己キは起源のことなる多くの字が同じ形になっている。不思議な現象である。
己 キ・コ・おのれ 己部
解字 甲骨文字は弗フツ(二本の棒などを紐でしばりあわせた形)の字の棒を省いた形と似ており、紐の象形であると考えられる[甲骨文字辞典]。しかし、甲骨文字では、十干の第六番目に仮借カシャ(当て字)された。また、のちに「おのれ」の意にも仮借された。
意味 (1)つちのと(己)。十干(甲コウ・乙オツ・丙ヘイ・丁テイ・戊ボ・己キ・庚コウ・辛シン・壬ジン・癸キ)の第六番目。五行(木火土金水)では戊ボとともに土に当てる。「つちのと」は土の弟の意で、土に当てられた戊ボ(つちのえ・土の兄)の次にくることから。 (2)おのれ(己)。自分。「自己ジコ」「克己コッキ」(おのれにかつ)「知己チキ」(自分を理解してくれる人)
イメージ
「ひも」(己・紀・記)
「同体異字」(起・改・忌・配・妃)
「キの音」(杞)
音の変化 キ:己・紀・記・杞・起・忌 カイ:改 ハイ:配 ヒ:妃
ひも
紀 キ・のり 糸部
解字 「糸(いと)+己(ひも)」 の会意形声。己は、もともと紐の意味であり、これに糸をつけて元の意味である紐を表した。糸を何本もよりあわせた細い綱(つな)を表す。つなは人民をコントロールする意があり、転じて、統治するための、のり・きまりの意となった。また、紐の初めの意から、紀元という語で年代の意となり、さらにその年代の出来事をしるす意ともなる。
意味 (1)細いつな。「綱紀コウキ」(太いつなと細いつな。大小のつなで人民を統治する)(2)(統治するための)のり(紀)。きまり。すじみち。「紀律キリツ」「軍紀グンキ」「風紀フウキ」(風俗・風習の紀律)(3)紐のはじめ。いとぐち。「紀元キゲン」(紀も元も、はじめの意で、基準となる最初の年をいう)「紀元前キゲンゼン」「世紀セイキ」(最初の年からの世の中の意。100年を指す)「紀年キネン」(最初からの年数) (4)(最初からの年数を)しるす。記録する「紀事キジ」(事実の経過を記述する)「紀行文キコウブン」(旅行の行程をしるした文)「紀要キヨウ」(研究論文を収載した定期刊行物)
記 キ・しるす 言部
解字 「言(ことば)+己(=紀。しるす)」 の会意形声。紀の意味(4)のしるす意を、言(ことば)をつけて表した字。おぼえる意ともなる。
意味 (1)しるす(記す)。おぼえる。「記録キロク」「暗記アンキ」「記憶キオク」 (2)記録や文書を司る役目。「書記ショキ」 (3)しるし。「記号キゴウ」
同体異字
起 キ・おきる・おこる・おこす 走部
解字 篆文・旧字は「走(体の動作)+巳(へび)」 の会意。へびが鎌首をもちあげるように、起きあがること。転じて、おこる・はじめの意ともなる。現代字は、巳⇒己に変化した起になった。
意味 (1)おきる(起きる)。たつ。「起床キショウ」「奮起フンキ」 (2)おこる(起こる)。おこす(起こす)。「起業キギョウ」「起工式キコウシキ」 (3)はじめ。はじめの句。「起句キク」「起源キゲン」
改 カイ・あらためる・あらたまる 攵部
解字 甲骨文は「攴(棒でたたく)+巳(へび)」 の会意。へびを棒でたたき殺すことを示す。点線はへびから出た血であろう[甲骨文字辞典]。篆文で、巳⇒己に変化し、現代字は、攴⇒攵に変化した改になった。へびをたたいて殺すことから、敵を攻撃する意となり、その結果、(討ち)改める意となった。
意味 あらためる(改める)。「改革カイカク」「更改コウカイ」(改めかえる)「改宗カイシュウ」「改元カイゲン」(元号を改める)
忌 キ・いむ・いまわしい 心部
解字 金文から「心+己」の形であるが、いろんな字典を見るも納得できる解字がみつからない。そこで、改とおなじく己を巳(へび)と解釈するとぴったりの意味がでるので、覚え方としていいのではないだろうか。己は紐のかたちなので、紐をみて「へび」だと思ったのかもしれない。
覚え方 「心+己(へび)」の会意形声。へびを見て心で怖れ避けること。
意味 (1)いむ(忌む)。いまわしい(忌まわしい)。おそれさける。「忌避キヒ」「禁忌キンキ」「忌憚(きたん)なく」(忌み憚ることなく) (2)喪に服する。「忌中キチュウ」 (3)死者の命日。「忌日キジツ」「年忌ネンキ」
配 ハイ・くばる 酉部
解字 甲骨文・金文は、酒壺のそばに人がひざまずく形(卩セツ)で、人が酒壺から酒をくばる(配膳)意。転じて、ならべる、つりあわせる、つれあい(夫婦)などの意となる。篆文から卩⇒己に変化した配になった。
意味 (1)くばる(配る)。わりあてる。「配達ハイタツ」「分配ブンパイ」 (2)ならべる。とりあわせる。つれあう。「交配コウハイ」「配偶者ハイグウシャ」 (3)したがえる。「支配シハイ」
妃 ヒ・ハイ・きさき 女部
解字 甲骨文字は「女+巳シ(へび)」 の会意で、意味は女性の名を表す。巳シは祀シ(祭祀・まつり)に通じ巫女の意とみなす説もある。金文で巳が、字形が近く発音を表す己ヒに置き換わった妃になった[甲骨文字辞典]。意味は金文で妣ヒ(亡き母)の名に用いられ、その後、身分の高い女官、そばめ等の意から、きさき・つれあいの意になった。
意味 (1)きさき(妃)。皇族・王族の妻。「王妃オウヒ」「正妃セイヒ」「妃殿下ヒデンカ」 (2)身分の高い女官。そばめ。「妃嬪ヒヒン」(身分の高い女官)「妃妾ヒショウ」(側室)
キの音
杞 キ・コ 木部
解字 「木+己(キ・コの音)」 の形声。キという名の木。
杞柳細工
意味 (1)木の名。かわやなぎ。水辺に生える柳のひとつ。「杞柳キリュウ」(高さ2~3メートルの落葉低木。茎を行李コウリ(荷物入れ)に編むのでコリヤナギともいわれる)「杞柳細工キリュウザイク」(兵庫県豊岡市のコリヤナギで編む伝統工芸品) (2)枸杞クコに使われる字。「枸杞クコ」とは、中国原産のナス科の落葉低木で、実は食用や薬用に利用される。 (3)周代の国名。現代の河南省杞県にあった。「杞憂キユウ」(無用の心配。杞の国の人が天が落ちてきたらどうしようと心配した故事から)
<紫色は常用漢字>
己 キ・コ・おのれ 己部
解字 甲骨文字は弗フツ(二本の棒などを紐でしばりあわせた形)の字の棒を省いた形と似ており、紐の象形であると考えられる[甲骨文字辞典]。しかし、甲骨文字では、十干の第六番目に仮借カシャ(当て字)された。また、のちに「おのれ」の意にも仮借された。
意味 (1)つちのと(己)。十干(甲コウ・乙オツ・丙ヘイ・丁テイ・戊ボ・己キ・庚コウ・辛シン・壬ジン・癸キ)の第六番目。五行(木火土金水)では戊ボとともに土に当てる。「つちのと」は土の弟の意で、土に当てられた戊ボ(つちのえ・土の兄)の次にくることから。 (2)おのれ(己)。自分。「自己ジコ」「克己コッキ」(おのれにかつ)「知己チキ」(自分を理解してくれる人)
イメージ
「ひも」(己・紀・記)
「同体異字」(起・改・忌・配・妃)
「キの音」(杞)
音の変化 キ:己・紀・記・杞・起・忌 カイ:改 ハイ:配 ヒ:妃
ひも
紀 キ・のり 糸部
解字 「糸(いと)+己(ひも)」 の会意形声。己は、もともと紐の意味であり、これに糸をつけて元の意味である紐を表した。糸を何本もよりあわせた細い綱(つな)を表す。つなは人民をコントロールする意があり、転じて、統治するための、のり・きまりの意となった。また、紐の初めの意から、紀元という語で年代の意となり、さらにその年代の出来事をしるす意ともなる。
意味 (1)細いつな。「綱紀コウキ」(太いつなと細いつな。大小のつなで人民を統治する)(2)(統治するための)のり(紀)。きまり。すじみち。「紀律キリツ」「軍紀グンキ」「風紀フウキ」(風俗・風習の紀律)(3)紐のはじめ。いとぐち。「紀元キゲン」(紀も元も、はじめの意で、基準となる最初の年をいう)「紀元前キゲンゼン」「世紀セイキ」(最初の年からの世の中の意。100年を指す)「紀年キネン」(最初からの年数) (4)(最初からの年数を)しるす。記録する「紀事キジ」(事実の経過を記述する)「紀行文キコウブン」(旅行の行程をしるした文)「紀要キヨウ」(研究論文を収載した定期刊行物)
記 キ・しるす 言部
解字 「言(ことば)+己(=紀。しるす)」 の会意形声。紀の意味(4)のしるす意を、言(ことば)をつけて表した字。おぼえる意ともなる。
意味 (1)しるす(記す)。おぼえる。「記録キロク」「暗記アンキ」「記憶キオク」 (2)記録や文書を司る役目。「書記ショキ」 (3)しるし。「記号キゴウ」
同体異字
起 キ・おきる・おこる・おこす 走部
解字 篆文・旧字は「走(体の動作)+巳(へび)」 の会意。へびが鎌首をもちあげるように、起きあがること。転じて、おこる・はじめの意ともなる。現代字は、巳⇒己に変化した起になった。
意味 (1)おきる(起きる)。たつ。「起床キショウ」「奮起フンキ」 (2)おこる(起こる)。おこす(起こす)。「起業キギョウ」「起工式キコウシキ」 (3)はじめ。はじめの句。「起句キク」「起源キゲン」
改 カイ・あらためる・あらたまる 攵部
解字 甲骨文は「攴(棒でたたく)+巳(へび)」 の会意。へびを棒でたたき殺すことを示す。点線はへびから出た血であろう[甲骨文字辞典]。篆文で、巳⇒己に変化し、現代字は、攴⇒攵に変化した改になった。へびをたたいて殺すことから、敵を攻撃する意となり、その結果、(討ち)改める意となった。
意味 あらためる(改める)。「改革カイカク」「更改コウカイ」(改めかえる)「改宗カイシュウ」「改元カイゲン」(元号を改める)
忌 キ・いむ・いまわしい 心部
解字 金文から「心+己」の形であるが、いろんな字典を見るも納得できる解字がみつからない。そこで、改とおなじく己を巳(へび)と解釈するとぴったりの意味がでるので、覚え方としていいのではないだろうか。己は紐のかたちなので、紐をみて「へび」だと思ったのかもしれない。
覚え方 「心+己(へび)」の会意形声。へびを見て心で怖れ避けること。
意味 (1)いむ(忌む)。いまわしい(忌まわしい)。おそれさける。「忌避キヒ」「禁忌キンキ」「忌憚(きたん)なく」(忌み憚ることなく) (2)喪に服する。「忌中キチュウ」 (3)死者の命日。「忌日キジツ」「年忌ネンキ」
配 ハイ・くばる 酉部
解字 甲骨文・金文は、酒壺のそばに人がひざまずく形(卩セツ)で、人が酒壺から酒をくばる(配膳)意。転じて、ならべる、つりあわせる、つれあい(夫婦)などの意となる。篆文から卩⇒己に変化した配になった。
意味 (1)くばる(配る)。わりあてる。「配達ハイタツ」「分配ブンパイ」 (2)ならべる。とりあわせる。つれあう。「交配コウハイ」「配偶者ハイグウシャ」 (3)したがえる。「支配シハイ」
妃 ヒ・ハイ・きさき 女部
解字 甲骨文字は「女+巳シ(へび)」 の会意で、意味は女性の名を表す。巳シは祀シ(祭祀・まつり)に通じ巫女の意とみなす説もある。金文で巳が、字形が近く発音を表す己ヒに置き換わった妃になった[甲骨文字辞典]。意味は金文で妣ヒ(亡き母)の名に用いられ、その後、身分の高い女官、そばめ等の意から、きさき・つれあいの意になった。
意味 (1)きさき(妃)。皇族・王族の妻。「王妃オウヒ」「正妃セイヒ」「妃殿下ヒデンカ」 (2)身分の高い女官。そばめ。「妃嬪ヒヒン」(身分の高い女官)「妃妾ヒショウ」(側室)
キの音
杞 キ・コ 木部
解字 「木+己(キ・コの音)」 の形声。キという名の木。
杞柳細工
意味 (1)木の名。かわやなぎ。水辺に生える柳のひとつ。「杞柳キリュウ」(高さ2~3メートルの落葉低木。茎を行李コウリ(荷物入れ)に編むのでコリヤナギともいわれる)「杞柳細工キリュウザイク」(兵庫県豊岡市のコリヤナギで編む伝統工芸品) (2)枸杞クコに使われる字。「枸杞クコ」とは、中国原産のナス科の落葉低木で、実は食用や薬用に利用される。 (3)周代の国名。現代の河南省杞県にあった。「杞憂キユウ」(無用の心配。杞の国の人が天が落ちてきたらどうしようと心配した故事から)
<紫色は常用漢字>