パオと高床

あこがれの移動と定住

宮城谷昌光「沈黙の王』(文春文庫)

2007-03-28 22:07:19 | 国内・小説
気楽に楽しいものという感じで初めて宮城谷を読む。でも、「沈黙の王」は以前読んだような。
言葉を獲得し、文字を創出する、甲骨文字創成の物語である。沈黙の王武丁は、その心を代弁できる人物に出会い、言葉を伝達する術を身につける。こうして言葉を発した王は、次に「象(かたち)を森羅万象から抽き出せ」と、あまねく世界を表せる文字を生み出す作業を命じる。これが漢字の元になる甲骨文字である。漢字は、さまざまな読みに耐えながら表意文字として意味を伝達し、広大な中華文明の根幹となった。その前段階の物語が面白い。また、この素材は、作家が自らのその仕事に向き合うことで書かれた作品だと思う。もう少し長くてもいいのにと、物足りなさは残った。
「妖異記」「豊饒の門」の鄭公・友の連作は、友の行動の背景が表裏で書かれ、ひとつの王朝の滅亡をめぐる人の動きも手際よく書かれている。笑わない王妃褒姒も興味深い。他に「地中の火」を読む。
夏、殷、周、春秋戦国の人物がなかなか珍しくて面白いかも。この人の長編を読んでみようかという気になった。


コメント
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