赤紫、白紫、白、黄色・・・。
その名も、「伊豆の海」「朗風」「東鑑」「佐野渡」「紫衣の誉」・・・と風流な名前が並ぶ。
花の名が素人にも分かるよう根元に書いてあるのがうれしい。
花ショウブの名所として埼玉県一を誇る「染谷花しょうぶ園」は、13年6月15日、早咲きに続いて中咲きの花も開いて見頃を迎えていた。
見沼にあるこの花しょうぶ園(8千平方m)には、300種以上2万株が咲き誇る。
1983年にオープン、今年30周年を迎えたこの園は、花しょうぶに特化し、6月1日から30日までのシーズン中しか開園しない。
もう20数年前、一度訪ねたことがある。それほど強い印象は残っていないのに、見事な花しょうぶ園に成長していた。
菖蒲園というと、すぐ東京の堀切菖蒲園や水元公園などが頭に浮かぶ。初めて分かったのだが、染谷の方が種類も株数も多い。まさに「灯台下暗し」である。
もっとも東京には、青梅市に216種、株数10万の「吹上しょうぶ公園」、江戸川区の100種、5万株の「小岩菖蒲園」がある。
館林市には270種、40万株、横須賀市には412種、14万株のしょうぶ園がある。千葉県香取市の「水郷佐原水生植物園」は400種、150万株を誇る。いずれも市や区がつくったもので、個人の手になる染谷とは大違いである。
この地で植木の生産販売を営む園主の屋敷の北側に接する、作物や植木に向かない低湿地に、花しょうぶを植え、池やあずま屋を作って、2年間準備を進めて開園した。この次第は、入場券の後ろに書いてある。
今では茶室や花見台も整い、順路には座って観賞できるようにと、腰掛けもふんだんに用意されている。花しょうぶ園にふさわしく天然素材を使おうと、木で作られ、トイレの目隠しも竹製だ。純和風の雰囲気をかもし出している。一時間もあればゆっくり見られる。
周囲は、メタセコイア、クスノキ、シロカシ、マテバシイ、イタヤカエデなどの高木で囲まれ、ちょっとした深山幽谷の趣。野鳥の声に混じって、琴の音がバックに流れていた。
「アナベル・アジサイ」など各種のアジサイも植えられていて、花しょうぶと妍を競っていた。雨の季節に咲く花は、日本人の感性にピッタリだ。園主の書いているとおり、野点、句会などにもぴったりだろう。
花しょうぶは日本産で、江戸時代中頃から自生する野花菖蒲の変わり咲きをもとに改良されてきたという。ここには野花菖蒲も植わっているので、比較してみると面白い。
昔は、「花しょうぶ」も「あやめ」も区別がつかなかった。「花しょうぶ」は水辺を好むのに対し、「あやめ」は乾いた土を好む。花びらの根元に「綾目」の模様があるのが「あやめ」で、黄色い筋があるのが「花しょうぶ」だ。
何年か前、「水郷潮来あやめまつり」を訪ねた際、あやめ園に咲いているのは、「あやめ」ではなく、実は「花しょうぶ」だと知って以来、「花しょうぶ」に関心を持つようになって、いろいろの名所を訪ねた。
小規模ながら、最も美しく手入れが行き届いているのは、皇居東御苑二の丸公園の菖蒲田だろう。勤務先が近かったので毎年出かけた。
明治神宮御苑の株を譲り受け、育てているもので84種あるとか。ここもその種類の名が書いてあるので、風流な名前に興味を持つようになった。
染谷花しょうぶ園は大宮駅東口からバスの便があり、有料ながら、一見に値する。
近くに「ホタルの里」がある。「今年はもう飛んでいません」の掲示があって、今年は見ようと思っていただけに残念だった。