ださいたま 埼玉 彩の国  エッセイ 

埼玉県について新聞、本、雑誌、インターネット、TVで得た情報に基づきできるだけ現場を歩いて書くエッセー風百科事典

東松山スリーデーマーチ

2011年11月07日 10時12分58秒 | スポーツ・自転車・ウォーキング
埼玉県で毎年開催される全国的な、いや世界的というべきか、イベントに日本スリーデーマーチがある。

11年ですでに34回になる。参加してみたいと思ってはいても、昔から体を動かすスポーツの類は、なんとなくおっくうで、新聞で読んでいるだけだった。

東松山に出かけてみようという気になったのは、暇ができたのと、最近、埼玉県内各地を歩き慣れているので、歩けるかも知れないと思ったからだ。

当日申し込みの2千円が千5百円に割引になるというので事前予約して、自転車ならともかく、これだけの距離を歩いた経験はないのに30kmコースに挑戦することにした。同じ県内の飯能新緑ツーデーマーチで、わずか10km歩いたのが背中を押した。


11年11月4日は、スリーデーの初日で、11月とは思えないほどの暖かさと好天に恵まれた。

リュックの背中に貼るゼッケンに、3日間それぞれの歩行距離、国名または県名、名前と並んで、「私の一言メッセージ」を書き込む欄がある。

スリーデーマーチの名のとおり、3日間通して歩くのが原則になっているようで、実際、3日分を書き込んでいる人が多かった。

メッセージ欄に私は、無愛想に「初参加」とだけ書き込んだ。歩き始めてこのメッセージを読む楽しさが分かった。次々に抜かれるので、読めるゼッケンは増える一方だ。

メッセージには「完歩」という言葉が最も多く使われていた。「歩き抜く」という決意の表明だろう。たまに「「観光気分で歩く」という意味か「観歩」というのもあった。完歩と並記してあるのがほとんどで、観歩に徹するというのではなさそうだった。

私のように、最初から「緩歩」「閑歩」「漫歩」を決め込んでいるような心得違いはまずいないことが分かった。「日本人は何をするにしても本当に真面目なんだなあ」と痛感した。

おまけにスティーブ・ジョブズが遺したアイポッドや携帯ラジオでニュースや音楽番組を聞き、時には小型のデジタルカメラを取り出すのだから、場違いもいいところだ。

驚いたのは、「アルチュウ進行中」というメッセージを見たことだ。わたしは「進行中」どころか、アルチュウに近いので、「わが同士よ」と親近感を覚えた。だが、よく見ると「アル(歩)チュウ」と書いてある。「歩き中毒進行中」なのだ。

やっと分かったのは、このマーチは「競歩」ではないのに、参加者は一つの競技として捉えているのではないかということだった。

マラソンやジョッギングをしている人の間に、走っているうちにだんだん気分が良くなってくる「ランナーズハイ」という言葉がある。「ウオーキングハイ」も起きるのだろうか。

そう言えば、このマーチの参加者にも国内外のマーチを転戦している人もかなりいるようで、背中に参加記念バッジが一杯という人もいた。

帰路には、午前6時出発の50km組みに次々抜かれた。3日間とも50kmと書いたのを見ていると、この鉄脚の持ち主はまるで“歩き神様”のように思われた。

日本人は北海道、九州、岡山、それに福島・・・と全国的だが、外国人は50人足らずとかなり減った。原発事故のせいのようだ。本場オランダのほかルクセンブルグの夫婦連れやオーストラリア、韓国人の姿を見た。

ゼッケン眺めだけでなく、この日のコースも面白くすばらしかった。

30kmコースは、東松山市役所を起終点として、行きは和紙の町、小川町の埼玉工芸会館までの14km。帰りは、京都の嵐山に似た武蔵嵐山渓谷、畠山重忠ゆかりの菅谷館、原爆被害画の丸木美術館経由の18kmの計32km。

それぞれ個別には訪ねたことはあっても、それを結ぶ道を歩いたのは初めてだった。市野川、槻川、都幾川と川に沿ったところが多く、比企丘陵の田園の秋を満喫できた。

往路の鬼鎮(きじん)神社(嵐山町)は、初めてだった。鬼を祀った神社で、節分の掛け声は「福は内、鬼は内、悪魔 外」で、赤鬼、青鬼も豆をまく全国でも珍しい神社。受験にも強い「勝負の神様」として知られる。

朝7時すぎ出発、午後3時半ごろゴール。順位や所要時間が出ないのがいい。昼食、小休憩(立ち寄り)を含めて8時間余。老緩歩者にふさわしく時速ざっと4km。時速7kmの人もざらにいるらしい。1日または2日間だけ完歩した登録者に与えられる「完歩証」をもらった。

三日間完歩した人には、「大会完歩証」と「完歩数字賞」が贈られる。

34回の延べ参加者は7万2千弱で昨年の8万9千弱から大幅に減った。好天に恵まれた12年の35回は、過去最多の12万3658人に達した。35回連続50km完歩の人もいたそうで、頭が下がる。

日本最大、世界でもオランダの国際フォーデーマーチに次ぐ2番目の規模だという。

東松山といえば市内に約百軒の店があるヤキトンのまち。駅に近い松川屋では本物の紀州備長炭が石炭みたいに密度が高いのを手にしたし、焼鳥店組合の組合長の「桂馬」も久しぶりに訪ねた。「アル(歩)チュウ」ならぬアルチュウ候補にとって、参加動機の半分はヤキトン目当てだったのだ。