イワシの翻訳LOVE

はしくれトランスレータ「イワシ」が、翻訳への愛をつれづれなるままに記します。

滋賀の実家に帰省する ~Days and nights in Kyoto~ その6

2008年06月13日 08時49分27秒 | 旅行記
トンネルを抜けると、そこは八重洲口だった。――そう、東京に戻ってきたのだ。不思議なことに、京都に戻ったときに感じたあの懐かしさと同じものを、この東京にも感じる。七年も住んでいれば、ここもまた僕にとって第二の故郷の一つになっているのだろう。それを実感する。ちょっと嬉しく、ほっとする。僕のようなよそ者が、デラシネが、普通の顔をして生きていける街。今日からまた、ここで新しい日々が始まる。

ふいに、ラーメンが食べたくなった。そういえば、東京駅にはラーメンのテーマパークっぽいのあったんじゃなかったけ? どこらへんやったかな? そう思って改札口の脇にいる駅員に訊ねてみたら、こっちが質問を言い終わらないうちに、苦虫を噛み潰したような顔をして「それは今、工事中です」と泣きそうな声で言われた。ヲイヲイ、これが東京か。そうだった。前もここでラーメンパークを探したことがあった。大事なことをすぐに忘れてしまう。

しょうがない。でも、せっかくだからちょっとブラブラするか。駅地下の商店街の案内図を見ていたら、面白そうな古本屋があったのでそこに行くことにした。雰囲気があっていいお店だった。いろいろ迷ったあげく、一冊購入。

『八つ墓村』横溝正史

帰省明けの一冊としては相応しいのかどうかよくわからないけど、まあいいか。中央線に乗る。僕にとって中央線は、文字通り東京の、いや日本の中央を走る列車だ。iPodからは、『未来世紀ブラジル』のサントラの一曲、『Days and Nights in Kyoto』が聴こえてくる。七年前に東京に出てきたとき、心細くて不安で、それでも希望があって、若くて、夢があった。そんな気持ちが蘇ってきた。それから、いろいろな出来事があった。そして今もまだここにいる。もうあの頃には戻れない。もうあの場所にも戻れない。ただ肩肘を張らずに、前に進んでいこう。これから人生はあらたな局面を見せ始めるだろう。おそらくは死ぬまで、新たな経験は続いていく。いつか息絶えることすらも、初めての経験になるはずなのだから。悲しみも苦しみもたくさんあるだろう、だけど、新鮮な驚きや、喜びに満ちた瞬間もきっといくつもあるに違いない。そんなことを考えているうちに、吉祥寺が近づいてきた。やっぱりここは、行っときますか......。麗しのブックオフ吉祥寺店が、僕を待っている。電車を降り、見慣れた改札を抜け、衝動的に一風堂でラーメン食べ、僕は、黄色い看板のあるあの店に向かった。



―連載完―