石造美術紀行

石造美術の探訪記

奈良県 桜井市多武峰 談山神社石灯籠

2012-05-14 23:09:08 | 奈良県

奈良県 桜井市多武峰 談山神社石灯籠

桜や紅葉の名所として知られる談山神社は、桜井市域南方の山中にあって藤原鎌足を祭神とするが元は妙楽寺という山岳系寺院で、01明治の廃仏毀釈の煽りを受け神社となったに過ぎず、04それは多武峰の長い歴史の中ではほんのつい最近のことである。

売店が並ぶ参道脇に木製の保護柵に囲まれた一際立派な石灯籠が目に入る。古くから著名な石灯籠で、後醍醐天皇の寄進とも伝えられている。花崗岩製。六角型、笠の一部に欠損があるほかは基礎から先端宝珠まで完存する。高さは約255cmとかなり大柄である。基礎は平面六角形で側面は二区に枠取りし、輪郭内には格狭間を配する。上端は抑揚感のある複弁反花とし、主弁が一辺につき2葉、都合12葉、6つの角と各辺中央にそれぞれ間弁(小花)が来るようにデザインされている。03反花上の竿受けには外縁部分に覆輪付の半円形の小さい請花を並べている。あるいはこれを蓮弁中央の花托に並ぶ蓮実と見立てる向きもある。竿は円柱で各節は穏やかな突帯をなし、上下の節は二条、中節は三条とし、中節の四方には梵鐘の撞座のように蓮華文を飾る。中台も平面六角形、下端は抑揚を抑えスッキリとした印象の小花付き複弁請花とし、05_2最下端には丸く角をとった竿受けを設ける。この中台竿受けは竿上節と一体的な意匠となるよう上手に工夫されている。中台側面も二区に枠取りして内に格狭間を配し、上端は二段の段形とする。火袋は上区二区横連子、下区は二区輪郭に格狭間とする。06_2中区の一面は火口、その対向面には外周縁を複弁蓮花文で装飾を施した円窓を設ける。残る四面には弁数の多い豪奢な蓮華座レリーフ上に月輪を陰刻し、月輪内いっぱいに端正な刷毛書体で四天王の種子(ヂリ、ビー、ビ、ベイ)を大きめに薬研彫する。笠裏の中央には周縁部に突帯を設けた六角形の穴で火袋を受け、02軒近くには垂木形のように一段を設け、6つの角から隅木状にした3条の突帯があって蕨手を経て笠頂部に通じている。先端宝珠は別石で枘で笠上にはめ込まれていると思われ、請花はやや小さく、請花側面は蓮弁にせず宝珠形(ティアドロップ形)の文様を並べて飾るのは珍しい意匠である。宝珠はやや重心が高いが完好な曲線を描いて先端の尖りまでよく残っている。竿の一面、中節の上に「元徳三年(1331年)辛未」下に「二月日願主敬白/大工利弘」の陰刻銘が残る。紀年銘は肉眼でも確認できるが大工名は摩滅が激しく肉眼では確認できない。重要文化財指定。大きく均整のとれた格調高い姿、隙のない丁寧かつ凝った細部表現は見事で、特に火袋の出来映えが素晴らしい。笠の一端を惜しくも欠損するが保存状態も良好で、この時代の優れた石灯籠の見本のような作品として高く評価されるものである。

 

参考:川勝政太郎 新装版『日本石造美術辞典』

   川勝政太郎・岩宮武二 『燈篭』

   清水俊明 『奈良県史』第7巻 石造美術

 

この石灯籠は気宇が大きく細部まで洗練され抜群の出来映えです。よく景観にマッチして実に立ち去り難い気分にさせてくれます。(これがどれ程素晴らしいものか知らない多くの観光客は素通りしていきます…(涙)。)談山神社は桜や紅葉の季節ももちろん結構ですが、小生は新緑の頃が一番お気に入りです。観光客でごった返す時期に比べると意外とすいてますし、のんびり見て歩くにはもってこいです。ここも見るべき石造美術の多い所です。先に妙覚摩尼輪塔を紹介しましたが、これはその第2弾。今後第3弾、第4弾にも請うご期待です。


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