ にも にた コエ で あった。 オバサン は ホウキ の テ を やすめ、 カオ を あげて、 フシンゲ に マユ を ひそめ、
「アシタ、 ナニ か おあり なさる の?」
 そう きかれて、 ワタシ は きゅうした。
「なにも ない」
 オカミサン は わらいだした。
「おさびしい の でしょう。 ヤマ へ でも おのぼり に なったら?」
「ヤマ は、 のぼって も、 すぐ また おりなければ いけない の だ から、 つまらない。 どの ヤマ へ のぼって も、 おなじ フジ-サン が みえる だけ で、 それ を おもう と、 キ が おもく なります」
 ワタシ の コトバ が ヘン だった の だろう。 オバサン は ただ アイマイ に うなずいた だけ で、 また カレハ を はいた。
 ねる マエ に、 ヘヤ の カーテン を そっと あけて ガラスマド-ゴシ に フジ を みる。 ツキ の ある ヨル は フジ が あおじろく、 ミズ の セイ みたい な スガタ で たって いる。 ワタシ は タメイキ を つく。 ああ、 フジ が みえる。 ホシ が おおきい。 アシタ は、 オテンキ だな、 と それ だけ が、 かすか に いきて いる ヨロコビ で、 そうして また、 そっと カーテン を しめて、 そのまま ねる の で ある が、 アシタ、 テンキ だ から とて、 べつだん この ミ には、 なんと いう こと も ない のに、 と おもえば、 おかしく、 ヒトリ で フトン の ナカ で クショウ する の だ。 くるしい の で ある。 シゴト が、 ――ジュンスイ に ウンピツ する こと の、 その クルシサ より も、 いや、 ウンピツ は かえって ワタシ の タノシミ で さえ ある の だ が、 その こと では なく、 ワタシ の セカイカン、 ゲイジュツ と いう もの、 アス の ブンガク と いう もの、 いわば、 アタラシサ と いう もの、 ワタシ は それら に ついて、 いまだ ぐずぐず、 おもいなやみ、 コチョウ では なし に、 ミモダエ して いた。
 ソボク な、 シゼン の もの、 したがって カンケツ な センメイ な もの、 そいつ を さっと イッキョドウ で つかまえて、 ソノママ に カミ に うつしとる こと、 それ より ホカ には ない と おもい、 そう おもう とき には、 ガンゼン の フジ の スガタ も、 ベツ な イミ を もって メ に うつる。 この スガタ は、 この ヒョウゲン は、 けっきょく、 ワタシ の かんがえて いる 「タンイツ ヒョウゲン」 の ウツクシサ なの かも しれない、 と すこし フジ に ダキョウ しかけて、 けれども やはり どこ か この フジ の、 あまり にも ボウジョウ の ソボク には ヘイコウ して いる ところ も あり、 これ が いい なら、 ホテイサマ の オキモノ だって いい はず だ、 ホテイサマ の オキモノ は、 どうにも ガマン できない、 あんな もの、 とても、 いい ヒョウゲン とは おもえない、 この フジ の スガタ も、 やはり どこ か まちがって いる、 これ は ちがう、 と ふたたび おもいまどう の で ある。
 アサ に、 ユウ に、 フジ を みながら、 インウツ な ヒ を おくって いた。 10 ガツ の スエ に、 フモト の ヨシダ の マチ の、 ユウジョ の イチ ダンタイ が、 ミサカ トウゲ へ、 おそらく ネン に イチド くらい の カイホウ の ヒ なの で あろう、 ジドウシャ 5 ダイ に ブンジョウ して やって きた。 ワタシ は 2 カイ から、 その サマ を みて いた。 ジドウシャ から おろされて、 イロ サマザマ の ユウジョ たち は、 バスケット から ぶちまけられた イチグン の デンショバト の よう に、 ハジメ は あるく ホウコウ を しらず、 ただ かたまって うろうろ して、 チンモク の まま オシアイ、 ヘシアイ して いた が、 やがて そろそろ、 その イヨウ の キンチョウ が ほどけて、 てんでに ぶらぶら あるきはじめた。 チャミセ の テントウ に ならべられて ある エハガキ を、 おとなしく えらんで いる モノ、 たたずんで フジ を ながめて いる モノ、 くらく、 わびしく、 みちゃ おれない フウケイ で あった。 2 カイ の ヒトリ の オトコ の、 イノチ おしまぬ キョウカン も、 これら ユウジョ の コウフク に かんして は、 なんの くわえる ところ が ない。 ワタシ は、 ただ、 みて いなければ ならぬ の だ。 くるしむ モノ は くるしめ。 おちる モノ は おちよ。 ワタシ には カンケイ した こと では ない。 それ が ヨノナカ だ。 そう ムリ に つめたく よそおい、 カレラ を みおろして いる の だ が、 ワタシ は、 かなり くるしかった。
 フジ に たのもう。 とつぜん それ を おもいついた。 おい、 コイツラ を、 よろしく たのむ ぜ、 そんな キモチ で ふりあおげば、 サムゾラ の ナカ、 のっそり つったって いる フジ-サン、 その とき の フジ は まるで、 ドテラスガタ に、 フトコロデ して ごうぜん と かまえて いる オオオヤブン の よう に さえ みえた の で ある が、 ワタシ は、 そう フジ に たのんで、 おおいに アンシン し、 きがるく なって チャミセ の 6 サイ の オトコ の コ と、 ハチ と いう ムクイヌ を つれ、 その ユウジョ の イチダン を みすてて、 トウゲ の チカク の トンネル の ほう へ あそび に でかけた。 トンネル の イリグチ の ところ で、 30 サイ くらい の やせた ユウジョ が、 ヒトリ、 なにかしら つまらぬ クサバナ を、 だまって つみあつめて いた。 ワタシタチ が ソバ を とおって も、 ふりむき も せず ネッシン に クサバナ を つんで いる。 この オンナ の ヒト の こと も、 ついでに たのみます、 と また ふりあおいで フジ に おねがい して おいて、 ワタシ は コドモ の テ を ひき、 とっとと、 トンネル の ナカ に はいって いった。 トンネル の つめたい チカスイ を、 ホオ に、 クビスジ に、 てきてき と うけながら、 オレ の しった こと じゃ ない、 と わざと オオマタ に あるいて みた。
 その コロ、 ワタシ の ケッコン の ハナシ も、 イチトンザ の カタチ で あった。 ワタシ の フルサト から は、 ぜんぜん、 ジョリョク が こない と いう こと が、 はっきり わかって きた ので、 ワタシ は こまって しまった。 せめて 100 エン くらい は、 ジョリョク して もらえる だろう と、 ムシ の いい、 ヒトリギメ を して、 それ で もって、 ささやか でも、 ゲンシュク な ケッコンシキ を あげ、 アト の、 ショタイ を もつ に あたって の ヒヨウ は、 ワタシ の シゴト で かせいで、 しよう と おもって いた。 けれども、 2~3 の テガミ の オウフク に より、 ウチ から ジョリョク は、 まったく ない と いう こと が あきらか に なって、 ワタシ は、 トホウ に くれて いた の で ある。 コノウエ は、 エンダン ことわられて も シカタ が ない、 と カクゴ を きめ、 とにかく センポウ へ、 コト の シダイ を あらいざらい いって みよう、 と ワタシ は タンシン、 トウゲ を くだり、 コウフ の ムスメ さん の オウチ へ おうかがい した。 さいわい ムスメ さん も、 ウチ に いた。 ワタシ は キャクマ に とおされ、 ムスメ さん と ボドウ と フタリ を マエ に して、 シッカイ の ジジョウ を コクハク した。 ときどき エンゼツ クチョウ に なって、 ヘイコウ した。 けれども、 わりに すなお に かたりつくした よう に おもわれた。 ムスメ さん は、 おちついて、
「それで、 オウチ では、 ハンタイ なの で ございましょう か」 と、 クビ を かしげて ワタシ に たずねた。
「いいえ、 ハンタイ と いう の では なく」 ワタシ は ミギ の テノヒラ を、 そっと タク の ウエ に おしあて、 「オマエ ヒトリ で、 やれ、 と いう グアイ らしく おもわれます」
「ケッコウ で ございます」 ボドウ は、 ヒン よく わらいながら、 「ワタシタチ も、 ゴラン の とおり オカネモチ では ございませぬ し、 ことごとしい シキ など は、 かえって トウワク する よう な もの で、 ただ、 アナタ オヒトリ、 アイジョウ と、 ショクギョウ に たいする ネツイ さえ、 オモチ ならば、 それ で ワタシタチ、 ケッコウ で ございます」
 ワタシ は、 オジギ する の も わすれて、 しばらく ぼうぜん と ニワ を ながめて いた。 メ の あつい の を イシキ した。 この ハハ に、 コウコウ しよう と おもった。
 カエリ に、 ムスメ さん は、 バス の ハッチャクジョ まで おくって きて くれた。 あるきながら、
「どう です。 もうすこし コウサイ して みます か?」
 キザ な こと を いった もの で ある。
「いいえ。 もう、 タクサン」 ムスメ さん は、 わらって いた。
「ナニ か、 シツモン ありません か?」 いよいよ、 バカ で ある。
「ございます」
 ワタシ は ナニ を きかれて も、 ありのまま こたえよう と おもって いた。
「フジ-サン には、 もう ユキ が ふった でしょう か」
 ワタシ は、 その シツモン には ヒョウシヌケ が した。
「ふりました。 イタダキ の ほう に、――」 と いいかけて、 ふと ゼンポウ を みる と、 フジ が みえる。 ヘン な キ が した。
「なあん だ。 コウフ から でも、 フジ が みえる じゃ ない か。 バカ に して いやがる」 ヤクザ な クチョウ に なって しまって、 「イマ の は、 グモン です。 バカ に して いやがる」
 ムスメ さん は、 うつむいて、 くすくす わらって、
「だって、 ミサカ トウゲ に いらっしゃる の です し、 フジ の こと でも おきき しなければ、 わるい と おもって」
 おかしな ムスメ さん だ と おもった。
 コウフ から かえって くる と、 やはり、 コキュウ が できない くらい に ひどく カタ が こって いる の を おぼえた。
「いい ねえ、 オバサン。 やっぱし ミサカ は、 いい よ。 ジブン の ウチ に かえって きた よう な キ さえ する の だ」
 ユウショク-ゴ、 オカミサン と、 ムスメ さん と、 かわるがわる、 ワタシ の カタ を たたいて くれる。 オカミサン の コブシ は かたく、 するどい。 ムスメ さん の コブシ は やわらかく、 あまり キキメ が ない。 もっと つよく、 もっと つよく と ワタシ に いわれて、 ムスメ さん は マキ を もちだし、 それ で もって ワタシ の カタ を とんとん たたいた。 それほど に して もらわなければ、 カタ の コリ が とれない ほど、 ワタシ は コウフ で キンチョウ し、 イッシン に つとめた の で ある。
 コウフ へ いって きて、 2~3 ニチ、 さすが に ワタシ は ぼんやり して、 シゴト する キ も おこらず、 ツクエ の マエ に すわって、 トリトメ の ない ラクガキ を しながら、 バット を 7 ハコ も 8 ハコ も すい、 また ねころんで、 コンゴウセキ も みがかずば、 と いう ショウカ を、 くりかえし くりかえし うたって みたり して いる ばかり で、 ショウセツ は、 1 マイ も かきすすめる こと が できなかった。
「オキャクサン。 コウフ へ いったら、 わるく なった わね」
 アサ、 ワタシ が ツクエ に ホオヅエ つき、 メ を つぶって、 サマザマ の こと かんがえて いたら、 ワタシ の ハイゴ で、 トコノマ ふきながら、 15 の ムスメ さん は、 しんから いまいましそう に、 たしょう、 とげとげしい クチョウ で、 そう いった。 ワタシ は、 ふりむき も せず、
「そう かね。 わるく なった かね」
 ムスメ さん は、 フキソウジ の テ を やすめず、
「ああ、 わるく なった。 この 2~3 ニチ、 ちっとも ベンキョウ すすまない じゃ ない の。 アタシ は マイアサ、 オキャクサン の かきちらした ゲンコウ ヨウシ、 バンゴウジュン に そろえる の が、 とっても、 たのしい。 たくさん おかき に なって おれば、 うれしい。 ユウベ も アタシ、 2 カイ へ そっと ヨウス を み に きた の、 しってる? オキャクサン、 フトン アタマ から かぶって、 ねてた じゃ ない か」
 ワタシ は、 ありがたい こと だ と おもった。 おおげさ な イイカタ を すれば、 これ は ニンゲン の いきぬく ドリョク に たいして の、 ジュンスイ な セイエン で ある。 なんの ホウシュウ も かんがえて いない。 ワタシ は、 ムスメ さん を、 うつくしい と おもった。
 10 ガツ スエ に なる と、 ヤマ の コウヨウ も くろずんで、 きたなく なり、 トタン に イチヤ アラシ が あって、 みるみる ヤマ は、 まっくろい フユコダチ に かして しまった。 ユウラン の キャク も、 イマ は ほとんど、 かぞえる ほど しか ない。 チャミセ も さびれて、 ときたま、 オカミサン が、 ムッツ に なる オトコ の コ を つれて、 トウゲ の フモト の フナツ、 ヨシダ に カイモノ を し に でかけて いって、 アト には ムスメ さん ヒトリ、 ユウラン の キャク も なし、 イチニチジュウ、 ワタシ と ムスメ さん と、 フタリ きり、 トウゲ の ウエ で、 ひっそり くらす こと が ある。 ワタシ が 2 カイ で タイクツ して、 ソト を ぶらぶら あるきまわり、 チャミセ の セド で、 オセンタク して いる ムスメ さん の ソバ へ ちかより、
「タイクツ だね」
 と オオゴエ で いって、 ふと わらいかけたら、 ムスメ さん は うつむき、 ワタシ が その カオ を のぞいて みて、 はっと おもった。 ナキベソ かいて いる の だ。 あきらか に キョウフ の ジョウ で ある。 そう か、 と にがにがしく ワタシ は、 くるり と まわれ ミギ して、 オチバ しきつめた ほそい ヤマミチ を、 まったく いや な キモチ で、 どんどん あらく あるきまわった。
 それから は、 キ を つけた。 ムスメ さん ヒトリ きり の とき には、 なるべく 2 カイ の ヘヤ から でない よう に つとめた。 チャミセ に オキャク でも きた とき には、 ワタシ が その ムスメ さん を まもる イミ も あり、 のしのし 2 カイ から おりて いって、 チャミセ の イチグウ に コシ を おろし ゆっくり オチャ を のむ の で ある。 いつか ハナヨメ スガタ の オキャク が、 モンツキ を きた ジイサン フタリ に つきそわれて、 ジドウシャ に のって やって きて、 この トウゲ の チャヤ で ヒトヤスミ した こと が ある。 その とき も、 ムスメ さん ヒトリ しか チャミセ に いなかった。 ワタシ は、 やはり 2 カイ から おりて いって、 スミ の イス に コシ を おろし、 タバコ を ふかした。 ハナヨメ は スソモヨウ の ながい キモノ を きて、 キンラン の オビ を せおい、 ツノカクシ つけて、 どうどう セイシキ の レイソウ で あった。 まったく イヨウ の オキャクサマ だった ので、 ムスメ さん も どう アシライ して いい の か わからず、 ハナヨメ さん と、 フタリ の ロウジン に オチャ を ついで やった だけ で、 ワタシ の ハイゴ に ひっそり かくれる よう に たった まま、 だまって ハナヨメ の サマ を みて いた。 イッショウ に イチド の ハレ の ヒ に、 ――トウゲ の ムコウガワ から、 ハンタイガワ の フナツ か、 ヨシダ の マチ へ ヨメイリ する の で あろう が、 その トチュウ、 この トウゲ の チョウジョウ で ヒトヤスミ して、 フジ を ながめる と いう こと は、 ハタ で みて いて も、 くすぐったい ほど、 ロマンチック で、 その うち に ハナヨメ は、 そっと チャミセ から でて、 チャミセ の マエ の ガケ の フチ に たち、 ゆっくり フジ を ながめた。 アシ を X-ガタ に くんで たって いて、 ダイタン な ポーズ で あった。 ヨユウ の ある ヒト だな、 と なおも ハナヨメ を、 フジ と ハナヨメ を、 ワタシ は カンショウ して いた の で ある が、 まもなく ハナヨメ は、 フジ に むかって、 おおきな アクビ を した。
「あら!」
 と ハイゴ で、 ちいさい サケビ を あげた。 ムスメ さん も、 すばやく その アクビ を みつけた らしい の で ある。 やがて ハナヨメ の イッコウ は、 またせて おいた ジドウシャ に のり、 トウゲ を おりて いった が、 アト で ハナヨメ さん は、 サンザン だった。
「なれて いやがる。 アイツ は、 きっと 2 ド-メ、 いや、 3 ド-メ くらい だよ。 オムコサン が、 トウゲ の シタ で まって いる だろう に、 ジドウシャ から おりて、 フジ を ながめる なんて、 はじめて の オヨメ だったら、 そんな ふとい こと、 できる わけ が ない」
「アクビ した のよ」 ムスメ さん も、 チカラ を こめて サンイ を あらわした。 「あんな おおきい クチ あけて アクビ して、 ずうずうしい のね。 オキャクサン、 あんな オヨメサン もらっちゃ、 いけない」
 ワタシ は トシガイ も なく、 カオ を あかく した。 ワタシ の ケッコン の ハナシ も、 だんだん コウテン して いって、 ある センパイ に、 すべて オセワ に なって しまった。 ケッコンシキ も、 ほんの ミウチ の 2~3 の ヒト に だけ たちあって もらって、 まずしく とも ゲンシュク に、 その センパイ の オタク で、 して いただける よう に なって、 ワタシ は ヒト の ジョウ に、 ショウネン の ごとく カンプン して いた。
 11 ガツ に はいる と、 もはや ミサカ の カンキ、 たえがたく なった。 チャミセ では、 ストーヴ を そなえた。
「オキャクサン、 2 カイ は おさむい でしょう。 オシゴト の とき は、 ストーヴ の ソバ で なさったら」 と、 オカミサン は いう の で ある が、 ワタシ は、 ヒト の みて いる マエ では、 シゴト の できない タチ なので、 それ は ことわった。 オカミサン は シンパイ して、 トウゲ の フモト の ヨシダ へ ゆき、 コタツ を ヒトツ かって きた。 ワタシ は 2 カイ の ヘヤ で それ に もぐって、 この チャミセ の ヒトタチ の シンセツ には、 しんから オレイ を いいたく おもって、 けれども、 もはや その ゼンヨウ の 3 ブン の 2 ほど、 ユキ を かぶった フジ の スガタ を ながめ、 また チカク の ヤマヤマ の、 しょうじょう たる フユコダチ に せっして は、 これ イジョウ、 この トウゲ で、 ヒフ を さす カンキ に シンボウ して いる こと も ムイミ に おもわれ、 ヤマ を くだる こと に ケツイ した。 ヤマ を くだる、 その ゼンジツ、 ワタシ は、 ドテラ を 2 マイ かさねて きて、 チャミセ の イス に こしかけて、 あつい バンチャ を すすって いたら、 フユ の ガイトウ きた、 タイピスト でも あろう か、 わかい チテキ の ムスメ さん が フタリ、 トンネル の ほう から、 ナニ か きゃっきゃっ わらいながら あるいて きて、 ふと ガンゼン に まっしろい フジ を みつけ、 うたれた よう に たちどまり、 それから、 ひそひそ ソウダン の ヨウス で、 その ウチ の ヒトリ、 メガネ かけた、 イロ の しろい コ が、 にこにこ わらいながら、 ワタシ の ほう へ やって きた。
「あいすみません。 シャッター きって ください な」
 ワタシ は、 へどもど した。 ワタシ は キカイ の こと には、 あまり あかるく ない の だし、 シャシン の シュミ は カイム で あり、 しかも、 ドテラ を 2 マイ も かさねて きて いて、 チャミセ の ヒトタチ さえ、 サンゾク みたい だ、 と いって わらって いる よう な、 そんな むさくるしい スガタ でも あり、 たぶん は トウキョウ の、 そんな はなやか な ムスメ さん から、 ハイカラ の ヨウジ を たのまれて、 ナイシン ひどく ロウバイ した の で ある。 けれども、 また おもいなおし、 こんな スガタ は して いて も、 やはり、 みる ヒト が みれば、 どこかしら、 きゃしゃ な オモカゲ も あり、 シャシン の シャッター くらい キヨウ に テサバキ できる ほど の オトコ に みえる の かも しれない、 など と すこし うきうき した キモチ も てつだい、 ワタシ は ヘイセイ を よそおい、 ムスメ さん の さしだす カメラ を うけとり、 なにげなさそう な クチョウ で、 シャッター の キリカタ を ちょっと たずねて みて から、 わななき わななき、 レンズ を のぞいた。 マンナカ に おおきい フジ、 その シタ に ちいさい、 ケシ の ハナ フタツ。 フタリ ソロイ の あかい ガイトウ を きて いる の で ある。 フタリ は ひしと だきあう よう に よりそい、 きっと マジメ な カオ に なった。 ワタシ は、 おかしくて ならない。 カメラ もつ テ が ふるえて、 どうにも ならぬ。 ワライ を こらえて、 レンズ を のぞけば、 ケシ の ハナ、 いよいよ すまして、 かたく なって いる。 どうにも ネライ が つけにくく、 ワタシ は、 フタリ の スガタ を レンズ から ツイホウ して、 ただ フジ-サン だけ を、 レンズ いっぱい に キャッチ して、 フジ-サン、 さようなら、 オセワ に なりました。 ぱちり。
「はい、 うつりました」
「ありがとう」
 フタリ コエ を そろえて オレイ を いう。 ウチ へ かえって ゲンゾウ して みた とき には おどろく だろう。 フジ-サン だけ が おおきく おおきく うつって いて、 フタリ の スガタ は どこ にも みえない。
 その あくる ヒ に、 ヤマ を おりた。 まず、 コウフ の ヤスヤド に イッパク して、 その あくる アサ、 ヤスヤド の ロウカ の きたない ランカン に よりかかり、 フジ を みる と、 コウフ の フジ は、 ヤマヤマ の ウシロ から、 3 ブン の 1 ほど カオ を だして いる。 ホオズキ に にて いた。

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