久しぶりにポーを読んだ。この文庫には「リジーア」「アッシャー館の崩壊」「ウィリアム・ウィルソン」「群衆の人」「メエルシュトレエムの底へ」「赤死病の仮面」「黒猫」「盗まれた手紙」が収録されていて、ポーの語りに酔えた。ポーがいかに該博で、緻密で、論理的で、思索的か、そして、構築力があって幻視者かがわかる。「盗まれた手紙」に数学者批判が書かれているが、数学者であって詩人であること。さらに詩の優位を語るデュパンの口説に、真理と美の幻想的でありながら科学的な結びつき、時間と空間の超越された融合、物質界と精神界の万物照応への意志が感じられる。そして、ここにある短編群はその世界が表現されているのだ。さらに人の心理の不条理さへの論理的叙述など、真に先駆者と呼ぶに相応しい才能なのだ。幻想を語るに詳細であること、様々な語りによる作者の位置の置き方、ラストへの収束のさせ方など、小説の姿を創り出した作者の魅力的な作品群に触れられた。創元推理文庫の「ポオ小説全集」気になるな。あの文庫の『ポオ詩と詩論』は優れものの一冊だ。
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