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「イチローズ・ モルト」  秩父市

2012年01月16日 17時47分14秒 | 食べ物・飲み物 狭山茶 イチローズモルト 忠七めし・・・



「イチロー」と言えば、まず、米メジャーリーグで活躍したイチロー選手を思い出す。

最近、音だけは同じ、秩父の「イチロー」が、分野はまるで違うウイスキー蒸留の世界で、日本だけでなく世界のウイスキーファンをうならせている。

マリナーズの選手の本名は「鈴木一朗」。秩父の方は「肥土伊知郎」。珍しい名前である。「あくと・いちろう」と読むのだそうだ。「伊知郎」には驚かないものの、「肥土」を「あくと」と読むとは。

肥土伊知郎氏は、秩父市にある「ベンチャーウイスキー」の社長である。日本で唯一のウイスキー専門のメーカー社長といっても、社長を含めて従業員20人程度の小企業だ。

この小さな会社がつくったウイスキーが、日本の有名なウイスキーメーカーであるサントリー、ニッカをしのいで権威ある「ワールド・ウイスキー・アワード」の日本一の座を、07年から11年まで五年連続で獲得したのである。

私は「イモ焼酎派」だったので、ウイスキーの味はよく分からない。

若くて酒に強かったころは、ウイスキーをよく飲んだものだ。飲み始めの学生時代は「トリスを飲んでハワイに行こう」の宣伝文句に釣られて、安いトリスバーでハイボールをせっせと飲んだ。

ウイスキーをハイボールにして飲んだと言うことは、当時から酒に弱かった証拠だ。社会人になって、「角」、「オールド」、「ロイヤル」と高いものに上がっていったものの、決してうまいから飲んだのではなかった。

本物のウイスキーの味が分かったのは、海外に出てからだった。当時のサントリーのウイスキーとはまるで違う、新しい世界に入った感じだった。

新聞記者も外交特権で酒が免税の国もあった。安さも手伝って、好奇心から高級ウイスキーは残らず飲んだ。なにしろ免税価格なのだから。そのうちに覚えたのが「モルト」だった。モルトとは、原料に麦芽を100%使う、麦芽と酵母と水だけを使うウイスキーである。

シングルモルトという言葉がある。一つの蒸留所のモルトウイスキーだけでつくられた製品のことだ。飲んでいるうち覚えたのが、その代表であるスコットランドの「グレン・フィディック」だった。

そのうちウイスキーといえばこれだけを頼むようになった。シングルモルトの魅力に魅かれたからである。

ウイスキーは複数の蒸留所のモルトをブレンドしたり(ブレンデッドモルト)、モルトウイスキーにグレーンウイスキーを混ぜたりするのが普通だ。グレーンウイスキーとは、大麦 ライ麦、トウモロコシなどの穀物(グレーン)を原料とする。

日本は世界で五番目のウイスキー大国だという。日本人はどうも、ストレート(生)のウイスキーは苦手で、ハイボールや水割りを好み、シングルモルトは苦手のようだ。それにあえて挑戦したのが、このベンチャーウイスキーである。

肥土さんは、東京農大で醸造学を学んだ後、サントリーを経て、父親の経営する酒造会社に入ったが、倒産。父が残したウイスキー原酒の400樽の買い手がつかなかったので、福島の酒造会社からの援助と親戚からの資金を得て、04年秩父市にベンチャーウイスキー社を設立した。

「イチローズモルト」として商品化したこのシングルモルトは、早くも06年100か国以上で出版されている英国の権威ある「ウイスキーマガジン」の日本モルト特集で、最高得点の「ゴールドアワード」に選ばれた。

その後も10年には「イチローズモルト」は、「ウイスキーマガジン」のワールド・ウイスキー・アワードのコンペティションで、「最優秀日本ウイスキー」の栄誉を、全部で11ある部門の中で、シングルモルトの熟成年別3部門中2部門(21年以上と12年以下)とブレンデッドモルト部門(No Age=熟成年制限なし)の3部門で受賞した。

07年には秩父蒸留所を開設、蒸留を始めた。その後、熟成用の貯蔵庫も新設、さらに増設を予定していて、30年物の製造を目指している。

11年10月には秩父で蒸留したシングルモルトウイスキー「イチローズモルト秩父ザファースト」を発売した。

熟成3年もので、限定7400本が国内外からの予約で初日に完売した。

また、秩父産の大麦を地元の農家に委託して育てており、その大麦を使って、ウイスキーをつくり、「シングルモルトウイスキー」と並ぶ看板商品にする計画。国内ではすべて地元産の大麦を使ったウイスキーは珍しい。

14年10月には秩父蒸留所で自前で作った熟成樽もできるようになった。日本で最初にミズナラの丸太で作った発酵槽やたるでを仕込もうというのである。

日本酒同様ウィスキーは、いい水が育てる。秩父の山は、成分が水に溶けやすい堆積岩や石灰岩などで形成されている。その伏流水は、これらの岩石のマグネシウムやカルシウムなどのミネラルが溶け込んでいるので、ウイスキーづくりに向いている。

さらにウイスキーは樽に詰めた後、その土地の空気を呼吸して熟成するといわれる。秩父の環境、空気の良さは、折り紙付きなので、海外の愛好家によく売れているはうなずける。

「ウィスキー・マガジン」主催の「ワールド・ウィスキー・アワード(WWA)2017」の選考結果が17年3月30日発表され、「イチローズモルト 秩父ウィスキー祭2017」が、シングルカスクシングルモルト部門」で世界一に輝いた。

20年の「WWA2020」では、「イチローズ モルト&グレーン  ジャパニーズブレンデッドウィスキー リミテッドエディション2020」が世界最高賞を受賞した。同社の受賞は4年連続4回目となる。1本税抜き18万円。

「17年は原酒の素質、18年はブレンドの技術力がそれぞれ評価され、ようやくウイスキーメーカーとして一人前と見てもらえるようになったようでうれしい」と肥土伊知郎社長は語っていた。

19年7月10日には社長(53)は、英国で授賞式が行われた国際的な蒸留酒の品評会「インターナショナル・スピリッツ・チャレンジ(ISC)2019」で、この1年間で最も活躍したブレンダーとして「マスターブレンダー・オブ・ザイヤー」を受賞した。

同社は19年3月に英国で行われた世界的なウイスキー品評会「ワールド・ウイスキー・アワード(WWW)2019」で、3年連続で世界最高賞を受賞、世界のウイスキー業界に著しい貢献を果たした蒸留所や人物などを表彰する「アイコンズ・オブ・ウイスキー」で、同社ブランドアンバッサダーの吉川由美さん(37)も個人で表彰を受けている。

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