「いたるところで、半身または全身はだかの子供の群れが,つまらぬことでわいわい騒いでいるのに出くわす。それにほとんどの女は,すくなくともひとりの子供を胸に,そして往々にしてもうひとりの子供を背中につれている。まさしくここは子供の楽園だ」
▲幕末に英国の初代駐日公使を務めたオールコックは日本事情を記した「大君の都」(岩波文庫)にそう書いている。いや,幼い子供を抱いていたのは母親ばかりではなかった。彼は江戸の街頭や店内で子守をする父親たちの姿に驚いている。
▲「はだかのキューピッドが頑丈そうな父親の腕に抱かれている。これはごくありふれた光景である。父親は見るからになれた手つきでやさしく器用にあやしながら,あちこちを歩き回る」。日本人の子供好きは来日外国人に目をみはらせた。
▲そんなご先祖をもつ日本人がどうなったのだろう。内閣府の調査によると「結婚しても子供を持つ必要はない」と思う人が43%近くを占め,とくに20代と30代で6割前後に達した。いつの間にか外国人も驚く子供嫌いに変貌したのだろうか。
▲だが同じ調査では,家庭生活を大事にしたいと思いながらも現実には仕事を優先せざるを得ない勤労者の実情がうかがえる。「子供は必要ない」の回答の中には,出産や育児がしにくい状況下の不本意な選択を示す場合が少なくなさそうだ。
▲こと子供好きでは,世界に名をはせたご先祖に決して負けないという若い世代も多いはずである。にもかかわらず,先行き不安や育児環境の不備が子育てをためらわせているのならあまりに悲しい。かっての「子供の楽園」のメンツがかかった少子化対策である。