日本庭園こぼれ話

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水の庭と小川治兵衛・並河靖之七宝記念館・・・京都市

2010-08-27 | 日本庭園

七代目小川治兵衛、通称「植治」は、「日本三大造園家の一人」「近代造園の祖」「水のマジシャン」など、様々な尊称とともに語られる明治の偉大な造園家です。

作品としては、名勝・無鄰庵や平安神宮神苑をはじめ、南禅寺界隈の別荘群の庭園がもっとも有名ですが、そのさきがけとなる作品として、近年、特に注目されているのがこの「並河靖之七宝記念館」です。

ここは明治・大正時代を代表する七宝作家・並河靖之の旧邸。明治27年竣工の建物の、通りに面した外観は、京格子、虫籠窓、駒寄せを備えた「表屋造り」。

それに連なる主屋は、書院造りの系統を引く「御殿造り」。2つの様式が組み合わさった珍しい構造として、建物自体もまた貴重な遺構です。随所に、青蓮院や修学院離宮など、名建築の写しも見られます。

(上: 格子戸、虫籠窓、駒寄せなど、京町家の特徴を備えた並河靖之七宝記念館の入口部分)

平成15年に、並河靖之七宝記念館として開館。

室内には、輸入品のガラス障子を用い、鴨居も当時としては高い六尺(約1.8m)。そのためここには、表の外観とは全く異なる、明るく開放的な空間があります。また、邸内には、旧工房を利用した展示室と、復元された窯場があり、当時の工房の様子が偲ばれます。

庭園は池泉回遊式。表情豊かな園路や、大ぶりな沓脱石、一文字手水鉢など石の扱いも魅力的ですが、やはりこの庭の主役は水。

常緑樹の木々が濃い緑の影を落とす庭の大部分には、池が広がり、母屋が池の上に張り出しているのが、流水の水音とともに、いかにも涼しげな印象。

この池の水には、琵琶湖疎水が導入されています。当時は、個人宅に疏水を引き込むことは許されていなかったのですが、七宝の研磨用に使うという理由で許可されたということ。これが個人庭園に疏水を引いた最初の例となりました。

(上: 輸入ガラスを嵌め込んだ母屋のガラス戸に、疏水を引き込んだ植治の庭がよく映える)

小川治兵衛30代前半の作。生涯において、南禅寺界隈に疏水を利用した庭園を数多く作庭した巨匠のデビュー作として、意義深い庭園と言えるでしょう。

※拝観等については、並河靖之七宝記念館HPをご参照ください:

www8.plala.or.jp/nayspo

 


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