中小企業のための「社員が辞めない」会社作り

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IT化は全体最適を実現できるのか

2014年10月05日 | コンサルティング

先日、あるITコンサルタントの講演で「情報システムのクラウド化によって社内の業務は部分最適から脱皮し、全体最適へと変化していく」という発言を聞きました。

会社の規模が大きくなるほど、部分最適(自部署の利益)と、全体最適(全社の利益)の矛盾が起こりやすくなります。

たとえば、製造業ではおなじみの「作り過ぎ」のムダがその一例です。モノ作りの工程では、短時間で出来る限りたくさんの製品を作れば、1個当たりのコストは下がるので生産性は上昇します。しかし、販売できる製品の量が限られていれば、大量の製品は在庫の山となります。在庫は売れなければ、倉庫代、保険料、陳腐化など様々なコストとなって会社の収益を圧迫します。

クラウド化によって社内の各部署(生産、販売、購買、経理等)のシステムがスムーズに連携、あるいは統合されれば部分最適は解消されていくことでしょう。

また、社内の情報は必ずしもフォーマルなデータだけではありません。そこで、基幹系情報システムで扱うことができない「報連相」データをネットワークに乗せて共有化する様々な「情報共有化システム」も販売されています。

ここまでくると、ITによって社内の情報共有化は完全に達成され、理想的な「全体最適」が実現できるように思えます。

しかし、現実は必ずしもそうではないようです。IT化が進み、情報共有のルール化が徹底されてくると、逆に「共有したくない情報」が増えてきます。

「この話が製造部に知れたらまずいことになる」、「営業部長の性格を考えるとこの数値は報告しない方がいいな」、「とりあえず今月はこの話は伏せておこう。どうせ来月には元に戻るはずだから」・・・こうした、ちょっとした(?)情報はますます増殖していきます。

IT化によって形式的な情報共有のハードルが下がってしまったため、「微妙な情報」や「感情を刺激する情報」は以前よりも陰に隠れていきます。

私は、コンサルティングや研修で訪れたいくつかの会社で、こうした「IT化による潜在リスクの深刻化症候群」を目にしてきました。

この病(やまい)の恐ろしいところは、企業規模に関係しないことです。中小企業がIT化を急ぎ過ぎて、かえって情報の停滞を起こし、業績を悪化させた例もあります。

ここでは処方箋を簡単に示すことはできませんが、弊社が実施しているコンサルティングの多くはこの病の治療であると言ってもよいでしょう。

しかし、何よりも大事なのは予防です。病にならないことがいちばんです。

くれぐれも、「全体最適」を口にする無責任なITコンサルタントにはご注意ください。

(人材育成社)