カナ文字文庫(漢字廃止論)

日本文学の名作などをカナ書きに改めて掲載。

ラショウモン

2012-04-04 | アクタガワ リュウノスケ
 ラショウモン

 アクタガワ リュウノスケ

 ある ヒ の クレガタ の こと で ある。 ヒトリ の ゲニン が、 ラショウモン の シタ で アマヤミ を まって いた。
 ひろい モン の シタ には、 この オトコ の ホカ に タレ も いない。 ただ、 ところどころ ニヌリ の はげた、 おおきな マルバシラ に、 キリギリス が 1 ピキ とまって いる。 ラショウモン が、 スザク オオジ に ある イジョウ は、 この オトコ の ホカ にも、 アマヤミ を する イチメガサ や モミエボシ が、 もう 2~3 ニン は ありそう な もの で ある。 それ が、 この オトコ の ホカ には タレ も いない。
 なぜか と いう と、 この 2~3 ネン、 キョウト には、 ジシン とか ツジカゼ とか カジ とか キキン とか いう ワザワイ が つづいて おこった。 そこで ラクチュウ の サビレカタ は ヒトトオリ では ない。 キュウキ に よる と、 ブツゾウ や ブツグ を うちくだいて、 その ニ が ついたり、 キンギン の ハク が ついたり した キ を、 ミチバタ に つみかさねて、 タキギ の シロ に うって いた と いう こと で ある。 ラクチュウ が その シマツ で ある から、 ラショウモン の シュウリ など は、 もとより タレ も すてて かえりみる モノ が なかった。 すると その あれはてた の を よい こと に して、 コリ が すむ。 ヌスビト が すむ。 とうとう シマイ には、 ヒキトリテ の ない シニン を、 この モン へ もって きて、 すてて ゆく と いう シュウカン さえ できた。 そこで、 ヒノメ が みえなく なる と、 タレ でも キミ を わるがって、 この モン の キンジョ へは アシブミ を しない こと に なって しまった の で ある。
 そのかわり また カラス が どこ から か、 たくさん あつまって きた。 ヒルマ みる と、 その カラス が ナンバ と なく ワ を えがいて、 たかい シビ の マワリ を なきながら、 とびまわって いる。 ことに モン の ウエ の ソラ が、 ユウヤケ で あかく なる とき には、 それ が ゴマ を まいた よう に はっきり みえた。 カラス は、 もちろん、 モン の ウエ に ある シニン の ニク を、 ついばみ に くる の で ある。 ――もっとも キョウ は、 コクゲン が おそい せい か、 1 ワ も みえない。 ただ、 ところどころ、 くずれかかった、 そうして その クズレメ に ながい クサ の はえた イシダン の ウエ に、 カラス の クソ が、 てんてん と しろく こびりついて いる の が みえる。 ゲニン は 7 ダン ある イシダン の いちばん ウエ の ダン に、 あらいざらした コン の アオ の シリ を すえて、 ミギ の ホオ に できた、 おおきな ニキビ を キ に しながら、 ぼんやり、 アメ の ふる の を ながめて いた。
 サクシャ は さっき、 「ゲニン が アマヤミ を まって いた」 と かいた。 しかし、 ゲニン は アメ が やんで も、 かくべつ どう しよう と いう アテ は ない。 フダン なら、 もちろん、 シュジン の イエ へ かえる べき はず で ある。 ところが その シュジン から は、 4~5 ニチ マエ に ヒマ を だされた。 マエ にも かいた よう に、 トウジ キョウト の マチ は ヒトトオリ ならず スイビ して いた。 イマ この ゲニン が、 ナガネン、 つかわれて いた シュジン から、 ヒマ を だされた の も、 じつは この スイビ の ちいさな ヨハ に ほかならない。 だから 「ゲニン が アマヤミ を まって いた」 と いう より も 「アメ に ふりこめられた ゲニン が、 ユキドコロ が なくて、 トホウ に くれて いた」 と いう ほう が、 テキトウ で ある。 そのうえ、 キョウ の ソラモヨウ も すくなからず、 この ヘイアンチョウ の ゲニン の センチメンタリズム に エイキョウ した。 サル ノ コク サガリ から ふりだした アメ は、 いまだに あがる ケシキ が ない。 そこで、 ゲニン は、 ナニ を おいて も さしあたり アス の クラシ を どうにか しよう と して―― いわば どうにも ならない こと を、 どうにか しよう と して、 トリトメ も ない カンガエ を たどりながら、 サッキ から スザク オオジ に ふる アメ の オト を、 きく とも なく きいて いた の で ある。
 アメ は、 ラショウモン を つつんで、 トオク から、 ざあっ と いう オト を あつめて くる。 ユウヤミ は しだいに ソラ を ひくく して、 みあげる と、 モン の ヤネ が、 ナナメ に つきだした イラカ の サキ に、 おもたく うすくらい クモ を ささえて いる。
 どうにも ならない こと を、 どうにか する ため には、 シュダン を えらんで いる イトマ は ない。 えらんで いれば、 ツイジ の シタ か、 ミチバタ の ツチ の ウエ で、 ウエジニ を する ばかり で ある。 そうして、 この モン の ウエ へ もって きて、 イヌ の よう に すてられて しまう ばかり で ある。 えらばない と すれば―― ゲニン の カンガエ は、 ナンド も おなじ ミチ を テイカイ した アゲク に、 やっと この キョクショ へ ホウチャク した。 しかし この 「すれば」 は、 いつまで たって も、 けっきょく 「すれば」 で あった。 ゲニン は、 シュダン を えらばない と いう こと を コウテイ しながら も、 この 「すれば」 の カタ を つける ため に、 とうぜん、 その ノチ に きたる べき 「ヌスビト に なる より ホカ に シカタ が ない」 と いう こと を、 セッキョクテキ に コウテイ する だけ の、 ユウキ が でず に いた の で ある。
 ゲニン は、 おおきな クサメ を して、 それから、 タイギ そう に たちあがった。 ユウヒエ の する キョウト は、 もう ヒオケ が ほしい ほど の サムサ で ある。 カゼ は モン の ハシラ と ハシラ との アイダ を、 ユウヤミ と ともに エンリョ なく、 ふきぬける。 ニヌリ の ハシラ に とまって いた キリギリス も、 もう どこ か へ いって しまった。
 ゲニン は、 クビ を ちぢめながら、 ヤマブキ の カザミ に かさねた、 コン の アオ の カタ を たかく して モン の マワリ を みまわした。 アメカゼ の ウレエ の ない、 ヒトメ に かかる オソレ の ない、 ヒトバン ラク に ねられそう な ところ が あれば、 そこ で ともかくも、 ヨ を あかそう と おもった から で ある。 すると、 さいわい モン の ウエ の ロウ へ のぼる、 ハバ の ひろい、 これ も ニ を ぬった ハシゴ が メ に ついた。 ウエ なら、 ヒト が いた に して も、 どうせ シニン ばかり で ある。 ゲニン は そこで、 コシ に さげた ヒジリヅカ の タチ が さやばしらない よう に キ を つけながら、 ワラゾウリ を はいた アシ を、 その ハシゴ の いちばん シタ の ダン へ ふみかけた。
 それから、 ナンプン か の ノチ で ある。 ラショウモン の ロウ の ウエ へ でる、 ハバ の ひろい ハシゴ の チュウダン に、 ヒトリ の オトコ が、 ネコ の よう に ミ を ちぢめて、 イキ を ころしながら、 ウエ の ヨウス を うかがって いた。 ロウ の ウエ から さす ヒ の ヒカリ が、 かすか に、 その オトコ の ミギ の ホオ を ぬらして いる。 みじかい ヒゲ の ナカ に、 あかく ウミ を もった ニキビ の ある ホオ で ある。 ゲニン は、 ハジメ から、 この ウエ に いる モノ は、 シニン ばかり だ と タカ を くくって いた。 それ が、 ハシゴ を 2~3 ダン のぼって みる と、 ウエ では タレ か ヒ を とぼして、 しかも その ヒ を そこここ と うごかして いる らしい。 これ は、 その にごった、 きいろい ヒカリ が、 スミズミ に クモノス を かけた テンジョウウラ に、 ゆれながら うつった ので、 すぐに それ と しれた の で ある。 この アメ の ヨ に、 この ラショウモン の ウエ で、 ヒ を ともして いる から は、 どうせ タダ の モノ では ない。
 ゲニン は、 ヤモリ の よう に アシオト を ぬすんで、 やっと キュウ な ハシゴ を、 いちばん ウエ の ダン まで はう よう に して のぼりつめた。 そうして カラダ を できる だけ、 たいら に しながら、 クビ を できる だけ、 マエ へ だして、 おそるおそる、 ロウ の ウチ を のぞいて みた。
 みる と、 ロウ の ウチ には、 ウワサ に きいた とおり、 イクツ か の シガイ が、 ムゾウサ に すてて ある が、 ヒ の ヒカリ の およぶ ハンイ が、 おもった より せまい ので、 カズ は イクツ とも わからない。 ただ、 おぼろげ ながら、 しれる の は、 その ナカ に ハダカ の シガイ と、 キモノ を きた シガイ と が ある と いう こと で ある。 もちろん、 ナカ には オンナ も オトコ も まじって いる らしい。 そうして、 その シガイ は みな、 それ が、 かつて、 いきて いた ニンゲン だ と いう ジジツ さえ うたがわれる ほど、 ツチ を こねて つくった ニンギョウ の よう に、 クチ を あいたり テ を のばしたり して、 ごろごろ ユカ の ウエ に ころがって いた。 しかも、 カタ とか ムネ とか の たかく なって いる ブブン に、 ぼんやり した ヒ の ヒカリ を うけて、 ひくく なって いる ブブン の カゲ を いっそう くらく しながら、 エイキュウ に オシ の ごとく だまって いた。
 ゲニン は、 それら の シガイ の フラン した シュウキ に おもわず、 ハナ を おおった。 しかし、 その テ は、 ツギ の シュンカン には、 もう ハナ を おおう こと を わすれて いた。 ある つよい カンジョウ が、 ほとんど ことごとく この オトコ の キュウカク を うばって しまった から で ある。
 ゲニン の メ は、 その とき、 はじめて その シガイ の ナカ に うずくまって いる ニンゲン を みた。 ヒワダイロ の キモノ を きた、 セ の ひくい、 やせた、 シラガアタマ の、 サル の よう な ロウバ で ある。 その ロウバ は、 ミギ の テ に ヒ を ともした マツ の キギレ を もって、 その シガイ の ヒトツ の カオ を のぞきこむ よう に ながめて いた。 カミノケ の ながい ところ を みる と、 たぶん オンナ の シガイ で あろう。
 ゲニン は、 6 ブ の キョウフ と 4 ブ の コウキシン と に うごかされて、 ザンジ は イキ を する の さえ わすれて いた。 キュウキ の キシャ の ゴ を かりれば、 「トウシン の ケ も ふとる」 よう に かんじた の で ある。 すると ロウバ は、 マツ の キギレ を、 ユカイタ の アイダ に さして、 それから、 イマ まで ながめて いた シガイ の クビ に リョウテ を かける と、 ちょうど、 サル の オヤ が サル の コ の シラミ を とる よう に、 その ながい カミノケ を 1 ポン ずつ ぬきはじめた。 カミ は テ に したがって ぬける らしい。
 その カミノケ が、 1 ポン ずつ ぬける の に したがって、 ゲニン の ココロ から は、 キョウフ が すこし ずつ きえて いった。 そうして、 それ と ドウジ に、 この ロウバ に たいする はげしい ゾウオ が、 すこし ずつ うごいて きた。 ――いや、 この ロウバ に たいする と いって は、 ゴヘイ が ある かも しれない。 むしろ、 あらゆる アク に たいする ハンカン が、 1 プン ごと に ツヨサ を まして きた の で ある。 この とき、 タレ か が この ゲニン に、 さっき モン の シタ で この オトコ が かんがえて いた、 ウエジニ を する か ヌスビト に なる か と いう モンダイ を、 あらためて もちだしたら、 おそらく ゲニン は、 なんの ミレン も なく、 ウエジニ を えらんだ こと で あろう。 それほど、 この オトコ の アク を にくむ ココロ は、 ロウバ の ユカ に さした マツ の キギレ の よう に、 イキオイ よく もえあがりだして いた の で ある。
 ゲニン には、 もちろん、 なぜ ロウバ が シニン の カミノケ を ぬく か わからなかった。 したがって、 ゴウリテキ には、 それ を ゼンアク の いずれ に かたづけて よい か しらなかった。 しかし ゲニン に とって は、 この アメ の ヨ に、 この ラショウモン の ウエ で、 シニン の カミノケ を ぬく と いう こと が、 それ だけ で すでに ゆるす べからざる アク で あった。 もちろん、 ゲニン は、 サッキ まで ジブン が、 ヌスビト に なる キ で いた こと なぞ は、 とうに わすれて いる の で ある。
 そこで、 ゲニン は、 リョウアシ に チカラ を いれて、 いきなり、 ハシゴ から ウエ へ とびあがった。 そうして ヒジリヅカ の タチ に テ を かけながら、 オオマタ に ロウバ の マエ へ あゆみよった。 ロウバ が おどろいた の は いう まで も ない。
 ロウバ は、 ヒトメ ゲニン を みる と、 まるで イシユミ に でも はじかれた よう に、 とびあがった。
「オノレ、 どこ へ ゆく」
 ゲニン は、 ロウバ が シガイ に つまずきながら、 あわてふためいて にげよう と する ユクテ を ふさいで、 こう ののしった。 ロウバ は、 それでも ゲニン を つきのけて ゆこう と する。 ゲニン は また、 それ を ゆかすまい と して、 おしもどす。 フタリ は シガイ の ナカ で、 しばらく、 ムゴン の まま、 つかみあった。 しかし ショウハイ は、 ハジメ から わかって いる。 ゲニン は とうとう、 ロウバ の ウデ を つかんで、 ムリ に そこ へ ねじたおした。 ちょうど、 トリ の アシ の よう な、 ホネ と カワ ばかり の ウデ で ある。
「ナニ を して いた。 いえ。 いわぬ と、 これ だ ぞよ」
 ゲニン は、 ロウバ を つきはなす と、 いきなり、 タチ の サヤ を はらって、 しろい ハガネ の イロ を その メノマエ へ つきつけた。 けれども、 ロウバ は だまって いる。 リョウテ を わなわな ふるわせて、 カタ で イキ を きりながら、 メ を、 ガンキュウ が マブタ の ソト へ でそう に なる ほど、 みひらいて、 オシ の よう に しゅうねく だまって いる。 これ を みる と、 ゲニン は はじめて メイハク に この ロウバ の セイシ が、 ぜんぜん、 ジブン の イシ に シハイ されて いる と いう こと を イシキ した。 そうして この イシキ は、 イマ まで けわしく もえて いた ゾウオ の ココロ を、 いつのまにか さまして しまった。 アト に のこった の は、 ただ、 ある シゴト を して、 それ が エンマン に ジョウジュ した とき の、 やすらか な トクイ と マンゾク と が ある ばかり で ある。 そこで、 ゲニン は、 ロウバ を みおろしながら、 すこし コエ を やわらげて こう いった。
「オレ は ケビイシ ノ チョウ の ヤクニン など では ない。 いましがた この モン の シタ を とおりかかった タビ の モノ だ。 だから オマエ に ナワ を かけて、 どう しよう と いう よう な こと は ない。 ただ イマジブン、 この モン の ウエ で、 ナニ を して いた の だ か、 それ を オレ に はなし さえ すれば いい の だ」
 すると、 ロウバ は、 みひらいて いた メ を、 いっそう おおきく して、 じっと その ゲニン の カオ を みまもった。 マブタ の あかく なった、 ニクショクチョウ の よう な、 するどい メ で みた の で ある。 それから、 シワ で、 ほとんど、 ハナ と ヒトツ に なった クチビル を、 ナニ か モノ でも かんで いる よう に うごかした。 ほそい ノド で、 とがった ノドボトケ の うごいて いる の が みえる。 その とき、 その ノド から、 カラス の なく よう な コエ が、 あえぎあえぎ、 ゲニン の ミミ へ つたわって きた。
「この カミ を ぬいて な、 この カミ を ぬいて な、 カズラ に しょう と おもうた の じゃ」
 ゲニン は、 ロウバ の コタエ が ぞんがい、 ヘイボン なの に シツボウ した。 そうして シツボウ する と ドウジ に、 また マエ の ゾウオ が、 ひややか な ブベツ と イッショ に、 ココロ の ナカ へ はいって きた。 すると、 その ケシキ が、 センポウ へも つうじた の で あろう。 ロウバ は、 カタテ に、 まだ シガイ の アタマ から とった ながい ヌケゲ を もった なり、 ヒキ の つぶやく よう な コエ で、 くちごもりながら、 こんな こと を いった。
「なるほど な、 シビト の カミノケ を ぬく と いう こと は、 なんぼう わるい こと かも しれぬ。 じゃが、 ここ に いる シビト ども は、 ミナ、 その くらい な こと を、 されて も いい ニンゲン ばかり だ ぞよ。 げんに、 ワシ が イマ、 カミ を ぬいた オンナ など は な、 ヘビ を 4 スン ばかり ずつ に きって ほした の を、 ホシウオ だ と いうて、 タテワキ の ジン へ うり に いんだ わ。 エヤミ に かかって しななんだら、 イマ でも うり に いんで いた こと で あろ。 それ も よ、 この オンナ の うる ホシウオ は、 アジ が よい と いうて、 タテワキ ども が、 かかさず サイリョウ に かって いた そう な。 ワシ は、 この オンナ の した こと が わるい とは おもうて いぬ。 せねば、 ウエジニ を する の じゃ て、 シカタ が なく した こと で あろ。 されば、 イマ また、 ワシ の して いた こと も わるい こと とは おもわぬ ぞよ。 これ とて も やはり せねば、 ウエジニ を する じゃ て、 シカタ が なく する こと じゃ わいの。 じゃて、 その シカタ が ない こと を、 よく しって いた この オンナ は、 おおかた ワシ の する こと も オオメ に みて くれる で あろ」
 ロウバ は、 だいたい こんな イミ の こと を いった。
 ゲニン は、 タチ を サヤ に おさめて、 その タチ の ツカ を ヒダリ の テ で おさえながら、 れいぜん と して、 この ハナシ を きいて いた。 もちろん、 ミギ の テ では、 あかく ホオ に ウミ を もった おおきな ニキビ を キ に しながら、 きいて いる の で ある。 しかし、 これ を きいて いる うち に、 ゲニン の ココロ には、 ある ユウキ が うまれて きた。 それ は、 さっき モン の シタ で、 この オトコ には かけて いた ユウキ で ある。 そうして、 また さっき この モン の ウエ へ あがって、 この ロウバ を とらえた とき の ユウキ とは、 ぜんぜん、 ハンタイ な ホウコウ に うごこう と する ユウキ で ある。 ゲニン は、 ウエジニ を する か ヌスビト に なる か に、 まよわなかった ばかり では ない。 その とき の この オトコ の ココロモチ から いえば、 ウエジニ など と いう こと は、 ほとんど、 かんがえる こと さえ できない ほど、 イシキ の ソト に おいだされて いた。
「きっと、 そう か」
 ロウバ の ハナシ が おわる と、 ゲニン は あざける よう な コエ で ネン を おした。 そうして、 ヒトアシ マエ へ でる と、 フイ に ミギ の テ を ニキビ から はなして、 ロウバ の エリガミ を つかみながら、 かみつく よう に こう いった。
「では、 オレ が ヒハギ を しよう と うらむまい な。 オレ も そう しなければ、 ウエジニ を する カラダ なの だ」
 ゲニン は、 すばやく、 ロウバ の キモノ を はぎとった。 それから、 アシ に しがみつこう と する ロウバ を、 てあらく シガイ の ウエ へ けたおした。 ハシゴ の クチ まで は、 わずか に 5 ホ を かぞえる ばかり で ある。 ゲニン は、 はぎとった ヒワダイロ の キモノ を ワキ に かかえて、 またたく マ に キュウ な ハシゴ を ヨル の ソコ へ かけおりた。
 しばらく、 しんだ よう に たおれて いた ロウバ が、 シガイ の ナカ から、 その ハダカ の カラダ を おこした の は、 それから まもなく の こと で ある。 ロウバ は つぶやく よう な、 うめく よう な コエ を たてながら、 まだ もえて いる ヒ の ヒカリ を タヨリ に、 ハシゴ の クチ まで、 はって いった。 そうして、 そこ から、 みじかい シラガ を サカサマ に して、 モン の シタ を のぞきこんだ。 ソト には、 ただ、 こくとうとう たる ヨル が ある ばかり で ある。
 ゲニン の ユクエ は、 タレ も しらない。

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