パオと高床

あこがれの移動と定住

パスカル・キニャール『アプロネニア・アウィティアの柘植の板』高橋啓訳(青土社)

2007-11-26 22:56:30 | 海外・小説
創作者は偽書を創造したくなるものかも知れない。そして、偽書は偽書という確証が曖昧なほどすぐれているのかも知れない。アプロネニアという女性が残した「柘植の板」の校訂版ジュレ師資料集によるのが、本書の?の部分になる。しかし、この人物の実在性や、校訂版の実在性はさだかではない。ただ、二部構成の?では、ローマ帝国の分裂前から、分裂、その後の西ローマ帝国の動向が、年号入りで記述される。そこには実在の歴史上の人物が登場し、キリスト教の流れや、人々の移り変わりが歴史記述のように描かれる。これが、偽書の正当性(?)を保証する。
そして、「柘植の板」の中身。これは、清少納言の『枕草子』を連想させる。まるで、大きな時代の流れとは別の世界のように、日々の事柄が記載される。ユーモアや開放的なエロスがさらりと描かれる。「恥ずかしいこと」「なすべきこと」「忘れてはならぬもの」などが、ものづくしのように書かれている。思わず微笑んだり、感心したりしながら読了することが出来た。
訳者あとがきは、この小説の奥の深さを教えてくれた。


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