「社員がイキイキ働くようになる」仕組みと研修を提供する人材育成社です。
今年3月、日本IBMに対して定年後再雇用の賃金減額について具体的に説明することを求めた救済命令が東京労働委員会から出されたとの報道がありました。
記事によると、日本IBMでは60歳以降も勤務を希望する場合には「シニア契約社員」として再雇用されるものの、賃金は正社員の2割に減額されるとのことですが、それに対してきちんと待遇差の説明をするように会社に対して求めたとのことです。これに対して、会社側は再審査を申し立てており、中央労働委員会の判断が注目されているとのことです。
日本の企業等における、いわゆるシニア社員(定年後の再雇用等)の賃金が定年前に比べ低く抑えられることについては、モチベーションの低下をはじめ様々な影響が指摘されるようになっています。私が見聞きしているところでも、現役時代の7割~4割程度に減額されるところが多いようですが、そうした中で大手企業である日本IBMが2割にまで減額していることについては、記事を読んではじめて知り正直少々驚くとともに、今後日本IBMがこの件にどのように対応するのかについて関心を持っています。
今回のような賃金をはじめとした、労働者の権利向上や労働環境改善に向けた運動については、私はこれまで日本では明治時代ごろからはじまったものではないかと考えていました。しかし実はその歴史はもっと古く、なんと天平11(739)年には行われていたという記録が残っていることを、先日訪れた千葉県佐倉市にある国立歴史民俗博物館の展示を見て知りました。その展示によれば、当時の役人による「劣悪な職場環境や労働条件に対しては、作業着の支給、定期的な休暇、食事の改善、酒の支給など、6ヶ条の待遇改善を要求した」文書の下書きが残っているとのことです。
こうしてみると、実は古くて新しいこの問題ですが、今回の日本IBMの件に関しては、賃金を2割としている理由を「シニア契約社員が担当する業務の重要度・困難度を勘案し決定した」との説明のみにとどまっていることが、賃金そのものの低さだけでなくシニア社員から会社への信頼の失墜という、さらなる問題を生んでしまっている原因のように感じます。
今後、この問題を解決するためには、まずは会社側が減額の決定に至った経緯をはじめとする情報を雇用されている側に提供すること、あわせてこの問題に真摯に向き合おうという姿勢が求められているように思います。前述の中央労働委員会もまさにそのことを指摘しているのではないかと感じています。
前述の「天平時代の待遇改善要求」については、展示には時の雇い主側がどのような対応をしたのかまでは示されていませんでしたが、当時の役人の生々しい声が聞こえてくるようでとても興味深く見ました。話は戻りますが、労働人口の減少が指摘される現代において様々な知見を有するシニア社員は、組織にとってますます貴重な労働力となることは確かなことです。流失を防ぐためにも、待遇をはじめとする様々な事柄について、まずは誠意をもって説明をするということが大切であると改めて考えています。