急成長する会社の弱点はその源が法制度によって支えられている場合である。勿論あらゆる事業が現行法制の下で営まれているから法に支えられてはいるのだが。問題は急成長自体である。バブルと言って良いかも知れない。ある会社が通信機器の分野で急成長していた。確かに最先端の技術には支えられてはいたのだが法に依る所も大きかった。成長の過程で設備投資を急拡大していたが、製品の仕向け地はアメリカが狙いであった。ところがアメリカの電波法が改正されその製品の市場は急激に縮小していった。国内にも何か所か大きな工場を持っていたが本業以外の仕事も受けざるをえなくなった。社会に出て数年経った頃だったが、所属する事業部も仕事の一部をその会社に下請けに出していた。ところがいよいよその会社が倒産するかも知れないと噂され、若造だった私も貸与していた生産設備を抑えなければならないという理由でトラックに乗せられその工場に向かった。ところが本社から差し押さえはちょっと待て、ある大手企業が支援に入る話があり倒産は免れるかも知れないから帰って来いという。会社というのは病人の布団を剥ぐような仕事もあるのだとこの時初めて知った。
その後数年は何とか持ちこたえていた。この間こちらは縁があって会社を移った。ところが移った会社がその通信機器メーカーを買収してしまった。支援が噂されていた会社だったが最後は買収という形になった。若いころ差し押さえに向かった工場は移った会社でもそのまま維持して何と我が事業部の製造工程の一部を担った。何十年振りかにその工場を訪ねた時、あれっここは若いころ差し押さえに来た場所だと気づいた。通信機器メーカーの社長は確か副社長か何かで迎え入れられた。一時期は急成長で遥かに有名だった会社である。何年副社長だったかは覚えていないが突然居なくなった。社内では社長とそりが合わなかったとか、切れ者過ぎて両雄相並び立たずだと噂が立った。
それから何年かしてその人はある航空測量で有名な会社の社長になった。ところが優良企業だったその会社は乗っ取り屋に狙われ社内は大混乱した。混乱の末期には組合問題も起こり大変だった。まさに火中の栗を拾ったような社長就任である。その会社は測量分野でJICAの仕事も多く手掛け、その後社会インフラや再エネのコンサルタントなども手掛けた。その人が社長に就任して間もない頃である。こちらもJICAの無償援助の仕事をしていたのでアフリカに精しいその会社に話を聞きに行こうとなった。どんな理由か知らないが飛び出した会社の平社員に会ってくれると言う。何と出て来たのは社長本人である。10年以上経っていたが外観は肥満体で副社長当時のままである。切れ者という感じではなかったが話していると実に理路整然とゆっくり丁寧に説明してくれる。言葉使いは優しいが眼鏡の奥の目は鋭い。最後に、大変な時期にお邪魔してすみませんでしたと礼を言うと、もう乗っ取り屋の影響はありませんよ、組合問題も落ち着くはずですと自信に満ちていた。外観で判断してはいかん、やはり両雄並び立たずと互いが思って辞めて行ったのだろう。でなければ飛び出した会社の平社員に忙しい時にこんなに丁寧に対応してくれる筈がないと思った。法改正でどん底を見た事業家だったが器の大きさを感じずには居られなかった。
FITの改廃で落ち込むことはない。中国のように逆に法改正で支援を受け大躍進する事業もあるかも知れない。重要なことは急成長であれ衰退であれ、自分たちが拠って立つところを冷静に自覚しておくことである。再エネ不偏の価値を信じて。